EWGの米食品医薬品局(FDA)へのコメント
25,000種の身体手入れ用品の調査が
広範囲にわたるナノスケール物質の使用を明らかにする
−安全性の確認されていない日用品中の物質−


情報源:Environmental Working Group, October 10, 2006
Comments to U.S. Food and Drug Administration
A Survey of Ingredients in 25,000 Personal Care Products Reveals Widespread Use of Nano-Scale Materials, Not Assessed for Safety, in Everyday Products
http://ewg.org/issues/cosmetics/20061010/comments.php (リンク切れ)
http://www.fda.gov/ohrms/dockets/dockets/06n0107/06N-0107-EC29-Attach-1.pdf (FDAのサーバー)

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年10月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ewg/06_10_10_ewg_nano_cosmetic.html

 エンバイロンメンタル・ワーキング・グループはワシントン DC に拠点を置く公衆健康と環境に関する研究と活動を行う非営利団体である。我々は、過去6年間、身体手入れ用品中の成分の安全性に関して調査を実施してきた。この分野における我々のプロジェクトの中に、我々が毎年データの更新を行っているオンラインの消費者製品評価ツールで”スキン・ディープ(Skin Deep)”と呼ばれるものがある。それは現在、約15,000種の身体手入れ用品と約7,000種の成分をデータとして持つインターネット安全評価ツールである(http://www.ewg.org/skindeep/)。

 我々は、身体手入れ用品中でのナノスケール物質の使用に関する詳細な調査を完了した。この調査は、来年のスキン・ディープ更新のための25,000種以上の製品の成分表示ラベル、説明書、容器記載事項の体系的な評価に基づくものである。
 これらの製品はFDAが市場に出ていると推定している(FR 2006)約10万種の製品の約4分の1に相当する。我々は、微小化(micronized)、フラーレン、接頭語”ナノ”、クオンタム・ドット、リポソーム(liposome 訳注:微細な皮膜粒子)というような一般的にナノスケール成分の用語を検索した。我々はまた、現在、市場で入手可能なナノサイズの包括的な化学物質のデータベース(Nanowerk 2006)を参照して、製品の成分を検索した。

 我々の調査は日常的な身体手入れ用品においてナノスケール成分が広範に使用されていることを明らかにした。我々はナノスケールの可能性がある成分を約9,800の製品中で特定した。これらは、57種類のナノスケール又は微小化成分の内、ひとつ又はそれ以上を含む256製品と、ナノサイズとして市場で入手できる成分を含んでいるが粒子サイズに関するラベル表示がない9,509製品をからなる。これらの製品は、下記に詳細を示すように日焼け止めのような化粧品及び薬品として規制されるものを含む。

  • 57種類の微小スケール成分のうちひとつ又はそれ以上を含む256製品の成分はラベル又は容器に表示されているもので(Table 1 及び Table 2)、それらには、様々なナノスケール物質のうち、”ナノデリバリー・システム”製品、23種の”微小化(micronized)”成分、及びフラーレンとして知られるナノスケールの炭素”ワイヤー・ケージ”を含む3製品が含まれる。

     これらの製品は、微小化又はナノスケールの酸化亜鉛又は二酸化チタンの使用を明記した27種類の日焼け止めを含む(Table 2)。この二つの日焼け止め成分のどちらもその微小化又はナノスケールの形状に関する安全性についてFDAによる包括的な検証を受けていない。欧州委員会の化粧品に関する科学委員会は、微小化された酸化亜鉛に関し、皮膚吸収と吸入についてのデータが欠如していること、及び同成分が光の下で潜在的に毒性があることを示す研究を引用して、2003年に日焼け止めとしての承認を拒否した(SCCNFP 2003, SCCP 2005)。

  • 9,509製品(EWGが評価した全ての身体手入れ用品の3分の1以上)はナノスケールの形状で市場から入手可能な成分を含んでいる(Table 3)。これは二酸化チタン又は酸化亜鉛(Table 4)を含み、また、金、銀、酸化鉄、ゼオライト、及び成分を皮膚の奥深く浸透させるために用いられる微細な脂肪粒であるリポソーム(Table 3)を含む250種の日焼け止めを含む。
広範に使用されているがリスクは不明
 我々の調査は、化粧品業界は暴露と潜在的なリスクがほとんど理解されていないにもかかわらず、ナノスケール成分を定常的に使用していることを示した。我々は、FDAが2006年10月10日のナノ技術に関するパブリック・ミーティングの告知の中で強調している独特の性質:そのなサイズが著しく小さいこと及びその容積に対する表面積の比が著しく高いことのために、ナノ技術物質は同一成分でもっと大きな物質とはしばしば異なる化学的、物理学的特性−それらには化学的及び生物学的に高められる活性を含む−を持つことによって必要とされる、身体手入れ用品のこれらの成分に関する基本的な安全調査をFDAはまだ実施中であると理解している。
 FDAは最近、量子ドットと酸化亜鉛及び二酸化チタンのナノ粒子の浸透性と毒性を薬物動態学、トキシコゲノミクス、光細胞毒性学、及び光発がん性学の手法で試験管及びマウスと豚による実施中の評価研究の概要を発表した(FDA 2006)。

 しかし、FDAがナノスケール成分の安全性を実証するための基本的な調査を実施する一方で、これらの化学物質の製品中での広範な使用が続いている。FDAは、化粧品産業に成分又は製品のテストを要求することができない。しかしFDAの規制は安全性が適切に立証できていない成分を含んでいる製品に警告ラベルを表示することを要求できる。連邦食品医薬品化粧品法(FD&CA)の21 C.F.R. 740.10(a) には、”化粧品中で使用されている個々の成分及び個々の化粧品(完成品)は市場に出す前に適切に安全性が証明されなくてはならない”と書いてある。上市前に安全性が適切に証明されていない成分又は製品は、よく見えるところに”警告−この製品の安全性は確認されていない”とはっきり記述をしなくてはならない。

 我々が評価した製品でこの警告ラベルをつけているものはひとつもなかった。このことは次の二つのうちのどちらかであることを意味するはずである。すなわち、製造者はナノスケール成分の安全性を立証するために必要なデータを持っていると信じているか、又は、彼らはリスクが不明の成分を使用しているが要求される警告表示をしていない。どちらにしても、我々はFDAが産業側の安全テストを要求するか、あるいは、もしそのようなテストがなされていないなら警告ラベル要求を実施させる−という論理的な措置をとるよう勧告する。

新たな取組が入手可能な安全データを明らかにする
 産業側の協会である化粧品・洗面用品・香水協会(CTFA)を通じて化粧品産業は、産業界自身がナノスケール物質の安全性について何を知っているかを明らかにするであろう”消費者約束コード(Consumer Commitment Code)”と呼ばれる新たな取組を立ち上げている(CTFA 2006)。このコードは、CTFAが”安全情報概要(Safety Information Summary)”と呼んでいるものを通じてFDAがもっと容易にアクセスできる安全情報を作る書類プログラムを含む。会社は要求があればFDAにこの概要を提出する。
 あるメディアの報告によれば、この安全情報概要は原材料の仕様を含み、それは多分、粒子のサイズを含む(Laas 2006)。安全情報概要はナノスケール物質の入手可能な浸透性及び有毒性調査を含む安全情報の概要を含み、それはまた恐らく要求があり次第、FDAが入手可能である。

 メディア報告によれば、最も重要なことは、安全情報概要がその製品の安全性が立証されているという記述を含んでいることである。CTFA の主席科学者はそのような記述は製品の成分が産業側の専門家委員会(化粧品成分レビュー/CIR)、FDA、又は他の国の規制機関によって評価されていることを求めるであろうと述べている。産業側のニュースレターであるローズ・シートによれば、”消費者約束コードの重要な要素は、成分が、FDA又は化粧品成分レビュー専門家委員会のどちらかによって安全性が立証されていることである((Laas 2006)。
 しかし、現在化粧品中で使用されているナノスケール物質でその安全性についてFDA又は化粧品成分レビュー専門家委員会によって安全性が確認されたものはひとつもない。傘下の600メンバー会社に対し評価された成分のみを使用するよう制限することによってのみ、CTFAは化粧品中のナノスケール物質に関し一時的な停止(モラトリアム)を是認したことになる。

 もしそうでないなら、CTFAは全てのナノスケール物質は暴露能力及び毒性に関して従来の物質と同等であると信じると言っていることになる。その見識は既存の公開されている研究とは相反することであるが、もし会社が安全性を示すデータを持っているなら、産業側の安全情報概要を通じてFDAが入手可できなくてはならない。

 この最後のことは、CTFAの新たな消費者約束コードを通じて、化粧品から全てナノ物質が取り除かれるか、あるいは身体手入れ用品中のこれらの成分を継続して安全に使用することができるということを正当化する産業側の安全調査を公開することのどちらかをFDAは期待することができるということである。

勧告
 FDAに対する我々の勧告は下記を含む:

  • FDAは、公開手続きを経て、ナノスケール物質を含んで化粧品成分の安全性の適切な立証の定義を確立すべきである。我々は暴露と毒性に関する粒子サイズの影響の特定の考慮を要求する下記の定義を提案する。

    • 身体手入れ用品及び化粧品の安全性は、浸透性強化剤の存在とナノ粒子を含む粒子サイズの影響を含んで皮膚を通じての製品又はその要素化学物質の毒性又は浸透性を増加させるかもしれない要因を考慮しつつ、及び、幼児や妊婦のような脆弱な集団を考慮しつつ、信頼性のある情報が存在する全ての予測される化粧品への暴露及びその他の全ての暴露を含んで、不純物を含んでの製品とその要素成分への全体的な暴露に有害性がないことの合理的な確実性に対して、ピアレビューされた科学的出版又は公開された産業側の研究を通じて立証されなくてはならない。安全性はデータがない場合には立証することはできない。

    • 化粧品の安全性の立証は、不純物、成分分解物質、及び成分の反応生成物によって及ぼされるリスクをも説明しなくてはならず、また、1) 幼児や女性のような脆弱な集団を含んで製品使用についての情報、及び、2) 不純物、成分の分解物質、及び成分の反応生成物の累積的影響を織り込んだリスク評価に基づかなくてはならない。閾値影響の場合には、10倍の追加的安全要素が幼児及び妊婦の出生(産)前及び出生(産)後のリスク評価に適用されるべきである。この定義と異なる安全要素は、そのような要素が幼児及び妊婦に安全であるという信頼あるデータに基づく場合にのみ用いてもよい。

  • FDAは、最近CTFAからFDAに提出されたナノスケール日焼け止めの成分に関する情報に加えて、成分と製品の安全性を適切に立証するために用いられるナノスケール物質に関する全ての入手可能な調査研究−それは産業側の新たな安全情報概要を含むがそれに限らない−を化粧品産業に要求すべきである。FDAは、これらの調査研究をレビューし、身体手入れ品中のナノスケール成分の安全性を確定し、安全性が立証できないものについては製品に警告ラベルを表示することを要求すべきである。

  • FDAは全ての身体手入れ品中のナノスケール物質の存在を特定すべきである。第一段階としてFDAは、FDAの自主的化粧品登録プログラム(Voluntary Cosmetic Registration Program)製品データベースに導入されるべき成分の粒子サイズに関する情報を会社に要求すべきである。CTFAの消費者約束コードの下で、CTFAメンバー会社はFDAに彼らの製品の処方をこのデータベースを通じて提供することが義務付けられるであろう。粒子サイズは要求されるべきデータである。吸収と毒性の両方は粒子サイズの関数なので、そのような情報の収集ははFDAの製品安全性評価の主要な要素であるべきである。これらのデータにより、成分の安全性を立証するために用いられた既存の研究の粒子サイズから外れるような成分が導入されるのをFDAは監視することができる。

  • 最後に、FDAは、一般的に人工ナノ粒子を成分とする製品、及び人工ナノ粒子を成分とする日焼け止め剤−特に今年の初めに国際技術評価センター(International Center for Technology Assessment)によって提出されたもの−に対して規制を修正することを要求する請願に対応すべきである。

付属

Table 1
Nano-scale and micronized ingredients in personal care products.
(身体手入れ品中のナノスケール及び微小化成分)

Table 2
256 personal care products with nano-scale or micronized ingredients.
(ナノスケール又は微小化成分を持つ256種の身体手入れ用品)

Table 3
Ingredients in personal care products that are commercially available at a nano scale.
(ナノスケールで市場で入手可能な身体手入れ用品中の成分)

Table 4
200 sunscreen products containing zinc oxide and titanium dioxide, with no indication on product lables if ingredients are nano-scale, micronized, or conventional.
(酸化亜鉛及び二酸化チタンを含むが、成分がナノスケール、微小化、又は従来の物質なのか製品に表示のない200種の日焼け止め製品)


参照

CTFA (Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Association). 2006. CTFA Launches Package of Consumer-Oriented Industry Initiatives at 2006 Annual Meeting. Press release 06-07. 2 Mar 2006. Available online at:
http://www.ctfa.org/Template.cfm?template=/ContentManagement/ContentDisplay.cfm&ContentID=3753

FDA (U.S. Food and Drug Administration). 2006. FDA Considerations for Regulation of Nanomaterial Containing Products. Presentation by Nakissa Sadrieh, Ph.D., Office of Pharmaceutical Science, CDER, FDA. Available online at http://www.fda.gov/nanotechnology/

FR (Federal Register). 2006. Department of Health and Human Services. Food and Drug Administration. Notice - Agency Information Collection Activities; Proposed Collection; Comment Request; Cosmetic Labeling Regulations. Vol 71, No 11, p 2947. 18 January 2006.

Laas, Molly. 2006. "CTFA Moves Forward With Implementation Of Consumer Commitment Code." The Rose Sheet. Vol 27, No 039, p6. 25 Sept 2006.

Nanowerk. 2006. Nanomaterial Database of 1,352 nanoparticles from 93 suppliers. Available online at http://www.nanowerk.com/phpscripts/n_dbsearch.php

SCCNP (The Scientific Committee on Cosmetic Products and Non-Food Products Intended for Consumers). 2003. Opinion concerning zinc oxide. OLIPCA n S 76. Adopted by the SCCNFP during the 24th plenary meeting of 24-25 June 2003.

SCCP (The Scientific Committee on Consumer Products). 2005. Statement on zinc oxide used in sunscreen. Adopted by the SCCP during the 5th plenary meeting of 20 September 2005.



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