オランダ 国立公衆健康環境研究所(RIVM) report/2009
REACH におけるナノ物質
事例研究としてのナノ銀


情報源: National Institute for Public Health and the Environmen (RIVM), Netherlands
RIVM report 601780003/2009
Nanomaterials under REACH / Nanosilver as a case study
http://www.rivm.nl/bibliotheek/rapporten/601780003.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年1月28日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/europe/RIVM_2009_nano_REACH.html



アブストラクト

REACH におけるナノ物質
事例研究としてのナノ銀


 ナノ物質のリスクを管理するために欧州化学物質規則REACHになにがしかの調整が必要である。REACHの下に提供されるべき物質に関する情報は、ナノ物質の特定の特性を決定するために、またこれらの特性がヒトと環境中における挙動と影響にどのように作用するのかを評価するためには十分ではない。RIVM はナノ物質に対するREACHの適切性研究でこのように結論付けた。したがって製造量及び輸入量とは無関係に、RIVM はREACHの下で登録されるべき全てのナノ物質に適用されるべき最小情報要求の適切なセットを提案する。これらの要求はナノ物質のリスク評価を可能とする。

 過去数年にわたり、ナノ物質の使用は非常に増大している。ナノ物質は少なくとも1次元が100ナノメートルより小さい物質とし定義される。ナノサイズであるがために、それらは特定の特性を持つ。立法はこれらのナノ物質の潜在的なハザードとリスクを管理することに焦点を合わせるべきである。

 ナノ銀の仮想の登録を行うことで、REACHがナノ物質の安全な使用の評価に適切であるかどうか調査した。このことから、ナノ物質の定義がなく、有害性と暴露を表現するための適切な物差しはまだ知られていないことが判明した。さらに、標準情報要求はハザードと暴露を評価するためには不十分であった。それらはまた、ナノ物質の適切な特性化のためには不十分である。その結果、ナノ形状の物質が非ナノ形状の同じ物質にどの程度対応するのか決定することが出来ない。さらに、非ナノ物質のために確立されている現在のリスク削減措置及びリスク評価おける外挿法がナノ物質に適用できるかどうか明確ではない。

キーワード:Key words: REACH, nanomaterials, nanosilver, risk assessment


サマリー


 ナノサイズであるがために、ナノ物質(100nm以下)は非ナノ物質とは異なるかもしれない特定の特性を持つ。ナノ物質の開発と産業のあらゆる分野及び消費者製品中での増大する使用は、これらの物質の潜在的なハザードとリスクを適切に管理できる枠組みを開発するという課題を規制当局に与えている。ヨーロッパでは、そのような枠組みは、欧州議会と理事会の新たな規則である化学物質の登録、評価、認可、制限(REACH)である。REACHの下では、製造者、輸入者、及び川下ユーザーは、彼らが製造し、市場に出し、使用する物質はヒト健康又は環境に有害影響を及ぼさないことを確実にしなくてはならない。REACHは、物質がどのようなサイズ、形状、又は物理的状態であろうと対象とするので、ナノスケールの物質もまた、REACHによりカバーされ、その条項は適用される。このことはまた、ナノ物質のヒト健康と環境への安全は全ライフサイクルを通じてREACHの下で確保されるべきことを暗示している。

 この報告書の目的は二つある。第一は、ナノ形状及び非ナノ形状(バルク形状)の両方が存在する金属銀をREACHの下に仮想的な登録を実施することによってナノ物質の安全性を確保することについてREACHの適切性を調査することである。ナノ銀は第一世代のナノ物質であり、ナノ銀での事例研究は潜在的な登録者がそのような物質をREACHの下で登録しようとする時に遭遇するかもしれない問題を検証するために実施された。第二は、この事例研究で得られた情報に基づき、REACHの下で第一世代のナノ物質のためのリスク評価の枠組みを提案することである。

 第2章で、REACH の下での物質の登録のための要求が簡単に述べられている。これらの要求は物質が製造又は輸入されるトン数に依存し、化学物質安全評価を含むかもしれない。

 第3章で、ナノ物質毒性を決定するときに既存のテスト手法の適切性に関するいくつかの最近の分析の概観が示されている。これらの手法の大部分は、ナノ特定の問題に目を向けたいくつかの修正が必要ではあるが、ナノ物質に適切であるように見える。仔エッらの問題は、物理化学、生態系毒性、毒性テストについて述べられている。
 第3章の最後の部分で、現在までに述べられたナノ物質の(いくつかの)リスク評価アプローチをレビューしている。広範なアウトラインとナノ物質のために本質的であると考えられるテストの種類に関する詳細が欠如しているので、これらの枠組みの価値は限定されるように見える。

 第4章では、REACHの下における金属銀(バルク形状及びナノ形状)の仮想的登録の結果と結論が示されている。完全な化学物質安全評価は Appendix 6 における化学物質安全報告書に示されている。この事例研究では、ナノ銀のトン数、特性、及び用途に関しある仮定が置かれ、容易に入手可能な公開データが情報源として用いられた。(したがって銀又はナノ銀の毒性の完全な概観であるとみなすべきではない。)バルク形状の銀に関する入手可能なデータは原則として、想定されたトン数のためのREACHの下の情報要求を満たし、分類と表示及び用量−反応測定を結論付けることを可能としている。しかし、ナノ銀については、いくつかの情報のギャップが特定された。
 第一に、ナノ銀の適切な特性化に関しては、要求のあるものはこの事例研究のために任意に選択されたにもかかわらず、REACHの下での物理化学的特性のための標準的情報要求に問題があった。このことは、銀のナノ形状とバルク形状の間の同一性に関して結論付けることを不可能にした。  第二に、溶解の動特性及び分割に関する情報なしに環境中とヒト体内におけるナノ銀の運命と挙動を予測することは不可能であった。かくして、その挙動がバルク形状の銀と一致するのかどうかは明確ではない。その結果、ナノ銀につい特定されたデータのギャップを埋めるためにバルク銀に関するデータを使用する(読み取る)という選択肢は同一性に関する結論が得られていない状況では実行可能であるとはみなされない。

 第5章では、ナノ銀の事例研究で得られた発見の一般的なナノ物質への外挿を示している。REACHはナノ物質のために、十分には実施可能でない。第一に、ナノ物質のリスク評価の範囲のために、ナノ物質に関連する適切な定義が開発される必要がある。また、通常、非ナノ物質のために使用されている用量測定基準はナノ物質にとって全てのエンドポイントに対し最も適切であるというわけではないので、適切な用量測定基準が確立される必要がある。また、ナノ物質及びそれに対応するバルク物質の適切な特性化、及び、REACHの下での物質特定に関してナノ物質の異なる形状、サイズ、及びサイズ分布に対してどのように対応するかに関するガイダンスが必要である。これは、同一性分析(物質のナノ形状とバルク形状、又はナノ物質の異なるサイズ/形状)、及びREACHの下における読み取り(read-across)のような非テスト手法の使用(propagated use)にとて本質的であると考えられる。また、インビトロ(スクリーニング)手法が広まっている。しかし、ナノ物質については、現在あまりにも多くの知識のギャップがあり、これを実現可能な選択とみなすためにはインビトロ分析基準の問題がある。またインビトロの結果をインビボの状況に翻訳するための適切なデーターベースの欠如という問題がある。
 生態系毒性テストに関しては、動特性情報は現在、REACHの下で標準要求ではないが、ナノ物質のヒト健康と環境的ハザード評価の両方に対して本質的であると考えられる。さらに、いくつかのテスト・ガイドラインについて、テストされるべきパラメーターの拡大が必要かもしれず、サンプル準備及び計量時におけるテスト物質の物理化学的特性の影響もまた考慮されるべきである。適切な暴露評価については、ナノ特定パラメーターを導入することにより、既存の暴露モデルがナノ物質用途のために修正されるべきである。最後に、”安全使用”を立証するために、非ナノ物質のための外挿手法で用いられている標準デフォルト評価要素をはナノ物質にも適用可能であるかどうか検証する必要があり、またナノ特定の運用条件及びリスク管理措置がナノ物質への暴露を管理するために開発される必要がある。

 これら全ての観察に基づき、第6章ではリスク評価の枠組みがREACHの下における第一世代のナノ物質のために提案されている。この提案の中で、現在のREACH法令の基本的要求はナノ特定の適合を行うことで適用できる。ナノ物質については、登録及び情報要求に求められるトン数依存は再考する必要がある。そうではなくて、基本セット情報要求は、製造量/輸入量とは独立して全てのナノ物質が登録されるべきことが提案されている。この基本セットはナノ物質に関する必要な主要情報であると考えられるものをカバーしている。もうひとつの勧告は、全てのナノ物質について、技術的書類一式にプラスして、トン数に関係なく、化学物質安全報告書中の化学物質安全評価文書を要求することである。このアプローチは、さらなる調査がナノ物質の挙動におけるあるパターンを確立し、それに基づきナノ物質のためのデータ要求が修正されるまで、少なくとも今後数年間、使用されるべきことを提案するものである。ナノ物質の定義と用量測定基準に関する議論が現在、進行中なので、この提案は、当面、ナノ物質について下記の定義を使用することを勧告する。
当面の定義:離散した機能的要素からなる全ての形状の物質であり、その多くは1次元又はそれ以上の次元が100nm又はそれ以下のオーダである。ナノ物質の用量測定基準として(警告付きで)重量濃度を用いる。


訳注:関連情報
SafeNano15/01/2010 RIVM conclude that current REACH information requirements are inadequate for nanomaterials



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