2007年3月29日
欧州委員会/新規の及び新たに特定された
健康リスクに関する科学委員会(EC / SCENIHR)
ナノ物質リスク評価のための
新規及び既存物質のための技術指針文書に従った
リスク評価方法論の適切性に関する意見
エグゼクティブサマリー


情報源:SCIENTIFIC COMMITTEE
ON EMERGING AND NEWLY IDENTIFIED HEALTH RISKS (SCENIHR)
for the public consultation on 29 March 2007
OPINION ON THE APPROPRIATENESS OF THE RISK ASSESSMENT
METHODOLOGY IN ACCORDANCE WITH THE TECHNICAL
GUIDANCE DOCUMENTS FOR NEW AND EXISTING SUBSTANCES
FOR ASSESSING THE RISKS OF NANOMATERIALS


本意見書は、欧州委員会の新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)により
パブリックコメント用に2007年3月29日に発表され、同年5月23日月までパブリックコメントにかけられました。
この意見書は全文63ページですが、ここではエグゼクティブサマリーを紹介します。


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年5月22日

 ナノ技術に関する欧州委員会の戦略と行動計画は、ナノ技術に基づく製品のライフサイクルのどのような段階においてもリスク評価を行うために安全で責任あるアプローチの重要性を強調している。2005年に欧州委員会は、新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)に既存のリスク評価方法論の適切性に関する意見を求めた。SCENIHR は、ナノ物質は、大きな物質とは異なる(生態)毒性を持つかも知れず、したがってそのリスクはケースバイケースで評価される必要があると結論付けた。(訳注1
 現在、ナノ物質を適切な方法で実際にどのよう扱うかの指針を与えるために現状のリスク評価法の適切性をもっと詳細に評価する必要がある。そこで環境総局は SCENIHR に、技術指針文書(Technical Guidance Documents)に規定されている現状のリスク評価方法論を評価して、その適切性に関する意見を述べ、必要なら改善のための提案を行うよう要請した。
 科学委員会は、現在入手可能な科学的データと知識を検証し、現在の方法論の適切性についての一連の観察を、技術指針文書が現状の知識を反映するためにどのように修正されるべきかに関する明確な勧告と方法論及び新たな知識に関する特定の改善のための提言とともに、この意見書の中で記述した。

 技術指針文書は現在、微粒子形状の物質についてはほとんど言及していない。人の健康に関して、技術指針文書の中で述べられている現在の方法論は、ナノ粒子の使用に関連したハザードを特定することができるように一般的には見える。用量−反応特性の決定についてナノ粒子用量の測定基準の表現には特別の注意が必要である。それは質量濃度は必ずしもこれらの物質の用量の最良の記述ではなく、粒子数及び表面積がより適切であるように見えるからである。
 ナノ粒子形状物質は全て、同一物質のより大きな形状のものより著しい毒性を持つということが見いだされているわけではない。このことはナノ粒子形状物質の評価はケースバイケースで実施されるべきであることを示唆している。
 既存の方法論のナノ粒子への適用可能性を検討する場合には、局所的環境条件下で起きるかも知れないナノ粒子の物理化学的特性の変化に特別の注意が払われなくてはならない。そのような変化には、凝集性、分離性、環境物質の吸着性などが含まれるが、それだけには限らない。それらの全てはナノ粒子の最終的な毒性に関し影響を与えるかもしれない。実験条件に依存するので、ナノ粒子のそのような変化は使用する実験条件下では起きないか、あるいは測定することが不可能かも知れない。

 環境暴露に関して、既存技術の有効性と適切性は明確ではない。環境中におけるナノ粒子の運命と影響に関する科学的なデータがなければ、ナノ粒子形状の物質をどのように評価すべきかについての確固とした基準を提案することは実行可能ではなく、また適切でもない。そうではなくて、ナノ粒子のリスク評価のための既存方法の適用可能性が評価されるべきである。

 ナノ粒子の環境毒性のテストにおいて直面する主な問題のひとつは標準化された適切なプロトコールが存在しないということである。ナノ粒子の環境的な影響は、それらの製品と用途を反映した典型的なシナリオの確立を通じて評価される必要がある。暴露と用量−影響モデルが、ゆっくりとした変質など時間とともに変化する物理化学的特性を考慮して採用される必要がある。

 ナノ粒子の暴露用量濃度とその影響に関連して、質量又は単位容積当たりの質量だけを採用する従来の方法は適切ではないように見える。質量に加えて表面積、及び/又は容積当たりの粒子の数が考慮されるべきである。加えて、ナノ粒子の取り込み、分布、除去、及び影響は、技術指針文書が当初作成された時に意図した物質のそれらとは異なっているかもしれない。このこと及びナノ粒子に対する生物種の感受性に関する情報の欠如から、様々な環境中の場所に関するナノ粒子の影響を適切に評価するために主要なテスト標準及び推奨される手順の適切性に関して時点では明確な指針を与えることはできない。
 技術指針文書中で推奨されているリスク特性化手法は、もし PEC s と PNECs が信頼性を持って計算することができる場合、そしてその場合にのみ、ナノ粒子について適用できる。これらは現時点では一般的に入手することができず、現在、技術指針文書中で求められ定義されているようなリスク特性の完全な数量化を行える可能性はない。

 方法論の改善は次のようなことがらを考慮すべきである。第一に、個数濃度及び表面積などの物理的パラメーターは暴露の決定においては質量濃度より重要であるということである。第二に、ナノ粒子は、それらの特性に影響を与えるプロセスが異なる環境では、凝集したり離散したりするかもしれないということである。第三に、ナノ粒子の内部の不純物や表面に吸着するある種のものはリスクに著しい影響を与えるかも知れず、これらの可能性を考慮すべきである。第四に、移動、細胞の取り込み、毒物学的メカニズムなどを含む、ナノ粒子を巻き込む生物学的プロセスは未だに大部分が知られておらず、テスト方法論はこれらの可能性に目を向けなくてはならない。ナノ粒子の評価のための参照物質は未だに特定されていないということにも留意すべきである。

 特定の確固とした提言に対して、変異原性テストのための意味のあるエンドポイン等、ナノ粒子評価のための試験管内分析を確認するための必要性が明確にある。試験管テストは、生物蓄積性、フリー・ラディカル生成、細胞毒性、細胞活性、その他の一般的なエンドポイントのようなナノ粒子の主要な特性に目を向けるべきである。試験管テストにより、脳細胞の潜在的な振る舞いやマクロファージの phagocytic 容量に関する影響のようなターゲット細胞特定エンドポイントを入手すべきである。
 吸入研究はナノ粒子に関連する改善が必要である。それらは大きな表面積をもったナノ粒子は急速に肺浄化機能の飽和を引き起こすかもしれない。
 正確な組織分布プロファイルを決定することは、移動に関する情報がほとんどないので、ナノ粒子のリスク評価にとって一般的に非常に重要である。また、検出限界をを考慮に入れつつ、ナノ粒子の代謝と排泄に関する特定のコメントも求められる。同様に、ナノ粒子は肺から血液と脳に移動することができるというある証拠も存在するので、ナノ粒子の血液及び脳への移動監視及びその結果の分析が行われなくてはならない。
 血液に関しては血栓症及びアテローム症が考慮される必要があり、脳の潜在的な変性影響及び酸化ストレスはこれらの新たな手法で評価されるべきである。変異原性、遺伝子毒性及び発がん性に関し、ナノ粒子とともに得られた、特に試験管での実験データの解釈と外挿については非常に注意深くなる必要がある。既存のテストはナノ粒子の変異原性を検出するために十分であるかどうか明確ではないので、更なる展開が必要である。

 環境については、ナノ粒子の予測環境濃度をいかに計算することができるのかについて現時点では明確ではない。現在の放出係数とモデルの有効性は評価されるべきであり、もし必要なら、修正された、あるいは新たなアプローチが開発されるべきである。
 現在一般的に使用されているベーパー及び粒子径の大きな物質の拡散についての数学的モデルはナノ粒子の環境分布と拡散の評価のために改造される必要がある。このことは、表面積及び形態、電荷、粒子の数、サイズ、溶解性、及びすでに述べたような物理的及び化学的特性の変換等のナノ粒子に関連する主要な物理化学的特性のモデルに組み込むことを意味する。
 生物学的利用能に関しては、様々な環境中の場所に関するナノ粒子の影響を適切に評価するために主要なテスト標準及び推奨される手順の適切性に関して時点では明確な指針を与えることはできない。したがって、ナノ粒子のための新たな標準化された生態毒性テストの必要性がある。

 最後に、ナノ粒子の異なる有害影響及び異なる暴露データを特定するために段階的あるいは多層的アプローチを採用することを推奨する。ナノ粒子の侵入の入り口からの移動はヒト及び他の生物種で起きるかも知れず、例えば心臓血管系または血液・脳関門の通過など、ナノ粒子の細胞膜の通過が有害影響を与えるかもしれないという新たな可能性に考慮を払うことを提言する。


訳注1


化学物質問題市民研究会
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