ETCグループ(カナダ)報告 2006年9月
ナノテク Rx
ナノスケール技術の医療への適用
重要視されない地域社会にどのような影響があるか?

要約紹介

情報源:NaNotech Rx
Medical applications of Nano-scale technologies:
What Impact on Marginalized communities?
ETC Group September 2006
http://www.etcgroup.org/en/node/593

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年9月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/etc/ETC_Nanotech_Rx.html

ナノテク Rx 要約
論点
 ナノスケール技術の医療への適用は、分子レベルでの病気の診断と治療を行うための強力なツールを提供することにより医療に革命を起こす可能性を持つものである。しかし、ナノ対応医療への現在の熱意は、乏しい医学の研究開発費を本質的な健康サービスからそらせ、直接的なリソースを医療のない地域社会の健康と幸福から遠ざける。
 ナノ医療は、世界の”南”に医療に必要なものを提供するための解決策として宣伝されているが、それは”北”からもたらされるものであり、主に富裕な市場を狙って計画されている。ナノスケール技術を利用する医薬品産業の最終的な目標は、”人間能力強化(Human Performance Enhancement (HyPE))”薬品や装置を用いて社会の病気を”治療”することにより、全ての人を患者にし、全ての患者を儲かる顧客にすることである。ナノ対応の人間能力強化(HyPEs)は二階層の人間の時代−ホモサピエンスとホモサピエンス2.0−に導くこともあり得る。

市場
 2006年中頃現在、130のナノテクベースの医薬品とデリバリー・システム、及び125の装置又は診断装置が臨床前、臨床、そして商用開発に供されている。ナノ対応医療の総合市場(ドラッグ・デリバリー、治療、及び診断)は2005年のわずか10億ドル(約1,000億円)が2010年にはほとんど100億ドル(約1兆円)に跳ね上がり、全米学財団(NSF)は、ナノ技術が2015年までには医薬品産業製品の半分を生産するであろうと予測している。ナノ医療は巨大製薬会社が独占的特許件を既存の薬剤及び古くて効能の低い薬剤にまで拡大することを助けるであろう。アナリストは、ナノ対応医療は利益を増し、競争の意志をくじくものとなると示唆している。

影響
 ナノ医療はその最大の影響を”人間能力強化(Human Performance Enhancement (HyPE))”の領域に及ぼすかもしれない。他の新規技術と組み合わせたナノ医療は、理論的には人間の体と脳の構造、機能、及び能力を変更する可能性を持っている。近い将来、ナノ対応の人間能力強化(HyPE)技術が、”治療(therapy)”と”強化(enhancement)”の区別をなくし、文字通り、健康であること又は人間であることを意味する定義を変えることすら可能である。

現実のチェック
 皮肉なことに、ナノ医療を開発するために用いられているナノ物質の健康及び環境に与える影響について、非常に重要な疑問が未解決なまま残っている。”ナノ技術”の初期の分野は不確実性であふれている。ナノスケール製品はすでに(ナノ医療を含んで)商業化されでいるにもかかわらず、世界中で基本的なナノスケールの安全問題に目を向けた規制を開発した政府はひとつもない。

政策
 マラリア被害国に約束の蚊帳を送ることに失敗し、”南”において HIV/AIDS を阻止するために年間成人男性当たり1個のコンドームしか用意しないような OECD 寄贈者らは、新規のナノ医療におけるかなりの投資が貧しい国々の人々のためになると本当に主張することができるのであろうか?
 政府は早急にナノ医療をを評価するために、広範で民主的な、社会的、科学的、倫理的、文化的、社会経済的、及び環境的なリスク評価をする必要がある。
 政策は、民間社会及び障害者や女性の団体を含む社会運動によって導かれねばならない。技術の変化に遅れぬために、新技術の導入を監視し評価するために政府間の枠組みが求められている。

 2007年に開催される次回の会議で、世界保健会議(World Health Assembly)は、この幅広い社会的健康の文脈の中でナノ医療の完全な分析に着手すべきである。


訳注:参考資料
Converging Technologies for Improving Human Performance / National Science Foundation & Department of Commerce Edited by Mihail C. Roco and William Sims Bainbridge, NSF and DOC, June 2002 (人間能力改善のための収斂技術/NSFおよび米国商務省)


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る