ETCグループ(カナダ)報告 2005年6月1日
ナノスケール技術と小さな BANG 理論に関する
小さな入門書


情報源:A Tiny Primer on Nano-scale Technologies ...and The Little BANG Theory
ETC Group, June 1, 2005
http://www.etcgroup.org/article.asp?newsid=516
http://www.etcgroup.org

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年1月11日

ナノ技術とは何か?
 ナノスケール技術とは物質を原子及び分子のスケールで操作するために用いられる技術一式のことである。”ナノ”は寸法であり物体ではない。生命が操作される”バイオ技術”とは異なり、”ナノ技術は”スケールだけを問題にする。”ナノメートル”(nm)は10億分の1メートルである。ヒトの髪の毛の太さは約80,000ナノメートルである。水素原子10個を並べると1ナノメートルになる。DNA分子の幅はは約2.5nmである。それに比べると赤血球は巨大であり直径が約5,000nmである。ナノスケールのものは肉眼でも普通の顕微鏡でも見ることができず、最も強力な顕微鏡でのみ見ることができる。

 ナノテクが持つ独特な力と可能性を理解するための鍵は、ナノスケール(約100ナノメートル以下)では物質の特性は劇的に変化することがありうるということであり、これらの予測できない変化は”量子効果”と呼ばれている。物質の組成を変えずにサイズだけを小さくすると物質は、電気伝導度、弾性、高い強度、異なる色、高い反応性など、全く新しい性質を示すことがありうるが、これら性質は例え全く同じ組成の物質であってもマイクロ又はマクロのスケールでは現われない。例えば、

  • グラファイト状の炭素(鉛筆の芯)は柔らかく可鍛性があるが、ナノスケールでは炭素は鋼より強力で6倍軽い。
  • 酸化亜鉛は通常、白色で不透明であるが、ナノスケールでは透明になる。
  • 清涼飲料水の缶の材質であるアルミニウムは、ナノスケールでは自然に燃焼するので、ロケット燃料に使うことができる(1)。
 科学者らは新たな物質を作り出すために、そして既存の物質を変更するために、ナノスケールでの物質の性質を研究している。企業は現在、数百の商業的製品に使用されているナノ粒子(すなわち、サイズが100nmより小さい化学元素又は化合物)を製造している。ナノテクの”原材料”は、生体及び非生体双方の基である周期律表の化学元素である。ナノテクのツールとプロセスは、事実上、全ての産業分野を通じてどのような製品にも適用することができ、そのことがアメリカ国立科学財団(NSF)が2011年又は2012年までにナノテクが1兆ドル(100兆円)市場になると予測する理由である(2)。研究者らは、より高速なコンピュータ、細胞特化の薬剤、強力な新たな触媒(石油化学プロセスで使用)、穀物から泥棒、顧客まで何でも監視するセンサー、強くて軽くて賢くて頑丈な物質、などを作るために、ナノテクを採用している。ナノスケール技術は非常に近い将来、製造業、食品産業、農業、健康産業の世界的な支配のための戦略的基盤となる準備ができている。

 ”我々の30年後の目標は、木を育て、切り倒し、それからテーブルを作るのではなく、我々は最終的にテーブルを育てるというような生物遺伝子を支配するという、すばらしい技術である。”(MIT人工知能研究所長ロドネイ・ブルックス


小さな技術の世界経済に与える潜在的な影響は巨大である
  1. 量子変化:量子力学の法則が支配するナノスケールの世界では、通常の物質は、もっと大きなサイズでは決して示さないような極端に高い強度、色の変化、化学的反応性の増大、あるいは電気伝導度などの新たな特性を示すことがありうる。新しく設計される物質は、産業製造者やその可能性のある人々が従来の製品市場をひっくり返すために多くの原材料の中から選択されることを意味する。
  2. 量的変化:ナノテクは”ボトムアップ”製造を可能にする。原子と分子は、トウモロコシから車、マンションに至るまで全てのものの基本構成要素である。トップダウンのプロセスではなくボトムアップで築くナノテクを採用することで、必要とする原材料の量は著しく減少する。(訳注:製造過程の原材料のロスがない)
  3. 品質変化:ボトムアップ構築とともにナノスケールにおける生体及び非生体の融合は、地理的場所、原材料、さらには労働者をも無関係にする産業における製造の新たな基盤作り出すことをを意味する。

ナノの波は発展途上国に何をもたらすか?
 うねりを起こす:”ナノ”はかつてない最も高く最も幅の広い波のうねりのように姿を現した。その大波は息をのむような社会的な影響を特に発展途上国に与える。ナノテクで新しく設計される物質は、商業製品の市場をひっくり返し、新たな技能や異なる原材料の突然の要求に対応する経済的柔軟性を持たない貧者や脆弱な労働者の商売や生計を崩壊する。

 産業分析のラックス・リサーチ社による2004年の報告書は、”最終的に全ての産業における市場占有、サプライチェーン、及び雇用を置き換える”とするナノテクの可能性をハイライトしている。もし、新たなナノ人工物質が従来の物質を性能において凌駕し、かつ低価格で製造することができるなら、我々はナノ物質が従来の商品を置き換えると予想することができる。例えば、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、従来の銅ワイヤーに替えてカーボン・ナノチューブでできた”量子ワイヤー”を開発するために1,100万ドル(約12億円)を投資している(3)。どの商品又は労働者が、またどのくらい速く、影響を受けるのか、確信をもって描き出すことは時機早尚であるが、農業と天然資源の輸出に最も依存している国々が最も大きな混乱に直面するであろう。

 ”イギリスの産業革命が手動紡績と手動機織を廃業に追い込んだように、ナノ技術は多くの数十億ドル(数千億円)企業と産業を崩壊させるであろう。”(ラックス・リサーチ社ナノテク報告書2004年)

 ナノテクは、豊富な物質、持続可能な開発、そして利益をもって経済的及び文化的ユートピアをもたらすとある人々は予測する。しかし技術の波の歴史は、新たな重要な技術は少なくとも初期においては社会から取り残された人々を動揺させるが、一方、金持ちは波を期待し、操作し、波頭にうまく乗ることを示している。彼らは波に乗リ続ける経済的柔軟性を持っているが、既にもがいている人々は古めかしい経済とともに洗い流される。

ゴムを例にとる:産業は自動車のタイヤを強化し寿命を伸ばすためにナノ粒子を設計しており、天然ゴムの代替となるであろう新たな物質を作り出している。天然ゴムの需要は急降下し、数百万の零細なゴム樹液採取者とタイ、インド、マレーシア、そしてインドネシアの国家経済に甚大な影響をもたらすであろう。重要な点は、現状が保たれるべきであるということではなく、社会が準備できていないということである。

綿を考える:綿のような天然繊維及びそれらを栽培する農家もまた影響を受ける。パイプライン中のひとつの製品は綿と同じ繊維をナノスケールで操作した合成繊維であり、綿よりはるかに強い。世界中で綿の生産に従事する1億の家族にとってナノテク繊維が意味することは何であろうか? 2003年の世界の綿生産は240億ドル(約2兆5,000億円)に達し、アフリカ53か国のうち35か国が綿を生産しており、22か国が輸出している。

間違った波長? 本来ならナノテクは貧者に有用な利益をもたらすはずのものである。また、いくつかの従来の物質を新たな物質に置き換えることで環境的利点もあるはずである。しかし、科学の私物化と空前の企業の寡占が広まっている世界では、民主主義と人権は蝕まれ、国家の主権は損なわれている。ナノスケール製品とプロセスに関する特許の占有は、自然界全体の構成要素である基本要素に関する巨大な独占を意味する。もし、現在の傾向が続くなら、ナノスケール技術は多国籍企業の手の中で経済力をさらに濃縮するであろう。貧者は自分達の外側にある技術からどのようにして便益を得るのであろうか?


誰が関与しているのか?

 2004年の世界のナノ技術への投資は、民間及び公共を含めて、86億ドル(約9,500億円)と見積もられている。実際、全てのフォーチュン500企業は、それ以外の数百の新参小企業とともに、ナノテク研究と開発に投資している。欧州、日本、及びアメリカは政府投資のほとんどを占めているが、日本の投資が他の二つの主要なプレーヤーより少し抜きん出ている。アメリカでは、政府がナノテクに費やすレベルは現在、年間10億ドル(約1,1000億円)に達し、アポロ宇宙船打ち上げ以来最大の公共投資科学事業となっている(4)。(2004年、米国防省はナノテク用に莫大な米政府資金を受けている。) 少なくとも35か国が何らかの国家ナノテク研究プログラムを持っている。ある産業アナリストによれば、北京地域ではナノテクのために働いている科学者の数は西ヨーロッパの全てのナノ科学者の数より多いが、そのコストは20分の1である。

 ”一方に蓄積する新たな富は、他方で広がる貧困との釣り合いをしばしば凌ぐ。金持ちは益々富を得て尊大になり、貧者は何も手落ちはないのに益々貧しくなる。”(ケンブリッジ大学客員上席研究員カルロタ・ペレス、技術革命に関しての記述)


誰が支配しているのか?

 科学者らが遺伝子技術を通じていかに生命を操作するかを解決するとすぐに、企業はいかにそれを独占するかを見出す。危険な前例は、1960年代、ノーベル賞受賞科学者が化学元素アメリシウム(周期律表の元素番号95)を”見つけ”、アメリカで特許#3,156,523を取得した時にさかのぼる。アメリカだけでも、ナノスケール製品とプロセスにに与えられる年間特許数数は1996以来、3倍に達している(5)。現在のナノテクの特許占有はバイオテクの初期をしのばせる。”それはステロイドに関するバイオテクのようだ”−ある特許弁護士の言葉である(6)。電子、エネルギー、鉱業、国防、新素材、医薬、農業にいたる全ての産業分野に広がっているナノスケール構成要素とツールの管理が危うい。ウォールストリート・ジャーナルが述べているように、”先駆的特許を保有している会社は潜在的に産業全体の値をあげることができる。(7)”

 ”自然の形の元素を見つけても誰も特許を取ることはできないが、もし、産業用に純粋にした形、例えばネオン、をつくり出せば、特許を間違いなくとることができる。”(バイオテクノロジー産業機構政府関係及び知的所有権担当ディレクター、ライラ・フェイシー)(8)

 ”請求した特許は元素95だよ。” 1964年11月10日に発行されたグレン・シーボルグのアメリカ特許3,156,523は特許取得最短記録である。


何が技術に集約するのか? そしてどのようにして BANG になるのか?
 ナノスケール科学の真の力は、ナノ技術を主要なイネーブラーとする、バイオ技術、認知科学、情報学、ロボット学などを含む多様な技術の集約である。技術的集約の背後にある論理は、全ての基本要素、全ての科学の基礎はナノスケールで生じるという事実に基づいている(9)。アメリカとヨーロッパの科学者及び政府は”ナノスケールにおける物質の統一体(material unity at the nano-scale)”に基づき、これらの科学を統合するという戦略を持っている。全ての物質と全てのプロセスはボトムアップで作用するので(結合して分子やもっと大きな構造となる原子を起点とする)、集約の唱道者らはナノスケールにおける出来事を操作することによってマクロスケールの出来事を制御することができると信じている。この還元主義者(reductionist)の見解によれば、全ての物質は、全ての生物学的及び文化的システムと同様に、異なるレベルでの分子プロセス作用の結果である。

原子が BANG に行き着く! ETC グループは集約を表す言葉として、”BANG”という言葉を用いる。ビット(Bits)、アトム(Atoms)、ニューロン(Neurons)、ジェネ(Genes)が、小さな BANG 理論−全ての物質、生命、そして知識を支配するための技術的探求−を組み上げる。

 情報技術が制御する:ビット(Bits)
 ナノ技術が制御し操作する:アトム(Atoms)
 認知神経科学が操作することにより精神の制御を可能にする:ニューロン(Neurons)
 バイオ技術が組み替えることで生命を制御し操作する:ジェネ(Genes)

 小さな BANG 理論によれば、ニューロンは我々の精神がコンピュータ又は人工の手足に直接話すことができるよう再設計される;ウイルスは機械として又は潜在的に武器として働くよう設計できる;コンピュータ・ネットワークは人工知能を又は監視システムを開発するために生物学的ネットワークと結合される。アメリカ政府によれば、技術的集約は、職場、競技場、教室、そして戦場で、”ヒトの能力を改善”する。

 もし、実現されたなら、アメリカ政府のヒトの能力を強化するという目標は、技術的集約により ”改善された” 人々と、選択の有無に関わらず ”改善されないままの” 人々との間に、かつてない広い溝を作ることになる。BANG(及び BANG の市場売買)は、何が ”正常” かという概念を変えることを手助けするので、我々全ては巻き返しを図るか、又は後に取り残されるかどちらかである。どのような便益を BANG がもたらそうと、それらは安いものではなく、どこにでも普及するわけではない。改善されない人々には何が起きるのであろうか? 身体的強化は社会的に必然で法的に強制力を持つようになうのであろうか? 例えば、2004年、アメリカのある裁判所は、死刑囚が十分、正気な状態でで処刑されることができるよう、刑務官が死刑囚独房の住人に強制的に投薬することを許す判決を下した(11)。ヒトの ”強化” が技術的に避けられないようになる世界では、障害者の権利はさらに蝕まれ、障害は社会的正義の問題ではなく、技術的課題として認識されるようになるであろう。どのくらい前から矯正可能な ”障害” として見るのは悪いことではないとする非民主的な考えが存在しているのであろうか?


ナノ時代の生命とは何か?
 合成生物学は、特定の課題を実行するようプログラムすることができる実験室での新たな生体システムの構築に言及している。”生体マシン” のプログラミングと機能の実現には、しばしば、ナノバイオ技術としても知られる生体と非生体の部品をナノスケールで統合するすることが関わる。

 ”我々が現在製造するものの多くは将来、我々のディジタル制御の下に分子操作を実行する遺伝子的に操作された組織の使用を通じて育てられるであろう。我々の体と工場の材料は同じものになる・・・。我々は、我々自身を産業基盤の単なる部品として見るようになるであろう。”(MIT人工知能研究所長ロドネイ・ブルックス)(12)

生命を得る:ナノバイオ技術は、産業用途ために、自然の自己複製 ”製造基盤” を活用することを目的としている。今日、研究者らは生物学的マシン、又は生物学的及び非生物学的物質の両方を採用するハイブリッド型マシンをボトムアップで構築している。その影響は息をのむほどのものである。それは単に新しい生物種や新しい生物多様性だけでなく、人間指向の、そして自己複写する生命の形成である。
  • 研究者らは、電子回路を作成するために、ほうれん草の葉緑体のたんぱく質を用いているが、その結果、世界で初の半導体光合成太陽電池を作り出した(13)。
  • 技師カルロ・モンテマグノはラットの心臓細胞とシリコンを結合して 1mm以下の装置を作り出した(14))。その装置の ”ロボット骨格” 上に育成した筋肉組織はそれを動かすことができ、研究者らはそれはいつの日にかコンピュータ・チップの動力となると信じている。モンテマグノは彼の創造を、”絶対的に生きており・・・細胞は実際に成長し、増殖し、集合する。それらは自身で構造を形成している” と述べている(15)。
  • 物質科学者らはウィルスの DNA を遺伝子操作し、電気的に誘引して、将来高速電子回路中の構成要素となるかもしれない小さな無機質ワイヤーを育てた(16)。
  • 米エネルギー省の基金を得て、クレイグ・ベンター生物エネルギー代替研究所は、実験室で製造された DNA を用いて新しいタイプのバクテリアを構築した。彼の目標は、水素を精製するようプログラムすることができる、又は二酸化炭素を吸収するよう環境中で使用する合成組織を構築することである(17)。
 合成生物学の分野における驚くべき進歩の結果として、”誤用や不注意の災害” の可能性が甚大である(18)。2005年1月、科学者らは長い DNA の分子をより速くより容易に合成する新しい自動化された技術を発表した(19)。しかし、研究者らはこの DNA 合成のための革命的進歩はまた、バイオ・テロリズムに使用される可能性のある天然痘ウィルス又はその他の危険な病原体を含んで、どのような小さなゲノムでも急速に合成することを可能にするということを警告している。

グリーン・グー:人間の介在はもっと強力な新たな生体組織を生成することを目指す;活性大腸菌(E. coli)バクテリアは油の流出対策に使われる;ナノバイオ・ポリマー製の車のドアーは衝突した後に自己修復するために埋め込まれたたんぱく質を利用している。昆虫の食害に非常に強い植物? 難燃性羽毛? 可能性は無限である。もちろん、その計画は、これらの新たな創造物は創造主によって厳格に管理されなくてはならない。しかし、もしナノバイオの新たな生命が、特に環境中で自立的に機能するよう設計されているようなものから成っていたらどうであろうか? グレイ・グーはメディアに取り上げられ、見出しを飾ったが (自己複写するナノスケール機械ロボットは、人間の支配を超えて地球の生態系を破壊する)、もっとありそうな将来の脅威は、生体と非生体の結合が、制御が容易ではなく予測できない振る舞いをするハイブリッド型の組織と製品をもたらすということである。それがグリーン・グーの亡霊である。

訳注: グレイ・グー/ざつがく・どっと・こむ

 ”もし、生物学者が、新たな生命の合成の境界にいるのなら、誤用又は意図しない災害の程度は甚大なものである。”(フィリップ・ボール、ネイチャー誌2004年10月7日)


ナノテクは人の健康、安全、そして環境にどのような意味があるか?
不明であり予測できない:政府、産業、そして科学研究機関はナノテク製品が公開議論も規制監視もなく市場に投入されることを許している。目に見えず、規制されず、表示されていなナノスケール粒子を含んだ推定 475 製品が既に商品として市場に出されている(20)。それらには食品、農薬、化粧品、日焼け止め、さらにそれら以外のものがあり、数千種以上がパイプライン中にある。一方、ナノスケール又はこの目に見えない小さなものの社会的影響に目を向ける規制を開発した政府はどこにもない。

 人工ナノ粒子に関する一握りの毒物学的研究は存在するが、ナノ粒子は一般に、同一成分でサイズがより大きな物質よりも毒性が強いように見えるが、その理由は、それらが持つ移動性と高められた反応性のためである(21)。ナノ粒子は、皮膚、血液脳関門、そして恐らく胎盤のような保護的な膜を通過して体内の免疫システムの防護を潜り抜けることができるので深刻な健康上の懸念を引き起こす。最近のナノ粒子の環境と健康に及ぼす毒物学的研究は赤信号を出している。
  • 2004年7月に発表された研究は、バッキーボールという形状で知られる炭素のナノスケール分子が魚の脳に急速に損傷を与えることを示した(22)。
  • 2005年、米航空宇宙局(NASA)の研究者らは、商業的に入手可能なカーボン・ナノチューブをラットの肺に注入すると著しい肺の損傷を引き起こすと報告した(23)。(研究者らは、ラットに注入されたナノチューブの用量は、労働者らの17日間分の曝露量に匹敵するということを示した。)別の研究では、2005年、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が、カーボン・ナノチューブに曝露されたマウスの心臓と大動脈中の著しい DNA 損傷を報告した(24)。
  • 2005年、ロチェスター大学(アメリカ)の研究者らは、バッキーボールを吸入したウサギの血液凝固罹患率が高まるということを示した(25)。
  • 他のいくつかの研究は、ナノ粒子が土壌中を予測できない方向に移動し、潜在的に他の物質の取り付くことを示している。
 いくつかの政府と科学者らは遅ればせながら、ナノスケール粒子は健康、安全、そして環境に独特なリスクを引き起こすことを認め始めている。もし知識にギャップがあるのなら、人工ナノ粒子の環境中への放出は最小にするかあるいは禁止すべきであると、ある研究者らは勧告している。

 ”環境と人の健康への潜在的な影響を考慮して、ナノ粒子の放出は制限されるべきである。予防原則の枠組みの中でナノ技術と規制 欧州議会ITRE委員会最終報告、2004年2月 (Nanotechnology and Regulation within the framework of the Precautionary Principle. Final Report for ITRE Committee of the European Parliament, February 2004)”

 ”それらの環境への影響についてもっと知られるようになるまで、ナノ粒子とナノチューブの環境中への放出は可能な限り避けるべきと切望する。特に、予防措置として、工場と研究試験場が人工ナノ粒子とナノチューブを有害な廃棄物の流れとして取り扱うこと、及び地下水の浄化のような目的のために環境中で自由ナノ粒子を使用すること禁ずることを勧告する。”(英国王立協会・王立技術アカデミー報告 2004年7月29日 ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性) 訳注要約と勧告については当研究会で翻訳


ナノテクは人権にどのような意味があるか?
 精密で精巧な分子レベルでの操作は、より強くより軽い物質、もっと正確で普及するセンサー、そして、もっと高速で小さくエネルギー効果のある物質を作り出すであろう。これらの製品は民需用と軍需用の両方で同時に開発されている。専門家らは、ナノ技術は火薬の発明以上に戦争での戦い方を変えるであろうと予測している(26)。BANG は ”強化された” 体と頭脳を持つ兵士を作り出すであろう。それはまた、もっと侵略的で検出が難しく実際には戦うことが不可能な化学及び生物兵器の開発をもたらすであろう。侵略的で目に見えないナノスケール・センサーと装置は抑圧−民主主義と基本的人権に対する脅威−のための非常に強力なツールになりうる。

 ”ナノ技術は、力の乗算器である。それは戦場で我々をもっと速くもっと強くするであろう。”(ペンタゴン基礎研究所上級科学顧問クリフォード・ロー、2004年4月19日)(27)


新しい技術は健全な社会政策の代替にはならない
 原子力、化学、及びバイオ技術の推進者によってなされた初期の約束のように、ナノテク熱狂者はユートピアを描いた:それは飢えと貧困の問題を解決し、がんを治し、環境を浄化するであろう。他の科学者らは、ナノテクは、人と穀物により良いより安価な疾病診断もたらし、水の浄化と太陽電池効率を改善し、原材料の需要を減らし、リサイクルを増大し、輸送とエネルギーコストを削減すると指摘する。しかし、たとえ病気をより良く診断できたとしても、企業研究は貧しい人々に目を向け、特許を得た薬剤を彼らが購入できるように考えるであろうか?

 簡単な真理は、新しい技術は古い不正義を解決することはできないということである。現在の貿易、金融、そして特許システムにおける国際化(Globalization)は、新しい技術の支配を富める者の手中に留めることを確実にするものである。通常、知的所有権制度と市場独占は、政府の意向を受けて、どの技術を促進し誰のための利益にするかを指図するために運用されてきた。


その波を止めることはできなくても、浸水は止めることができるか?
 ETCグループは社会的議論及び行動の出発点として、次のような勧告を提案する:
  • まず真っ先に、民間社会団体と社会運動を含んで、社会は、ナノ技術とその多様な経済、健康、及び環境への影響に関する広い範囲の議論に関与すべきである。そのほかに、障害者の権利運動が重大な役割を演じ、障害者が議論の全てのレベルで重要な参加者にならなくてはならない
  • ETC グループは、労働者と消費者を保護するために実験室基準と規制体制が確立するまで、そしてこれらの物質が安全であるということが示されるまで、ナノテク研究と新たな商業用製品に関し一時停止(モラトリアム)を要求している。一方、人工ナノ粒子を使用している全ての食品、飼料、及び清涼飲料製品、日焼け止め、及び化粧品は市場から回収されるべきである。
  • 政府はまた、社会が健康、環境、及び社会経済的影響について完全な分析に関与することができるようになるまで、人工生物学的物質の実験及び放出の一時停止を即刻実施すべきである。
  • 専門家の会議での議論、又はナノ技術の健康と安全面に関する議論を制限するための政府及び産業界によるどのような努力も誤りである。より広い社会的倫理的論点に目が向けられなくてはならない。知的所有権の問題もまた議題にされなくてはならない。誰がこの技術を支配するのか? 誰がそれらから利益を得るのか? 誰が我々の将来にナノ技術がいかに影響するかを決定する役割を演じるのか?
  • 国際共同体は、新技術評価国際条約(International Convention on the Evaluation of New Technologies (ICENT))を通じて新技術とそれらの製品を追跡し、評価し、許可、又は拒否する法的権限を持つ新たな国連機関を設立すべきである。

Notes:
1. Steve, Jurvetson, "Transcending Moore's Law with Molecular Electronics," Nanotechnology Law & Business Journal, Vol. 1, No. 1, article 9, p. 9.

2. The US National Science Foundation has predicted the market for nanoproducts would exceed $1 trillion by 2015. In 2004, the NSF revised its forecast, estimating the $1 trillion mark would come and go in 2011. See, for example, www.memsnet.org/news/1032299214-3

3. Anonymous, Johnson Space Center News Release, "NASA Awards US$ 11 M "Quantum Wire" Contract to Rice," April 22, 2005.

4. The 2005 proposed budget for the National Nanotechnology Initiative is US$982 million.

5. Antonio Regalado, "Nanotechnology Patents Surge as Companies Vie to Stake Claim," Wall Street Journal, June 18, 2004, p. 1.

6. Ibid.

7. Ibid.

8. From a speech by Lila Feisee, available on the Internet (as of June 2, 2004): http://www.bio.org/speeches/speeches/041101.asp

9. Mihail Roco and William Sims Bainbridge, eds., Converging Technologies for Improving Human Performance, NSF/DOC Report, June 2002.

10. Ibid., p. 10.

11. Leah Eisenberg, "Medicating Death Row Inmates So They Qualify for Execution," AMA Case in Health Law, Vol. 6, No. 9, September 2004. Available on the Internet: http://www.ama-assn.org/ama/pub/category/12788.html

12. Rodney Brooks, "The Merger of Flesh and Machines," The Next Fifty Years: Science in the First Half of the Twenty-First Century, ed. by John Brockman, 2002, p. 191.

13. Alexandra Goho, "Protein Power: Solar Cell Produces electricity from spinach and bacterial proteins," Science News Online, week of June 5, 2004: Vol. 165, No. 2, p. 355. Available on the Internet: http://www.sciencenews.org/articles/20040605/4181197.stm

14. Roland Pease, "'Living' robots powered by muscle," BBC News, January 17, 2005. Available on the Internet at http://news.bbc.co.uk/go/pr/fr/-/1/hi/sci/tech/4181197.stm

15. Ibid.

16. Anne Eisberg, "Benign Viruses Shine on the Silicon Assembly Line," New York Times, February 12, 2004.

17. Anonymous, "Researchers Funded by the DOE 'Genomes to Life' Program Achieve Important Advance in Developing Biological Strategies to Produce Hydrogen, Sequester Carbon Dioxide and Clean up the Environment," Department of Energy News Release, November 13, 2003. Available on the Internet: http://www.doegenomestolife.org/news/111303press.shtml

18. Philip Ball, "Synthetic Biology: Starting from Scratch," Nature, 431, pp. 624-626, 7 October 2004. On the Internet: http://www.nature.com

19. Nicholas Wade, "A DNA Success Raises Bioterror Concern," New York Times, January 12, 2005.

20. M.C. Roco, "National Nanotechnology Initiative: Overview," September 20, 2004. Available on the Internet: http://www.eng.nsf.gov/nano/NNI_040920_overview_Roco@NTinSociety_web.pdf

21. See Dr. Vyvyan Howard's comments in ETC Group Occasional Paper, "Size Matters! The Case for a Global Moratorium," April 14, 2003, p.p. 8-10. Available on the Internet at http://www.etcgroup.org/article.asp?newsid=392

22. Eva Oberdorster, "Manufactured Nanomaterials (Fullerenes, C60) Induce Oxidative Stress in the Brain of Juvenile Large-Mouth Bass," Environmental Health Perspectives, Vol. 112, No. 10, July 2004.

23. Janet Raloff, "Nano Hazards: Exposure to minute particles harms lungs, circulatory system," Science News Online, Week of March 19, 2005; Vol. 167, No. 12.

24. Ibid.

25. Ibid.

26. Clifford Lau of the US Defense Department to Barnaby Feder, "Frontier of Military Technology is the Size of a Molecule," New York Times, April 8, 2003, p. C2.

27. Quoted in Ted Leventhal, "Pentagon official says nanotechnology a high priority," April 19, 2004. Available on the Internet: http://www.govexec.com/dailyfed/0404/041904td1.htm (available as of June 1, 2004).

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