ETCグループ ニュース・リリース 2006年10月10日
ETCグループ 米食品医薬品局の
ナノ技術に関する公聴会で証言


情報源:News Release ETC Group, October 10, 2006
ETC Group testifies at US Food & Drug Administration's public meeting on nanotechnology, October 10
http://www.etcgroup.org/en/node/594

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年10月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/etc/ETC_061010_FDA.html

ETCグループを代表してのキャシー・ジョー・ウェターの証言
FDA ナノ技術に関する公聴会
2006年10月10日
清潔な食品と医薬品法施行後100年:
FDAの現在の規制の枠組みは新たなナノスケール技術には不適切である


 ETCグループの見解を発表する機会をいただいたことを感謝します。我々はカナダに拠点を置く国際的な市民社会組織です。我々の活動は、新規に出現している技術の社会的及び経済的な影響、及び、それらが特に軽んじられている共同体に及ぼす影響について力を注いでいます。私は ETCグループのノースカロライナ事務所を拠点にしています。

 ETCグループは2000年からナノスケール技術の開発を監視しています。我々は技術の社会経済的影響に目を向けていますが、ナノテクに関しては潜在的な健康と安全への影響を無視することはできませんでした。5年前に、我々は、ラボでの研究又は商業製品へのナノ物質の導入を管理する国際的に受け入れられた科学的基準が存在しないことを知って驚愕しました。

 当時、人工ナノ物質に特化した毒物学研究は実質的にはありませんでした。ナノスケール物質を記述する又は測定するための基準もありませんでした。簡単に言えば規制の真空地帯でした。そしてその規制の真空は、現在、人工ナノ物質を含んだ数百の製品が市場に出されているという事実にもかかわらず、今日でも同じ状態です。ナノテク規制の議論は少なくとも10年は遅きに失しているというのが現実です。我々は、”今度は成功する”ために先を見越して行動することを祝福するわけにはいきません。そうではなくて、現状に目を向けるべき緊急の必要性に力を注ぎましょう。ナノ製品の第一世代−人工ナノ粒子を組み込んだ製品−は既存の規制の枠組みの裂け目に落ち込んでしまっているのです。

 2002年の夏に、ETCグループは、作業者を保護するためにラボ・テスト基準が確立され、消費者と環境を保護するために規制が施行されるまで、新奇の人工ナノ粒子を含む新たな製品の商業化の一時的停止(moratorium)を行うよう政府に対し主張しました。我々の提案はナノテク推進者らから熱烈な反応を受けたわけではありませんが、しかし、我々のモラトリアムの要求は、興奮するような新たな消費者製品のパレードに水をさすことを意図したものではありませんでした。我々は、公衆の議論が行われておらず、現在の規制の枠組みはこれらの新奇な物質及びそれらの人の健康と環境に及ぼす未知の影響に目を向けるためには不適切であると考えています。そして、それらの安全が消費者と作業者のために確保されない限り、この技術は健康で透明性のあるやり方で開発することはできません。

 この部屋にいる誰でもがご存知のように、ナノスケールで製造される物質は、よく知られているもっと大きな同一成分の物質とは全く異なった物質のように振舞うことがあります。それらの新奇な特性こそが、そのように多くの科学的及び商業的関心がナノスケール物質に向けられるまさにその理由なのです。そして米特許登録局にそのように多くの特許申請が殺到している理由なのです。ある市場調査会社は2,700以上の未処理のナノ技術特許申請があると推定しています。1998年のノーベル物理学賞の受賞者は次のように述べています。”ナノ技術に関し、新たなものを創造するための可能性は無限である。”

 その無限のものは創造されており、そして創造され続けるでしょうが、そのことは、人と動物の薬、生物学的製品、医療品、国家の食糧供給、化粧品、及び放射性物質の安全、効率及び保安を確保することによって公衆の健康を保護する責任を持つ規制機関としてのFDAの挑戦をひるませるています。

 これらのカテゴリーのどれも、人工のナノスケール物質を組み込んだ製品をすでに含んでいるか又はすぐに含むようになるでしょう。そしてナノテク製品のこの殺到はとまることがないでしょう。第二の製品の波−ナノ技術とバイオ技術又はナノ技術と合成生物学の統合の成果物−がすぐFDAのドアのところまで押し寄せています。

 私はFDAが直面している課題のひとつを例にとりましょう。食品中の二酸化チタンの例です。FDAは1966年に食品の着色添加物として二酸化チタン(TiO2)を重量%が1%を越えないという条件の下に承認しました(http://www.cfsan.fda.gov/~dms/opa-col2.html)(ミクロ−サイズの TiO2 粒子は白色でクッキーやケーキの粉砂糖に添加されます)。FDAは TiO2 を、食品容器に組み込んでも安全という意味で”食品接触物質”としても承認しました。 TiO2 は現在、ナノスケールで製造されており、その透明な粒子は紫外線保護のための透明なプラスチック食品ラップに用いられています。TiO2 はすでに食品接触物質として承認されているので、容器でのこのナノスケールの使用は更なる規制上の精査の引き金とはならないでしょう。このことはまた、食品添加物としてのナノ TiO2 の使用についても同じであり、会社はナノスケール TiO2 の食品中での使用を探求しているので大いに関連があります。例えば、食品は湿度と酸素を防ぐためにナノスケールの二酸化チタンで表面を覆われています。1960年代に規定された重量%制限は、今日の微量で大きな効果を得るナノスケール調合には適切ではありません。しかし食品中の TiO2 はほんの一例に過ぎません。市場分析家は、食品と食品容器のためのナノテク市場は2010年までに200億ドル(約2兆2,000億円)になるであろうと予測しています。我々は主要な食品会社はどこもナノテク研究開発計画を持っているかそのようなものを開発するすることを目指していると聞いています。

 今日、人工ナノ物質の毒性は大部分が不明であり、毒性データは大きなサイズの物質に基づいた既存の毒性研究からは外挿できないという科学者らの間で実質的に一致した意見があります。簡単に言えば、我々がたとえ同一物質でより大きな粒子が我々の体内でどのように振舞うか知っているとしても、我々は体内に蓄積した人工のナノ物質が我々の肺や肝臓や腸でどのように振舞うのか分っていないということです。我々が目を向けなくてはならない最も身近なことは大気汚染物質として同様なサイズの超微粒子の経験であり、世界中で大気汚染の特性は問題ないと主張する毒物学者はいません。

 残念ながら、アメリカ政府は現在までのところナノテク革命におけるチアリーダー(推進者)であり、レギュレーター(規制者)ではありません。経済的優位性を確保するための総力戦において、健康と環境への考慮は二の次にされており、社会経済的影響は程遠い懸念となっています。FDAは、スタッフが足りず、資金が足りず、現在ナノテク革命に対処する能力がないということは疑いありません。しかしそれは変えなくてはなりません。

 FDAは、ナノスケール技術によって引き起こされた課題に対応するために必要なリソースを与えられなくてはなりません。FDAに同情的な記事の中で、”Chemical & Engineering News (訳注:アメリカ化学会(American Chemical Society)の情報誌)”は、FDAには全国200万人の政府職員の僅か0.5%しか職員がいないのに、アメリカで使われる1ドル毎に29セントに値する製品を規制しなくてはならないと述べています。

 我々はFDAがサイズが問題であるという科学的合意を受け入れるよう強く主張します。人工ナノ粒子はもっと大きな同一成分の物質と異なる振る舞いをするので、それらは新たな物質として規制されるべきです。FDAは予防的な立場をとらなくてはならず、有害性の証拠がないことは安全であることの適切な保証であるとする説得力のない考えに逆戻りすべきではありません。FDAが現在考えているナノスケール物質に関する現在の枠組みである”恐らく適切”は十分ではありません。規制は法的義務であり、自主的なものではありません。人工ナノ粒子を含んだ製品はそのように表示されるべきです。FDAは、会社の健康ではなく、公衆の健康を守る責任を全うすべきです。



化学物質問題市民研究会
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