米化学会ES&T 2008年9月10日
EPAナノ物質自主プログラム
ナノリスクと規制の不確実性は依然として続く

効果がないとの批判の中で、EPAのナノ物質に関する自主プログラムは
ナノテク産業からの提出を受け入れ続ける

情報源:ES&T Science News, September 10, 2008
The continuing uncertainty of nano risks and regulations
Amid criticisms that it is ineffective, EPA’s voluntary program on nanomaterials continues to accept submissions from the nanotechnology industry
Rhitu Chatterjee
http://pubs.acs.org/cgi-bin/sample.cgi/esthag/asap/html/es802396x.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年9月24日


 2008年1月、米EPAは産業界に対して彼らが製造又は使用しているナノ物質について入手可能な情報を提出することを求めるプログラムを立ち上げた。ナノスケール物質スチュワードシッププログラム(NMSP)と呼ばれるこの自主的プログラムは、規制に関する決定の指針に役立つ基本的な情報を提供することが意図されている。立上げ後7ヶ月が経過して、22社がEPAに報告したが、批評家らは、同プログラムの歩みは遅く、この急速に成長している技術がもたらす人の健康と環境へのリスクは依然として不確実なままである(訳注1)。


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カーボンナノチューブはその並外れた強度と電気的特性のために価値があるが、ナノチューブのあるタイプのものは動物に害をもたらすことが示されている。
 一方、市場は、これらの小さな、しかし強力なナノ物質からなる製品であふれている。ウッドロー・ウイルソン国際学術センターのナノパルチザンである新興ナノテクノロジー・プロジェクト(PEN)によれば、歯磨きから抗菌ソックス、そして最近の北京オリンピックでも使用された水着や運動靴まで、ナノ物質を含むと報告されている製品が803種ある。

 ナノテクノロジーは我々の生活を改善すると約束しているにもかかわらず、この技術の潜在的なリスクについては大部分が不確実である。研究者らはリスク評価者を助けるためのデータ・ギャプを埋めようとしているが、世界中の専門家らは、労働者、消費者、及び野生生物が受けるナノ物質暴露からの潜在的なリスクを最小にするために、製造者を規制し監視する必要があると強調している(訳注2)。

 このプログラムの二つの枝のうちの一番目のものは基本報告プログラムと呼ばれ、取り扱われるナノ物質の名称と生産量のような単純な情報を集めることを目的としている。二番目のものは詳細プログラムと呼ばれ、予測される分解物質、潜在的暴露、およびライフサイクル分析のような詳細情報を収集する基盤を持つ大会社のために設計されている。

 ”プログラムは予想より遅いスタートを切った”とPENの主席顧問であるアンドリュー・メイナードは述べている。”しかし、産業界から入手したいとEPAの上層部が望んでいる情報は、情報に基づく意思決定に本質的に重要である”。したがって、NMSPの基本プログラムは93種のナノ物質にとって非常に重要である。

 ”EPAは、必要な情報にアクセスすることを確実にするために、TSCA(有害物質規制法)の下での規制措置の可能性を含めて追加的な措置が必要かどうかを決定するために、NMSPに基づき提出された情報を注意深く吟味するであろう”とEPAの報道官デール・ケメリーはES&Tへの電子メールに書いた。EPAは今後さらに18ヶ月にわたり提出を受け付けることとし、10以上の会社が基本報告プログラムの提出を約束したと彼は付け加えた。

 以前、ナノ産業を代弁した法律事務所ポーター・ライトのミカエル・ハインツは、”NMSPが成功したか失敗したかを今宣言するにはまだ早すぎる”とする立場である。しかし、環境グループと政策専門家らはもっと悲観的である。”我々の異議は、そのプログラムがなすべきことをしているのかどうかを判断するためのどのような基準もEPAは実際には設定していないということである”とエンバイロンメンタル・ディフェンス基金のリチャード・デニソンは述べている。そして93ナノ物質のうちNMSPの下でデータ収集された63物質は、ストレム化学社1社からのものであると彼は指摘している。また、参加会社が製造又は使用しているナノ物質の全ての範囲を含めているのか、あるいはその一部だけなのかを知る方法がないと彼は述べている。

 詳細プログラムはうまくいっておらず、まだ提出は全くないとPENのコリン・フィナンは述べている。しかし、3社が参加を約束したということにEPAの報道官ケメリーは言及した。

 デター提出の特質はまた、公衆の信頼と透明性の問題を提起するとデニソンとフィナンは述べている。”自主的プログラムに期待することのひとつは、透明性ともっと公衆への開示をもたらすことである”とフィナンは加えた。”EPAの担当官らは、このプログラムを真の産業界・EPAの取り組みであるとして褒めちぎったが、EPAは詳細プログラムのデータをまだ受けとっていないだけでなく、基本プログラム中に含まれない多くの情報は企業秘密である”。例えば、NMSPのウェブサイトに掲載されたナノフィルム社(Nanofilm)提出のデータをレビューすると、化学物質名や分子構造のような基本的情報すら”企業秘密情報”とされており、公衆に開示されていない。

 それでもEPAの行動はよい措置であり正しい方向にあるとフィナンは述べている。”それが正しい措置であるかどうかは間違いなく議論にかかっている”


訳注1
訳注2


化学物質問題市民研究会
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