WWICS/PEN 2008年7月23日
ナノテクノロジー監視
次期政権の課題
エグゼクティブ・サマリー

PEN上席顧問 クラレンス・デービス博士
情報源:Woodrow Wilson International Center for Scholars (WWICS)
Project on Emerging Nanotechnologies (PEN)
July 23, 2008
Nanotechnology Oversight: An Agenda for the Next Administration
by J. Clarence Davies
a senior advisor to the Project on Emerging Nanotechnologies http://207.58.186.238/process/assets/files/6709/pen13.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年8月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/PEN/080723_Nanotech_Oversight.html

エグゼクティブ・サマリー


 新政権が目を向けなくてはならない国内政策で、社会に与える影響という点で産業革命と比較される新技術、ナノテクノロジーほど長期にわたって重大性を持つものは他にほとんどない。もし、正しい決定がなされるなら、ナノテクノロジーは日々の生活のほとんど全ての分野に多大な改善をもたらすであろう。もし間違った決定がなされれば、アメリカの経済、ヒトの健康、及び環境は損なわれるであろう。

 ナノテクノロジーはアメリカが直面している最も重要な問題の多くに主要な影響を与える得る。それは外国の石油依存を減らすことができ、世界の気候変動への取り組みを助け、国の保健制度を改善し、国防力を強化し、テロとの戦いを助け、国家の経済に大きな寄与をすることができる。ナノテクノロジーはまた、21世紀を特徴付ける技術的機会と課題の原型として重要である。アメリカは、どのようにしてこの新技術の潜在的な有害影響に対処し、どのようにしてこの技術を社会の必要性に最もよく貢献させるかについて学ぶ必要がある。

 既存の法と制度はナノやその他の技術を取り扱うためには無力であり不適切である。監視システムは修復される必要がある。規制機関は資源が欠如しており、ある場合には機能していない。法律は大きなギャップを持ち、しばしば公衆の保護をしていない。ナノテクノロジーはこれらの不適切さに光を当て、それらに働きかける機会を与える。

 この報告書は新政権が最初の数ヶ月でナノテクノロジーについて何をなすべきかの設計図である。それは35以上の勧告を含んでいる。下記の行動が求められる。
  • 既存の法律を最大限利用すること:
     ナノテクノロジー監視のために既存の法律は改正される必要があるが、多くのことが既存の権限の範囲内で行うことができる。ナノ物質は、有害物質規正法(TSCA)及び連邦食品医薬品化粧品法(FFDCA)の化粧品、食品添加物、及び食品容器包装規定の下で、”新規物質”として定義されるべきであり、そのことにより、環境保護庁(EPA)及び食品医薬品局(FDA)はナノ物質の新規な特質と効果を検討することが可能となる。連邦農薬法は、ナノ銀を使用した衣料や家電のようなナノ抗菌製品のために強化されるべきである。労働安全衛生局(OSHA)の既存の規制は、職場においてナノ物質から労働者を保護するために利用されるべきである。

  • ナノ物質のリスクに関する研究を増大すること:
     ナノ物質により及ぼされる潜在的なリスクを理解するための連邦政府の予算は不十分である。今までに実施された限定的なテストの結果は懸念をもたらす。カーボンナノチューブはアスベストと同様に肺を刺激する。ラットのテストでいくつかのナノ物質は鼻から神経を通じて脳にいたる。血液脳関門を通過する。いくつかのナノ物質はDNAに作用する。これらの物質は、環境と人の健康だけでなく、消費者の信頼に対しても悪影響を与えているであろう。リスク研究が本質的に重要である。

  • 既存の監視法を改正すること:
     ナノ物質の有害影響をカバーするTSCAやFFDCAは早急に強化される必要がある。例えば、FFDCAの下では、ナノテクノロジーの二つの主要な高暴露利用である化粧品と栄養補助食品は本質的には規制されていない。実際、同法の現在の記述は、適切な監視を行わないことを保証するために役立っている。消費者製品安全法のようなナノ監視に重要な他の法律もまた抜本的な改正が必要である。

  • 将来に向けて計画すること:
     ナノテクノロジーについてのほとんど全ての計画と議論は、第一世代ナノテクノロジーに向けられてきた。この技術の第二世代は現在、科学フィクションから技術的事実に移りつつあるが、社会はそれについて又はそれに引き続いて起こることは間違いない他の技術について、どのように対処するかを考えていない。二十一世紀の監視の選択を検討するための委員会が任命されるべきである。さらに加えて、政府と社会が今後起こることによりよく備えるために技術的発展を予測する政府の能力は大幅に改善される必要がある。
 ナノノテクノロジーは我々が生活する仕方を大きく変えるように見える。新政権はこれらの変化を形作り、ナノテクノロジーの便益が最大化され、リスクが特定され管理されることを確保する機会を持っている。これはまさに重要な機会であり、この報告書はそれについてどのように行動するかを記述する。この技術の将来は来るべき政権の手中にある。将来の形は新政府がなすことに大きく依存するであろう。


ナノテクノロジー監視の勧告概要

* 印は優先度の高い勧告を示す

短期的課題

■リスク研究
  • * ナノテクの環境、健康、安全(EHS)研究の資金を増やすこと
  • * 国家ナノテクノロジー・イニシティブ(NNI)との調整を強化すること
  • ピアレビューEHS研究計画を求めること
  • NNIのナノ推進機能とナノ監視機能を分けること
  • 健康影響研究所(HEI)(自動車の健康影響に特化したEPAと自動車産業の共同事業)と同様なナノテクノロジー影響研究所を設立すること
■規制当局の調整
  • * 機関横断的なナノテクノロジー規制グループを設立すること
  • * 各主要規制機関内(例えばEPA、FDAなど)でナノテクノロジー計画を開発すること
  • 政府間調整を改善すること
■資源要求
  • * 規制機関の予算と人材を増加すること
■連邦機関の行政措置

環境保護庁
  • * 有害物質規正法(TSCA)の下でナノ物質を”新規”化学物質として定義すること
  • * ”グリーン”なナノテクノロジーを推進すること
  • TSCA情報収集規則を発布すること
  • 連邦農薬法の下で抗菌剤の規制を拡張すること
  • ナノテクノロジーに対する他のEPA法令集の適用を評価すること
食品医薬品局
  • * 安全性テスト、次期製品、潜在的有害影響に関する情報を収集すること
  • どのナノ物質が規制目的のために”新規”かを決定する基準を確立すること
  • 化粧品と栄養補助食品を規制すること
労働安全衛生局、国立労働安全衛生研究所
  • * ナノ物質に対応するために既存のOSHA規制を利用すること
  • ナノテクノロジーの潜在的な健康影響と暴露管理のための測定について労働者と会社との情報を密にすること
  • ナノ物質のためのOSHA基準を発行すること
消費者製品安全委員会
  • ナノテクノロジー暴露調査のための新たなスタッフを雇用すること
  • 著しい暴露をともなうナノテクノロジー製品のための慢性有害性諮問委員会(CHAP)を設立すること
■自主的取組
  • * ナノテクノロジー リスク分析のベースとしてデュポン−エンバイロンメンタル・ディフェンスの枠組みを利用すること
  • 中小企業のためにのナノテクノロジー ハンドブックを発行すること
■公衆参加
  • * ナノテクノロジーについてもっと多くの情報を公衆に与えること
  • * 利害関係者会議を招集すること
  • ナノテクノロジーについての公衆の見解を入手すること
長期的課題

■新規立法
  • * TSCAを効果的なものにするために変えること
  • * 化粧品を適切に規制できるよう連邦食品・医薬品・化粧品法を改正すること
  • * 栄養補助食品に対する権限をFDAに与えること
  • 食品と化粧品に関する安全性テストを見直す権限をFDAに与えるためにFFDCAに他の変更を加えること
  • EHS研究計画を要求し強化された調整力を与えるためにNNI法を改正すること
■新たな技術、新たな監視
  • * 政府の予測能力を改善すること
  • * 新たな技術の監視を調査するための委員会を設立すること
  • * 監視の新たな様式を創出すること


化学物質問題市民研究会
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