EHP 2006年2月号 レビュー
量子ドットの毒物学的レビュー
毒性は物理化学的及び環境的要因に依存する


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 2, February 2006 / Review
A Toxicologic Review of Quantum Dots:
Toxicity Depends on Physicochemical and Environmental Factors
http://ehp.niehs.nih.gov/members/2005/8284/8284.html

Original: A Toxicologic Review of Quantum Dots:
Toxicity Depends on Physicochemical and Environmental Factors
Ron Hardman
Nicholas School of the Environment and Earth Sciences, Duke University, Durham, North Carolina, USA
http://ehp.niehs.nih.gov/members/2005/8284/8284.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年2月 4日
更新日:2006年2月13日

このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_nano_06_Feb_QDs.html

 量子ドット半金属複合物の中で最も広く使用されている2つの金属、カドミウムとセレンは脊椎動物に急性及び慢性毒性を及ぼすことが知られており、ヒトの健康と環境に対する相当な懸念がある。
 結論として、これらのレビューの結果は、ある条件の下では量子ドットはげっ歯類のモデル及び試験管細胞培養で確認されたように環境及びヒトの健康にリスクを及ぼすかもしれないということを示唆している。


 ■概要
 ■はじめに
 ■量子ドットの応用
 ■量子ドット物理化学的特性
 ■量子ドットの毒性
 ■生体条件下での量子ドットの吸収、分布、代謝、排出
  Absorption, Distribution, Metabolism, and Excretion of Quantum Dots in Vivo(翻訳予定)
 ■量子ドットと毒性の関連
 ■議論
 ■まとめ
 ■参照 References


概要
Abstract
 応用科学が発達するにつれ、ナノ技術は少なからぬ世界的な社会経済的価値を持ち、ナノスケール物質とプロセスによりもたらされる便益はほんとんど全ての産業と社会の全ての領域に著しい影響を与えると予測される。多様な人工ナノスケール製品とプロセス[例えば、カーボン・ナノチューブ、フラーレン誘導体、及び量子ドット(QDs)]が、医療、プラスチック、エネルギー、電子、及び航空宇宙などの分野での幅広い応用をもって、出現してきた。ナノ技術経済は2012年までに1兆ドル(約110兆円)に達すると見積もられているが、これらの物質は社会に広まってきており、曝露もありそうである。重要なことは、ナノ技術の広範で未開の領域には、新たなナノ物質への曝露によって引き起こされる人間への有害な健康影響の可能性など、まだ探求されていない、或いは現在探求中の分野があるということである。これらの物質の潜在的に有害な側面的影響を理解することの必要性が明確になるということがこの脈絡の中にある。レビューした文献はいくつかの重要な点を示唆している。量子ドットは一様ではない;量子ドットは均一の物質グループであると考えることはできないという点である。量子ドットの吸収、分布、代謝、排出、及び毒性は、固有の物理化学的特性と環境条件の両方に由来する複合要因に依存する;量子ドットのサイズ、電荷、密度、外面コーティングの対生物活性、及び酸化、光分解、及び機械的安定性のそれぞれが、量子ドットの毒性決定要因として関連する。それらは、ドラッグ・ターゲットや生体条件下での生物医学画像のような、計り知れない貴重な潜在的社会便益を提供するにもかかわらず、量子ドットは、ある条件下ではヒトの健康と環境にリスクを及ぼすかもしれない。
 キーワード:環境、ヒトの健康、ナノ物質、ナノサイズ粒子、ナノ技術、ナノ毒物学、量子ドット、毒物学
 Environ Health Perspect 114:165-172 (2006). doi:10.1289/ehp.8284 available via http://dx.doi.org/ [Online 20 September 2005] Key words: environment, human health, nanomaterials, nanosized particles, nanotechnology, nanotoxicology, quantum dots, toxicology. Environ Health Perspect 114:165-172 (2006). doi:10.1289/ehp.8284 available via http://dx.doi.org/ [Online 20 September 2005]

Address correspondence to R. Hardman, Duke University, Nicholas School of the Environment and Earth Sciences, LSRC A333, Durham, NC 27708 USA. Telephone: (919) 741-0621. Fax: (919) 684-8741. E-mail: ron.hardman@duke.edu
The author declares he has no competing financial interests.
Received 4 May 2005; accepted 19 September 2005.

はじめに
Introduction
 1959年リチャード・フレイマンのナノ技術に関するセミナー講義、”底には多くの空き場所がある”で、原子及び分子のスケールで物質を操作することにより何が理論的に可能となるかが示された。今日、ナノ技術は一つの応用科学であり、急速に成長する産業が多様なナノスケール物質とプロセス(例えば、カーボン・ナノチューブ、フラーレン誘導体、及び量子ドット(QDs))を生み出している。ナノメートル・スケールでの物質とプロセスの操作は、創造的な可能性の世界を切り開き、ナノスケール技術によってもたらされる便益は、ほとんど全ての産業と社会の領域(例えば医療、プラスチック、エネルギー、電子、航空宇宙)に本質的な影響を与えることが予測される。ナノ技術が著しい社会的経済的価値をもたらすということは創造的な可能性である。2004年には全世界で86億ドル(約9,500億円)がナノ技術の研究開発に投資され(Nordan et al. 2004)、2012年までにナノ技術は1兆ドル(110兆円)の経済規模になるとされており、これらの物質は社会に確実に広がり、野生生物とともにヒトの曝露も増大すると考えられる。現在、ナノ技術製品は世界中で200社以上の会社によって販売されており、あるものは商業的に入手可能な製品(例えば、電子製品、セラミックス製品)の中で使用されている(Hood 2004; National Science Foundation 2004)。ナノスケール製品のサイズに関して展望する時には、直径100ナノメートルのナノ粒子2グラムは、世界中の各人に300,000粒子づつ割り当てることができる量であるということを考えればよい。

 しかし、ナノ技術産業の揺籃期の特性として、人工ナノ物質のヒトの健康と環境に及ぼす潜在的な有害影響のような多くの探求されていない、あるいは探求中の領域がある。現在、毒物学的情報が不十分であり、標準的テスト・プロトコールもないので、人工ナノサイズ物質の生物システムに与える有害影響の評価を困難なものとしている(National Toxicology Program 2005; U.S. Environmental Protection Agency 2003)。社会におけるナノ物質の普及が広がるにつれ、それらの独特な物理化学的特性と望ましくない/予測できない曝露のリスクのために、人工ナノ物質はヒトの健康と環境に対する潜在的な懸念を及ぼしている。これらの物質の潜在的に有害な側面的影響を理解することの必要性が明確になるということがこの脈絡の中にある(Colvin 2003; Oberdorster et al. 2005)。

 ここでレビューしたのは一般に量子ドット(QDs)として言及される新たなナノ物質である。それらは、ドラッグ・ターゲットや生体条件下での生物医学画像のような、計り知れない貴重な潜在的社会便益を提供するにもかかわらず(Alivisatos 2004; Gao et al. 2004; Michalet et al. 2005; Roco 2003)、量子ドットは、レビューした文献が示唆するように、ある条件下ではヒトの健康と環境にリスクを及ぼすかもしれない。現状の文献は、量子ドット曝露の経路と潜在的な毒性を評価することは簡単な事ではない。量子ドットは一様ではなく、毒性は環境的要因とともに複合的物理化学的要因に依存する。


量子ドットの応用
Applications of Quantum Dots
 量子ドットは、独特の光学的及び電気的特性を持った半導体ナノ結晶(2〜100nm)(Bruchez et al. 1998; Dabbousi et al. 1997)であり、現在は生物医学的画像及び電子産業で適用されている。多くの量子ドットの価値ある特性の中のひとつは蛍光発光スペクトラムであり、生物医学画像のための最適なフルオロフォア(蛍光物)して使用される(Alivisatos 2004; Chan et al. 2002)。例えば蛍光性量子ドットは、新生細胞(Gao et al. 2004; Wu et al. 2003)、ペルオキシソーム(Colton et al. 2004)、DNA(Dubertret et al. 2002)、及び細胞膜受容体(Beaurepaire et al. 2004; Lidke et al. 2004)などに標識をつける(labeling)など、特定の生物学的事象及び細胞構造を目標にするために対生物活性 moieties(例えば、抗体、受容体リガンド)と結合される。生物学的に結合された量子ドットはsite specific gene 及びドラッグ・デリバリー(Rudge et al. 2000; Scherer et al. 2001; Yu and Chow 2005)のためのツールとしても探査されており、様々な情報及び視覚化技術のための最も将来性のある候補である。それらは現在、先進的な薄型パネルLED(発光ダイオード)表示装置のために使われており、超高密度データ記憶装置や量子情報プロセスのために採用されるかも知れない(Wu et al. 2004)。


量子ドット物理化学的特性
Quantum Dot Physicochemical Properties
Figure 1. QDsは半金属コアと、コアを保護しQDを生物利用可能とするキャップ/シェルからなっている。さらに生体適合性コーティング又は機能グループを追加してQDに望ましい生物活性を持たせることができる。
 量子ドットの潜在的な危険性を理解するためには、量子ドットの物理化学的特性の基本を把握する必要がある。自然界で起こる生物由来及び人為由来のナノサイズ粒子は自然界にたくさんあるが、人工の量子ドットは、結晶性の半金属(メタロイド)コアの構造/成分と、金属と半導体粒子(量子ドット・コア)がボーア半径(〜1-5 nm)より小さくなる場合に起きる量子サイズ制限との組み合わせの結果生じる独自の物理化学的特性のために、自然界のものとは異なる。

 構造的には、量子ドットは半金属結晶性のコアと、コアを保護し、量子ドットの生物利用を可能性とする”キャップ”又は”シェル”からなる(Figure 1)。量子ドット・コアは、半導体、貴金属、磁性遷移金属のような様々な金属からなる。例えば、グループ III-V シリーズ の量子ドットは、燐化インジウム((InP)、砒化インジウム(InAs)、砒化ガリウム(GaAs)、及び窒化ガリウム(GaN)半金属コアからなり、グループ II-IV シリーズの量子ドットは硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(CdSe)、及びテルル化カドミウム(CdTe)コアからなる(Dabbousi et al. 1997; Hines and Guyot-Sionnest 1996)。より新しい重い構造のもの(例えば、CdTe/CdSe, CdSe/ZnTe)、セレン化鉛のハイブリッド)もまた確立されている(Kim et al. 2003)。

 さらに、生物学的適合性コーティング又は機能グループの量子ドット・コア−シェルへの割付は量子ドットに望ましい生物活性を与える。有機溶剤中での合成段階で半金属コアに疎水性キャップを形成すると、新たな合成量子ドットは本質的に疎水性であり生物学的に有用ではない。それらを生物学的に適合性/活性を持たせるために、新たな合成量子ドットは"機能化"され、又は第2のコーティングが施され、水溶性、量子ドット・コアの強固性、及び特性の維持を改善し、望ましい生物活性を与える。例えば、量子ドットのコアは生物適応性を与えるために親水性のポリエチレングリコール(PEG)グループでコーティングすることができ、さらに、特定の生物学的事象又は細胞構造の特徴をターゲットにするために、生物活性 moieties で conjugate することができる(上述)。したがって、様々な分子体を量子ドット・コアに結合することで、特定の診断又は治療目的のために量子ドットを機能化する。機能化は量子ドットの堅固性/安定性や生体条件下での反応を考慮した時に重要な物理化学的特性である静電気反応、吸着作用、多価キレーション、又は電子結合を通じて実現されるかもしれない。この論文では量子ドット物理化学的特性は一般的に”コア−シェル−conjugate”又はその逆として表現されている。例えば、CdSe/ZnSは、CdSeコア、ZnSシェルをもった量子ドット、また、ヒツジ血清アルブミン(SSA)でconjugatedされた CdSe/ZnS 量子ドットは CdSe/ZnS-SSAと表示される。合成中、高度な正確性を持ってなされる物理化学特性の管理は、特定の機能/用途のために量子ドットを”特注”することができる。

 長所と短所の両方が存在する。量子ドットは、例えば、診断のために(例えば分子画像)あるいは治療のために(例えばドラッグ・デリバリー)、特別のコーティングを施すことで、高度な特定の生物活性を与えることができる。潜在的な短所は、量子ドットを価値あるものとするコーティングそのものの中にある。コーティングの問題は、合成コア(例えばCdTe)として、又は量子ドットコアの構成金属(例えば Cd)が分解した時に、有毒かもしれないという点である。量子ドットのコーティングの劣化はまた、生体条件下で望ましくない/予期しない仕方で量子ドットが反応するという結果をもたらすかもしれない。さらに、ある量子ドットのコーティング材料は、メルカプト酢酸((MAA:以下で議論 )のように、それ自身が細胞毒性持つことが見出されている。このことから、量子ドット物理化学的特性は量子ドットの毒性を理解するために基本的であるといえる。量子ドットを潜在的に有害なものにするのは量子ドットのコア・コーティング生物活性複合物の安定性であり、量子ドットは光分解及び酸化条件の下で劣化することが見出されているので、量子ドットの安定性は量子ドットの製品化に当り非常に重要な役割を演じるように見える。


量子ドットの毒性
Quantum Dot Toxicity
 量子ドットの毒性の議論は、多様な人工量子ドットが存在しているために、幾分混乱している。この論題のレビューを単純にするために、全ての量子ドットが同じというわけではないということが明確にされるべきである。量子ドットの個々のタイプは、独自の物理化学的特性を持っており、それらがその潜在的な毒性又はそれがないことを決定する。一般的に、いくつかの要因に帰すことができる量子ドットの毒性に関し、現状の諸論文の中に不一致がある。その要因とは、毒物学に基づく研究の欠如、文献中で報告されている量子ドット用量/暴露濃度の多様性、そして個々の量子ドットの広く変動する物理化学的特性である。毒物学的評価(例えば、曝露の用量、期間、頻度、及び作用のメカニズム)に特化した研究はほとんどない。量子ドット毒性情報がもたらされており、量子ドット毒性について引用している多くの研究は、毒物学者又は健康科学者によるものよりも、むしろナノ技術研究者によるものである。ここでレビューする現状の研究の大部分は、蛍光発光(fluorescence)、検出可能性、安定性、及び細胞ラベリング効力のような量子ドット新製品の物理化学的特性に関する疑問を提起するために設計されており、量子ドットの毒性そのものではない。

 重要なことは、そして量子ドットの毒性の評価において潜在的な混乱のもとは、量子ドット毒性が個々の量子ドットの物理化学的特性と環境条件という複合要因に依存しているということである。量子ドット・サイズ、電荷、濃度、外面コーティング生物活性(キャッピング材質、機能グループ)、及び酸化、光分解、及び機械的安定性のそれぞれは、量子ドット毒性の決定要因として示されている。例えば、ある量子ドットは、そのコア・コーティングが酸化又は光分解により劣化した後でのみ細胞毒性を示すことが見出されている。最後に、文献で報告されている量子ドット用量/暴露濃度は、その測定単位が様々でなので(例えば mg/mL、モル濃度、mg/kg体重、細胞当りの量子ドットの数)、現在の研究を横断的に関連付けることは難しい。下記は、脊椎動物に潜在的な毒性を及ぼす量子ドットの特性について述べた試験管及び生体条件下の研究のレビューである。

曝露経路
 ナノ物質の環境とヒトの健康に及ぼす潜在的な有害影響は、最近、米国家科学財団及び米環境保護庁の下に組織された研究イニシアティブによって目を向けられるようになったが、量子曝露の経路に関しては現在、事実に基づく有効な情報はない。量子ドットの安定性、エーロゾル化性、半減期、どのように環境中の媒体に分配されるかについて、現在はほとんど理解されていない。しかし、曝露経路の検討は、同様なサイズと物理化学的特性を持つ物質に関して知られていることから推定することができるかもしれない。

 量子ドット曝露の潜在的な経路は環境、職場、及び治療/診断における量子ドットの利用かもしれない。職場での曝露(例えば、技師、研究者、医師)は、吸入、皮膚接触、又は経口摂取によるかもしれない。吸入経路に対しては、量子ドット吸入研究に役立つ基礎を提供する他のナノスケール粒子(例えば、アスベスト、超微粒子)に関する非常に多くの毒物学的研究がある。量子ドットはコーティングの厚さに依存してサイズが概略2.5〜100nmの範囲にあり、また一度エーロゾル化すると肺組織に沈着する場所も様々である。例えば、2.5nmより小さい量子ドットは肺の奥深くに達し、肺胞上皮と作用するかもしれないし、もっと大きなエーロゾル化量子ドットは気管支に沈着するかもしれない。しかし、どのような条件下で量子ドットはエーロゾル化するのか、そして大気中で集塊するのかどうか不明である(ナノ物質と吸入曝露に関する顕著なレビューはオバドルスターらによってなされている。Oberdorster et al. 2005)。量子ドットは様々なタイプの細胞によってエンドサイトーシス (訳注:細胞膜の陥入によって外界から物質を取り込む作用)を通じて取り込まれることが示されているので、潜在的なリスクを及ぼすかも知れず、また細胞中に数週間から数ヶ月、留まるかもしれない。皮膚吸収及び事故による経口摂取による曝露がどのようなリスクを及ぼすのかは現在は不明である。

 もし、治療上/診断上の量子ドット製品の社会的及び経済的価値が、医療的目的のために量子ドットをヒトに曝露することにあるなら、曝露経路としての懸念はどのようなものになるのであろうか? 量子ドット製品は治療/診断の目的では現在はまだ承認されていないので、これらの曝露は理論的なものであるが、これらの物質の治療/診断目的のための投与による望ましくない/予測しない結果が、医療用量子ドット製品の開発時に現れる可能性があるように見える。投与による曝露ルートを通じての潜在的な毒性は、様々な、そしてほとんど理解されていない要因、量子ドット毒性及び薬物動態学、量子ドット毒性及び薬力学(pharmacodynamics )、及び生体条件下での安定性、に高く依存している。量子ドットの動態及び動特性が特徴付けられれば、これらの曝露によるリスクは、現在医薬品産業で行われているような品質管理の仕組み(例えば、大量生産における一貫性と信頼性)を通じて緩和されるかもしれない。

 主に量子ドットのコア半金属成分や、ある程度は量子ドットのコーティングのために、環境媒体(汚染)を通じての曝露は懸念ある潜在的な経路である。多くの量子ドットのコア金属(例えばカドミウム、鉛、セレン)は比較的低濃度(ppm)において脊椎動物に対して有毒であることが知られている。しかし、量子ドットによるリスクを理解することは、毒性が金属の化学的状態によって広く変動するので複雑であることが証明されるであろうし、また、環境的変換/劣化と分配はヒトの健康ハザードのレベルを決定するであろう。

 現在のところ、環境中における量子ドットの安全性、製品の寿命、又は、これらの物質が環境媒体にどのように分配されるのかに関して、何も分かっていない。量子ドットの環境媒体への導入は量子ドットを合成したり使用する産業からの廃棄物を通じて、及び医療と研究施設を通じて、発生するかもしれない。したがって、量子ドット物質の処分と製造及び輸送中の漏れやこぼれのリスクが潜在的な懸念の元となる。環境曝露はいくつかの理由のために顕著な曝露源である。
  1. 環境中の人工物質の濃度はその物質の社会での使用量に直接的に比例して増加しており、量子ドットが広い適用範囲を持つなら、著しい大量生産をもたらすように見える。
  2. これらの物質の半減期は非常に長いかもしれない(数ヶ月から数年)。
  3. 環境曝露はこれらの物質がどこに分配されるか(例えば大気、水、土壌)に依存する。
 様々なタイプの量子ドットにおける物理化学的特性の多様性のために、環境中の分配を解明することは難しそうに見える。これらの物質が環境のある区画に達した場合には環境媒体中での劣化が間違いなく起こるであろうし、量子ドットの物理化学的特性とそれらが分配される環境媒体の両方に依存して減衰速度は様々に変化するであろうということは考慮すべき重要な点である。既に述べられているように、量子ドットのあるタイプは、光分解及び酸化条件下で劣化することが示されている(さらに下記で議論する)。

 量子ドットの曝露経路に関しては現在、情報がほとんどないが、量子ドットがエンドサイトーシス (訳注:細胞膜の陥入によって外界から物質を取り込む作用)のメカニズムを通じて様々なタイプの細胞に組み込まれることが示されているので、述べられている全ての経路には潜在的な懸念がある。量子ドットは細胞内に数週間から数ヶ月留まることが示されており、体内汚染の問題を引き起こすかもしれないので、現在の研究はこれらの物質(例えば金属)の器官及び組織中での生体蓄積のリスクについて示唆している。全ての曝露経路に共通なことは量子ドットの安定性の問題である。実際に、脊椎動物の器官での量子ドットの代謝又は排出経路について何も知られていない。量子ドットは光分解及び酸化条件の下では劣化することが示されているが、カドミウムやセレンのようなコア金属の排出を除けば、生体条件下で劣化物は特定/定義されていない。最後に、曝露経路の検討に当たって、全ての量子ドットは同じではないということを考慮することが重要である。個々の量子ドットは、曝露経路を決定する独自の物理化学的特性を持っている。

量子ドットの細胞毒
 試験管研究は、あるタイプの量子ドットは細胞毒であるかもしれないということを示唆している。ロブリック(Lovric et al. (2005))らは、メルカプトプロピオン酸(MPA)とシステアミンでコーティングされたカドミウム−テルル量子ドット(CdTe QDs)は ラットの クロム親和細胞腫(PC12)培養に対し 10μg/mL の濃度で細胞毒であるあることを発見した。コーティングしていないカドミウム−テルル量子ドットは 1μg/mL で細胞毒であった。細胞死は、アポトーシス (apoptosis 計画細胞死)の兆候である クロマチン凝縮と細胞膜泡として特徴付けられた。等しい濃度で等しい陽荷電の量子ドットでは、より小さい量子ドット(2.2 ± 0.1 nm)の方が大きい量子ドット(5.2 ± 0.1 nm)より細胞毒は顕著である(細胞毒はMTT[3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide] 分析により決定される)。量子ドットのサイズはまた、より小さい陽イオン性量子ドットを核コンパートメントに配置し、より大きな陽イオン性量子ドットを シトソル(訳注:細胞質の液性媒質)に配置して、亜細胞への分配に影響を与えることが観察された。細胞死にかかわるメカニズムは知られていないが、自由カドミウム(量子ドットのコア劣化)の存在、自由ラジカル形成、又は機能喪失に導く量子ドットの細胞内要素との量子ドットの反応が原因であると考えられている。細胞死に関する量子ドットが誘引する活性酸素種は N-アセチルシステイン(NAC:カドミウム毒の抑制剤)、ウシ血清アルブミン(BSA)(訳注:アルブミン:生体細胞・体液中の単純蛋白質)、及び Trolox(水溶性ビタミンE)を用いて評価される。 Trolox 以外の NAC と BSA は、量子ドットが誘引する毒性は部分的にはカドミウムによって誘引されるかも知れないということを示唆しつつ、カドミウム−テルル量子ドットの毒性を著しく減少した。ホシノら(Hoshino et al. 2004a)による同様な研究が、量子ドットのキャッピング材料(mercaptoundecanoic acid(MUA) )だけの12時間の処置(量子ドットなし)がハツカネズミの T-細胞リンパ腫(EL-4)細胞に 100 μg/mL で重大な細胞毒性を引き起こしたことを見出した。 システアミンだけの処置は 100 μg/mL (12 時間)で弱い遺伝子毒性を示した。従って、ホシノらの研究(Hoshino et al. 2004a)では、細胞毒性は量子ドットのコア半金属そのものよりもキャッピング材料によって特性付けられる。しかし、ロブリックら(Lovric et al. 2005)によって観察された毒性は、サイズと電荷及びNAC と BSA の影響ではなく、量子ドットのコーティング(MPAとシステアミン)だけによるということはありそうにない。簡単に言えば、ロブリックらの研究のカドミウム−テルル量子ドット誘引の細胞毒性は部分的には量子ドットのサイズに依存し、量子ドットのコーティング、表面コーティングの細胞間反応、又は量子ドットの半金属イオンへの細胞間劣化に帰するかもしれない。量子ドット誘引の細胞毒性はまた、シノハラら(Shiohara et al. 2004)によって観察された。MUAコーティンングされた CdSe/ZnS 量子ドットは、HeLa 細胞と主にヒトの肝細胞(hepatocytes)に対し100 μg/mL (MTT 分析の濃度で)細胞毒性があることが観察された。

 いくつかの試験管及び生体条件下での研究が量子ドット誘引の細胞毒性の証拠の欠如を示すものとして文献で引用されている(Ballou et al. 2004; Dubertret et al. 2002; Hoshino et al. 2004a; Jaiswal et al. 2003; Larson et al. 2003; Voura et al. 2004)。しかし、これらの研究のいくつかは、量子ドットは細胞成長と生育力に影響を与えることを示唆している。量子ドット膠質粒子(ミセル)、n-polyethyleneglycol phosphatidylethanolamine (PEG-PE) 及びphosphatydilcholineの疎水性コア中の CdSe/ZnS 量子ドットは、ツメガエルの, 卵割球に 5x109QDs/cell(〜0.23 pmol/cell)の濃度で投与した時に、細胞異常をもたらした(生育力、運動性)が、2x109QDs/cell の投与では正常の発現を示し、単一投与された胎芽に対し統計的に同様であったといわれている(Dubertret et al. 2002)。したがって、量子ドットは用量依存である。ホシノら(Hoshino et al. 2004a)もまた、量子ドット誘引細胞毒性は用量依存であることを見出した。0.1, 0.2, 及び 0.4 mg/mL の CdSe/ZnS-SSA 量子ドットとともに培養されたEL-4 細胞(106 cells/well)は用量反応関係を示した(24時間)。細胞の生育力は量子ドット濃度が0.1 mg/mL以上で減少し、 0.4 mg/mL の濃度で培養された細胞のほとんどは6時間を越えると生育不能となった。興味あることには、EL-4 細胞の約10%は10日間の培養の後も量子ドットを保持した。細胞の(量子ドット)蛍光発光度は、量子ドットの細胞内劣化を示唆しつつ、徐々に減少し、染色質核小体に凝縮した。細胞毒性は試験管では0.1 mg/mL で観察されたが、0.1 mg/mL 濃度の SSA-conjugated 量子ドット中で培養され、引き続きヌードマウス (訳注:胸腺を欠き免疫性をもたない実験用マウス)に投与された細胞 EL-4 は生体条件下では有毒性は認められなかった。その後の研究でホシノら(Hoshino et al. 2004b)は、WTK1 細胞中で可逆の DNA 損傷を観察した(comet assay)。DNA損傷は、2μM QD-COOH (カルボン酸)で2時間処理で認められたが、12時間後には量子ドット誘引の DNA 損傷は有効に修復された。

 量子ドット誘引の細胞毒性はいくつかの試験管及び生体条件下の研究で観察されなかった。マウスを使った生体条件下の研究で、バローら(Ballou et al. 2004)は、水油親和性ポリアクリル酸ポリマーでコーティングされた量子ドット(amp-QDs)及び、PEG-amine グループに conjugated された amp-QDs(mPEG-QDs)を20 pmol QD/g動物体重の量子ドット濃度でマウスに投与した。解剖では、組織沈着の部位に細胞壊死の兆候は認められず、投与を受けたマウスは解剖が行われるまでの133日間、生きていた。生体条件下での量子ドットの分解の兆候は電子顕微鏡で検出されなかった(生体条件下での量子ドット安定性は、水油親和性ポリアクリル酸ポリマーによるコーティングのために当然であると思われている)。もうひとつの生体条件下の研究で、ラーソンら(Larson et al. 2003)は、CdSe/ZnS QDs の20 nM と 1 μM 溶液を投与したマウスに、特に有害影響はないことを観察した(有害影響は定義されていない)。バウラら(Voura et al. 2004)は、dihydroxylipoic acid (DHLA) でキャップされた CdSe/ZnS QDs(5 μL/mL)で処理した B16F10 黒色腫細胞は、QD 処理されたものとされなかったものの間に成長における検出可能な相違は認められなかった。同様に、400-600 nM 濃度の DHLA でキャップされた CdSe/ZnS QDs で処理されたHeLa細胞と細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)は、1週間以上、細胞組織形態または生理機能に関し検出可能な影響がなく安定していることが観察された(Jaiswal et al. 2003)。ハナキら(Hanaki et al. 2003)は、MUA キャップ、SSA コーティングの CdSe/ZnS QDs  0.24 mg/mLに Vero 細胞を曝露したが(2時間曝露、細胞洗浄、再培養)、細胞生育力に及ぼす量子ドットの影響を見出さなかった(MTT assay)。 MUA-QD 微粒子なしの Vero 細胞は連続的細胞分裂の間、個体数を支配することが認められたが、著者らは、、MUA キャップの量子ドットがシトソルに分配された時に、それを調査しなかったので、MUAキャップの量子ドットが細胞生育力に影響を与える可能性を排除できなかったと述べた。最後に、チェンとゲリオン(Chen and Gerion 2004)はウィルス性 SV40 核局限シグナルペプチドでconjugatedされた CdSe/ZnS QDs を用いて観察したが、ペプチドコーティングされた量子ドットでトランスフェクション (訳注:分離した核酸の細胞への感染。 完全なウイルスが複製される)HeLa 細胞中に細胞毒性は認められなかった。著者らは、00 pmol/106 cells濃度(〜100 nM QD 濃度)の量子ドットは細胞生存にほとんど影響を与えないこと観察した(colonigenic assayで測定)。

光分解と酸化:量子ドットの安定性
 量子ドット毒性の最も重要な局面は、生体条件下及び合成・貯蔵中の安定性である。いくつかの研究は、光分解又は酸化を原因とする量子ドット細胞毒性を示唆している。光分解又は酸化条件の下で、量子ドットのコア−シェル・コーティングは不安定で、劣化しやすく、従って潜在的に有毒な”キャッピング”材料又は無傷のコア半金属合成物質を曝露する、又はコア化合物の量子ドット・コア金属要素(例えばカドミウム、セレン)へ解体することが見出されている。62.5 μg/mL MAA-CdSe QDsに曝露されたラットの肝細胞はCdSe QDs、量子ドット・コーティングの光分解と酸化が原因で細胞死を示した。MAA-tri-n-octylphosphine oxide (MAA-TOPO)でキャップされたCdSe QDsは、量子ドット処理条件と量子ドット用量に依存することが見出された(Derfus 2004)。もしMAA-TOPOキャップCdSe QDsがMAA コーティングされる前に30分間空気に曝されると、細胞生育力の用量依存が62.5 μg/mLにおいて98%から21%へと著しく減少することが観察された。同様に紫外線(UV)光線(15 mW/cm2)に曝露された、MAA-TOPOキャップCdSe QDsは、より長い曝露時間で毒性を増大しつつ、細胞生育力の用量  キャップ dSe QDs ナノ結晶の分解を引き起こすことができることが結論付けられた。空気と紫外線に曝露された量子ドット溶液の媒体中で相対的に高い濃度自由カドミウムが観察された(空気:126ppm、紫外線:I82ppm)、非酸化量子ドット物質(CdSe)6ppm が溶液中に残留した。量子ドットはまた、自由カドミウムイオン(24 ppm) を放出しつつ、1 mM 過酸化水素に分解することが観察された。デルファス(Derfus 2004)は、量子ドット毒性は環境条件に対して相対的であると結論付けた。CdSe QD 誘引毒性は、0.25 mg/m L 以上の濃度と紫外線曝露1時間の場合にのみ観察された。ひとつ又は二つの ZnS単分子層を量子ドットに加えると、酸化のために実質的に細胞毒性を除去した(同じプロトコールを使用した)。 ZnS キャッピング材質は周囲空気の酸化を著しく減少したが、光酸化条件の下で8時間後に溶液中で高いレベルの自由カドミウムが観察され、光酸化を完全には除去しなかった。BSAコーティング、ZnS-キャップの量子ドットはまた、同じ濃度(0.25 mg/mL)において、非SAコーティング、ZnS-キャップの量子ドットに比べて細胞毒性が減少していることが見出された。アルダナら(Aldana et al. 001)はまた、関連紫外線波長(254 nm)ではないが、チオール・コーティングの CdSe 量子ドットに光化学作用的不安定性を観察した。しかし、CdSeナノ結晶の光化学的安定性はリガンド単分子層の厚さとパッキングに密接に関連しているということが言及された。

 最後に、トランスフェリン-conjugated QDsに曝露した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) 培養は、量子ドットの細胞内酸化が原因で、細胞内セレン濃度の著しい増加をもって、曝露2週間後に蛍光発光の著しい増大を示した。クロエファーら(Kloepfer et al. 2003)は、黄色ブドウ球菌細胞中の自由カドミウムとセレンの内部化を観察したが、測定可能なランスフェリン-conjugated QDsの内部化は観察しなかった。著者らはまた、量子ドットconjugatesの光安定性は調合中の問題であり、量子ドット conjugation pプロシージャは量子ドットの光分解を最小にするために光はほとんどないかない状態で実施されたと言及した。

細胞内部及び生体条件下での劣化
 量子ドットは光分解と酸化に感受性が高いかもしれないということを示す研究があるなら、生体条件下/細胞内酸化安定性に関し疑問が提起されるが、いくつかの研究が細胞内劣化の可能性を示唆している。ホシノら(Hoshino et al. 2004a)は、細胞の約10%が培養10日後量子ドットを保持しつつ、CdSe/ZnS-SSA QDsはEL-4細胞中に1週間以上観察されることに言及したが、細胞の蛍光発光度は徐々に減少しエンドソーム中に高度に凝縮したことが観察された。量子ドット蛍光発光は、低ph、量子ドット表面構造の酸化、又は量子ドット表面に吸着される細胞内部要素によって減少させられる。同様に、生きた動物に量子ドットを投与した時に、時間経過に伴い、量子ドット蛍光発光に相当なロスがあることがガオら(Gao et al. 2004)、及びアッカーマンら(Akerman et al. 2002)によって指摘された。量子ドットの蛍光発光ロスの正確な原因は明確でないが、ガオら(Gao et al. 2004)は、彼らのグループの最近の研究は量子ドット表面のリガンド及びコーティングが生体条件下で徐々に劣化し、表面の欠陥と蛍光発光の消滅をもたらしているということを示唆したと述べた。しかし彼らは、高いモル重量(100 kDa)共重合体と8-炭素側鎖アルキル基でコーティングされた量子ドットは、単純な重合体と水油親和性脂質コーティングのものより生体条件下の安定性が高いことを示したことについて言及した。

量子ドットキャッピング材料の細胞毒性
 生体条件下での劣化に関連して、ホシノら(Hoshino et al. 2004b)は、MUAのような量子ドット表面のコーティングは、エンドソ−ムにおける酸及び酸化条件の下で分離され、細胞質中に放出されるかもしれないということを観察した。表面コーティングの毒性を評価するために、ホシノら(Hoshino et al. 2004b)は、細胞毒に関し、3つの量子ドット・コーティング材料(MUA、システアミン、及びチオグリセロール)と2つの可能性ある不純物(TOPO と ZnS)を分析した。MUA だけによる12時間の WTK1 細胞の処理は100 μg/mL 以上の用量で細胞毒性を示した。DNAダメージは50 μg/mL の濃度で観察された(2 時間処理)。システアミンは細胞が12時間処理された時に弱い遺伝子毒性が観察された。チオグリセロールの毒性は無視できた。ホシノら(Hoshino et al. 2004b)は、 TPOP が細胞毒性及び遺伝子毒性を有することを観察して、毒性を減らすために量子ドットのサンプルから TPOP を取り除くことが重要であると述べた。彼らの発見は量子ドット誘引の遺伝子毒性は量子ドットのコアによって起こされるのではなく、親水性の量子ドット・コーティングによるものであるという証拠を提供した。

量子ドット毒性のまとめ
 ここでレビューした研究は、量子ドットの毒性は量子ドットの固有の物理化学特性と環境条件から導き出される複合要因に依存するということを示唆した。量子ドットのサイズ、電荷、濃度、外面コーティングの生物活性度(キャッピング材料と機能グループ)、及び酸化、光分解、及び機械的安定性は、集合的にそして個別的に量子ドットの毒性を決定することができる個々の要因である。これらの物理化学的特性の中で、機能的コーティングと量子ドット・コア安定性は、現実世界の曝露シナリオで量子ドット毒性のリスクを評価する時に顕著でもっともらしい要因である。
生体条件下での量子ドットの吸収、分布、代謝、排出
Absorption, Distribution, Metabolism, and Excretion of Quantum Dots in Vivo(翻訳予定)

量子ドットと毒性の関連
Correlation of Quantum Dot Concentrations and Toxicity
 文献で報告されている量子ドットの用量/暴露濃度は測定単位が様々であり(例えば、μg/ml、モル濃度、mg/kg体重、細胞当りの量子ドット数)、研究を通じて相関する用量を現在、検証中である。さらに、ある量子ドットは生体条件下及び試験管での試験の両方において、コア・コーティングの劣化の後にのみ細胞毒性が見られた。それにもかかわらず、報告されている用量−反応関係の値はテーブル1で評価することができる。それらの中で、細胞毒性が観察されなかった研究は一般的に短時間の急性曝露を用いるプロトコールを採用しており、そこでは、細胞は量子ドットに15分から8時間接触していた(例えば、Hanaki et al. 2003; Jaiswal et al. 2003; Voura et al. 2004)。例えば、Jaiswal et al. (2003)による研究は、細胞毒性は観察されなかったが、細胞を15分〜2時間、量子ドットに急性曝露させ、その後細胞は洗浄されて観察がなされた。同様な曝露時間(2時間)が Hanaki et al. (2003)によっても採用された。それとは対照的に、量子ドットで細胞毒性が引き起こされるのは一般的に2時間から数日間と長時間の曝露であった。例えば、Hoshino et al. (2004a)、 Shiohara et al. (2004)、及び Lovric et al. (2005) は24時間曝露を採用した。


議論
Discussion
 量子ドット半金属複合物の中で最も広く使用されている2つの金属、カドミウムとセレンは脊椎動物に急性及び慢性毒性を及ぼすことが知られており、ヒトの健康と環境に対し少なからぬ懸念がある(Fan et al. 2002; Hamilton 2004; Henson and Chedrese 2004; Kondoh et al. 2002; Poliandri et al. 2003; Satarug and Moore 2004; Spallholz and Hoffman 2002)。例えば、発がん性らしい(probable carcinogen)物質であるカドミウムは、ヒトの体内で15〜20年の生物学的半減期を持ち、生体蓄積し、血液脳関門と胎盤を通過し、肝臓と腎臓がターゲット器官であるが、体系的に体内中の組織に分布する。セレン汚染による潜在的な環境影響はカリフォルニア州のケスターソン貯水池(Kesterson Reservoir)と、ノースカロライナ州のベリュー湖(Belews Lake)の汚染事例でよく知られているが、そこではセレンの環境的濃度が高まり、その結果地域の生態系に重大な影響を与えた。

訳注:セレン汚染に関する情報
Selenium contamination associated with irrigated agriculture in the western United States
Symptoms and implications of selenium toxicity in fish: theBelews Lake case example (pdf)

 量子ドットの半金属コア成分、量子ドットのそれぞれのタイプのユニークさ、量子ドットのあるタイプの酸化と光分解の起こしやすさ、及び量子ドット物質の曝露経路と環境的移動と運命に関する情報不足のために、量子ドット物質によって及ぼされるヒトの健康と環境への潜在的なリスクは真剣に検討されるべきである。

 潜在的有毒性を伴いながら量子ドット製品が社会に拡大普及することに対し、ヒトの健康と環境の保全を守るためだけではなく、産業界と規制当局がこれらの物質の使用の最大化を図ることを促進するために、これらの物質の潜在的な有害影響を解明する必要がある。量子ドットによって潜在的な社会的便益がもたらされるなら、量子ドット毒性のメカニズムとその源の解明は、以前の技術が誤用によって落ち込んだような落とし穴を回避するのに役立つであろう。現在は欠如しているナノ技術情報は、産業界が量子ドットを最小のリスクで製造することを促進し、量子ドットの環境中での移動や運命、そしてそのメカニズムを解明するために、このプロセスにとって重要である。この知識があってこそ、これらの物質が適用されるであろう社会的及び生物学的システムとの量子ドットの生物適合性を達成することができ、この技術が社会の適切な支持の下に責任を持って開発されることを確実にすることができる。


まとめ
Summary
 ここでレビューした研究はいくつかの重要な点を示唆している。特に、全ての量子ドットは同じではなく、人工量子ドットは物質の一様なグループと考えることはできないということである。量子ドットの ADME 特性と毒性は、固有の物理化学的特性と環境条件の両方に由来する複合要素に依存する。量子ドットのサイズ、電荷、濃度、外面コーティングの対生物活性(キャッピング物質と機能グループ)、及び酸化、光分解、及び機械的安定性のそれぞれが、量子ドットの毒性決定要因として関連する。したがって、サイズ又はその他の物理化学的特性だけに基づく潜在的有毒性に従って量子ドットをグループ分け又はクラス分けすることは最早、問題あることが示されており、それぞれの量子ドットのタイプはその潜在的な有毒性に従って個別に特性化される必要がある。結論として、これらのレビューの結果は、ある条件の下では量子ドットはげっ歯類のモデル及び試験管細胞培養で確認されたように環境及びヒトの健康にリスクを及ぼすかもしれないということを示唆している。


参照
References
Akerman ME, Chan WCW, Laakkonen P, Bhatia SN, Ruoslahti E. 2002. Nanocrystal targeting in vivo. Proc Natl Acad Sci USA 99(20):12617-12621.
Aldana J, Wang YA, Peng X. 2001. Photochemical instability of CdSe nanocrystals coated by hydrophilic thiols. J Am Chem Soc 123:8844-8850.

Alivisatos P. 2004. The use of nanocrystals in biological detection. Nat Biotechnol 22: 47-52.

Ballou B, Lagerholm BC, Ernst LA, Bruchez MP, Waggoner AS. 2004. Noninvasive imaging of quantum dots in mice. Bioconjug Chem 15(1):79-86. Beaurepaire E, Buissette V, Sauviat MP, Giaume D, Lahlil K, Mercuri A, et al. 2004. Functionalized fluorescent oxide nanoparticles: artificial toxins for sodium channel targeting and imaging at the single-molecule level. Nano Lett 4(11):2079-2083.

Bruchez M Jr, Moronne M, Gin P, Weiss S, Alivisatos AP. 1998. Semiconductor nanocrystals as fluorescent biological labels. Science 281(5385):2013-2016.
Chan WCW, Maxwell DJ, Gao X, Bailey RE, Han M, Nie S. 2002. Luminescent quantum dots for multiplexed biological detection and imaging. Curr Opin Biotechnol 13(1): 40-46.

Chen FQ, Gerion D. 2004. Fluorescent CdSe/ZnS nanocrystal-peptide conjugates for long-term, nontoxic imaging and nuclear targeting in living cells. Nano Lett 4: 1827-1832.

Colton HM, Falls JG, Ni H, Kwanyuen P, Creech D, McNeil E, et al. 2004. Visualization and quantitation of peroxisomes using fluorescent nanocrystals: treatment of rats and monkeys with fibrates and detection in the liver. Toxicol Sci 80(1):183-192.

Colvin VL. 2003. The potential environmental impact of engineered nanomaterials. Nat Biotechnol 21:1166-1170.

Dabbousi BO, RodriguezViejo J, Mikulec FV, Heine JR, Mattoussi H, Ober R, et al. 1997. (CdSe)ZnS core-shell quantum dots: synthesis and characterization of a size series of highly luminescent nanocrystallites. J Phys Chem B 101(46):9463-9475.

Dahan M, Levi S, Luccardini C, Rostaing P, Riveau B, Triller A. 2003. Diffusion dynamics of glycine receptors revealed by single-quantum dot tracking. Science 302(5644):442-445.

Derfus A. 2004. Probing the cytotoxicity of semiconductor quantum dots. Nano Lett 4:11-18.

Dubertret B, Skourides P, Norris DJ, Noireaux V, Brivanlou AH, Libchaber A. 2002. In vivo imaging of quantum dots encapsulated in phospholipid micelles. Science 298(5599):1759-1762.

Fan TW, Teh SJ, Hinton DE, Higashi RM. 2002. Selenium biotransformations into proteinaceous forms by foodweb organisms of selenium-laden drainage waters in California. Aquat Toxicol 57(1-2):65-84.

Gao X, Cui Y, Levenson RM, Chung LW, Nie S. 2004. In vivo cancer targeting and imaging with semiconductor quantum dots. Nat Biotechnol 22:969-976.

Hamilton SJ. 2004. Review of selenium toxicity in the aquatic food chain. Sci Total Environ 326(1-3):1-31.

Hanaki, K-I, Momo A, Oku T, Komoto A, Maenosono S, Yamaguchi Y, et al. 2003. Semiconductor quantum dot/albumin complex is a long-life and highly photostable endosome marker. Biochem Biophys Res Commun 302(3): 496-501.

Henson MC, Chedrese PJ. 2004. Endocrine disruption by cadmium, a common environmental toxicant with paradoxical effects on reproduction. Exp Biol Med (Maywood) 229(5):383-392.

Hines MA, Guyot-Sionnest P. 1996. Synthesis and characterization of strongly luminescing ZnS-capped CdSe nanocrystals. J Phys Chem 100:468-471.

Hood E. 2004. Nanotechnology: looking as we leap. Environ Health Perspect 112:A740-A749.

Hoshino A, Fujioka K, Oku T, Suga M, Sasaki Y, Ohta T, et al. 2004b. Physicochemical properties and cellular toxicity of nanocrystal quantum dots depend on their surface modification. Nano Lett 4(11):2163-2169.

Hoshino A, Hanaki K, Suzuki K, Yamamoto K. 2004a. Applications of T-lymphoma labeled with fluorescent quantum dots to cell tracing markers in mouse body. Biochem Biophys Res Commun 314:46-53.

Jaiswal JK, Mattoussi H, Mauro JM, Simon SM. 2003. Long-term multiple color imaging of live cells using quantum dot bioconjugates. Nat Biotechnol 21:47-51.

Kim S, Fisher B, Eisler HJ, Bawendi M. 2003. Type-II quantum dots: CdTe/CdSe(core/shell) and CdSe/ZnTe(core/shell) heterostructures. J Am Chem Soc 125: 11466-11467.
Kloepfer JA, Mielke RE, Wong MS, Nealson KH, Stucky G, Nadeau JL. 2003. Quantum dots as strain- and metabolism-specific microbiological labels. Appl Environ Microbiol 69(7):4205-4213.

Kondoh M, Araragi S, Sato K, Higashimoto M, Takiguchi M, Sato M. 2002. Cadmium induces apoptosis partly via caspase-9 activation in HL-60 cells. Toxicology 170(1-2):111-117.

Larson DR, Zipfel WR, Williams RM, Clark SW, Bruchez MP, Wise FW, et al. 2003. Water-soluble quantum dots for multiphoton fluorescence imaging in vivo. Science 300(5624): 1434-1436.

Lidke DS, Nagy P, Heintzmann R, Arndt-Jovin DJ, Post JN, Grecco HE, et al. 2004. Quantum dot ligands provide new insights into erbB/HER receptor-mediated signal transduction. Nat Biotechnol 22(2):198-203.

Lovric J, Bazzi HS, Cuie Y, Fortin, GRA, Winnik FM, Maysinger D. 2005. Differences in subcellular distribution and toxicity of green and red emitting CdTe quantum dots. J Mol Med 83(5):377-385. Epub 2005 Feb 2.

Michalet X, Pinaud FF, Bentolila LA, Tsay JM, Doose S, Li JJ, et al. 2005. Quantum dots for live cells, in vivo imaging, and diagnostics. Science 307(5709):538-544.
National Science Foundation. 2004.Nanoscale Science and Engineering (NSE). Program Solicitation. Document no. nsf03043. Arlington, VA:National Science Foundation.
National Toxicology Program. 2005. Toxicological Evaluation of Nanoscale Materials: Fact Sheet. Research Triangle Park, NC:National Toxicology Program. Available: http://ntp.niehs.nih.gov/ntp/htdocs/liason/factsheets/nanoscaleFacts.pdf [accessed 20 January 2005]

Nordan M, Allard K, Tinker N, Modzelewski M, Kemsley J, Mills S, et al. (2004). The Nanotech Report 2004: Investment Overview and Market Research for Nanotechnology. 3rd ed. New York:Lux Research Inc.

Oberdorster G, Oberdorster E, Oberdorster J. 2005. Nanotoxicology: an emerging discipline evolving from studies of ultrafine particles. Environ Health Perspect 113:823-839.

Parak WJ, Boudreau R, Le Gros M, Gerion D, Zanchet D, Micheel CM, et al. 2002. Cell motility and metastatic potential studies based on quantum dot imaging of phagokinetic tracks. Adv Mat 14(12):882-885.

Poliandri AH, Cabilla JP, Velardez MO, Bodo CC, Duvilanski BH. 2003. Cadmium induces apoptosis in anterior pituitary cells that can be reversed by treatment with antioxidants. Toxicol Appl Pharmacol 190(1):17-24.

Roco MC. 2003. Nanotechnology: convergence with modern biology and medicine. Curr Opin Biotechnol 14: 337-346.

Rudge SR, Kurtz TL, Vessely CR, Catterall LG, Williamson DL. 2000. Preparation, characterization, and performance of magnetic iron-carbon composite microparticles for chemotherapy. Biomaterials 21(14):1411-1420.

Satarug S, Moore MR. 2004. Adverse health effects of chronic exposure to low-level cadmium in foodstuffs and cigarette smoke. Environ Health Perspect 112(10): 1099-1103.

Scherer F, Anton M, Schillinger U, Henke J, Bergemann C, Kruger A, et al. 2001. Magnetofection: enhancing and targeting gene delivery by magnetic force in vitro and in vivo. Gene Ther 9(2):102-109.

Service RF. 2004. Nanotechnology grows up. Science 304:1732-1734.
Shiohara A, Hoshino A, Hanaki K, Suzuki K, Yamamoto K. 2004. On the cytotoxicity of quantum dots. Microbiol Immunol 48(9):669-675.

Spallholz JE, Hoffman DJ. Selenium toxicity: cause and effects in aquatic birds. Aquat Toxicol 57: 27-37(2002).

U.S. Environmental Protection Agency. 2003. Research Planning Workshop Report: Vision for Nanotechnology R&D in the Next Decade. Arlington, VA: National Science and Technology Council Committee on Technology Subcommittee on Nanoscale Science, Engineering and Technology. Available: http://es.epa.gov/ncer/nano/publications/index.html [accessed 12 May 2005].

Voura EB, Jaiswal JK, Mattoussi H, Simon SM. 2004. Tracking metastatic tumor cell extravasation with quantum dot nanocrystals and fluorescence emission-scanning microscopy. Nat Med 10:993-998.

Wu Y, Li X, Steel D, Gammon D, Sham LJ. 2004. Coherent optical control of semiconductor quantum dots for quantum information processing. Physica E Low Dimen Sys Nanostruct 25(2-3):242-248.

Wu X, Liu H, Liu J, Haley KN, Treadway JA, Larson JP, et al. 2003. Immunofluorescent labeling of cancer marker Her2 and other cellular targets with semiconductor quantum dots. Nat Biotechnol 21(1):41-46.

Yu S, Chow G. 2005. Carboxyl group (-CO2H) functionalized ferrimagnetic iron oxide nanoparticles for potential bio-applications. J Mat Chem 14:2781-2786.


Last Updated: January 9, 2005



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る