EHP 2010年1月号
小さな心配ではない
実験室の大気浮遊ナノ物質が
懸念を引き起こす


情報源:ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES 118(1) Jan 2010
No Small Worry: Airborne Nanomaterials in the Lab Raise Concerns
Cynthia Washam
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.118-a34b

オリジナル:
Potential for Occupational Exposure to Engineered Carbon-Based Nanomaterials in Environmental Laboratory Studies
David R. Johnson1, Mark M. Methner2, Alan J. Kennedy1, Jeffery A. Steevens1
1 U.S. Army Engineer Research and Development Center, Environmental Laboratory, Vicksburg, Mississippi, USA, 2 National Institute for Occupational Safety and Health, Nanotechnology Research Center, Cincinnati, Ohio, USA
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.0901076

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年1月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_10_Jan_No_Small_Worry.html



 工業用ナノ物質は、医薬品産業、電子産業、その他の産業がこれらの物質の独自の物理的及び化学的特性に注目したために、過去数十年間で劇的に成長した。ナノ物質は、その用途が急激に拡大しているこのときに動物と植物の生命に及ぼす影響はほとんど分かっていないので、環境に関わる人々の間では懸念が増大している。さらに、ナノ物質の環境影響を研究している科学者らは無意識に彼ら自身の健康をリスクに曝しているかもしれない。

 職場の安全に関する研究を実施している米・国立労働安全衛生研究所は、ナノ物質の勧告すべき暴露制限値のガイドラインを持っていないし、米・労働安全衛生局は工業用ナノ物質に特定した許容暴露制限値を持っていない。しかし、最近の動物毒性研究は、ナノ物質は特定の有害健康影響を引き起こすかもしれないことを示唆している。例えば、カーボン・ナノチューブは動物モデルに炎症と酸化ストレスを引き起こすことを示している。

 実験用環境における潜在的な暴露の程度を評価するために、研究者らのチームは、実験用人工河川水のような標準的環境基盤で日常的にナノ物質を取り扱い処理する作業中に、大気中に放出される炭素質ナノ物質(CNMs)の量を測定した。著者らは、リアルタイム・ナノ粒子カウンターと透過電子顕微鏡を用いてナノ物質の放出を評価した。

 研究チームは、炭素質ナノ物質(CNMs)は実験室で取り扱われ計量される時に大気に浮遊することを見つけた。1μm以下の空気力学的粒子径をもつ小さな構造はより大きな粒子に比べて早く四散した。

 驚くべき発見は、ナノ物質の凝集体(アグロメレート)を分解して水中で分散するためによく用いられる超音波処理の最中に、かなりの量の炭素質ナノ物質(CNMs)を放出したことである。超音波処理は、炭素質ナノ物質(CNMs)を含むミストを生成し、作業者がミストを吸入し、又は水が蒸発した後に実験室内の表面に付着することがある。超音波処理中に放出する程度は、環境中の条件をシミュレートするためにしばしば行われているように、天然有機物質の溶液中に加えられると増大する。疎水性の炭素質ナノ物質(CNMs)は、超音波処理を行っている時より、マテリアル・ハンドリング中に大気浮遊粒子数濃度が高くなることを示しており、また親水性の炭素質ナノ物質(CNMs)は逆の傾向を示した。

 これらの発見は、ナノ物質を液中に懸濁させて作業すれば暴露リスクは最小化されるという信仰と矛盾する。著者らは、このフィールド・ケース・スタディは超音波処理中の炭素質ナノ物質(CNMs)の放出と、実験用環境中におけるナノ物質の放出の詳細を初めて示したしたものであると信じている。彼らは、実験室作業者の炭素質ナノ物質(CNMs)暴露を評価するために確固とした統計に基づく実験研究が必要であると警告している。それまでは、ナノ物質を扱う研究者らは実験室で適切な個人防護具を使用し、暴露を最小化するために適切な工学的管理を採用するよう強く勧告している。


編集者のまとめ
Editor's Summary
 多くの実験室では、環境的に関連性のあるシステム中で工業用の炭素質ナノ物質(CNMs)に関する研究を実施しているが、本研究中で実施された作業による実験室暴露はかつて組織的に評価されたことはない。
 ジョンソンらはナノ物質が計量、拡散、天然有機物質(NOM:環境的に関連する基盤をシミュレートするために使用される天然の海面活性剤)が含まれる又は含まれない水中で超音波処理される時に、大気中への放出されるフラーレン(C60)、誘導体化されていない多層カーボン・ナノチューブ(raw MWCNT)、水酸化MWCNT(MWCNT-OH)、及びカーボンブラック(CB)を測定した。
 ナノメーターの範囲内(10-1,000 nm)及び6つの特定サイズ範囲内(300-10,000)の大気浮遊粒子数濃度を二つの携帯粒子計数器を使用して測定した。また、エアーサンプル・フィルターで捕集した粒子のサイズと形状を調査するために透過式電子顕微鏡を使用した。
 著者らは、浮遊粒子数濃度はカーボンブラック(CB)以外のナノ物質を計量するときに増大し、また超音波処理中、特にカーボンブラック(CB)と水酸化MWCNT(MWCNT-OH)を天然有機物質(NOM)を含む水中で超音波処理するときに増大した。炭素質ナノ物質(CNMs)の放出を完全に特性化するためにはさらなる研究が必要であるが、著者らは、懸液濁から放出されるかもしれない炭素質ナノ物質(CNMs)への暴露を含めて、暴露を最小化するために適切な防護具の使用と工学的管理を勧告している。



化学物質問題市民研究会
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