EHP Reserch Article Online 2010年9月23日
ニッケルナノ粒子への長期吸入曝露は
敏感なマウス・モデルのアテローム性粥状動脈硬化(訳注1)を悪化させる


情報源:EHP Reserch Article Online: 23 September 2010
Long-Term Inhalation Exposure to Nickel Nanoparticles Exacerbated Atherosclerosis in a Susceptible Mouse Model
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/info:doi/10.1289/ehp.1002508#abstract0

Gi Soo Kang1, Patricia Anne Gillespie1, Albert Gunnison1, Andre Luis Moreira2, Kam-Meng Tchou-Wong1, Lung-Chi Chen1

1 Department of Environmental Medicine, New York University School of Medicine, Tuxedo, New York, USA, 2 Department of Pathology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, New York, USA

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年2月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_100923_Exposure_Nickel_Nanoparticles.html



背景:周囲大気中の超微粒子の吸入と心臓血管系のリスク増大との関連が報告されているので、工業ナノ粒子(NPs)の吸入もまた、心臓血管系に有害影響を及ぼすかもしれないということが示唆されていた。

目的:我々は、敏感なマウス・モデルを使用して、水酸化ニッケル・ナノ粒子(ナノ-NH)の吸入による長期の心臓血管系影響を検証した。

方法:高脂血症アポリポタンパクE欠損マウス(ApoE?/? )を、5時間/日、5日/週、全身吸入システムを通じて0 又は 79μg Ni/m3の水酸化ニッケル・ナノ粒子に1週間又は5ヶ月間曝露させた。我々は肺と心臓血管系組織中の酸化ストレスと炎症の様々な指標を測定し、上行大動脈(訳注2)のプラーク形成を確定した。

結果:吸入した水酸化ニッケル・ナノ粒子は、肺と肺外の臓器に顕著な酸化ストレスと炎症を引き起こし、ある抗酸化酵素及び炎症性サイトカイン遺伝子のmRNA(訳注3)レベルの発現量増加 により、大動脈中のミトコンドリアDNA損傷の増加、気管支肺胞洗浄液中の炎症の顕著な兆候、肺組織中の病理学的変化、及び急性相反応の誘発を示した。さらに、5ヶ月曝露の後、水酸化ニッケル・ナノ粒子は ApoE?/?マウスのアテローム性動脈硬化を増悪させた。

結論:これは吸入ナノ物質の長期心臓血管系毒性を報告する最初の研究である。我々の結果は、吸入水酸化ニッケル・ナノ粒子への長期曝露が酸化ストレスと炎症を肺だけでなく心臓血管系にも誘引することができ、このストレスと炎症は最終的には ApoE?/?マウスのアテローム性動脈硬化を悪化させることに貢献することを明確に示した。



訳注1:動脈硬化症
ウィキペディア:動脈硬化症
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87
動脈が肥厚し硬化した状態を動脈硬化といい、これによって引き起こされる様々な病態を動脈硬化症という。動脈硬化の種類にはアテローム性粥状動脈硬化、細動脈硬化、中膜硬化などのタイプがあるが、注記のない場合はアテローム性動脈硬化を指すことが多い。

訳注2:上行大動脈
ウィキペディア 上行大動脈
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E8%A1%8C%E5%A4%A7%E5%8B%95%E8%84%88
上行大動脈(じょうこうだいどうみゃく, ascending aorta)は、ヒトでは左心室にある大動脈口より起始し、上行したのちに胸骨角または第2肋軟骨の高さで大動脈弓に移行する。長さは約5cmであり、体循環における最初の血管である。

訳注3:mRNA
ウィキペディア 伝令RNA
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%9D%E4%BB%A4RNA
伝令RNA(でんれいRNA、メッセンジャーRNA)は、蛋白質に翻訳され得る塩基配列情報と構造を持ったRNAのことであり、通常mRNAと表記される。mはmessenger(メッセンジャー)の略である。DNAに比べてその長さは短い。DNAからコピーした遺伝情報を担っており、その遺伝情報は、特定のアミノ酸に対応するコドンと呼ばれる3塩基配列という形になっている。

訳注4:ミトコンドリアDNA
ウィキペディア ミトコンドリアDNA
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%82%A2DNA
ミトコンドリアDNAとは、細胞小器官であるミトコンドリア内にあるDNAのこと。ミトコンドリアが細胞内共生由来であるとする立場から、ミトコンドリアゲノムと呼ぶ場合もある。略称としてmtDNAと表記されることもある。


化学物質問題市民研究会
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