EHP 2006年9月号 サイエンス・セレクション
小さな増悪因子:ナノサイズ粒子はマウスにおける
細菌性エンドトキシンの肺への影響を悪化させる


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 9, September 2006
Science Selections
Tiny Intensifiers: Nanoparticles Worsen Lung Effects of Bacterial Endotoxin
http://www.ehponline.org/docs/2006/114-9/ss.html#tiny

Original: Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 9, September 2006
Effects of Airway Exposure to Nanoparticles on Lung Inflammation
Induced by Bacterial Endotoxin in Mice
http://www.ehponline.org/docs/2006/8903/abstract.html

Ken-ichiro Inoue,1 Hirohisa Takano,1,2 Rie Yanagisawa,1 Seishiro Hirano,1 Miho Sakurai,1
Akinori Shimada,3 and Toshikazu Yoshikawa2
1Environmental Health Sciences Division, National Institute for Environmental Studies, Tsukuba, Japan;
2Inflammation and Immunology, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto, Japan;
3Department of Veterinary Pathology, Faculty of Agriculture, Tottori University, Tottori, Japan

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年9月3日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_0609_nano_lung_effects_endotoxin.html


 空気中の微粒子、特に超微粒子への暴露は、肺疾患及び循環器疾患の罹患率及び死亡率の増大と関連している。粒子のサイズが小さくなるとその影響は著しく増大する。しかし、ナノ粒子−径が100ナノメートル以下−のサイズに関連する肺の炎症状態に及ぼす影響は完全には調査されていなかった。今月号のEHPに掲載された日本の研究者のチームによる論文は、ナノ粒子は、細菌性のエンドトキシン(lipopolysaccharide (LPS) )(訳注:細菌の作る毒素、生体内に侵入するとさまざまな炎症反応を起こす)に関連する肺炎を増悪することができることを報告している。 [EHP 114: 1325?1330; Inoue et al.]

 空気力学的中央径(median aerodynamic diameter)が10μm(10,000ナノメートル)以下の粒子の吸入は、ぜん息、気管支炎、下気道感染症の増加と関連するが、一方、一般的なディーゼル排気ガスからの炭素成分を核とする汚染物質を含んで粒子径が2.5μm(2,500ナノメートル)以下の粒子への暴露は、循環器系及び呼吸器系への影響による死亡と高い相関を示すことが疫学的に示されている。
 0.1μm(100ナノメートル)以下の粒子は呼吸器系から移動しておそらく循環器系にまで到達すると考えられている。このもっとも小さい粒子は他の汚染物質より単に小さいというだけではない。それらは重量あたりの表面積がより大きい。−固体ガラスの立方体と同重量の細かいガラスのビーズを比較してその違いを想像せよ−。
 ナノ粒子の小さいサイズと高い表面積は、ナノ粒子の細胞に対する影響に寄与するかもしれない。

 今回の研究で、研究者らは、ナノ粒子への暴露がどのようにマウスの気道の抗原(訳注:生体内に入って抗体を作る細胞毒素など)関連の炎症を引き起こすかを推定するために、印刷産業で使用されている元素形態の炭素である超微粒子カーボン・ブラックを使用した。径が14nmと56nmのカーボン・ブラックを使用して、気道中のナノ粒子の存在の下にエンドトキシンの影響がどのように変化するかを観察した。

 ナノ粒子自身による影響はわずかであったが、エンドトキシン単独への暴露は、気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage)(気道炎症の措置)により得られた細胞数の12倍増加した。しかし、エンドトキシン及び14nm粒子への同時暴露は20倍の増加を引き起こした。エンドトキシン及び56nm粒子への同時暴露においてはエンドトキシンへの影響は小さく、統計的に有意ではない増幅効果であった。

 影響を受けたのは単に細胞浸潤だけではなかった。それ自身ではわずかな影響しか及ぼさない14nm粒子とエンドトキシンの混合物への肺の暴露は、肺の実際の呼吸表面である柔組織(parenchyma)における好中球(neutrophils)(訳注:白血球の一種である顆粒球の1つ。細菌などの体内の有害物を除去する役割がある。しかし、感染などの防御反応として生体に有利に働くだけでなく、場合によっては組織障害性に働くこともある。好中球)の補充をもたらすことを組織学が示した。
 エンドトキシンによってもたらされる酸化ストレス及びケモカイン(訳注:炎症部で大量に産生され,血管内から炎症組織内への白血球の遊走をもたらす)とサイトカイン(訳注:細胞から放出され、種々の細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子の総称)の発現もまたこれらの小さな粒子の存在下で上昇し、血液凝固要素もまた見られた。より大きい56nm粒子は、ある分析ではエンドトキシンの効果を高めたが全てではなかった。

 総合すると、これらの観察は、炭素成分を核とする超微粒子はおそらく自動車の排気ガス中に存在するものを含んで、一般的に遭遇する細菌性エンドトキシンによる肺障害をさらに増悪することができることを示唆している。

ビクトリア・マックゴバン(Victoria McGovern)


訳注(参考資料)


化学物質問題市民研究会
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