エンバイロンメンタル・ディフェンス
リチャード・デニソン 2011年1月28日
ナノ物質を規制するのは、
生かすためであり、殺すためではない


情報源:Environmental Defense, January 28, 2011
Regulating nanomaterials to life, not death
by Richard Denison

http://blogs.edf.org/nanotechnology/2011/01/28/regulating-nanomaterials-to-life-not-death/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年2月18日
このページへのリク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/e_defence/e_110128_life_not_death.html


 新年になり、立法のシーズンになったので、我々は、儀式的ではあっても新たな規制か何かが導入されるかもしれない政治変化の季節に直面する。私はこの投稿で、少しは規制がなされてもよいはずだし、そのように出来るはずであり、ナノの世界はよくなるはずであると主張する。

再来?

 ナノ物質の安全性に関する議論が始まった頃に戻ろう。それは私が初めてナノの問題に関わった2004年頃である。その頃は、ナノテクノロジーは生き残り、繁栄することを確実にすることが最優先であるとする広い合意があったように思う。その目的は、当初からそして公に潜在的なリスクを特定し、それに目を向けることによって、”最初からナノテクノロジーを正しく作りこむ(Getting NanotechnologyRight the First Time)”ことであった。そのことは、我々が適切に資金を投入してリスク研究を実施させることを意味した。我々はまた、理想的には顕在化する前に、潜在的なリスクに目を向ける適切な規制当局が存在することを確実にする必要があった。

 最も基本的なことは、規制機関がナノの現状を理解するために必要とする基本的な情報を手元に持っていることである。どのようなナノ物質がすでに製造されており、どのようなものが計画中なのか? どのような応用分野と製品中で使用されているのか? そして、ナノ物質のライフサイクルの中で、潜在的な放出と曝露が最もありそうなのはどこか?

 この最も基本的な必要性に関して、2011年は我々が2004年に達成しつつあったことに本質的になんら近づいていない−と私は残念ながら言わざるを得ない。

 このブログへの最近の投稿で、私はこのような取り組みを回避しようとする誤った試みが始まっているということをすでに述べた。
  • 連邦諮問委員会は2005年に、たとえ暫定的で自主的なプログラムを求めようとするものであっても、報告規則の開発に着手するようEPAに助言したが、2年かけて立ち上げた牙を抜かれた自主的プログラムは、ほとんどの情報が提出者によって機密であると宣言され、したがって公表することを拒絶されたために、ほとんど成果を生み出さなかった。

  • 産業側によって後押しされた2007年の不幸な政策は、既存の化学物質でナノ形状のものは TSCA の下では新規化学物質ではなく既存化学物質であるとされたことであり、そのことはナノ物質が商品化される前にレビューを行なうというきちんとした方法をEPAから奪うこととなった。

  • そして、最後に、2007年の悪法を部分的に修正するために、いくつかの情報生成規制、すなわち基本報告規則重要新規用途規則(SNUR)、そして、重大なデータギャップに目を向けるためにあるナノ物質のためのテスト規則を提案することによって、局面を前進させようとするEPAの最近の努力−これらはナノ産業界に強圧的な規制であると宣言させただけであった。
 EPAが提案しようとしているこれらの控え目な措置はどれも、たったひとつのナノ物質の製造又は使用をも規制しないであろうが、そのことを何度も繰り返して言うことに価値がある。それらすべては単に情報メカニズムである。

産業側は、新たな議会に対して、これらすら、さらに遅らせようと働きかけている

 必要とする情報をEPAに提供するという産業側のかつての約束からの後退を示すもっと多くの証拠が数週間前に浮上した。それはナノ・ビジネス連合(NbA)が、産業グループが雇用創出を阻害すると信じるどのような規制でも全て示すようにとの議会監視委員会議長ダーレル・イッサの要請に応じて、ナノ・ビジネス連合(NbA)が阻止したいと望む規制の”望ましいリスト(ish list)”を提出したことである。

ナノ・ビジネス連合(NbA)のリスト

 私が今、リストした、まだ提案されていないこれらのTSCA規制は、ナノ・ビジネス連合(NbA)及びその他の利害関係者が通常、オープンなコメント通知のルール・メーキング・プロセスを経て、審査を受けるべきものである。しかし、ナノ・ビジネス連合(NbA)は1月7日、イッサ議長に直接次のような手紙を書くという早まった行動で完全に有利な機会を得た。

”しかし、恐らくもっと大きな懸念は、直接的な規制遵守コトスを通じて、さらにはもっと危険であるが、ナノテクノロジー物質の根拠のない、また一貫性のない特性化を通じて、不必要な公衆への警告を提起するすることによって、ナノテクノロジー産業に有害影響を与えるかもしれない米環境保護庁(EPA)におけるいくつかの展開であろう。特に我々は、EPAが有害物質規制法(TSCA)のもとに、ナノスケール物質の特性化に直ちに重要な影響を及ぼすことが出来るいくつかの提案に関して作業を進めていると理解している。これらは、ナノスケール物質の製造者、及び/又は彼らが製造するナノスケール製品に対して規制的要求を課すという提案である”。

 この種の反応から、あなたはEPAがナノ物質を規制して殺すことを試みようとしていると考えるであろう。

 これらの規則提案が最終的には公開されてパブリックコメントにかけられであろうが、ナノ・ビジネス連合(NbA)のこの最近の前線の開拓がさらにパブリックコメンを遅らせないことを希望するだけである。それらは現在、OMBの手元にあり、90日間のレビュー期間内にある。

 しかし、最近の問題のひとつは、ホワイトハウスの国家経済協議会(NEC)によって最近設立された新たな機関内組織であり、これは提案されたどのような、そして全てのナノ規制活動を監督する任務が与えられている。この新たなグループの第一歩は、諸機関がナノテクノロジーに影響を与える規制に正当性があるかどうか決定するために使用する諸原則一式に合意することであるらしく、もし合意するなら、それらはどのようにして策定され実施されるのかということである。これらの原則を発行する期限は示されておらず、未決定の規制がその間、未定のままにされるのかどうかも示されていない。

 ひとつのことはほとんど確かである。すなわち、EPAがナノ物質によって及ぼされる潜在的なリスクを特定し対応する最善の方法を決定するのに必要とする情報を得るのに、もっと時間がかかるということが予想されるということである。

なぜこの情報がそのように重要なのか? NNIに問う

 この問題に目を向けるために、私は、連邦政府のナノテクノロジーと開発を推進するために2001年に設立された政府間プログラムであり、最も権威のある国家ナノテクンロジー・イニシアティブ(NNI)の動向を振り返る。NNI は最近、環境健康安全研究戦略を発表した。この100頁以上の文書は、ほとんどEPA規則が提供するであろうような種類の情報を持っており、重要なデータギャップとして欠落しているような情報を特定している。

 以下に代表的な抜粋をページ番号付きで紹介する。

  • 主要なデータギャップ/必要性:
    • ”ナノ物質製造、加工、及び消費者製品中での直接使用についての情報を体系的に収集し分析すること” (p. 21) 。
    • ”重要な研究ギャップは、放出源に関するデータ(種類、量、場所、など)、ナノベース( nano-enabled )製品(プロセス、ナノ物質のタイプなど)を含む”(p. 24)。

  • ”民間分野が、政策策定者とパブリック・メンバーにナノ物質への可能性ある曝露に関して理解し意思決定することを可能とする適切な情報を提供するという期待があるべきである”(p. 25)。

  • ”製造と使用情報の目録データベースが開発されるべき・・・。そのようなデータベースは、企業秘密情報の必要性に目を向けつつ、現在、どのような目的のために、どのような種類のナノ物質が、どのくらい製造されているのかという情報を公衆に提供することを可能とするために産業と政府による責任と公約の共有を暗示する”(p. 43)。

  • 重要なギャップ:”主要な曝露源と曝露経路の特定を通じて環境曝露を理解すること;製造プロセスと製品の結合;技術のライフサイクルと製品製造後曝露”(p. 44) 。

  • ”ナノ使用が急速に増大しているので、リスク評価のコミュニティが、ナノ物質の製造、使用、及び廃棄を取り巻く問題の複雑性、人間集団への環境的及び職業的曝露の可能性、及び有害健康影響を理解することが非常に重要である。そのようなデータの欠如は、ナノ物質の潜在的なリスクを知的に評価し管理するための我々の能力を著しく妨げる”(pp. 57, 59)。

  • ”情報を収集し評価するための体系的なアプローチが、職場におけるナノ物質の潜在的な影響に関するもっと現実的な見解を開発するために必要である”(p. 61) 。
 そして、この報告書はナノテクノロジー推進を任務とする連邦政府組織によるものであることを銘記すべきである。

 私は、私の前回の投稿の中で私が述べたことを要約してこの投稿を終える。

ナノテクノロジーの将来にとって真に危険なことは、ナノ物質が市場に流れ込んでいる時に、これらの新たな物質の安全の保証を公衆と市場に提供するためには、あまりにも時代遅れで、資源不足で、法的にがんじがらめで、産業を挫折させるような政府の監視制度が続くことである。

 少しでも規制があれば、利益をもたらし、引き起こされるかもしれない危害を避けるやり方で、これらの新たに出現している物質を製造し使用するための我々能力に自信を取り戻させる方向にある程度進むことが出来る。

 ナノ物質を生かす規制であると私が言うのはそのようなことである。
 私はOMBに良い人たちがいることを望むだけである。



化学物質問題市民研究会
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