エンバイロンメンタル・ディフェンス
リチャード・デニソン 2010年9月23日
ナノのライフサイクルを通じて環境中へ放出
事前の注意が必要


情報源:Environmental Defense, Septembery 23, 2010
Sludging through the nano lifecycle: Caution ahead
by Richard Denison
リチャード・デニソン(上席科学者)
http://blogs.edf.org/nanotechnology/2010/09/23/
sludging-through-the-nano-lifecycle-caution-ahead/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年9月30日
このページへのリク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/e_defence/e_100923_sludging_nano_lifecycle.html


 バージニア工科大学の研究者らは、自治体排水処理設備から生じる下水堆積物中に銀ナノ粒子(AgNPs)を検出し、それらを特性化した。この研究はいくつかの点で注目に値する。それは、AgNPsが現場規模の研究で初めて検出されたことであり、現実世界の曝露シナリオを代表する現実世界の作用であるということである。それは、銀がナノ粒子として排水処理生成物中に存在することができることを示している。それは、そのような粒子が通常の処理技術の下での沈殿物中に存在するらしいことを示している。そして、銀は排水処理の過程で化学的に変換されるかもしれないことを示している。

 著者らはそのようなことは”ありそうである”としているが、いくつかのニュース記事訳注1)が示唆しているように、汚泥中で検出されたAgNPsがナノ粒子を含む製品から生成されたということを、この研究は示してはいない。それにもかかわらず、この発見はナノの安全性にとって重要な示唆を含んでいる。

 バージニア工科大学のマイケル・ホチェラらによるこの研究は、Environmental Science & Technology(環境科学技術)(ウェブ2010年9月14日)で発表された。著者らの研究はナノ銀が大量の消費者製品中ですでに広く使われているという事実が動機であったが、新規ナノテクノロジーに関するプロジェクト(Project on Emerging Nanotechnologies)の製品データベースによれば、それらの製品には、食品保存容器、コーティング材、布地柔軟仕上げ剤及び洗剤、布地及び衣料品、スポーツ用品、補助食品、身体手入れ用品、化粧品、医療器具などがある。

 AgNPs が少なくともこれらの製品のあるものから(例えばナノ銀を染込ませたソックスの洗濯の事例で示されたように)自治体排水系に放出されることはほとんど確実なので、著者らは中西部の大都市地域のある自治体が運営する排水処理施設(POTW))からの下水汚泥の中の AgNPs を探した。彼らがその施設を選んだのは、汚泥中の銀の濃度が高く(856mg/kg)、またこの施設で処理される排水に排出されるかもしれない銀放出源となるような既知の産業施設がないからである。

ナノ銀検出

 著者らは、電子顕微鏡を使って汚泥中の AgNPs を検出したが、それらは径が5〜20ナノメートル(nm)の楕円形粒子であり、”非常に小さな、緩い集合体の塊”であることが明らかになった。彼らは、この粒子が硫化銀(Ag2S)ナノ結晶から成っていることを特定し、この粒子は実験室での研究で示されているように、嫌気性の排水処理工程でAgNPs又は銀イオンのどちらからかを起点として形成されたことは間違いないと推測した。

 硫化銀(Ag2S)は、非常に水に溶けにくく、そのことが少なくともそのようなナノ粒子が排水処理の過程で汚泥中に集まることの一部を説明している。もちろん、排水からのこのような除去で全てが終わりというわけでは決してない。その後この汚泥が他で利用されるからである。典型的には、アメリカでは約半分の汚泥が埋立、焼却され、また肥料又は土壌改良材として利用される。

 言い換えれば、製品から放出されたナノ銀は全て、最終的には環境中に再び入り込むということである。我々は、このブログで以前に、より多くの銀(ナノ又はその他)を環境中に加えることにより、植物の成長と土壌中の微生物の活動を抑制する可能性や銀耐性バクテリアの生成の可能性などを含む潜在的な影響のいくつかのついて議論した。

ナノ粒子放出源としての塗装表面

 この研究は、ナノ銀の製品から排水中/汚泥中、そして環境中への移動を直接的には示していないが、確かに関連性がある。塗料中の顔料として使用されるナノ二酸化チタン(TiO2)の研究がもっと関連性を示している。その研究は、新たな及び風雨に曝された両方の塗装表面からナノ二酸化チタン(TiO2)が排水から地表水に移動するナノ粒子を追跡した。予想された塗料の使用量とタイプに基づき、研究者らはそのようなナノ粒子の移動は、地表水中で水生生物への毒性が観察されるレベルに近い又はそれを超える量に達することを示唆した。

 これら全てのことは、我々がナノの応用を検討する又はそれを実施しようとする時、特に自然界に分散する、又は材料やその表面からナノ粒子の放出をもたらし、このナノ物質のライフサイクルのどの段階においても自然界の水、大気、土壌などの要素や生物相を曝露するかもしれないおそれがある時、我々は相当な注意を払って着手する必要があるという主張に重みを与えるものである。


訳注1
C&EN 2010年9月21日 排出銀ナノ粒子の運命



化学物質問題市民研究会
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