C&EN 2010年9月21日
排出銀ナノ粒子の運命

情報源:Chemical & Engineering News, September 21, 2010
The Fate of Silver Nanoparticle Waste
by Sarah Webb
http://pubs.acs.org/cen/news/88/i39/8839news2.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年9月24日

 製造者らは、銀ナノ粒子の抗菌特性の利用を目的に衣料品や化粧品など200以上の消費者製品で銀ナノ粒子を使用している。今回、排水汚泥を分析している研究者らは、これらの消費者製品から漏れ出た銀が廃水処理施設で硫化銀ナノ粒子に変換されるという証拠を初めて明らかにした(Environ. Sci. Technol., DOI: 10.1021/es101565j)。この発見は科学者らにこれらのナノ物質のライフサイクルについて重要な新たな情報を提供するものである。

 それらの広範な使用にも関わらず、科学者らはナノ物質が製品から環境にどのように移動するのか、そしてその影響がどのようなものなのかについて、ほとん知っていない。公共排水処理施設に関する2009年の米環境保護庁の調査に基づき、バージニア工科大学のマイケル・ホチェラと彼の同僚らは、これらの全ての施設の汚泥中に銀が含まれていることを知った。しかし、無数の有機成分の中から微細粒子を特定し特性化することは非常に骨の折れる仕事であることがわかった。

 そこで、バージニア工科大学の研究者らは、成分と構造の両方を特定することができる精細な技術を持ったX線透過電子顕微鏡を利用することに決めた。中西部処理プラントから得た汚泥の顕微鏡写真により、径が5〜20ナノメートル(nm)のナノ粒子を特定し、その粒子は銀と硫黄の割合が2対1であることが分かった。科学者らはまた、粒子がAg2S(第一硫化水銀)であることを示す結晶構造を得た。

 ナノ物質は銀ナノ粒子の形状で排水処理プラントに入り込み、そこには高濃度の硫化物があるので銀は容易に硫黄と結合するので、容易に硫化水銀に変換されるらしいとホチェラは述べている。ホチェラは、ナノ粒子の環境影響の研究におけるある複雑性を強調するものであると付け加えた。”はじめの姿が環境中で同じ姿とは限らない”。

 この発見は傑出したものであるとカリフォルニア大学デービス校の教授で米国地地質調査の名誉科学者であるサムエル・ルオマスは述べている。”これは、環境中で銀ナノ粒子を検出する方法を見つけた最初のもののひとつである”と彼は述べている。

 その観察はまた、これらのナノ物質の使用の増加を示しているとルオマは付け加えている。”我々は商業製品中でこららのナノ粒子を十分に使用しているので、それらは排水処理施設にはっきり見え始めた”。

 しかし、その環境てき影響はまだはっきりしない。排水処理施設内での銀から硫化銀への変換は環境にとっては、良いニュースであるとルオマは述べている。バルクの硫化銀は水中では、特に銀イオンと比べると、ほとんど溶解しない。しかし、たとえ硫化銀ナノ粒子が水を媒体にして移動することがなくても、これらの物質は汚泥中の粒子を摂取する動物を通じて生態系に入り込むことができると彼は付け加えた。

 研究者らはまた、どのくらいの量の銀が、最終的に硫化銀となるのか分かっていない。バージニア工科大学の研究者らは、同じ排水処理施設における処理プロセスの各段階からのサンプルを分析することを計画している。



化学物質問題市民研究会
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