エンバイロンメンタル・ディフェンス
リチャード・デニソン 2008年12月5日
塊の変化:ナノ粒子凝集についての
従来の知識に挑戦する


情報源:Environmental Defense, December 5, 2008
Clump Change: Challenging conventional wisdom
about nanoparticle aggregation
by Richard Denison
http://blogs.edf.org/nanotechnology/2008/12/05/
clump-change-challenging-conventional-wisdom-about-nanoparticle-aggregation/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年12月8日
このページへのリク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/e_defence/e_081205_nano_aggregation.html


 いくつかのナノテクノロジーのサークルでは、いったん環境中に放出されるとナノ粒子は必ず凝集塊/アグリゲート(aggregate)または凝集体/アグロメレート(agglomerate)として、より大きな塊になるので、ナノスケールに関連する特性は失われ、少なくとも暗示的には関連するリスクはなくなるということが、ほとんどマントラ(密教の呪文)となっている。

 しかし、我々は環境中に放出されたナノ粒子がそのように都合よく自分たちのリスクを自己規制してくれることに頼ることができるのであろうか?

 たとえば、米国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)はそのウェブサイトに、”工業的ナノ物質のリスク評価を理解する:我々は何がリスクで何がリスクではないかどうして知ることができるか?(Understanding Risk Assessment of Engineered Nanomaterials: How can we know what is a risk and what is not?)”という委託記事を特集して掲載した。ナノ物質はリスクをもたらすかもしれないと示唆する研究発表に読者が疑問を持つように誘導するように設計された一節で、その記事は次のように述べている。”ナノ物質は溶液中や大気中ではより大きな凝集塊/アグリゲート(aggregate)、凝集体/アグロメレート(agglomerate)として塊になりやすいので、ナノ物質を分離した状態に保つことは非常に難しい”。このことが、この短い記事の著者が二度以上も繰り返して記述したいと感じた点である。

 ドイツの連邦リスク評価研究所(Federal Institute for Risk Assessment)によって発表されたFAQは、”ナノ粒子は凝集してより大きな結合体になる傾向があり、それは一般的に100nmより大きい。ナノ粒子の毒性影響はその小さなサイズに関連していたので、高い反応性はもはや関係がない”と述べている。

 そして最近、ポーター・アンド・ライト(Porter and Wright)のブログへの最近の投稿は、ナノ粒子は”それらがクラスター形状(凝集塊/アグリゲート(aggregate)または凝集体/アグロメレート(agglomerate))の場合には潜在的な有害健康影響をほとんど持たないことが示された。この’よい知らせ’の中で、ナノ粒子のエアゾール散布を研究している科学者らは、環境中に散布された時に、粒子がくっついて離れない傾向があることをを発見した”と断言している。

 現実世界においては、環境的運命と輸送はこのナノ粒子凝集よりもいかに複雑で予測できないかをここで私は説明するつもりはない。その代わり、それを説明している二つの優れた論文を引用したい。メイナード(Maynard)とワイスナー(Weisner)らの論文を参照いただきたい。

 しかし、我々は環境中に放出されたナノ粒子がそのように都合よく自分たちのリスクを自己規制してくれることに頼ることはできない3つの理由を支えるいくつかの研究をぜひ簡単に議論し、引用したい。

1.いくつかのナノ物質は環境的条件の下に溶液中でナノ粒子として安定することができる。
 多くの研究がカーボンベースのナノ物質は本質的に非常に溶解性が低いにもかかわらず、溶解することができる、すなわち、水又は他の普通に自然に存在する物質と反応して、安定した懸濁液中に入り留まることができることを発見した。サロネンら(Salonen et al.)により著わされジャーナル『 Small』に発表された最近の研究は、C70フラーレンは、事実上すべての植物に存在し放出されるどこにでも存在するフェノール酸との相互作用を通じて水中で安定的に一様に懸濁することができることを発見している。個々のC70フラーレンは最初にフェノール酸で表面を覆われ、その後、径が数ナノメートルの小さな緩いクラスターを形成する。この研究は Nanowerk ウェブサイトの”スポットライト”に掲載されたほどの価値がある。

 もっと早い時期の研究が同様な挙動を見出している。フォートナーら(Fortner et al,)は、水中でC60フラーレンの”ナノ結晶(nanocrystals)”−彼らが”ナノ−C60”と呼ぶナノスケール(25〜500nm径)−の凝集塊/アグリゲート(aggregates)の安定的な懸濁液の生成を特定した。それらは完全に個々のフラーレンの極端な疎水性を取り除いていた。  ヒュンら(Hyung et al)は、多層カーボンナノチューブが個々の粒子が川の水中に見出される天然の有機物質と反応して安定することを発見した。その天然物質は、同じ溶解性機能をもたらすよう選択されたよく用いられる界面活性剤よりも実際によく機能した。

2.性能的理由のために、ナノ粒子は凝集しないよう積極的に加工されている。
 ほとんどのナノ適用例で最適な性能は乱雑な凝集を最小化し又は分散を最大化することに依存しており、そのために個々のナノ粒子の特性又は高度に整然としたナノ構造を最大限利用する。この理由のために、研究者らはコート、キャップ、化学的変更、その他のナノ粒子が凝集塊/アグリゲート(aggregates)又は凝集体/アグロメレート(agglomerates)とならない工夫を一生懸命行っている。たとえば、ヤンら(Yang et al.)のプラチナナノ粒子が凝集塊/アグリゲートとなることを防止するために特別なキャッピング剤を使用し、また、バルマ(Varma)も同様なことを銀とプラチナのナノ粒子で実施した。セラミックナノ粒子を加工して分散を確実にする同様な取り組みが増加している。

 したがって、生来のあるいは現状のナノ粒子の形状が容易に凝集する又はその疎水性を保持するといって市場と環境に入り込んでいる工業的ナノ物質が必ずそうなるという仮定はまったく不当である。

3.凝集体/アグロメレートとなった(agglomerated)又は凝集した(clumped )ナノ粒子であっても有毒である。
 凝集した(aggregated)ナノ粒子はナノスケール特性のすべてを失う又は害がなくなるという仮定もまた不当である。メイナードとクエンペル(Maynard and Kuempel)は、個々のナノ粒子が大きな凝集塊/アグリゲート(aggregates)になってもナノ構造の特徴と特性の多くを残していることを詳細に実証した。しかし毒性はどうか?

 フォートナーら(Fortner et al.)は、彼らのフラーレンのナノ結晶がバクテリアの成長と呼吸を抑制する抗菌活性を示したことを見つけた。さらにナノ−C60の抗菌活性の確認に加えて、リオンとアルバーツ(Lyon and Alvarez)による最近の論文は、水中のこれらのナノスケール凝集塊/アグリゲート(aggregates)の生成が水生無脊椎動物、魚、もっと高等な生物の細胞に高い毒性を持つ物質を生成することを示している。凝集塊/アグリゲート(aggregates)はまたそれらの細胞中に入り蓄積し脂質に付着することを示している。

 最後に、サロネンら(Salonen et al)は、彼らのフェノール酸コート処理したC70クラスターは、培養したヒト細胞の細胞膜を容易に貫通し、細胞膜がとり囲む細胞核に入り込むことができることを示した。さらに、それらは皮肉にも明らかに細胞膜との作用を通じてマイクロサイズに凝集した粒子により、細胞の縮小と最終的な死ををもたらした。

 再度、我々はナノ物質の実際の挙動が従来の知識を覆し、それらの毒物学にアプローチすると我々に疑問を提起させるか我々の仮定と偏見を捨てさせることがわかった。


訳注:用語の説明
出典:工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン/環境省
http://www.env.go.jp/chemi/nanomaterial/eibs-conf/guideline_0903.pdf
  • アグリゲート(aggregate) :強く結合した又は溶融した粒子からなるもので、その表面積が個々の構成物の表面積の合計よりもかなり小さな粒子(共有結合や焼結、複雑な物理的絡み合い等の強い力)

  • アグロメレート(agglomerate):粒子及びアグリゲートあるいは両者が弱く集合したもので、その表面積が個々の構成物の表面積の合計とほぼ同じもの(ファンデルワールス力やそれと同様の単純な物理的絡み合いなどの弱い力)

(アグリゲートやアグロメレートは2次粒子とも呼ばれる)


化学物質問題市民研究会
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