ドイツ環境・自然保護・原子力安全省(BMU)2012年4月
ナノマテリアルの評価ツール
ドイツ・ナノ委員会と利害関係者の対話
”ナノの世界におけるリスク管理”での
議論と結論

情報源:German Ministry of the Environment, Nature Protection
and Nuclear Safety (BMU) April 2012
Assessment tools for nanomaterials
Discussion and results of the German NanoCommission's work
and the Stakeholder Dialogue
"Risk management in the nano world"
http://www.bmu.de/files/pdfs/allgemein/application/pdf/nanotechnologien_fachdialog1_bericht_en.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年5月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/bmu/120401_bmu_Assesment_tools_for_nanomaterials.html


1.はじめに

 2006年以来、ドイツ環境・自然保護・原子力安全省(BMU)は、利害関係者グループとの連続的なナ情報と経験の共有を支援してきた。この脈絡の中で、ナノマテリアルの責任ある使用に関してドイツ・ナノ委員会がドイツ連邦政府と協議するよう指名された。産業界、科学界、規制当局、市民社会組織は議論に参加し、最終報告書と勧告作成に寄与した。

 ナノ委員会は、第1期及び第2期の連続対話(2006年〜2008年、及び2009年〜2010年)を開催した。選択されたトピックスは、作業部会で詳細に議論された。第2期対話の最後にナノ委員会は、具体的な議題に特化した議論を続けることを勧告した。従って第3期対話の組織構成はそれぞれ変更された。現在の第3期対話は2011年12月に開始し、2012年11月に終了する。

最初の2日間の専門家対話(FachDialogue)[1]は、”ナノ世界のリスク管理”という議題の下に開催された。異なる利害関係団体からの約20名の代表が参加し、ナノマテリアルとナノ製品のための予備的評価ツールと規制の枠組みとの関係について議論した。さらに、予備的評価ツールの使用を促進するための選択肢が議論された。

 この報告書は、ナノ委員会とその作業部会によるナノマテリアルとナノ製品のための予備的評価ツールの開発プロセス[2]の概要を示すものである。報告書はまた、最初の専門家対話”ナノ世界のリスク管理”の結論も含んでいる。ドイツ語版報告書は、第2部を含んでいるが、それはナノマテリアルとナノ製品のための予備的評価ツールの選択を支援するための短い指針文書である。この指針はドイツ語ツールの選択だけを支援するので、英語には翻訳されていない。

脚注
[1] さらにナノテクノロジーの他の議題に関する3つのイベントが2012年に計画されている。
[2] スイスVorsorgerasterの開発とナノ持続可能性チェクは、利害関係者対話の枠組みの中で展開されなかったので、記述されていない。

2. 開発ツール

 ナノマテリアルとナノ製品のための予備的評価ツールの開発と使用[3]は、以前の2期にわたるナノ対話で連続的集中的に議論された。ナノマテリアルのハザードと曝露の可能性に関てし部分的な情報ギャップがあるという考えの下に、予防原則に基づいた予備的なリスク管理を実施する機会を作り出すことが意図されていた。このことは意思決定を支援するために予備的な評価ツールを求める。さらに、ナノマテリアルとナノ製品の開発の早い段階に会社に対して方向性を示し、彼等の製品の持続可能性に関する最初の判断をさせることが意図されていた。

 ナノ委員会の評価ツールは、科学的なリスク評価を置き換えるものではなく、材料及び製品の潜在的に重大な又は望ましい影響の予備的な評価を行なうための可能性として理解されるべきである。もし、科学的リスク評価が利用できるなら、この文書は適切ではない[4]。

2.1 ’懸念の基準’と’懸念にあたらない基準’

 ナノ委員会の作業部会は、技術開発におけるリスク管理意思決定を支援するために、ナノマテリアルによる潜在的なリスクの予備的評価のための第1期対話時に、’懸念の基準’と’懸念にあたらない基準’を開発した[5]。評価における特定の応用領域について、’懸念の基準’[6]は、あるナノマテリアルに問題があるかどうかを示すことができる。’懸念にあたらない基準’[7]は、応用領域におけるリスクは低そうであることを示すことができる。

 リスク管理のための基準の重要性は、影響と予想される曝露についての知識が増大すれば、減少する。基準を以下に簡単に示す[8]。

脚注
[3]ナノ製品はナノマテリアルを含む混合物及び成形品を意味する。
[4]予備的な評価は控えめな仮定を置く。従って、もっと特定の情報を使用する科学的リスク評価により論破される重大な応用領域またはリスクのを示すかもしれない。
[5]科学的リスク評価に基づくナノマテリアルの使用の徹底的な評価の全体目標は、これによっては精査されない。
[6]高曝露や環境中の残留性、分析において問題ある影響または困難を示すもの、及び放出されたナノマテリアルの追跡は、懸念を引き起こすものとみなされる。
[7]特定の用途のナノマテリアルが永久に基盤中に埋め込まれていたり、例えば溶解又は分解により恐らく問題のあるナノ特有の特性を急速に失くすなら、安心できるとみなされる。
[8]第2作業部会の報告書は広範な発表資料を含んでいる。
(http://www.bmu.de/files/pdfs/allgemein/application/pdf/nanodialog08_ergebnisse_ag2.pdf).

’懸念にあたらない基準’[9]

 ’懸念にあたらない基準’は、ナノ特有の特性の喪失である。このことは、高溶解性、非毒性製品への急速な分解性、マトリクス中における確実で永久的な分散、強固に結合されたアグリゲート又は大きく安定的なアグロメレートの形成のような異なる側面によって示されることができる。

 さらに、粒子を放出せず反応性のない表面にするナノ構造修飾は懸念が低くなるとみなされる。

’懸念基準’

 ’懸念基準’は、曝露、問題ある(有害な)影響、及びリスク管理が困難という3つの領域に分けられる。
  • 高曝露の指標は、例えば、特定の応用における製造量又は使用量、ナノ形状の高い移動性、標的とされる放出、ナノ特有の特性の残留性と生物蓄積性。
  • 問題のある影響は、とりわけ、高い反応性、問題のある形状、相互作用、変換、又は代謝の兆候
  • リスク管理における問題の指標は、例えば検出性が低く、運命が明確ではない。
 ナノ委員会は、企業がこの基準を方向性を決めるために使用することを推奨したが[10]、企業はさらに運用を吟味し、重み付けるべきであると述べた。ナノ委員会は、ナノマテリアルを(リスクがありそう(probable)、あるかもしれない(possible)、なさそう(not likely))というを3つのリスクグループに分類することを提案した[11]。

脚注
[9] この基準は第1期対話時に採択されたときに引用された。基準のあるものは、溶解せい指標のように、現在は軽減されるとはみなされない。
[10] 第1期対話時の最終報告51頁で、ビジネスがリスクをできる限り正確に見積もるべきと推奨している。作業部会2により決定された’懸念の基準’と’懸念にあたらない基準’は予備的評価のための指針として機能すべきである。それらはナノ対話第2期の間に運用可能とし重み付けがなされるべきである。
[11] 第1期対話の間にこれを実施することは不可能であった。

2.2 ナノマテリアルとナノ製品の予備的評価のためのツール

 ナノ委員会第2期対話の時に、ナノマテリアルとナノ製品のための二つの評価ツールが二つの異なる作業部会により開発された。このプロセスで、第1期の’懸念の基準’と’懸念にあたらない基準’が Swiss Vorsorgerasterの経験と共に統合された。第2期対話時に実施されたナノ製品の持続可能性を評価するための文書の開発に関するプロジェクト(ナノ持続可能性チェック)もまた、これらの作業部会の作業であるとみなされた。

 二つノ作業部会の結果、すなわち、ナノ物質の影響評価のための一式の基準と、ナノ製品のリスクと便益の比較のための基準の一覧表は、企業の支援を方向付けるものとして理解されるべきである。

2.2.1 人の健康と環境に及ぼすナノマテリアルの影響の評価基準

 第2期対話時に、作業部会4は、異なる応用において人の健康と環境に及ぼすナノマテリアルの潜在的な影響を評価するために、製品の研究開発の早い段階で、”情報を与えられたユーザー”により適用されるべき一式の基準を開発した。この基準一式は、第1期の’懸念の基準’と’懸念にあたらない基準’に基づいており、たとえデータがほとんど入手できなくても使用することができる。

 科学的進展への適合とは別に、’懸念の基準’と’懸念にあたらない基準’は、予防的措置をとる必要性を評価するために、指標によって単純化され具体化された。この新たな基準一式は、”可能性ある曝露”、”物理化学的特性”、”環境的運命”、及び”毒性学/生態毒性学”の領域で組み立てられた。それらは異なる保護対象をカバーし、全てのライフサイクル段階に適用される。この基準の利用の結果として、データギャップが示され、さらなる評価を実施する必要性又はリスク管理措置を実施する必要性の最初の定性的な評価が支援される。

 基準に関するこの作業は全ての側面で完了させることはできなかった。とりわけ、いくつかの不明確な表現の定義とともに基準の重み付けについての議論の結論が現在まで示されていない。さらに、基準の適用の結果に関連するリスク管理措置を引き出すことがなされていない。

 したがって作業部会4は、この基準の適用についての経験を収集すること、結果の解釈のために企業への支援を提供すること、及びこの文書の使用に関する経験の共有を促進することを勧告した。さらに、この基準は、第1期対話で開発されたナノ物質責任ある使用のための原則のような、より大きな脈絡の中に統合されるべきである。

2.2.2 ナノマテリアルとナノ製品のリスク便益の比較のための基準の一覧

 第2期対話で、作業部会2はナノマテリアルとナノ製品の異なるリスク便益の見地を示す広範な基準の一覧を開発した。この基準の一覧は、企業に対し彼等の製品開発における方向性を与えることができる。作業部会によれば、それはまた、ナノ製品に関する利害関係者対話を組織立てるための文書としてみなされる。

 ’環境’、’労働者’、’消費者’、’社会’、及び’会社’の領域について、基準が提案されたが、それらはナノマテリアルとナノ製品のの製造、使用、廃棄に関連し、潜在的なリスク便益の評価を可能とする。

 その評価は、ナノマテリアルを含まない参照製品と比較し、”より良い”、”同等”、”より悪い”との分類をもって実施される。その基準は全てのライフサイクル段階に関連する。評価は定性的である。基準の一覧は開発段階の間に異なる事例を用いてテストされる。

 基準一覧の具体的な特性のひとつは、ナノ製品の便益と’地域社会’と’会社’の統合の範囲である。それに関して、持続可能性の側面が運用できる。しかし、これらの領域の重み付けと基準のしっかりした記述は完了することができず、従ってそれぞれについての今後の作業が、作業グループによって実施されることが勧告された。また、基準の一覧を、幅広い利害関係者の間に知らしめ、より広い脈絡に統合し、ひとつのITツール[12]として実施するこが重要であると考えられた。

脚注
[12] このツールは、ドイツ・ナノテクノロジー協会のウェブサイトに発表されている。
(http://www.dv-nano.de/infoportal/instrumente.html).

3 ”ナノの世界におけるリスク管理”に関する専門家対話(FachDialog)1

 2011年12月、ナノマテリアルとナノ製品の予備的な評価のためのツールの埋め込みと更なる使用を討議するために、第3期対話の枠組みの中で二日間の利害関係者ワークショップ(FachDialogue)が開催された。このイベントに参加した異なる利害関係者グループの代表20人は、方向性評価ツールが規制の枠組みの有用な補完であるということについて合意した。

 評価の論点は、とりわけ、ナノマテリアルとそれらの用途の非常に大きな多様性、情報ギャップの大きさ、基準のユーザーの異なるグループ、及び彼等の特定の評価の関心のために、非常に複雑であることが再び確認された。

 予備的評価文書の二つの機能は特に利害関係者にとって有用であるように見える。
  • 製品開発における早期の意思決定の支援としての企業による利用
  • ナノマテリアルと製品の可能性ある(便益と)リスクの側面についての一般公衆への情報提供のための様式としての利用
 市場に出す前にナノマテリアルとナノ製品の評価の完全性は、企業の大きさによって異なるものではないということが話し合われた。従って、この評価文書の利用は会社の規模に依存しない。

 専門家対話(FachDialog)の参加者らは、さらなる文書を推進することを勧告した。このツールの”世話”をし、ユーザーからの潜在的な疑問とフィードバックを収集し評価する中心的なコンタクト・ポイントの設立が有用であり、必要であるとみなされた[13] 。

 さらに、’持続可能性’という議題を将来の利害関係者ワークショップに含め、ドイツの研究戦略に統合すべきということが述べられた。

4 展望

 ナノ委員会の評価ツールは、ナノ持続可能性チェック及び Swiss Vorsorgeraster とともに、包括的なフォーマットに特性化され、ドイツ・ナノテクノロジー協会のウェブサイトから利用可能である。これは、この文書の普及に役立つであろう。これは、ドイツ化学産業協会(VCI)とドイツ産業協会(BDI)及びそれらの会員協会との積極的な情報交換により支持されている。

脚注
[13] この機能は現在、ドイツナノテクノロジー協会によって実施されている。
(http://www.dv-nano.de)



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