WHO 2010年2月
工業ナノマテリアルの潜在的なリスクから
労働者を保護することに関する
WHOガイドラインのための背景文書


情報源:WHO Occupational health, February 2012
Background paper for WHO Guidelines on Protecting Workers
from Potential Risks of Manufactured Nanomaterials
http://www.who.int/occupational_health/background_review_1.6.12.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年4月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/WHO/Background_paper_for_WHO_Guidelines.html

1. はじめに

 世界中の労働者は、ナノマテリアルとして知られるナノメートル・スケールの原子構造に基づく急速に発展している新たな技術の製造と応用による新たなリスクに直面している[24]。

 非政府組織(NGOs)は、新たに出現しているナノテクノロジー産業における労働者の保護にもっと注意を向けるよう積極的に求めている。2007年に、消費者、公衆衛生、環境、労働者、及び市民社会の6大陸にまたがる非政府組織の連合が、強い包括的なナノテクノロジーの監視を求めた[35]。"ナノマテリアルを研究、開発、製造、包装、取り扱い、輸送、使用、廃棄する人々が最も暴露することになるであろうし、それゆえあらゆる潜在的な健康被害に苦しむ可能性が最も高い。したがって、いかなるナノマテリアル監視制度においても労働者の保護が最も重要視されるべきである"。同連合はさらに、ナノテクノロジー及びナノマテリアルに特化した労働安全衛生基準及び職場におけるナノマテリアルへの人の曝露を測定するための標準的手法の欠如を明確にし、職場のナノテクノロジー問題に目を向け労働者の健康と安全を確実にするための保護措置を実施するための基礎として予防原則を用いる文書による包括的な安全健康プログラムを開発することを求めた。同様に、2010年に欧州労働組合連合(ETUC)は、”リスク削減措置、特に健康監視に注意を払った早期警告措置、及び労働者の曝露の登録を含む先を見越した多くの取り組みで実現できる予防原則の適用”を勧告した[33]。ETUCはさらに、”リスクに関するデータが利用可能でない場合には、労働者を曝露させるべきではなく、プロセスは閉鎖系でなくてはならないとする’ノーデータ・ノーエクスポージャ(曝露)原則’”を要求した。

 技術の成熟と並行してナノマテリアルの労働者に対する潜在的なリスクに対応するために、定性的リスク評価、戦略を適合させ要求に磨きをかける能力、予防の適切なレベル、世界的な適用、会社による自主的な協力を引き出す能力、そして利害関係者の関与に基づく職業的リスク管理が提案されている[16]。工業ナノマテリアルの職業的リスクを理解する方向に前進させ、科学に基づく指針とリスク管理を可能にする必要がある重大な知識のギャップは、多くの出版物の中で議論されている。例えば、Schulte et al [15] は、2008年に次の7つの疑問を提起した。
  1. 潜在的なハザードの程度によって工業ナノ粒子を分類するために、アルゴリズムを開発することができるか?
  2. 工業ナノ粒子への曝露の評価のために、粒子のどの特性と、どの測定技術が利用されるべきか?
  3. 職場における工業ナノ粒子への曝露とは何か?
  4. 工業ナノ粒子に関して、工学的制御と個人防護(PPE)の限界は何か?
  5. 工業ナノ粒子に潜在的に曝露する労働者のために、どのような労働衛生調査が勧告されるべきか?
  6. 工業ナノ粒子に潜在的に曝露する労働者の様々なグループのために、曝露登録が確立されるべきか?
  7. 工業ナノ粒子は、”新規”物質として扱われ、安全性とハザードが評価されるべきか?
 これらのうちのあるものは今日においてもまだ未解決のままであるが、一方、他のものの中にはデータが収集されているものもある。

 この背景文書は、低及び中レベル歳入国におけるナノテクノロジー労働者の安全と健康のための指針を開発するプロセスにおいて、回答されるべき重要な疑問のドラフトを提案している。この背景文書は、WHO指針開発グループにより、そのような指針により対応されるべき重要な疑問を特定するために使用されるであろう。

2. 一般的に製造されるナノマテリアル

 商業におけるナノ対応製品の数量については多くの見積りがある。2008年に米EPAは、ナノマテリアルのための自主的なデータ報告プログラム(ナノスケール・マテリアル・スチュワードシップ・プログラム(NMSP))を通じて受領したデータを分析し、新たに出現しているナノテクノロジーに関するプロジェクト(PEN)により維持されている消費者製品目録(CPI)、及びナノヴェルク(Nanowerk)データベースと比較した[17]。米EPAは、TSCA目録上の既存化学物質に対応する分子的同一性をもつ234の独自なナノスケール・マテリアルを見出したが、ナノヴェルク(Nanowerk)は199、新たに出現しているナノテクノロジーに関するプロジェクト(PEN)は48、ナノスケール・マテリアル・スチュワードシップ・プログラム(NMSP)は34であった。

 しかし、政府により維持されており公的に利用可能なナノ対応製品の登録は、現在存在しない。未解決の定義問題や自己報告ののために、それらのどれも正確ではない。例えば、ある最近の報告書は、”新たに出現しているナノテクノロジーに関するプロジェクト(PEN)により維持されている消費者製品目録(CPI)は、CPIに関係があるとする主張の妥当性に疑問を提起する本質的な欠陥を持っている”と、結論付けた[14]。したがって、最も広く使用されているナノマテリアルを特定することは難しい課題である。

 非医療関連及び非食品関連での適用のために最大の工業ナノマテリアルを示す可能性のあるのは、OECD支援プログラムを通じてテストが実施されている工業ナノマテリアルのOECDリストである。米EPAの自主的報告プログラムの分析[17]は、”各々のデータセットはそのデータセットに独自の多くの化学物質を持っているが、・・・14の商業ナノスケール・マテリアルからなる代表的なグループでは、データセットの重複はOECDEテストの成果と極めて一貫している。既存の化学物質からなる3つ全てのデータセットに共通な12の物質のうち7つ・・・がテスト目標となっている。4つの物質だけが3つ全てのデータセットの中にない。それは、ナノクレイ、デンドリマー、ポリスチレン、及び鉄である”と、結論付けた。それ以来、工業ナノマテリアルのOECDリストは更新されており、現在は次の13ナノマテリアル、フラーレン、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、銀、鉄、二酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化セレン、酸化亜鉛、二酸化シリコン、デンドリマー、ナノクレイ、金を含んでいる。

 このリストを構築するときにOECDは、 製造量、テストのために利用可能でありそうなマテリアル、及びそのようなマテリアルに関する一件書類の中で利用可能でありそうな既存の情報などの他の基準はもちろん、商業用途であるかそれに近いマテリアルを考慮した。したがって、OECDリストは産業の必要に駆られるリストして理解されることができるであろう[6]。最近、ある報告書が、OECDリストにある5つのナノマテリアル、銀、カーボンナノチューブ、二酸化セレン、フラーレン及び二酸化チタンの米国での生産量を見積もる試みを行なった[34]。主要な成果は、”製造の量情報不足”と”様々なナノマテリアル全てにわたって実行可能なデータ出典の不一致”であった。米国の年間製造量の上限によれば、ナノマテリアル製造量の相対的な順序は、二酸化チタン > カーボンナノチューブ > 二酸化セレン> フラーレン > 銀であり、その製造量は38,000トンから20トンである。
 工業ナノマテリアルのOECDリストは、指針の最初の疑問に対する答えの出発点として利用できるであろう。

I. どの特定ナノマテリアルが、低及び中レベル歳入国におけるナノテクノロジー労働者のリスクを低減するということに最も関連があり、この指針は現在、どれに焦点を当てるべきか?

 工業ナノマテリアルは、様々な産業プロセスによって製造し加工することができる。工業ナノマテリアルの製造方法について多くのレビューが存在する[1]。しかし、ナノマテリアルの加工及び最終利用で用いられる方法についてまとめたものは少ない。

II. 低及び中レベル歳入国でこれらの特定のナノマテリアルを製造し加工するために用いられている一般的な産業プロセスは何であり、この指針はどれに焦点を当てるべきか?

3. ハザード評価

 しばしば”超微細粒子”と呼ばれる偶発的ナノ粒子への曝露に関係する多くの研究が、工業ナノマテリアルのハザード評価で使用することができる。例えば、最近の、大気汚染への曝露と心臓血管系疾病との間の相関関係に関する科学文的献のレビュー[5]は 、”UFPs(超微細粒子)と心臓血管系の健康問題とを直接的に関連付ける疫学的証拠は限られているが、毒性学的及び実験的な曝露の証拠は、粒群(size fraction)が心臓血管系に特に高いリスクを及ぼすかもしれないということを暗示している”と、結論付けた。ラットによる実験研究は、同等の質量用量(mass doses)において、不溶解性の超微細粒子は、同様な組成で大きな粒子よりも肺の炎症、組織ダメージ及び肺腫瘍を引き起こす能力が高い[1, 20]。

 カーボンナノチューブ(CNT)は、形状又は構造を特化した工業ナノマテリアルであり、製造量と使用が増大している。その結果、CNTについての多くの毒性学的研究が近年実施されている。これらの研究は、CNTの毒性は同様な化学的組成を持つ他のナノマテリアルとは異なるかもしれないということを示している[38]。CNTsの生物学的活性のメカニズムについての現在の理解は、現在の商業用のCNTsのリスク評価のために最も適切な健康評価項目は、炎症と線維症であるということを示唆している[18, 19]。結論として、CNT用として最も使用されている職業曝露制限は、毒性の”長繊維”パラダイムには適切であろう線維数濃度ではなく、質量に基づいている。

 ハザード評価のためのマテリアル特性化は、健康と運命/輸送項目に加えて、物理化学的評価項目一式を含む 。ハザード評価のための利用可能な特性化アプローチの重大なレビューと評価は、参照 [6]の中で提供されている。最終的に、これらの物理化学的評価項目とハザード特性との間の相互関係は予測モデルを確立するために用いられるであろう。定量的構造活性相関(QSAR)様モデルにおけるナノマテリアルの毒性を予測するための最近の試みのひとつは、ナノ粒子構造中の電子エネルギーのレベルを、抗酸化物質を細胞から除去するか、又は過酸化水素又は超酸化イオンのような活性酸素を生成する、酸化反応能力と関連付けることである[7]。もうひとつのモデルは、血漿タンパク及びアミノ酸の吸着を予測することを試みており、したがって、どのように特定のナノマテリアルがインビボで細胞と相互反応するかの様子を提供する[32]。しかし、どちらのモデルも制約がある。前者はただひとつの可能性ある毒性のメカニズムとあるタイプのナノ粒子のためだけのを記述し、後者はナノマテリアルが生物学的系に入りこむときに”タンパク質コロナ”の形成だけを記述する。したがって、ナノマテリアルのための確認された包括的な QSAR様モデルが開発されなくてはならない。

 もし、ナノマテリアルのための確認された用量−反応データが不足しているなら、現状までに、権威ある基準及び指針組織により採用され公表されたナノマテリアルに特化した職業曝露限界(OELs)は実質的には存在しない[2, 22]。ナノマテリアルの広範な不均質が、近い将来開発されるべき特定のOELsの数を制限しているが、ナノマテリアルのOELs は、同様な特性と行動様式を持つナノマテリアルのカテゴリーを横断して特定のナノ粒子のための動物研究から生成される用量反応データを適用することにより、もっと急速に開発することができるであろう。二酸化チタンとカーボンナノチューブのためのOELs、及びいくつかのナノマテリアルのための様々な組織からの暫定的なOELs を開発するためのアプローチの例は参照[2]の中に見つけることができる。

III. どのハザードカテゴリー又はどの職業曝露限界(OEL)が特定のナノマテリアルにどのように割り当てられるべきか?

4. 曝露評価

 工業ナノマテリアルは、多様な化学的及び物理的特性を持つことができ、また構造的及び組成的に均質又は不均質又は多機能的ですらあり得る。これらの全ては、環境中でのナノマテリアルの放出、輸送、及び堆積に、したがってそれらの曝露能力に影響を与えることができる。粒子のサイズがちいさくなればなるほど、表面の原子の割合は大きくなり、そのことは粒子の表面活性と毒性学的特性に影響を与えることができる。同時に、ナノスケール粒子は、塊となりより大きな構造体となる傾向があり、そのことはそれらが空気中に滞留する時間や吸入性に影響を及ぼす[1, 37, 39]。

 粒子サイズと形状は、ヒト体内での粒子の堆積と運命に影響を及ぼすように見えるが、有害影響を引き起こすことに関し、これらの物理的特性がどのような影響を持つのかについて、工業的ナノ粒子のために利用可能なデータはわずかしかない[2]。しかし、物理的及び化学的特性の何が毒性に影響を及ぼすのかを含んで、ヒトの気道中の粒子や線維の堆積などを含む噴霧の挙動についての粒子サイズと形状の役割に関する科学的な文献から情報を利用することは可能である[3, 4, 40]。空気以外の媒体中でのナノスケール粒子の動態に辻手はもっと知られていない。

 現在、工業ナノ粒子曝露の職場での測定は非常に少ない。実施されている曝露評価研究は、毒性影響の証拠と関連する曝露を測定するために、定義された曝露測定(例えば、質量、粒子数濃度、表面積)の不在によって、しばしば制約を受ける。職場の曝露測定の解釈は、職場内から(例えば、ディーゼル排気、燃焼の産物、電気モター、写真複写機)及び屋外環境から発生する偶発的なナノ粒子の存在によって、さらに複雑さを増す。偶発的ナノ粒子は様々な形状、サイズ、及び組成で存在することができるので、それらの空気浮遊は、作業者の工業ナノ物質への曝露の定量的評価をしばしば妨げる。多くの工業ナノ粒子に関連する毒性メカニズムの理解は限定されているので、作業者への潜在的なハザードを評価するために利用することができる特定の曝露測定(粒子次元、サイズ、表面積)を特定する能力を混乱させる[2]。

 職場におけるナノマテリアルの放出を評価する国家の及び国際的な指針は少ない。同様に、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)ナノ粒子放出評価技術(NEAT)は、工業ナノマテリアルを取り扱う又は製造する施設内における潜在的な吸入曝露を評価するために標準的な測定技術と機器の組み合わせを用いている[10]。NEATは、一対のフィルター式空気サンプル(ソース特定及び個人呼吸ゾーン)による可搬型直読式計器を使用する。粒子カウンターは一般的には粒子源又は組成に感受性がなく、個数濃度だけを用いての偶発的及びプロセス関連ナノマテリアルの識別を難しくするので、フィルター式空気サンプルの使用は識別目的のためには極めて重要である。この技術は、12の現地調査で用いられたが、ナノマテリアル放出は様々な程度で確かに起こり、NEATを用いて検出し定量化することができることを実証した[11]。作業方法と工学的制御の存在/不在/効果のような要素が、ナノマテリアル放出の程度に極めて大きな影響を与える。OECDの工業ナノ物質作業部会(WPMN)は、『職場における空気中の工業ナノ粒子の制限と放出特定のための放出評価:既存の指針の編集』の中で、同様なプロトコールを開発した[21]。これは、放出源を特定するための初期評価のための手順を述べており、潜在的な放出源の特定、粒子数濃度サンプリングの実施、及びフィルター式エリア及び個人空気サンプリングの実施に関する情報を含んでいる。このプロトコールは現在、OECDのWPMNによって更新中である。

 あるナノマテリアルに特化したいくつかの低コストのリアルタイム測定技術も現れはじめた。カーボンナノファイバー(CNF)用については、”光度計、工場出荷時校正済み、吸入可能なCNF濃度の合理的な推定を提供、この種の将来の研究におけるCNFsの直読式モニタリングの選択に適切”と示されている[8]。

 多層カーボンナノチューブへの曝露は、実験室規模から大規模製造までの範囲のいくつかの製造施設で評価された[9]。質量濃度を得るために、電子顕微で鏡線維数を計測するために、そしてエネルギー分散型X線分析装置で化学物質分析をするために、呼吸ゾーン及びエリア フィルターサンプルが収集された。走査型移動度粒径測定器、凝縮粒子計数器、粉塵監視器、超微細凝縮粒子計数器、可搬式アーセロメーター などを使用して、リアルタイムでのエアロゾル特性化が行なわれた。この研究は、新たに出現しているナノ粒子測定技術を統合した個人及びエリアのサンプリングのような従来の曝露監視手法がMWCNT曝露濃度を測定するために非常に効果的であるという意見を支持している。ナノ粒子と微細粒子は、化学気相成長法(CVD: Chemical Vapor Deposition)装置のカバーを触媒調合のために開けた後に最も高頻度で放出される。ナノ粒子の空気中への放出をともなうその他の作業プロセスには、噴霧、CNT調合、超音波分散、ウエハ加熱、 恒温液槽のカバー開などがある。これら操業プロセスの全ては、工学的制御のような曝露緩和の実施により効果的に制御することができるであろう。液体中でのナノ粒子分散は、必ずしも曝露をゼロの可能性に低減するものではない。工業ナノマテリアルは溶液中で音波処理により混合されるときに、特にナノマテリアルが機能化されている、又は天然有機物質を含む水中で処理される場合、空気中に浮遊することできるようになることが示された[13]。この発見は、実験室の作業員は工業ナノマテリアルへの曝露リスクに曝されるかもしれないことを示している。

 多くの文書が、曝露の最も高い可能性をもつ曝露状況をリストしている[22, 23]。効果を増加させるために、これらの指針は最も関連のある曝露状況を特定する必要があるであろう。

IV. 個々特定ナノマテリアル及び産業プロセスにとって最も高い曝露状況は何か?

 現在、包括的な曝露評価は、高価でしばしば研究グレードの機器と専門性を求める。このことは、低及び中レベル歳入国で操業している会社はもちろん、中小企業にとってその実施は無理なことであろう。したがって、より定性的で低コストな手法からより定量的でより高価な手法へ移行する段階的アプローチ(tiered approach)が、可能な限り曝露評価の選択肢とコスト削減を提供するために必要である。

V. 段階的アプローチにより、これらの特定の曝露状況における曝露をどのように最良に評価することができるか?

5. リスクの軽減

 自主的参加に基づく作業実施状況の調査が、潜在的に変動する有効性、及び当局の安全健康指針の必要性と共に、ナノテクノロジーに関連する職場で実施されている広範なリスク軽減措置を明らかにしている。2006年に実施された国際ナノテクノロジー協議会(International Council on Nanotechnology)後援の会社及び研究所を含む民間企業調査[25] が、工学的制御の選択、個人防護具、浄化方法、及び廃棄物管理を含む一般的な環境安全衛生の実施手法において、化学物質を取り扱う従来の安全手法と大きくは異なっておらず、時折バルク形状又は溶剤搬送の特性に基づいて記述されており、ナノマテリアルの特性に基づいていないことを報告した。実験室の設備については、2010年のオンライン調査が、ほとんどの研究者は、空気浮遊する可能性のあるナノマテリアルを取り扱う時に、適切な個人及びラボ防護装置を使用していないことを示した[12]。

 利用可能な国家の及び国際的指針の概要は[26]で見ることができる。それは、ハザード及び曝露データが不足している状況の下で、ほとんどの指針が技術的に及び経済的に実行可能可能な範囲で曝露を最小化することを目指して予防的措置を採用していることを示している。特定のビジネスタイプや特定のナノマテリアルの応用カテゴリーに焦点を合わせた、もっと特定の指針も最近出現し始めた。例えば、OECDは最近、実験室で取り扱うナノマテリアルのための指針の編集を機密指定から解除した[36]。ドイツ化学産業及び塗料産業は最近、塗料と印刷インクで使用されるナノマテリアルの安全な取扱いのための指針を刊行した[27]。英国安全衛生庁[28] と米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)[38]は、カーボンナノチューブの職業リスク管理のためのガイドラインを刊行した。

 職場における曝露を軽減するために代替、工学的制御、及び個人防護装置の効果がレビューされた[31, 29, 30]。特に、有毒性を減少するための既知の手法があることが報告されているが、それらは工業ナノマテリアルを代替し変更するために用いることができ、職場における及び川下ユーザーへのリスク低減をもたらすであろう[31]。溶接ヒューム中及びディーゼル排気ガス中で見られる偶発的ナノマテリアルへの曝露を低減するtが目に開発された曝露緩和技術は工業用ナノマテリアルのためにも有効であり得る[29, 30]。例えば、排気溶接テーブルとの組み合わせで局所排気(Local Exhaust Ventilation (LEV))の使用による粒子数濃度の低減は、粒子数濃度で97.98%、質量濃度で88%であった[11]。しかし、特定のナノマテリアル及びプロセスのための特定の技術の有効性については疑問が残る。

VI. 特定のナノマテリアル及び特定の曝露状況のための特定のリスク軽減技術はどのように有効か?

 リスク軽減技術の有効性に関して一度決定がなされたならば、望ましいレベルへのリスク軽減のために、段階的アプローチが推奨される。

VII. 特定のナノマテリアルと特定の曝露状況のためにどのようなリスク軽減技術を用いることができるのか?

6. 結論

 ナノマテリアルの潜在的なリスクから労働者の健康を保護するためのWHO指針は、ナノマテリアルの職業的リスクの管理のための(コントロール・バンディングのような)準定性的から、(職業曝露限界を中心として構築されるような)従来の定量的アプローチまで広い範囲の選択肢を提供する。そのような段階的アプローチは、広範な操業と社会的制約に適用できる措置の選択を可能にする。各段階について、次に示すような重大な問題提起(ドラフト)に対して指針作成プロセスの途上で回答されなくてはならない。

I. どの特定ナノマテリアルが、低及び中レベル歳入国におけるナノテクノロジー労働者のリスク低減に最も関連があり、この指針は現在、どれに焦点を当てるべきか?

II. 低及び中レベル歳入国でこれらの特定のナノマテリアルを製造し加工するために用いられている一般的な産業プロセスは何であり、この指針はどれに焦点を当てるべきか?

III. どのハザードカテゴリー又はどの職業曝露限界(OEL)が特定のナノマテリアルにどのように割り当てられるべきか?

IV. 個々の特定ナノマテリアル及び産業プロセスにとって最も高い曝露状況は何か?

V. 産業運転の規模が変動する状況における曝露は、段階的アプローチにより、どのように評価することができるのか?

VI. 特定のナノマテリアルと特定の曝露状況について、特定のリスク軽減技術はどのように有効であるか?

VII. 特定のナノマテリアルと特定の曝露状況について、どのようなリスク軽減技術が用いられるべきか?


訳注:2012年1月6日現在のピアレビューコメント(21頁分)の日本語紹介は省略。

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化学物質問題市民研究会
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