WHO 専門家会議報告書 2012年12月
ナノテクノロジーと人の健康:
科学的証拠とリスク・ガバナンス


情報源:Report of the WHO expert meeting 10-11 December 2012, Bonn, Germany
Nanotechnology and human health: Scientific evidence and risk governance
http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0018/233154/e96927.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年11月13日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/WHO/2012_nano_scientific_evidence_risk_governance.html

報告書の結論を紹介します。
6. 結論

 ナノテクノロジーと健康に関する研究は、過去10年間着実に増えており、広範な知識を生成している。しかし、附属書2のWHO 背景文書 に記述されているように、ナノテクノロジーの健康影響に関するデータと証拠は決定的ということからは程遠いというのが一般的な合意である。いくつかのナノ物質の毒性と生態毒性は、生体外(in vitro)の毒性学的評価と職場における曝露に主に注力して記述されている。例えば、カーボンナノチューブ(CNTs)と二酸化チタンは職場において有害であるかもしれず、ナノ銀は環境的に関連する汚染物質かもしれないという徴候がある。しかし、その健康影響は明確ではない。第一世代のナノ物質は様々な応用や製品中で使用されているが、それらは直ちに健康問題を起こすようには見えない。一方、急速に増大するナノ物質の製造(したがって曝露の可能性)を考慮して、特に長期的影響について、研究により解明されるべきいくつかの疑問点がある。

 もし、科学的不確実性と証拠の出現がいまだにあるなら、そして、いくつかのナノ物質について、想定されている有害性の早期の兆候と人の健康への有害影響の可能性があるなら、予防的アプローチが望ましい。例えば、消費者製品、化粧品、食品添加物、技術的開発の速度、及び見込まれる応用の拡散を通じての、広範な集団規模の曝露の可能性が評価されなくてはならない。人の健康リスク評価のために活用することは難しいことではあるが、ナノ粒子の暴露と体内での分布、毒性学的メカニズム、及び可能性ある有害な健康影響についての正確な情報が必要である。化学物質の安全性に適用されている化学物質のリスク評価のための利用可能な方法論、現状の手順(プロトコール)及びテスト指針は、ナノ物質のリスク評価のベースとしては使用することができるであろうが、それらは変更される必要がある。代替されたあるいは変更されたモデルと枠組みは、ある程度、政治に情報を与えるために、ナノ物質の生物学的及び健康影響に関する利用可能な証拠を組織立てるために開発され適用されつつある。、公的そして時には私的機関のコンソーシアム(提携)によって開発されたこれらのアプローチの多くは、高度の複雑性と不確実性を認めており、したがって、それらは(フローチャート中で連続的な、あるいは体系な)いくつかの段階に基づいており、広範な利害関係者との協議に備え、ひとつのアプローチに焦点を合わせるより、むしろ代替の比較を必要とする。

 知識のギャップのために現在は、ナノ物質の健康リスクの決定的で信頼性のある評価を組織立てることが困難なので、利害関係者間の透明で公正な協議を確実にするために、様々なレベルで適切なメカニズムが配置されることが重要である。さらに、健康影響に関する利用可能な証拠を用い、可能な範囲でナノテクノロジーのリスク・ガバナンスの情報を与えるために、さらなる取り組みが取られなくてはならない。


化学物質問題市民研究会
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