ドイツ環境庁(UBA)2016年5月
環境中のナノ物質:
化学的安全性に関する知識と規制の現状

ドイツ環境庁の勧告

情報源:Federal Environment Agency (Umweltbundesamt/UBA), May 2016
Nanomaterials in the environment: Current state of knowledge and regulations on chemical safety
Recommendations of the German Environment Agency
http://www.umweltbundesamt.de/sites/default/files/medien/378/
publikationen/nanomaterials_in_the_environment.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年7月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/UBA/
May_2016_UBA_Nanomaterials_in_the_Environment.html

 内容

1. はじめに
2. 環境中での影響と挙動−知識の状態
 2.1 環境中での影響
 2.2 環境への放出
 2.3 環境中での挙動と存続
3. 化学的安全性に関する立法のさらなる開発
 3.1 一般的規則の適合のための要求
   3.1.1 ナノ物質のための定義の適用
   3.1.2 十分な物理化学的特性化
   3.1.3 ナノ物質リスク評価の適合
   3.1.5 ナノ特定物質グループとアナログアプローチの開発
 3.2 規制の不具合と調整の必要性
   3.2.1 化学物質
   3.2.2 化学物質及び混合物の分類・表示・包装
   3.2.3 殺生物製品と植物保護製品
   3.2.4 医薬品
3.3 ナノ物質を含む製品の登録
 3.4 環境ラベル
4. ドイツ環境省の活動
5. まとめと勧告
6. 2009年以来の UBA による出版
7. 巻末注
8. 付属書類


1. はじめに
 ナノテクノロジーは、ドイツ連邦政府の2020年ハイテク戦略の重要な技術のひとつである[1]。ナノテクノロジーはナノスケールの構造と材料の研究と開発、製造及びプロセスに関わる。そのようなナノ物質[2]は、従来の化学物質及び材料と比較して異なる又は完全に新しい特性を持つ。ナノ物質の応用分野で最も重要な分野は電子工学、エネルギー技術、化学及び材料開発を含むが、しかしまた、医薬品、コーティング、建築資材、及び織物製品もある。ナノ物質の特定の特性を用いることによって、改善された効率又は新たな機能が広範な製品と応用の分野で達成することができる。

 ナノテクノロジーは、例えばエネルギーと資源効率、廃棄物処分場の除染、又は水の純粋化の分野で、様々な環境的機会を提供することができる。しかし、ナノ物質とそれらの応用のダイナミックな開発は、製造量が増大していることを意味する。

 2009年にドイツ環境省(UBA)は、ナノテクノロジーの機会とリスクに関する背景論文を発表した[3]。当時、人間及び環境のための潜在的な利益と影響はまだ比較的新しい研究分野であり、潜在的な環境利益とナノ物質によってもたらされる可能性あるリスクに関していくつかの疑問が存在した。広範な科学的プロジェクトからの調査結果として、研究はもはや特性、挙動、及び影響だけに焦点を合わせるのではなく、ナノ物質の適切な規制のための評価ツールの適用にも目を向けている。

 現在に至るまで、わずかな例外を除いて、物質法の中にナノ物質のための特定の条項はない。結果として特定の環境リスクを適切に記述し評価することができず、リスクを最小化するための適切な措置をとることができない。従って、この報告書の主要な目的は、 UBA の観点から環境に関わるナノ物質に必要な更なる化学的規則の開発の概要を示すことである。それは特に化学的安全性に関する様々な規則の適合に関連する議論に関わる利害関係者及び政策決定者に目を向けている。最初にナノ物質の環境的挙動と影響についての知識の現状が示される。次に報告書は、ナノ物質の定義、それらの特性化、そして関連するリスクの評価のような規則の一般的な面を検討する。それはまた、既存の有効な物質法及び適合のための特定の要求におけるナノ物質の現状の検討を述べる。最後に UBA の活動及びこの題目に関する勧告が示される。


5. まとめと勧告
 ナノスケール形状の物質は必ずしもハザード又はリスクを有するということではない。しかし、ナノ物質は他の化学物質とは異なる特定の特性を持っている。昨年までに得られたナノ物質の特性、挙動、及び影響は、どの面がそれらの環境リスクのテストと評価を必要とし、規制要求に反映させなくてはならないかを特定する準備を可能としている。

  UBA の意見の中で、ナノ物質のリスクを最小にするための適切な措置をとるとともに、ナノ物質の特定の環境リスクを適切に記述し評価するための、化学的安全性の枠組みの中の重要な措置は次の通りである。
  • 化学物質の安全性に関する様々な規則の中で、調和のとれたナノ物質の定義の実施
  • 化学物質の安全性に関する規則の中で、特に REACH 規則の中で、また殺生物製品規則及び植物保護製品規則、及び人間用医薬品指令及び動物用医薬品指令の中で、ナノ特定要求を実施すること
  • ナノ物質の適切なリスク評価を提供するために化学物質規則の枠組みの中でハザードとリスク評価のためのガイドラインとモデルの適合を継続すること
  • 環境リスク評価のための手段の適合、ナノ物質特定のテスト・ガイドラインと環境的挙動と影響のテストのためのガイダンス文書の開発、及び物理化学的特性の適合を継続すること
  • 環境中のナノ物質のための特性化、及び、定性的・定量的分析の継続
  • 適切な評価を確実のものとする一方で、ナノ物質のテスト要求を減らすために物質のグループ化及びアナロジー(類似)概念を開発すること
  • ハザード・クラスとカテゴリーへの分類のために、ナノ形状に関連する適当な情報を利用すること
  • 特に化学物質の安全規則が十分にナノ物質に適合されていない限り、欧州レベルでナノ物質を含む製品の登録制度を導入すること
 これらの措置はまた、国家及び国際的な規制文書の中で工業ナノ物質を適切に考慮することを促すことに関してジュネーブにおける第4回国際化学物質管理会議(ICCM4)の SAICM [84]の決議をフォローするものである[85]。

 UBA の意見として、欧州委員会は建設的なやり方で REACH へのナノ物質についての特定の要求の実施はもとより、様々な規則の中でナノ物質の定義の提案の実施を督促すべきである。

 重要な規則と要求されるリスク評価手段の開発の実施と更なる開発に関して、 UBA は、他の欧州連合加盟国、欧州化学物質庁(ECHA) 、欧州食品安全機関(EFSA)、欧州医薬品庁(EMA)、欧州委員会(EC)、及び経済協力開発機構(OECD)はもとより、ドイツの他の評価機関や規制当局(BAuA, BfR)、連邦化学物質事務所、連邦環境省などと密接に協力し続けるであろう。他の上位の連邦当局(BAuA, BfR, BAM, PtB)と協力して開発されたナノ物質研究戦略はまだ追求の最中である。現在求められ、議論されているリスク評価のための個々の手段の適合は将来も適切であることを確実にするためにナノ物質の進歩のしっかりした進捗は注意深く観察されなくてはならない。


 7. 巻末注
1. nano.DE-Report 2013 - Nanotechnology in Germany today https://www.bmbf.de/pub/nanoDE_Report_2013_englisch_bf.pdf

2. The present document uses the definition of nanomaterials proposed by the EU Commission, October 2011: http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2011:275:0038:0040:EN:PDF with reference to technically produced nanomaterials.

3. Umweltbundesamt (2009), Nanotechnology for humans and the environment - Promote opportunities and reduce risk. https://www.umweltbundesamt.de/publikationen/nanotechnology-for-humans-environment

84 The Strategic Approach to International Chemical Management (SAICM) is an under international low, non-binding, overarching, political framework within the environmental programme of the United Nations (UNEP) for the international chemicals management.

85 http://www.saicm.org/images/saicm_documents/iccm/ICCM4/FINALmtgdoc/K1503356_en.pdf



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