スイス国立科学財団(SNSF)
2016年5月12日 プレスリリース
ナノ粒子は環境を通じてどのように流れるか


情報源:Swiss National Science Foundation (SNSF)
Press Release 12 May 2016
How nanoparticles flow through the environment
http://www.snf.ch/en/researchinFocus/newsroom/Pages/
news-160512-press-release-how-nanoparticles-flow-through-the-environment.aspx


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年5月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/SNSF/
160512_How_nanoparticles_flow_through_the_environment.html

 二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子は化粧品から急速に洗い出されが、カーボンナノチューブは長年物質に付着してとどまり、地面に蓄積する。国家研究プログラム ’ナノ物質の機会とリスク(NRP 64)の研究者らは、最も重要なナノ物質の環境中での流れを追跡する新たなモデルを開発した。

 どのくらい多くの人工ナノ粒子が大気、地面、又は水の中に流れ込んでいくのであろうか? これらの量を評価するために、ザンクト・ガレンにあるスイス連邦材料試験研究所(Empa)のベルンド・ ノーヴァクに率いられた研究者のグループは国家研究プログラム ’ナノ物質の機会とリスク’(NRP 64)の一環として、あるコンピュータ・プログラムを開発した(*)。このプログラムによる我々の見積りは、ナノ銀、ナノ亜鉛、ナノ二酸化チタン及びカーボンナノチューブの環境への蓄積について、現時点で最良の利用可能なデータを提供するでろう。

化粧品とテニスラケット

 今までのところ、静的な計算とは対照的に、彼らの新たな動的モデルはナノ物質の製造と使用の著しい成長を考慮するだけでなく、様々なナノ物質が様々な応用で使用されるという事実に対応している。例えば、ナノ亜鉛とナノ二酸化チタンは主に化粧品中に見出される。これらのナノ粒子の約半分は1年以内に排水系にたどり着き、そこから下水汚泥に入り込む。しかしカーボンナノチューブは複合材料に組み込まれ、製品中で固定化され束縛されており、例えばテニスラケットや自転車のフレームなどに見いだされる。従ってこれらの製品が廃棄物になり、焼却されたり、リサイクルされて、これらのナノ粒子が放出されるのに10年以上かかることがあり得る。

39,000 トンのナノ粒子

 この研究に関わった研究者らは、スイス連邦材料試験研究所(Empa)、チューリッヒ工科大学(ETH)及びチューリッヒ大学からの研究者である。彼らは、全ヨーロッパでのナノ二酸化チタンの年間推定製造量 39,000 トンを採用したが、これは他の全てのナノ粒子の合計(訳注:カーボンブラックは含まないと思われる)よりかなり多い。彼らのモデルは、このうちどれだけが大気、地表水、沈殿物及び陸地にたどり着き、そこに蓄積するかを計算する。EU では、汚泥の肥料としての使用(スイスでは禁止されている)は、対象となる土地でのナノ二酸化チタンの今日の平均濃度は、61 マイクログラム/キログラムである。

 しかし、環境中での蓄積の程度を知ることはナノ物質のリスク評価における第一歩に過ぎない。現在、このデータは生態毒性学テストの結果及び法的閾値と比較されなくてはならないと、ノーヴァクは述べている。現在まで、この新たなモデルを使ったリスク評価は実施されていない。しかし、静的モデルからのデータを用いた以前の研究は、調査された4つのナノ物質の全てについて決定された濃度が環境に影響を及ぼすことは予期されないことを示した(**) 。

 しかし、少なくともナノ亜鉛の場合には、その環境中での濃度はきわどいレベルに近づきつつある。このことは、ナノ亜鉛はナノ二酸化チタンより製造量が少ないのに、この特定のナノ物質は将来の生態毒性学研究で優先されなくてはならないことを意味している。さらに、生態毒性学テストは現在まで、主に淡水生物で実施されてきた。研究者らは、土壌中に生息する生物による補足的な調査が優先すると結論付けている。

(*): dT. Y. Sun et al.: Dynamic probabilistic Modelling of Environmental Emissions of Engineered Nanomaterials. Environmental Science & Technology (2016);oi: 10.1021/acs.est.5b05828

(**) C. Coll et al.: Probabilistic environmental risk assessment of five nanomaterials (nano-TiO2, nano-Ag, nano-ZnO, CNT, and fullerenes). Nanotoxicology (2016); doi: 10.3109/17435390.2015.1073812

(Journalists can obtain PDF versions of both publications from the SNSF: com@snf.ch)

連絡先
Prof. Dr. Bernd Nowack
Empa
Environmental Risk Assessment and Management Group
Lerchenfeldstrasse 5
CH-9014 St. Gallen
Tel. +41 (0)58 765 76 92
E-mail nowack@empa.ch



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