スイス国立科学財団(SNSF)
2012年11月2日 プレスリリース
植物防疫製品と肥料中のナノ物質


情報源:Swiss National Science Foundation (SNSF), 2 November 2012
Nanomaterials in plant protection products and fertilisers
http://www.snf.ch/E/media/pressreleases/Pages/2012.aspx?
NEWSID=1815&WEBID=F6B532FB-64ED-466F-8816-193D4DE8DC94


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年12月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/SNSF/121102_nano_in_agriculture.html

 農業におけるナノ物質の使用は、一方で、コストと手間を削減し効率を上げ、環境により適切な応用をもたらす。しかし他方で、土壌中の微生物に対する有害影響をもたらすであろう。これが、国家研究プログラム”ナノ物質の機会とリスク”(NRP 64)の中で書かれた文献レビューの著者による結論である。

 今の所、ナノ物質を含んだ植物防疫製品と肥料は市場ではまだ入手できないが、ナノ物質は農業分野で、とりわけ肥料や防疫製品中の添加剤又は有効成分として、重要な論点となっている。Agroscope Reckenholz-Tanikon Research Station(ART)及び連邦農業局の研究者らにより最近出版された文献レビュー論文によれば、この分野におけるナノ物質に関する科学出版物と特許の数は21世紀になって以来、急激に増加している(*)。 現在までに出版された約70の文献により、研究者はこの課題の概要を把握することができる。アメリカとドイツが特許という点では先頭を走るが、科学的文献の多くはアジア諸国で書かれている。

しばしば、従来のナノの範囲から外れている

 文献の約40%は炭素系(カーボン・ベース)のナノ物質を扱っており、二酸化チタン、銀、シリカゲル、アルミニウムが続く。ナノ物質は、固体粒子からポリマーや乳状液(エマルジョン)まで様々な形状や状態で調合することができる。材料開発は、しばしば天然及び化学的に分解可能な基礎材料に基いているということは注目に価する。使用されるナノ物質はしばしば100ナノメートルより大きく、したがって、その定義により古典的なナノの範囲を外れる。新たな植物防疫製品中では、とりわけナノ物質は、管理された方法で有効成分を放出するのに役立つ添加物としてしばしば使用される。

土壌中に1000倍流入する

 ナノ物質による植物防疫製品と肥料の潜在的な便益は、ナノ物質の土壌中への著しく高い流入により相殺される。専門家らは現在、この流入量は大気から放出される量よりも1000倍高いであろうと予測している。したがって、土壌中の微生物と作物もまたこれらのナノ物質に、より曝露するであろう。
 スイスの会社は、登録したいと望む新たな植物防疫製品中に含まれるどのようなナノ物質についても申告することが既に求められている。しかし、ナノ特有のリスク評価の国際的な基準はまだ開発途上である。国家研究プログラム”ナノ物質の機会とリスク”(NRP 64)の一部として、プロジェクト NANOMICROPS (有益な土壌微生物と作物に及ぼすナノ粒子の影響)は、農業的に重要な土壌や水のような環境的コンパートメント中のナノ物質を定量化するための分析手法を利用可能とするとともに、土壌微生物と作物のための生態毒性テストのシステムを開発することによって、これらの取り組みに貢献している。

(*) Alexander Gogos, Katja Knauer, and Thomas D. Bucheli (2012). Nanomaterials in Plant Protection and Fertilization: Current State, Foreseen Applications, and Research Priorities. Journal of Agricultural and Food Chemistry 60: 9781?9792 (available as a PDF from the SNSF; e-mail: com@snf.ch)

NRP64について
 国家研究プログラム”ナノ物質の機会とリスク”(NRP 64)の目的は、ナノ物質を使用することによる機会とリスクがもっと正確に評価できるようにするために研究のギャップをふさぐことである。23の研究プロジェクトの結果は、ナノ物質の製造、使用、及び処分のためのガイドラインの作成のための基礎となるであろう。これは、安全な技術の開発と応用を支え、ナノ物質使用の便益を最適化し、人と環境へのリスクを最小化するであろう。 NRP 64 は、1,200万スイスフラン(約10億円)の予算をもち、2016年まで実施されるであろう。



化学物質問題市民研究会
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