WWICS/PEN 2008年8月21日
米消費者安全委員会は
ナノ製品への準備ができていない

ナノ製品の安全を確保するための予算、権限、専門的知識がない

情報源:Woodrow Wilson International Center for Scholars (WWICS)
Project on Emerging Nanotechnologies (PEN)
Augustr 21, 2008
Consumer Product Safety Commission Not Ready For Nanotech
Agency lacks budget, authority and expertise to ensure nanoproducts are safe
http://www.nanotechproject.org/news/archive/cpsc/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年11月3日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/PEN/080821_CPSC.html


 【ワシントンDC】新興ナノ技術プロジェクト(PEN)により発表された新たな報告書によれば、米消費者製品安全委員会(CPSC)の子どもの宝石やおもちゃの汽車のような単純でローテクな製品に対する任務遂行の無能ぶりは、ナノテクノロジーを用いて作られた複雑でハイテクな製品の安全性を監督する能力がないことを示す前兆である。

 同委員会の管轄下にある二つのナノテク製品が北京オリンピックで用いられている。シューズと水着である。これらの製品は、現在800以上の製造者申告に基づくナノ製品を掲載するPENの消費者製品目録中で見つけることができる。

 ”同委員会は、たとえば哺乳びんの乳首、幼児の歯固め、塗料、ワックス、台所用品、家電製品などもその一部とする現在市場にある数百のナノ製品が安全であることを確実にするための予算、権限、科学的専門知識を持っていない。この問題は、もっと複雑なナノテクノロジーに基づく製品が消費者市場に入ってきたために、ますます悪くなっている”と、ハーバード大学ケネディー校で教鞭をとり、報告書『米消費者製品安全委員会とナノテクノロジー The Consumer Product Safety Commission and Nanotechnology』の著者である E.マルラ・フェルチャーは主張している。

 同委員会は、消費者製品に関連する怪我や死亡の不合理なリスクから公衆を守ることが任務である。15,000以上の消費者製品が同委員会の管轄下にあり、それらには、おもちゃやベビー用品、スポーツ用具、フィットネス用具、住居の手入れ及び園芸用品、衣類、家電、電子機器やコンピュータなどが含まれる。PENによって維持されている消費者製品目録は、ナノテクノロジーがこれらのあらゆる製品カテゴリーに入り込んでいることを示している。

 ”2007年秋に、多くのアメリカ人は30年間禁止されていた製品中の鉛の有害性に直面した。鉛を含む数百万の子どものおもちゃが回収された時に、政府は監督に失敗しており、これらのおもちゃの監督について第一義的に責任のある同委員会は、長年の無視、乏しい予算、そして製造システムの世界的拡大によって及ぼされる難題によって精魂尽き果てている”とPENのディレクター、デービッド・リジェスキーは述べている。”我々が質問する必要があるのは、この背景に対してである。同委員会は、乳児の乳首から塗料、家電、衣類にいたるまで、現在、製造者申告で800以上あるナノ製品に関連するナノテクノロジーを扱うために適切に準備ができているのか?”

 PENの新たな報告書の発表は、おもちゃの中の鉛を排除し、永久に又は暫定的に子ども用品から6種のフタル酸を禁止する法案に大統領が署名した後に続くものであるが、これらの製品は同委員会の管轄にある。フタル酸は主に、ビニールに柔軟性をもたせるために使用されており、おもちゃ、園芸用ホース、電線とケーブル、建設用資材、床材、自動車内装、及び医療器具を含む数千の製品中に見出される。

 フェルチャーの報告書は、フタル酸によって提起されている問題とナノ物質によるものとの間に多くの類似があるとしている。フタル酸を含む製品と同じ製品の多くが現在ナノ物質で作られている(たとえば、幼児用乳首と歯固め)。フタル酸とナノ物質の両方ともに肺や消化器官のような複数の経路からヒトの体内に入り込むことができ、アメリカではナノ物質の管轄はフタル酸の管轄のように米環境保護局(EPA)と食品医薬品局(FDA)を含んで複数の機関にわたっている。

 しかし、これらの類似にも関わらず、フタル酸とナノ物質は二つの重要な点で異なっているとフェルチャーは述べている。第一に、フタル酸は、動物とヒトの健康への影響、たとえば精子数の減少や生殖系異常との関係に関する多くの科学的研究の対象となってきたが、一方、ナノ物質に関する潜在的な慢性的有害性のについてはほとんど知られていない。第二に、ナノ物質は、科学的にはフタル酸よりもはるかに多様であり、その毒性を理解するうえで複雑である。

 ”立法策定者が、おもちゃにおける鉛とフタル酸の使用をやめるための政治的意思を決定するのに数十年かかった。潜在的に危険なナノ物質について研究し、製品での使用を止めることを確実にするために非常に長い時間がかかるであろう”とリジェスキーは述べている。

 新たなPENの報告書は、消費者製品中のナノ物質の監督を改善するために消費者製品安全委員会の助けになるであろうとフェルチャーが信じる多くの勧告を含んでいるが、それらには下記がある。
  • 消費者製品安全委員会のナノ技術についての知識ベースと専門的知識を築くこと

  • 現在ナノ製品を製造している会社と産業を特定し、消費者製品安全委員会の科学者がナノ製品の安全性を評価することを可能とする調査研究、リスク評価データ、さらにはどのような手持ちの情報でも提出することを求めること

  • 製品中のどのようなナノ物質をも特定するよう製造者に求める権限を消費者製品安全委員会に与えるために消費者製品安全法を改正するよう議会を督促すること

  • 1970年最終報告書中で製品安全に関する国家委員会によって勧告された消費者製品安全法案のひとつの節を議会は採択すること。それは、消費者製品安全委員会にナノテクノロジーを含んで新規又は新興の技術に基づく”新たな”消費者製品のための安全基準を普及させるための権限を与えることになる。


化学物質問題市民研究会
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