欧州委員会共同研究センター(JRC) 2015年7月10日
欧州委員会ナノ物質定義のレビューのための
オプションを発表


情報源:Joint Research Center (JRC) July 10, 2015
Options for the review of the EC nanomaterial definition published
https://ec.europa.eu/jrc/en/news/ec-nanomaterial-definition-published?search

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年7月19日
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 JRC は、ナノ物質の定義に関する欧州委員会勧告の明瞭さと実際的な応用を改善するための科学に基づくオプションを発表した。これは、特定の規定(例えば、成分表示、又は安全評価)を適用する時にナノ物質を特定するために用いられる定義のレビューにおいて欧州委員会に科学的支援を提供する JRC 報告書 3 部作(訳注1)のうちの最後のものである。

 定義は、異なる規制分野でも広く適用可能であるべきなので、天然由来、非意図的、及び工業的ナノ物質を含みつつ、ナノ物質の根幹に関わる定義の範囲は変えないことを報告書は提案する。さらにナノ物質の唯一の定義特性としてのサイズは、ナノスケールの定義としての 1 nm 〜 100 nm の範囲とともに、維持されるべきである。

 一方、いくつかの問題は、定義の明瞭化、及び/又は、追加的な実施ガイダンスの提供という見地から注目に値するように見える。それらは下記項目を含む。
  • ”粒子”、”粒子サイズ”、”外形寸法(external dimension)”、及び”構成粒子(constituent particles)”という用語

  • 粒子数比率の現在の閾値 50%(粒子の半数以上が 1nm〜100 nm の範囲内の 1 又はそれ以上の外形寸法を持つなら、その物質はナノ物質である)の変更がもたらす影響: 可変の閾値は、規制当局がある応用分野の特定の関心事を処理することを可能にするが、また同時に顧客を混乱させ、応用の分野に基づく同じ物質の一貫しない分類をもたらすかもしれない。

  • 単位体積当たりの比表面積(VSSA)の役割りに関する曖昧さ: VSSA の潜在的な使用を明瞭にし、現在の用語から生じる曖昧さを無くすべきである。

  • ある物質がナノ物質ではないことを証明する手法: 現在の定義ではある物質がナノ物質ではないことを証明することが非常に難しい。この問題は追加的な基準を加えることにより解決することができるであろう。

  • 明示的に含まれる物質のリスト(例えば、たとえ 1 又はそれ以上の外形寸法が 1 nm 以下であってもフラーレン、グラフェンフレーク、単層カーボンナノチューブ): このリストはカーボンナノチューブと同様な構造をもった非カーボンベースの物質を含まない。現在のリストの修正(又は削除)は矛盾を回避することができるであろう。

  • 定義における明瞭な表現は、ナノ粒子を含む製品はそれ自身がナノ物質になるという誤解を防ぐことができるであろう。

 報告書の中で提示されている問題の多くは、新たな又は改善されたガイダンスを開発することにより明瞭にすることができる。また、定義そのものの明瞭化の範囲を越える特定のガイダンスの必要性が特定されている。しかし、定義の本質的な部分についてガイダンス文書だけに頼ることは実施及び意思決定時に意図しない相違をもたらすかもしれない。従って、定義そのものの中にもっと明瞭さを導入する可能性が上記にリストされ、この報告書の中で議論されている。

 JRC は、定義のレビュープロセスとEUにおける立法の実施を支援し続けるであろう。

背景

 ナノ物質に関するEU 勧告(2011/696/EU)は、2011年に採択された(訳注2)。その条項は経験と科学的及び技術的発展に照らしたレビューの要求を含んでいる。レビューは特に、50%というサイズ数分布閾値を高くする又は低くするかどうかに注力すべきである。欧州委員会は、2015年末までにその所見を利害関係者と協議してから、2016年のレビューで結論を出すことを期待している。

 欧州委員会のナノ物質定義は現在、殺生物剤および医療機器に関する規制に使用されている。それはまた、化粧品及び食品情報規制の中で古いナノ物質の定義の修正の中で参照として資する。さらに、欧州委員会は、化学物質の登録、評価、認可、制限に関する規則(REACH)に関連する潜在的なナノ物質特定条項の脈絡の中でこの定義を使用する方法を考えている。加えてその定義は、すでに業務の中でその適用を開始している欧州化学物質庁(ECHA)や欧州食品安全機関(EFSA)のようなEUの機関により使用が勧告された。


訳注1:JRC 報告書 3 部作
訳注2
 欧州委員会2011年10月18日 ナノ物質の定義に関する勧告



化学物質問題市民研究会
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