米国会計検査院(GAO) 2010年5月25日
ナノテクノロジー:ナノ物質は市場で広く使用されているが
EPAはリスクを規制する課題に直面している

サマリー

情報源:United States Government Accountability Office (GAO) May 25, 2010
Nanotechnology: Nanomaterials Are Widely Used in Commerce, but EPA Faces Challenges in Regulating Risk
Summary http://www.gao.gov/Products/GAO-10-549

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年6月28日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/GAO/GAO_100525_nano_EPA.html

 ナノテクノロジーはナノメートル、すなわち10億分の1メートルのスケールで物質を制御する能力を伴う技術である。ナノ物質を含む製品の世界の市場は、2015年までに2.6兆ドル(約260兆円)に達するであろうと予測されている。
 この文脈において、米国会計検査院(GAO)は、(1)ナノ物質の現在及び潜在的な使用の例を特定し、(2)ナノ物質からのヒト健康と環境への潜在的なリスクについて何が分かっているのかを調べ、(3)ナノ物質によって及ぼされるリスクをよりよく理解し規制するために、EPAがとってきた行動及びそのために必要な権限について評価し、(4)ナノ物質に関連する潜在的なリスクに対応するために、他の選定された国の権限及び米国の州がとったアプローチを特定した。
 GAOは、選定された法律と規制を分析し、EPAの「ナノスケール物質スチュワードシップ・プログラム」をレビューし、ナノ物質を規制するためのEPAの権限に関する彼らの展望を得るためにEPA高官と法律専門家らと協議した。

 世界中の企業は現在、多くの産業分野にわたり製品中で使用するためにナノ物質の特性を利用しており、これらの物質のための新たな用途を見つけようと努力し続けることが予想される。
 GAOは、下記8つの産業分野で、商業的にすでに利用可能なナノ物質を現在導入している様々な製品を特定した。自動車;防衛及び宇宙;電子及びコンピュータ;エネルギーと環境;食品及び農業;住宅及び建設;医療及び薬品;身の回り品、化粧品及びその他の消費者製品。
 これらの産業分野の中でGAOはまた、現在開発中及び将来利用可能となることが期待される広範な様々な他の用途を特定した。
 ナノ物質がヒト健康と環境に及ぼすリスクの程度は、特定のナノ物質の毒性とこれらの物質への曝露の経路とレベルの組み合わせに依存する。ナノ物質に関連する研究は増大しているが、これらの物質によって及ぼされるリスクについての現状の理解は限定されている。これは、今までにある研究で実施されていた手法では、新たな研究と有効な比較ができない、又は、あるナノ物質には大きな焦点を当て、他のナノ物質には当てないためである。
 さらに、ナノ物質の毒性とリスクに関する必要な研究を実施する能力及びそのような研究を実施するためのツールが欠如していること、及びナノ物質の特性を予測するモデルが欠如していることにより、さらに妨げられるかもしれない。
 EPAはナノ物質のリスクを理解し、規制するために、研究の実施と自主的データ収集プログラムの実施を含んで、多面的なアプローチを取ってきた。さらに、EPAの既存の権限の枠組みの下に、EPAはいくつかのナノ物質を規制したが他の物質については行なっていない。
 EPAは、今年の後半に追加的な規制をすることを計画しているが、これらの変更はまだ発効されておらず、製品の潜在的なリスクに関する全ての利用可能な情報をEPAがレビューすることなく、市場に出されているかも知れない。
 さらに、EPAは、大気、水、廃棄物中に排出されるかもしれないナノ物質を効果的に規制するという難題に直面しているが、それは、これらの物質を監視し、特性化する技術が欠如しているため、又は、法がボリューム・ベースの規制の閾値を含んでおり、それらはナノ物質の製造と処分を効果的に規制するためには高すぎるためである。

 アメリカと同様に、オーストラリア、カナダ、イギリス、及び欧州連合は、ナノ物質に関連する潜在的なリスクを理解するためにデータ収集を開始しており、彼らの法的権限の修正の必要性を決定するために、それらの見直しを行なっている。
 オーストラリアとイギリスは自主的なデータ収集アプローチを取っているが、カナダはある種の情報の提出を会社に求めることを計画している。
 カリフォルニア州のようないくつかのアメリカの州もまた、例えば州内で使用される限定された数のナノ物質に関し、製造者から情報を収集し、この情報のあるものを公開することにより、ナノ物質からの潜在的なリスクに対応し始めている。

勧告
 この作業からの我々の勧告は、更なる情報のための連絡先とともに、下記にリストされている。状況は、作業のフォローアップに基づき、”処理中”から”継続中”、”実施済みで終了”又は”未実施で終了”へと変化する。

Director: Anu K. Mittal
Team: Government Accountability Office: Natural Resources and Environment
Phone: (202) 512-9846


行政的措置勧告
勧告:EPA長官は、ナノ物質のための重要新規利用規則(Significant New Use rule SNUR)を発行するという計画を完了させるべきである。
機関:環境保護庁
状況:処理中
コメント:EPAがこの勧告に対応してとった措置を確認した時には、情報を更新してお知らせする。

勧告:EPA長官は、農薬中のナノ物質成分を特定することを申請者に求めるために、連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(FIFRA)農薬規制ガイドラインを修正すべきである。
機関:環境保護庁
状況:処理中
コメント:EPAがこの勧告に対応してとった措置を確認した時には、情報を更新してお知らせする。

勧告:EPA長官は、すでに登録されている農薬、及び、登録しようとされている農薬中のナノスケール成分はEPAに報告されるべきとすること、及び、EPAがナノスケール成分は新規であるとみなすであろうこと−を明確にするための計画を完了させるべきである。
機関:環境保護庁
状況:処理中
コメント:EPAがこの勧告に対応してとった措置を確認した時には、情報を更新してお知らせする。

勧告:EPA長官は、既存の環境法の下で情報を収集するためのEPAの権限の使用をより大きくすべきである。特に、EPAは、ナノ物質に関する情報を収集するためにTSCAの下に、製造量、製造及び加工方法、曝露と放出、及び入手可能な健康と安全研究を含んで、EPAのデータ収集及びテスト実施権限を利用する計画を了させるべきである。
機関:環境保護庁
状況:処理中
コメント:EPAがこの勧告に対応してとった措置を確認した時には、情報を更新してお知らせする。

勧告:EPA長官は、既存の環境法の下で情報を収集するためのEPAの権限の使用をより大きくすべきである。特に、EPAは、ナノ物質を含む潜在的な排出についての情報を収集するために水質浄化法の情報収集条項を利用すべきである。
機関:環境保護庁
状況:処理中
コメント:EPAがこの勧告に対応してとった措置を確認した時には、情報を更新してお知らせする。

勧告:EPA長官は、EPAがナノ物質の製造と使用に関する情報を把握することができるよう、そしてEPAがこの物質に関する定期的な更新を受けることができるよう、有害物質規正法1976(TSCA)のインベントリー更新規則を修正することを検討すべきである。
機関:環境保護庁
状況:処理中
コメント:EPAがこの勧告に対応してとった措置を確認した時には、情報を更新してお知らせする。


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