FoE 新興技術プロジェクト 2014年9月22日
農業におけるナノ物質使用のレビュー
多くのリスクと不確実性を明らかにする


情報源:Friends of the Earth Emerging Tech Project, Sep 22, 2014
Review of nanomaterials in agriculture highlights multiple risks and uncertainties
Posted by Louise Sales on Sep 22, 2014 in Featured
http://emergingtech.foe.org.au/review-of-nanomaterials-in-agriculture-highlights-multiple-risks-and-uncertainties/

掲載日:2014年10月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_140922_nano_in_agriculture.html

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 工業ナノ物質と農作物との間の相互作用及び食品安全性の関連に目を向けた最近のレビューは、重大な健康と環境の問題に我々をさらすかもしれない不安にするような産業界の様子を描いている。

 そのレビューは、工業ナノ物質(ENMs)の食用植物に及ぼす影響を特定又は示唆している多くの研究について議論し、食品の安全性と品質にとって潜在的に重大な影響があると結論付けている。

 そのレビューは以下のように結論付けている。
 ”工業ナノ物質(ENMs)と作物の相互作用の詳細の多くは、ENMs の作物から人間への伝達の可能性、他の土壌汚染物質による ENMs の汚染影響、植物の摂取とストレス反応のメカニズム、及びこれらの相互作用プロセスに影響を与える環境要因などを含んで、よく理解されていない状態のままである。そのような ENMs と作物の相互作用の限定された知識をもって、ENMs を含有する環境での食品の品質、数量、及び安全性を評価することは不可能である”。

 2014年5月に我々は、食品と農業におけるナノ物質使用を見る報告書『なんとわずかなことか(Way too little)』を発表した。我々は、農業分野において、ナノ物質がどの程度、食物の生産、保管、及び輸送に用いられているのかを決定することは難しいということがわかった。

 このレビューは、ナノ物質の農業での使用及び、食用作物に使用されるナノ物質が我々の健康に影響を及ぼすかどうかを決定するために必要な情報の欠如に関する懸念の理由を強調している。ナノ物質が農業でどのくらい使用されているのかに関する情報も欠如しているので、消費者は完全に暗闇に閉ざされたままである。

 繰り返しになるが、規制当局は、何もしないで早急に対応すべきことを正当化する豊富な証拠を無視するのを止めなくてはならない。

 このレビューは4つの領域における既存の文献を調べた。
  1.環境中における農作物の ENMs への暴露
  2.食用植物の ENMs の摂取、移行及び分布
  3.ナノ物質が食物連鎖に入り込む可能性
  4.形態学、生理学、及び遺伝学レベルでの ENMs の農作物への影響

1. 農作物の ENMs への暴露

 このレビューは、ENMs は環境中の’いたるところ’にあり、濃度を測定している実際のデータは少ないが、その濃度は増加しているらしいことを発見した。暴露経路には、農地に施される下水汚泥、農業化学物質の直接施用、水系、及び大気伝達からのナノ物質などがある。これらの暴露経路の多くは、ほとんどわかっていない。

2. 食用植物の ENMs の摂取

 小麦、米、ゴーヤー、キュウリ、トウモロコシ、タマネギ、ズッキーニ、トマト、カボチャ、大豆、レタスなど様々な食用植物の、様々な ENMs の摂取に目を向ける多くの研究がある。

 摂取は、根及び葉の両方を通じて起きるかもしれない。植物中での摂取、移行及び分布は、ENMs の暴露条件、サイズ、表面電荷、親水性、表面コーティング、ENMs のタイプ及び植物のタイプのような多くの要素に依存するであろう。この複雑さが、特定の ENMs 又は特定の食用作物のどちらに関しても、現在は、明らかな結論には達することができないということを示唆している。

 植物中への粒子の移送及び分布は素早く起こる。ある研究で ENMs は、ひまわり、トマト、エンドウ及び小麦が、カーボンコーティングされた磁性ナノ粒子に暴露されてから24時間後には新芽の中で検出された。

 様々な ENMs が、様々な作物の茎、葉、 葉柄、実の中に移行することが示されている。

 根の摂取を理解することの重要な要素は、 ENM の土壌との相互作用を理解することである。いくつかの研究が、土壌の微生物への影響、及び土壌の組成と活動の変化を示している。

 土壌は、ENMs の植物に対する安定性と利用可能性を物理的及び化学的に変えることができる。また、土壌中の ENMs が、金属、有機塩素系農薬及び医薬品のような土壌中の汚染物質の生物学的利用能を高めるかもしれない。

3. ナノ物質の食物連鎖への移行

 特に懸念されることは、食用植物の可食及び生殖組織で見い出される ENMs が、それらを消費する人間に移行するかどうかということである。いくつかの研究が生物蓄積性は可能であることを示唆しているが、このレビューは、”食品安全指針と政策の開発を可能とするために、この重要な領域において相当な作業が必要である”と言及している。

 コメに着目したある研究は、種子を通じてのナノ物質の後代への伝達を発見し、ENMs が長期的な慢性曝露ハザードを示すかもしれないことを示唆している。

4. 農作物への影響

 ENMs の植物への影響は、様々な暴露シナリオの下に、微細な変化から形態学的及び遺伝子発現の変化までの広い範囲の影響が、広くテストされている。いくつかの ENMs への暴露による作物への有益な影響の証拠もあるが、今日までの研究は、より大きな否定的影響を示している。否定的な影響には、種子及び実生の段階における成長抑制、酸化ストレス、光合成の変更、及び植物の移送メカニズムの損傷などがある。遺伝的損傷には、生合成経路における遺伝子発現の著しい変更、染色体異常、及び様々な染色体切断等を含み、これらのあるものは ENMsへの暴露の3時間という短い時間に起きると言われている。

 ENMs による損傷はまた、摂取しなくても起こり得る。ある研究によれば、多層カーボン・ナノチューブ(MWCNTs)は根の表面に付着し、表皮組織に穴をあけ、損傷とストレスを引き起こす。

 食用作物における ENMs の摂取はまた、栄養価と食用作物の生産高に影響を及ぼすかもしれない。

 いくつかの研究は、マメ科植物の窒素固定は ENM 暴露に対して非常に敏感であり、生産高を損なうかもしれないことを示唆している。

 ENM で汚染された土壌で育った作物の栄養レベルは下がるかもしれない。ある研究によれば、酸化セリウムに暴露した米の収穫は、鉄分、プロラミン、グルテリン、ラウリン、吉草酸(valeric acid)及びデンプンのレベルが低い。これらのテストは、ENMs が食用香料、抗酸化剤含有量、及び栄養レベルに影響を与えることができることを示唆している。

 このレビューで提起された論点のほとんどについて、明確な結論に到達するためのデータが十分でない。問題は、よく開発されていない測定と検出ツール、及び ENMs に関連する環境、健康、及び安全についての研究の現状における欠如により悪化させられる。



化学物質問題市民研究会
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