FoE 報告書 2010年11月
ナノテクノロジー、気候、エネルギー:
過熱気味の約束と熱気?

(エグゼクティブ・サマリーと背景)

FoE オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカ
著者:イアン・イルミナト及びジョージア・ミラー

情報源:A report by Friends of the Earth Australia, Europe and United States
Written by Ian Illuminato and Georgia Miller
November 2010
Nanotechnology, climate and energy: over-heated promises and hot air?
http://nano.foe.org.au/sites/default/files/Nanotechnology,
%20climate%20and%20energy%20-%20over-heated%20promises%20and%20hot%20air%20text%20only.pdf


掲載日:2011年2月7日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE/FoE_nano_climate_energy.html

エグゼクティブ・サマリー
 世界で、気候変動、資源の枯渇、汚染、水不足についての懸念が増大する中で、ナノテクノロジーは、新たな環境的救世主として宣伝されてきた。支持者らは、ナノテクノロジーは効率的で、安価で環境的に適切なエネルギー技術をもたらすであろうと主張してきた。彼らは、高度に精密なナノ製造と強力なナノ物質のより少量の使用が、経済活動と資源利用の間のつながりを断ち切るであろうと予言している。簡単に言えば、ナノテクノロジーは環境コストを大いに低減しつつ、現状の経済成長と消費拡大を可能にすると主張している。

 この報告書で、地球の友は初めて、産業側の”グリーン”主張を精査する。我々の調査は、ナノテクノロジー産業が過大な約束をし、実行していないことを明らかにする。ナノエテクノロジーの環境的能力についてなされた多くの主張と、近く市場にでると主張して会社がうるさく宣伝する躍進は現実とはほど遠い。さらに悪いことには、ナノ産業成長のエネルギーコストと環境コストは予想よりもはるかに高い。

 我々はまた、彼らの”グリーン”という美辞麗句にも関わらず、アメリカ、オーストラリア、イギリス、メキシコ、日本、サウジアラビアがもっと多くに石油とガスを見つけて採掘するためにナノテクノロジーを開発するための公共基金を使用していることを明らかにする。ハリバートン、シェル、BPアメリカ、エクソン・モービル、ペトロブラスを含む世界の巨大な石油化学会社が、石油採掘を増やすための研究に資金を出すために共同コンソーシアムを設立している。

 ナノベースの再生可能エネルギーの能力は予想よりはるかに低い。ナノ太陽パネルによる太陽エネルギー変換効率はシリコン・パネルによって達成されたものより約10%低い。再生可能エネルギーの研究室での実績を市場に出すための技術的課題は、多くの場合、法外に金がかかる。米国科学技術大統領諮問委員会は、世界におけるナノテクノロジーに基づく製品のわずか1%だけが、エネルギー及び環境分野に関わるものであると2009年に報告した。

 ナノ物質の製造のためのエネルギー要求と環境的影響は意外にも大きい。カーボン・ナノチューブの製造は、等価の重量ベースで、アルミニウム精錬に要するエネルギーの13〜15倍のエネルギーを、鉄鋼製造のためのエネルギーの95〜360倍のエネルギーを必要とする。アメリカの研究者のチームは、単層カーボン・ナノチューブは、”知られている限り最もネネルギー消費の多い物質のひとつ”かもしれないと述べている。

 ナノ物質製造のための大きなエネルギー要求のために、省エネ分野のいくつかのナノ応用でさえ、エネルギーコストが問題となる。例えば風力発電の風車の羽をカーボン・ナノフィバーで強化して羽を軽くしても、ナノの羽を作るために必要なエネルギーのために、初期のライフサイクル・アナリシスは従来の風車の羽を使用する方がエネルギー効率が良いということを示している。

 多大な宣伝がなされている水素分野におけるナノ開発は、まだ非常に初期の段階である。水素によって生成される再生可能なエネルギーによって動く自動車が、CO2排出削減が重要な期間である今後10年又は20年の間に実際に道路を走るようになるということは実現しそうにない。

 ほとんどのナノ製品はエネルギー分野のために設計されておらず、そのままエネルギーコストになっている。超強化ナノ・ゴルフクラブ、しわ隠しナノ化粧品、色彩強化テレビ・スクリーンは製造するのに大量のエネルギーを消費しており、環境的負荷削減に何も貢献していない。

 ナノ製造の環境的要求は従来の物質のそれより高い。ナノ製造は水と溶剤の使用量が非常に多い。大量の有害物質が使用され、あるいは副産物として生成される。コンピュータと電子製品で使用されるナノ製品を製造するために用いられる材料の1パーセントの10分の1しか、最終製品に含まれていない。すなわ使用される材料のち99.9%は、廃棄物となる。

 重大な不確実性があるが、エネルギーの生成、保存、効率的な応用に使用されるあるナノ物質は健康と環境にリスクを及ぼすことがあることを示す研究がますます増えている。カーボン・ナノチューブは、電子機器、エネルギー関連、車や航空機の特別な部品での使用が宣伝されている。しかし、初期の研究では、ナノチューブのある形状のものは、アスベスト曝露に関連する致命的ながんである中皮腫を引き起こすことが出来ることを示している。

 ナノ物質の環境への放出もまた、強力な温室効果ガス排出の生成を加速する結果となる。抗菌剤のナノ銀は、衣類、洗浄用品、線維製品、身体手入れ用品、表面コーティング等で広く使用されている。まだ準備段階の研究ではあるが、ナノ銀が典型的な廃水処理設備で見出されるものと同様な汚泥に曝露すると、強力な温室効果ガスである酸化窒素は、汚泥から4倍排出されることを示している。

 ナノテクノロジーは、我々の環境フットプリントを相当量減らすとしても、無条件の環境救世主ではなく、ソックスから顔クリームまであらゆるものへの用途の拡大が安易さを求めることを可能にするわけではない。せいぜい、そのような主張は推進者の願望的な思考の結果として解釈することができ、最悪、見せかけの環境保全であるように見られることになる。

 ナノテクノロジーは、我々が自然の力を利用してエネルギーを使用し蓄える方法への新たなアプローチを生み出す可能性を持っている。それにもかかわらず、地球の友は、全体としてはこの技術は巨大なエネルギーと広範な環境コストをもたらすとものであると警告する。ナノテクノロジーは、新たな危険な世代を導入する一方で、化石燃料と既存の有害化学物質への我々の依存を深めつつ、最終的には世界経済拡大の次の波を促進するかもしれない。さらに、それは、我々の製造及び消費のシステムに自然の永久部分を変換し統合するかも知れない。

更なる情報:http://nano.foe.org.au


背 景
 無駄で不公平な消費と製造は、壊滅的な環境影響をもたらした((UNEP 2010)。砂漠化、塩害、大気と土壌の汚染、飲料水不足、生物多様性の巨大な喪失、魚資源の急減、耕作地とビルディング、食糧穀物、バイオ燃料との競合の増大が、21世紀の最初の10年を特徴付けている。

 同時に、生態系と公共サービスが極限まで乱用されているので、世界の富める者と貧しい者との不公平が拡大している1。2008年と2009年は、かつてない最悪の世界的食糧危機に直面した。数十年間の医学の進歩にも関わらず、世界の17億から20億の人々が生命を救う基本的な医療を適切にあるいは全く受けることが出来なかった(UN Millennium Project 2005))。

 気候変動と地球温暖化は、”我々の世代の人間開発問題を定義する”メタプロブレムとしてみることが出来る(UNDP 2007, 1)。もし何もしなければ、気候変動は、海の酸性化、生物種の喪失、作物耕作地の喪失、淡水資源の減少を促進すると予測される。同時に、もっと激しい気候現象、作物不作、海面上昇は、新たな環境難民の波と病気のパターンをもたらすかもしれない。世界の最も貧しい人々はこれらの変化の負の影響を不公平に負担することになるであろう(UNDP 2007)。

 米航空宇宙局(NASA)は、すでに環境に及ぼす地球気候変動の影響を報告している。NASAによれば、”氷河は縮小し、川と湖の氷の氷解は早まり、植物と動物の相は移動し、樹木の花は早く咲いている。過去に科学者らが地球気候変動の結果として予言した影響が今、現実に起こりつつある。海の氷の消失、海面上昇の加速、熱波の長期化と激化(NASA n.d.)”。

 世界中の政府は、2020年までに1990年レベルの25-40%削減、2050年までに85-90%削減という気候変動に関する政府間パネル(IPC)による勧告に沿った温室効果ガス排出削減の政策目標に合致するよう努力してきたが、一方産業界は新たな経済的機会を潜在的に(二酸化炭素が)削減された将来の市場の中に見出そうと努力してきた。政府や産業が行動、消費、又は製造を変更することを求めずに排出抑制を達成する”手軽な”代替エネルギー、サービス、商品を生み出すために、技術分野に新たな見直しの目が注がれている(Oakdene Hollins 2007)。

 壊滅的な気候変動の可能性についての懸念があるので、化石燃料に代わる持続可能で再生可能なエネルギーへの投資への強い公衆の支持がある。しかし、非常にしばしば、産業と政府は、深刻な環境リスク、コスト又はチャレンジ(例えば原子力を気候変動の”グリーン”な解決、又は”クリーンな石炭”という矛盾)の証拠があるにも関わらず、環境の救世主として”環境保全”という見せかけの厚化粧をして新たな(又は古い)技術を推進する準備をしている。ナノテクノロジー周辺の誇大広告はこのようなパターンである。

 ”小さな科学”と呼ばれるナノテクノロジーは、政府と産業による一貫した、そしてしばしば無条件の推進の対象であった。ナノテクノロジーは最終的な”Techno-fix(技術で直す)”として市場に出されている。あるものは、ナオテクノロジーは、エネルギー消費と温室効果ガスの排出を削減する一方で、安易な成長を続けさせることを許しつつ、資源利用と経済的拡大の結びつきを断ち切るであろうとすら主張している。

 ナノテクノロジー推進者らは、それは経済の拡大を加速し、化石燃料の採鉱を拡大し、空の旅を快適にし、消費者製品の新たな世代をもたらすことを可能にすると示唆するが、これらの全ての環境的コストは大幅に過少評価している。いくつかのメディアの次の見出しは、いかにナノが誇大に宣伝されるようになったかを示している。”ナノテクノロジーと炭素回収貯留(訳注1)は燃料と化学物質の無限の供給を生み出すことが出来る(Parrish 2010)”;”ナノテク・プロセスは面積当り安価な太陽パネルを製造することが出来、最終的に低価格な太陽エネルギーを約束する(lightbucket 2008)”;”ナノは炭素含有燃料又は製品の永久で無尽蔵な供給を可能とする(Parrish 2010)”。

 地球の友の調査結果は、これらの主張が置き忘れられていることを示している。、ナノテクノロジーは、困難を解決する特効薬の提案からはほど遠く、実際には新たなエネルギー・コストと環境コストを我々に課すかも知れない。


訳注1:炭素回収貯留
国立環境研究所/地球環境センター/二酸化炭素を回収・貯留する技術とは?
 現在のところ、火力発電所などの二酸化炭素(CO2)濃度が高い排ガスからCO2を回収し、地中や海底に貯留する技術は実用化されています。CO2貯留量の限界や大気への漏出可能性などの課題があるために一時しのぎの対症療法ということをきちんと認識しておく必要がありますが、大気中CO2濃度の増加抑制には即効性の高い技術であり、私たちの世界が持続可能な脱温暖化社会へ脱皮するまでの当座の対策としては、有望な選択肢のひとつといってよいでしょう。
http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/10/10-1/qa_10-1-j.html


化学物質問題市民研究会
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