C&EN 2011年9月12日
ナノ医薬品 セルロースを突き通す
ナノ粒子の安全性:
排泄された医薬品を含むナノ粒子は環境中で脅威となる

情報源:Chemical & Engineering News, September 12, 2011
Nanomedicines Stick To Cellulose
Nanoparticle Safety: Excreted nanoparticles containing drugs
could pose a threat in the environment
by Leigh Krietsch Boerner
http://pubs.acs.org/cen/news/89/i38/8938scene.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年10月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/C&EN/110912_C&EN_Nanomedicines_Stick_To_Cellulose.html

 ナノ粒子は、ますます普及している。しかし研究者のある人たちは、これらのナノ粒子の中でカプセルに入った医薬品が体を通過して下水に流れ、さらに環境中に入り込んで野生生物に脅威を及ぼすかもしれないことを懸念している。そのような懸念をさらに増すように、ポリマー・ナノ医薬品が環境中に広く存在する表面に吸着することを新たな研究が示した(Langmuir, DOI: 10.1021/la202287k)。

 テキサスA&M 大学化学工学の准教授、ムスターファ・アクブルトによれば、今日、市場には約20種のナノ医薬品が存在する。彼は、さらに110種以上のナノ医薬品が臨床又は臨床前治験が行なわれていると推定している。しかし、ナノ医薬品の環境中での挙動はほとんど分かっていない。マウスの研究で、研究者等はこれらの医薬品のあるものは尿に排泄されることを見つけている。もしそれが人間にも起こるなら、ナノ医薬品は下水系を通じて地下水や土壌中に入り込む可能性がある。

 アクブルトは、排泄されたナノ粒子は植物のセルロースによって吸着され、次に動物やバクテリアにより摂取されることがあるのかどうか知りたいと考えた。研究者等は以前に、ナノ粒子は食物連鎖中で濃度を増し、動物に毒性を及ぼす可能性があることを示していた。

 ”セルロースは、環境中に最も豊富にある分子である”とアクブルトは述べている。もしナノ粒子が環境中に入り込むなら、科学者らはそれらが植物セルロースとどのように相互作用するのかを知りたいと思うであろう。

 植物が排泄されたナノ粒子をどのように吸着するのかモデル化するために、大学院生であるミン・ザーンとアクブルトは、鎮痛剤イブプロフェンで満たされたポリエチレングリコール・ナノ粒子がセルロースの表面にどのように吸着し、脱着するのかを示した。ポリエチレングリコールは、米・食品医薬品局(FDA)が承認している数少ないポリマー・ナノ粒子のひとつであるために、ナノ医薬品中でよく使用されている。

 アクブルトとザーンは径が46 から 271 nm のナノ粒子を作り出した。Quartz Crystal Microbalance with Dissipation (QCM-D)と呼ばれる技術を利用して、彼等はセルロース上への吸着率を調べた。アクブルトとザーンはまた、その表面を洗い流す一定量の水流中にどのくらい速く、粒子が出てくるかを調べた。原子間力顕微鏡(atomic force microscopy)により、彼等は小さい粒子ほどよくセルロースに吸着すること見つけた。大きな粒子ほど速く脱着した。

 しかし、この発見は必ずしも、ナノ医薬品の粒子径は大きくなければならないということを意味しないとアクブルトは述べている。我々の体は、径が約300nm以下の粒子だけを吸着できる。

 医薬品としてのポリエチレングリコール・ナノ粒子を作り出すことは刺激的であるが、環境中での挙動と安全性に関する十分な研究はまだなされていないとノースカロライナ州立大学教授末ファン・フランツェンは述べた。アクブルトとザーンの研究は、この技術の潜在的な落とし穴のいくつかに研究者等の目を開かせるであろうと、彼は示唆した。

 ”それは、このような研究がもっと多く存在しないことは、私にとって驚きである”と彼は述べている。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る