オーストラリア労働安全局 2012年3月5日
職場におけるカーボン・ナノチューブの
安全な取扱いと使用
情報シート


情報源:Safe Work Australia, March 5, 2012
Safe handling and use of carbon nanotubes in the workplace
INFORMATION SHEET
http://www.safeworkaustralia.gov.au/AboutSafeWorkAustralia/WhatWeDo/
Publications/Documents/663/Safe_Handling%20of%20Nanotubes%20info%20sheet.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年3月23日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/Australia/2012_SWA_Guidance_CNT.html


訳者による解説
 オーストラリア労働安全局(SWA)は、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)に委託して、ガイダンス文書『カーボン・ナノチューブの安全な取扱いと使用(Safe Handling and Use of Carbon Nanotubes)』を開発し、2012年3月に発表しました。このガイダンス文書は、詳細なハザード分析と曝露評価によるリスク管理を記述するパートAと、コントロール・バンディング(訳注1)によるリスク評価を記述するパートBの2部構成、42ページからとなっています。本情報シートは、このSWAのガイダンス文書を4ページにまとめて概説したものです。


カーボン・ナノチューブとは何か?

 カーボン・ナノチューブは、例えば次のような工業用途及び生物医療用途で応用できるであろうナノマテリアルのひとつのタイプである。
 ・触媒
 ・バイオセンサー
 ・強化された構造と電気的特性を持つ複合材料
 ・ドラッグ搬送体

 カーボン・ナノチューブは軽量であるが鋼鉄よりも100倍強く、電気伝導及び熱伝導動が高い。

有害性

 全てのカーボン・ナノチューブとその構造体は、特に証拠がなければ有害であるとみなされるべきである。カーボン・ナノチューブは生物蓄積性があり、ある形状のものは繊維状の構造で存在する可能性がある。

 動物研究の結果は、病原性線維の寸法のカーボン・ナノチューブ又はそのアグリゲートは、もし、適切なテストによりそのようなことがないと示されない限り、潜在的な病原性と中皮腫の危険性があることを示している。繊維状ではないカーボン・ナノチューブ構造体もまた有害特性を持ち、動物実験は肺の炎症と線維症を示した。

 カーボン・ナノチューブは、燃焼と着火がしにくいので、(可燃性)危険物とはみなされていない。しかしカーボン・ナノチューブの粉塵には爆発の危険性が存在するかもしれない。

規制

 オーストラリアの労働安全衛生の法律は、カーボン・ナノチューブを開発し、製造し、使用する研究者と労働者の健康と安全を保護することを目指している。この法律の下における一般義務は技術、物質、及び材料に適用されるように、一般的にカーボン・ナノチューブを扱う作業に適用される。モデルとなる職場における化学物質のための労働安全衛生(WHS)規則は他の化学物質と同様にカーボン・ナノチューブをも対象とする。

 職場における化学物質のための労働安全衛生(WHS)規則は下記を含むが、それらに限定されるものではない。
  • 製造者又は輸入者はその物質が有害化学物質かどうかを決定しなくてはならない。もし有害なら、安全データシート(SDS)と正しいラベルを用意しなくてはならない。カーボン・ナノチューブは、データが安全であることを示さない限り、有害であるとみなされるべきであり、したがって適切なSDSとラベルが供給されなくてはならない。

  • カーボン・ナノチューブを含む製品の供給者は現在の安全データシートがその製品を受け取る職場に提供されることを確実にしなくてはならない。

  • 事業を実施する又は事業に責任ある人は、職場におけるカーボン・ナノチューブ又はカーボン・ナノチューブを含む製品の使用、取扱い、又は保管に関連する危険性(ハザード)が特定されることを確実にしなくてはならない。関連するリスクは合理的に実施可能である限り、排除又は最小化されなくてはならない。

リスク管理アプローチ

 カーボン・ナノチューブの取扱い及びその曝露による有害健康影響の防止に対する予防的アプローチが推奨される。『カーボン・ナノチューブの安全な取扱いと使用』は、人々が職場で安全にカーボン・ナノチューブを取り扱うことができる方法に関して助言している。これは、カーボン・ナノチューブの取扱いに関する長い経験を持つオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)によって作成された。

 この文書にある指針は、カーボン・ナノロッドやカーボン・ナノワイヤーのような他の形状のカーボン・ナノファイバーにも適用できる。それはまた、これらのナノマテリアルが取り扱い中に放出されるかもしれない場合、カーボン・ナノチューブやカーボン・ナノワイヤのその他の形状を含む製品にも適用できる。

 一般的なリスク管理プロセスは、図1に示すように、カーボン・ナノチューブを安全に取り扱うために適用することができる。それは、リスクは詳細なリスク評価の実施があってもなくても管理できるかもしれないことを示している。もし、有害性(ハザード)を特定した後に、そのリスクとそれをどのように効果的に管理するかについて既に知っているなら、更なる評価をせずに管理を実施してもよい。

Fig.1 リスクイ管理プロセス
カーボン・ナノチューブの安全な取扱いと使用はリスクを管理するために二つの選択肢を提供する。どちら一方、又は両方の手法が、状況に応じて利用されるかもしれない
手法1:詳細なハザード分析と曝露評価によるカーボン・ナノチューブのリスク評価
 このアプローチはリスクを評価するために下記に関する情報を収集し評価する必要がある場合に使用されるべきである。
 ・カーボン・ナノチューブ及びカーボン・ナノチューブ構造体、及び/又は
 ・プロセス及び関連作業を通じての潜在的な曝露レベル

手法2:コントロール・バンディングによるカーボン・ナノチューブのリスク評価
 これは、次のようなときに使用することができる単純化されたアプローチである。
 ・製造及び製作プロセスがよく理解されている
 ・潜在的な曝露ルートが知られている、及び
 ・安全な作業手順が開発されている

管理の選択

 カーボン・ナノチューブの作業のための管理の選択へのアプローチは、一般的に化学物質の作業と同じである。リスクを管理するときに最も重要なステップは、合理的に実行可能な限りそれらを除去することである。もしそれが可能でないなら、カーボン・ナノチューブの作業は、階層的管理(最大から最小の優先)に対応して、ひとつ又はそれ以上の下記アプローチを用いることにより、合理的に実現可能な限り、最小にすべきである。
 ・ハザードを低減するためにカーボン・ナノチューブの代替又は変更
 ・隔離またはプロセス密閉
 ・局所排気(LEV)のような工学的な管理の実施
 ・運用的管理
 ・個人防護装置(PPE)

 単独で用いられるなら、運用的管理及び個人防護装置(PPE)は一般的に、リスクを最小にするためにはもっとも効果のない方法である。個人防護装置(PPE)は他の管理措置が実施可能ではない場合、あるいはより高いレベルの曝露管理を支援するのに役立つ追加的な選択肢として使用されるべきである。

管理の有効性

 カーボン・ナノチューブへの曝露は、装置がカーボン・ナノチューブが関与するプロセスのために適切に設計されているなら、プロセスの密閉及び局所排気(LEV)のような従来の管理手法を用いることにより管理することができる。

 職場においてカーボン・ナノチューブのための測定技術を確認し、改善するために、オーストラリア及び海外で作業がなされている。工学的ナノマテリアルの測定に関する情報は一般的に、経済協力開発機構(OECD)の工業ナノマテリアルに関する作業部会が職場における空気中浮遊の工業用ナノマテリアルの発生源及び放出の特定のための放出評価を既存のガイダンスを編集してを報告している。

 米・労働安全衛生研究所(NIOSH)は、NIOSH 手法5040によって元素カーボンとして決定されるカーボン・ナノチューブを含むカーボン・ナノファイバーについて 7μg/m3という推奨曝露制限値を提案している。

現状の作業

 カーボン・ナノチューブの規制を伝えるために、オーストラリア労働安全局(SWA)はオーストラリア化学工業製品通知・評価計画(NICNAS)にヒト健康ハザード評価及びカーボン・ナノチューブの分類作業を委託した。2012年中頃には結果が出ることが、期待される。

更なる情報

 カーボン・ナノチューブの安全な取扱いと使用及び、ナノテクノロジー労働安全衛生プログラムに関する更なる情報は、www.safeworkaustralia.gov.au で利用可能である。

連絡先

General Enquiries: (02) 6121 5317
Email: info@safeworkaustralia.gov.au
Postal Address: GPO Box 641 Canberra ACT 2601
Media Enquiries: 0434 664 294


訳注1:コントロール・バンディング

訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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