オーストラリア労働安全局 2012年10月22日発表
カーボン・ナノチューブの ヒト健康のハザード評価と分類 情報源:Safe Work Australia, 22/10/2012 Human Health Hazard Assessment and Classification of Carbon Nanotubes http://www.safeworkaustralia.gov.au/sites/SWA/AboutSafeWorkAustralia/WhatWeDo/Publications/ Pages/Human-Health-Hazard-Assessment-and-Classification-of-Carbon-Nanotubes.aspx 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2012年11月4日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/Australia/2012_SWA_Assessment_Classificatio_CNT.html 訳注:報告書の Acknowledgement から この報告書は、オーストラリア労働安全局(Safe Work Australia)のナノテクノロジー労働安全衛生プログラムの支援により、オーストラリア工業化学品届出審査機構(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme)により作成された。 多層カーボンナノチューブは、毒性学的又は特定のタイプの他のデータがそのように示唆しない限り、有害である(hazardous)と分類されるべきである。 本報告書のために、オーストラリア工業化学品届出審査機構(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme: NICNAS)は、カーボンナノチューブの毒性に関する公表されている文献の広範なレビューを実施した。本報告書は、多層カーボンナノチューブは長期間の又は反復吸入曝露を通じて肺に損傷を引き起こすかもしれないということを見つけた。本報告書はまた、発がん性影響の限定された証拠の”有害性分類のための承認された基準”に従う分類を勧告し、労働安全衛生法の”疑いある発がん性”に基づくGHS分類を勧告する。 具体的なデータがない場合には予防的アプローチをとり、本報告書は単層カーボンナノチューブにもまた同じ有害性分類を適用する。 報告書:Human Health Hazard Assessment and Classification of Carbon Nanotubes 関連資料
報告書/概要(Overview)(7〜11頁)の紹介 カーボンナノチューブ(CNTs)は、単層CNTs(SWCNTs)と呼ばれる継ぎ目のない円筒形状か、又は多層CNTs(SWCNTs)として知られる多くの円筒がひとつづつ他の円筒の中に重なった形状を形成する、丸く巻かれたカーボンシートである。CNTsは、その独自な構造と、帯電防止のためのコンポジット中の詰め物、触媒、バイオセンサー、強化構造と電気的特性を持ったコンポジット材料、及びドラッグ・デリバリーなどを含む様々な産業用途及び生化学用途での使用を可能とする物理化学的特性により大いに注目を浴びている。CNTs の世界の生産量は2014年には1,000トンに達し、その額は10億ドル(約800億円)相当と見積もられている。しかし、CNTsの特性は有害な健康影響をもたらすかもしれないという懸念がある。特に、CNTsのある形状のものは、サイズと形状の点でアスベスト線維に類似しているために厳密な調査が行なわれている。粒子サイズ(長さと径)、状態(凝集と離散)、機能グループ、不純物はCNTsの毒性学的影響を変化させることに寄与するかもしれない。 CNTs とそれらの開発及び多くの用途での使用に関連する健康影響があるので、オーストラリア労働安全局(Safe Work Australia)はオーストラリア工業化学品届出審査機構(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme(NICNAS)に、SWCNTs と MWCNTs に関する健康ハザード評価とハザード分類を実施するよう委託した。CNTs(単層又は多層)はオーストラリア化学物質目録(AICS)にリストされておらず、したがって、それらはオーストラリアでは新規工業用化学物質としてみなされる。もしCNTs がオーストラリアで製造されるなら、又はオーストラリアに輸入されるなら、それらはNICNASに届け出られるべきである。 NICNASは、健康ハザードを決定するために、2007年1月から2010年末までに発表されたCNTsに関するレビューとジャーナルの記事を主に使用した。さらに、2010年に発表されたいくつかの重要な記事が文書レビューと修正の段階で含められた。 有害物質を分類するための承認された基準(承認基準)(NOHSC 2004)と化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)(UN 2009)がCNTsの適切な分類を決定するために用いられた。下記のアプローチが利用可能な情報に基づいてそれぞれの健康エンドポイント(訳注:観察対象の研究結果)の分類を記述するために用いられた。
SWCNTsについて急性吸入毒性テストは利用可能ではない。マウスでのMWCNTsについて利用可能な限られた数の急性吸入毒性テストは、 241 mg/m3 (0.241 mg/L)の6時間曝露での死亡はないことを示した。しかし、テストされた低い最大用量(low maximum dose)に基づいてCNTsの急性吸入毒性の強さを結論付けることは可能ではない。鼻腔内又は気管内のCNTs点滴注入は、マウスのアレルギー反応を促進するためにアレルゲン促進剤が必要であることを示した。CNTsの吸入系感作について結論を出すために適切な研究はなかった。限定された利用可能な情報に基づき、CNTsは急性吸入毒性及び呼吸系感作のための承認基準又はGHSを用いて分類することはできない。 利用可能な3つの急性吸入毒性研究で報告されている肺への影響の一時的な特性に基づき、CNTsは単回曝露後不可逆的影響という点で承認基準に従えば、有害であると分類されない。マウス/ラットで報告された肺への影響は曝露後に和らぎ、機能的悪化は報告されていないので、CNTsは単回曝露後の特定標的臓器毒性という点でGHSによれば有害であると分類されない。 CNTsに関して今日まで反復経口毒性研究は報告されていない。SWCNTsの急性皮膚毒性に関する利用可能な唯一の研究は、局所的な影響しか報告されておらず、テスト物質中に高濃度の鉄の不純物(30%)が含まれていたので、限定的な価値しかない。 げっ歯類による二つの90日間反復吸入毒性研究は、MWCNTsは非常に線維症及び肉芽腫を引き起こすことができ、非常に低用量であっても発症するそれらは、非常に密度の低いMWCNTの集合構造(assemblage structure)による高い置換容積のために肺の過負荷の結果であると考えられる。有害影響は肺の過負荷のためらしいとの認識であるが、これらの影響が観察される用量は、承認基準及びGHSの両方の制限値よりはるかに低く、したがって、それらはこれらの粒子の本質的な特性であると考えられる。したがって、たとえ非常に低用量であっても、 MWCNTsを反復して吸入することは少なくと人に有害であるとみなされ、そのようなMWCNTsは、下記に従い反復または長期の吸入曝露のための暫定的有害分類として分類されるべきである。 承認基準(第3版、2004) Xn; R48/20 有害: 吸入を通じての長期曝露による健康への重大なダメージの危険 GHS (UN, 2009) 反復曝露による特定標的臓器への毒性 区分2 警告:長期又は反復吸入曝露を通じて肺/呼吸器系にダメージを引き起こすかもしれない。 訳注:GHS健康有害性分類マニュアル 区分2:動物実験の証拠に基づき反復暴露によって人の健康に有害である可能性があると推定できる物質 物質を区分2に分類するには、実験動物での適切な試験において、一般的に中等度の暴露濃度で、人の健康に関連のある重大な毒性作用を生じたという所見に基づいて行う。 例外的なケースにおいて人での証拠を、物質を区分2に分類するために使用できる。 SWCNTsのための支持データはないが、有害影響が肺の過負荷によると仮定するなら、 SWCNTsが異なる挙動をするとは考えられない。したがって、上述の暫定的分類はまた、反論データが利用可能となるまで、特に線維症及び肉芽腫誘因への病原性線維仮説(pathogenic fibre hypothesis)の適用が明確ではないので、SWCNTsにも適用されるべきである。 いくつかの試験管内試験(in vitro)が、SWCNTs と MWCNTs が特定の条件下である遺伝毒性の可能性を持つかもしれないことを示す陽性結果を示している。これらの研究はCNTsが酸化ストレスとDNAダメージを引き起こすことができることを示しているが、その結果は決定的ではない。試験管(in vitro)データが不十分なので、CNTsは承認基準又はGHSに従い、遺伝毒性について分類できない。 MWCNTsは、単回腹腔内又は陰嚢内曝露の後、げっ歯類に中皮種を引き起こすことが示されている。さらに、最近の研究は、MWCNTsが中皮領域に達することができることを示している。マウスで実施された研究で、MWCNTsは急速に胸膜に移動し、胸腔内に入り込み、吸引暴露(aspiration exposure)の後、投与用量に依存して残留し、吸入曝露(inhalation exposure)後、胸膜下領域に達することが示されている。MWCNTsの径に基づく長さと剛性、及びと病原性反応(pathogenic response)との間の関連性を示唆する証拠がある。利用可能な研究の数が限定されていることを考慮すると、今日まで中皮種発症を示したテストは病原性線維の長さはWHOにより定義された寸法(5μm以上)を持っていたが、発がん性の強さに寄与するMWCNTsの最小長さ、太さ、アスペクト比(長さと太さの比)を決定的に結論付けることは不可能である。 MWCNTsは病原性線維毒性パラダイムに従うという証拠である。しかし、本来病原性線維基準に合わないCNTsは、凝集を通じて病原性寸法の線維様構造を示したので、CNTsの発がん性を個々のCNT線維だけで決めるのは十分ではなく、むしろ個々の線維又は凝集体のいずれかが病原性寸法をもつ線維としての発がん性を示す能力によるべきである。 動物実験で中皮種を生成することを示す利用可能なデータは限定しており、特定の MWCNT が病原性寸法を示すかどうか決定的に結論付けることは難しいということに基づき、下記に従い、全ての MWCNTs は有害であり、発がん性があると分類されるべきである。 承認基準(第3版、2004) Xn; R40 有害: 発がん性影響について限定された証拠 GHS (UN, 2009) 発がん性 区分2 警告:発がん性の疑いあり SWCNTs が中皮種を引き起こすことを示す研究はない。SWCNTsが肉芽腫又は中皮種を形成する可能性に関して、もしそれらが耐久性があり、体内で凝集を通じて堅固な線維様構造を形成する能力を通じて線維病原性反応を引き出すことが示されているのだから、SWCNTsがMWCNTsと異なるどのような挙動を示すことを示唆する証拠もない。したがって、上述の承認基準又はGHSに従う分類はまた、SWCNTsにも適用可能であると考えることは賢明である。 生殖/発達毒性に関する限定された利用可能なデータに基づき、CNTs は承認基準又はGHSに従い、生殖/発達毒性について分類することはできない。 CNTs の毒性学的特性は不純物とそれらの濃度、寸法、状態(アグロメレート/アグリゲート)及び表面機能により変化するかもしれない。限定された利用可能なデータに基づき、毒性とどのような固有の特性との間の関連は現時点では決定することはできない。したがって、具体的な毒性データが利用可能になれば、CNTsのケースバイケース(1件づつ)のハザード評価が推奨される。 |