メリーランド大学 2022年11月18日
ある菌が水銀汚染を除去することを研究が示す
この発見は公衆衛生を改善し、染地域での
浄化コストを削減する可能性がある
キンブラ・カットリップ
情報源: Maryland Today, Nov.18 2022
Study Finds Ubiquitous Fungus Fights Mercury Contamination
Discovery Could Improve Public Health, Cut Cost of Detoxification in Polluted Regions
By Kimbra Cutlip
https://today.umd.edu/study-finds-ubiquitous-fungus-fights-mercury-contamination

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年11月22日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/research/221118_Maryland_
Study_Finds_Ubiquitous_Fungus_Fights_Mercury_Contamination.html



アマゾン川流域での破壊的な金採掘は、周辺地域の水銀汚染を引き起こしている。 メリーランド大学(UMD)の新しい研究は、水銀で汚染された水を浄化し、汚染された地域で栽培された作物を安全に消費できるようにするために、一般的な真菌を使用できることを示している。Photo by Shutterstock
 メリーランド大学の研究者と同僚の研究者らは、真菌メタリジウム(Metarhizium robertsii)が植物の根の周りの土壌、及び淡水と海水から水銀を除去することを発見した。研究者らはまた、その水銀解毒効果を増幅させるために真菌を遺伝子操作した。

 土壌と水の水銀汚染は、公衆衛生に対する世界的な脅威である。この新しい研究は、メタリジウムが汚染された地域で栽培された作物を保護し、水銀を含んだ水路を修復するための安価で効率的な方法を提供できることを示唆している。

 UMD の昆虫学教授であるレイモンド・サン・レジェと、彼の元ポスドク研究員であるウェイグオ・ファング(Weiguo Fang)(現在は中国の杭州にある浙江大学) の研究室の研究者らによって実施されたこの研究は、米国科学アカデミー紀要 (PNAS) 2022年 11月 14日に発表された。

 ”ファング博士が率いるこのプロジェクトは、メタリジウムが植物による水銀の吸収を止めることを発見した”とサン・レジェは述べた。 ”汚染された土壌に植えられているにもかかわらず、植物は正常に成長し、食べられる。さらに、真菌だけでも淡水と海水の両方から水銀をすばやく除去できる。

 メタリジウムはほぼ遍在する菌類であり、サン・レジェ研究所による以前の研究では、メタリジウムが植物の根にコロニーを形成し、草食性昆虫から保護することが示されていた。科学者たちは、メタリジウムが水銀鉱山のような有毒な場所からの土壌で見つかる唯一の生物のひとつであることを知っている。しかし、菌類が水銀で汚染された土壌でどのように生き残ったか、またはそれが菌類が通常一緒に住んでいる植物に影響を与えるかどうかは、これまで誰も確認していなかった。

 サン・レジェと他の同僚らは以前にメタリジウムのゲノムを配列決定しており、ファングは、水銀を解毒または生物修復することが知られている細菌に存在する遺伝子と非常によく似た 2つの遺伝子が含まれていることに気付いた。

 今回の研究では、研究者はさまざまな室内実験を行い、メタリジウムに感染したトウモロコシは、きれいな土壌に植えられた場合でも水銀を含んだ土壌に植えられた場合でも同じように成長することを発見した。さらに、汚染された土壌で栽培されたトウモロコシの植物組織には水銀が検出されなかった.

 次に、研究者らは菌類の遺伝子を操作し、水銀修復バクテリアの遺伝子と類似したふたつの遺伝子を除去した。彼らが実験を再現したとき、改変されたメタリジウムはもはや水銀を含んだ土壌からトウモロコシを保護できず、トウモロコシは枯れた。

 遺伝子が解毒特性を提供していることを確認するために、研究者らは、通常はトウモロコシを水銀から保護しない別の真菌に遺伝子を挿入した。新たに改変された菌類は、メタリジウムのように機能し、水銀を含んだ土壌から植物を保護した.

 微生物学的分析により、問題の遺伝子が、毒性の高い有機水銀を毒性の低い無機水銀分子に分解する酵素を発現していることが明らかになった。最後に、研究者らはメタリジウムを遺伝子操作して、解毒遺伝子をより多く発現させ、解毒酵素の生成を増加させた。

 彼らの最後の実験で、研究者らはメタリジウムを混合することにより、淡水と海水の両方から 48時間で水銀を除去できることを発見した.

 次のステップは、中国の畑で実験を行い、メタリジウムが有害な環境をトウモロコシや他の作物を栽培するための生産的な畑に変えることができるかどうかを確認することである。汚染された土壌を修復する現在の方法では、何かを植える前に、畑全体から毒素を除去または中和する必要がある。これには非常に費用がかかり、長い時間がかかる。しかし、メタリジウムは単に植物の根を直接取り囲む土壌を解毒し、植物が毒素を吸収するのを防ぐだけである。

 ”水銀が豊富な環境で植物を成長させることが、この真菌が植物のすみかを保護する方法のひとつである”とサン・レジェは説明した。”水銀を解毒する同じ遺伝的能力を持つバクテリアは植物上で成長しないため、このように使用される可能性があることを私たちが知っている唯一の微生物である。しかし、メタリジウムに種子を浸すだけ、水銀が多い土壌で作物を栽培することを想像できる。

 メタリジウムは、汚染された土地を農業用に再生するための費用対効果の高いツールとして利用できる可能性に加えて、気候変動と永久凍土の融解が有毒金属の土壌及び海への放出を加速するため、水銀汚染によってますます脅かされている湿地と汚染された水路から水銀を除去するのに役立つ可能性がある。


訳注1
  • メタリジウム(ウィキペディア)
     メタリジウム(Metarhizium)はバッカクキン科に属し、分生子が緑がかった色調となる昆虫病原糸状菌。種によって様々な昆虫に感染し死に至らしめることから、害虫に対する微生物農薬として利用されている。


化学物質問題市民研究会
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