モンガベイ 2023年4月13日
国際的な水銀規制は環境と公衆の
健康を保護できていない:研究


情報源:MONGABAY, 13 April 2023
International mercury regulations fail to protect
the environment, public health: study
by Maxwell Radwin, a staff writer covering Latin America for Mongabay
https://news.mongabay.com/2023/04/international-mercury-regulations-
fail-to-protect-the-environment-public-health-study/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年6月28日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/news/230413_Mongabay_International_
mercury_regulations_fail_to_protect_the_environment_public_health_study.html


  • 水銀は、公衆の健康と環境に影響を与える最も懸念される化学物質のひとつである。 この化学物質は地域の流域に入り、動植物に害を及ぼし、人間に記憶喪失、発作、嘔吐、肺損傷などの問題を引き起こす可能性がある。

  • 最近の研究では、水銀使用に関するデータ収集は非常に一貫性がないので、人力小規模金採掘の傾向を理解するのに信頼できないことが判明した。

  • 2017年に発効した国連の水銀に関する水俣条約は、各国に対し水銀使用に関するデータを収集することを義務付けているが、そのデータをどのように収集すべきかについては規定していないため、国家間で不一致が生じている。

 世界中で約 1,500 万人が人力小規模金採掘現場で働いており、その 3分の1近くが女性と子どもたちである。 政府の監督下にある公式な鉱山会社が供給する高度な設備を運用する代わりに、彼らは基本的な道具、ブルドーザー、管理されていない化学物質類を使用している。

 多くの場合、採鉱労働者らは、土石(訳注:微量の金を含有する鉱石を粉砕して水銀を注いで生成したアマルガム)から金を分離するために水銀を蒸発させる。これはアマルガム法として知られるプロセスである。 他の方法よりも迅速に処理できる一方で、このプロセスは環境や公衆の健康に重大な影響を及ぼす。 水銀は、とりわけ、記憶喪失、発作、嘔吐、肺損傷などの問題を引き起こすことが知られている。(訳注1:水銀の無機塩の摂取は、腎毒症をもたらす場合がある。その他の水銀化合物の吸引、摂取又は皮膚投与は、感覚障害や運動失調を発症する場合があり、その場合には震え、不眠、記憶喪失、神経障害、頭痛、認知・運動機能障害等の症状が認められる。環境省)、(訳注2:水俣病は、メチル水銀により中枢神経を中心とする神経系が障がいを受ける中毒性疾患です。腎臓等が障害を受ける無機水銀中毒とは異なった病像を示し、神経系以外に障がいが生じることは確認されていないことが定説となっています。臨床的には多様な症候が生じ、主要な症候(は、四肢末端の感覚障がい、小脳性運動失調、両側性求心性視野狭窄、中枢性眼球運動障がい、中枢性聴力障がい、中枢性の平衡機能障がい等です。また、母親が妊娠中にメチル水銀の暴露を受けたことにより、脳性小児マヒに似た症状をもって生まれる胎児性の水俣病もあります。水俣病の発生・症候/熊本県

 世界保健機関は、水銀を公衆衛生上の懸念のある化学物質トップ 10 の 1 つと考えている。 しかし、その使用に関する規制はまだ比較的新しいものである。 水銀に関する国連水俣条約は 2017年に発効したばかりで、水銀使用の削減に向けて国際社会が協力しようとする試みである。 140カ国近くがこの条約に署名しており、国連はそのうちの 84%が水銀規制政策の改善に関する最新情報を提出していると発表した。

 しかし、人力による小規模な金採掘における彼らの取り組みには欠陥があることが、Environmental Science & Policy 誌に掲載された3月の研究で判明した。 そして、採鉱における水銀の使用を制限するために行われている進捗状況は、誤って伝えられているか、結論を出すにはあまりにも一貫性がないと述べている。

 ”これらの水銀の推定値とその作成方法には多くの違いがあることに気づいた”と、この研究の筆頭著者で環境コンサルティング会社タナック・エンバイロメンタル社のエンジニアであるミシェル・シュワルツは述べた。”しかし、その見積もりにはかなりの不確実性があることにも気づいた。 この不確実性による大きな課題は、それが政策決定にどのような影響を与えるかということである”。

 シュワルツと他の研究者らは、水俣条約に署名した 25か国の国家行動計画を分析した。 シュワルツ氏は、この計画の最大の問題のひとつは、一貫性がなく信頼性の低いデータ収集だったと述べた。 水銀の使用量を推定するために、各国はワークショップを開催したり、採掘現場を訪問したり、金や宝石のバイヤーなど、主要な関係者にインタビューした。 水俣条約には、どのアプローチが最適であるかについては何も記載されておらず、たとえば、正確な推定値を作成するために採掘現場への訪問や聞き取りをどのくらい行う必要があるかについても言及されていない。

 一部の国は、確かなデータの収集ではなく、排出係数”、つまり採掘現場ごとに一定量の水銀が使用されていると仮定する数式に依存していた。

 研究によれば、これらのデータはすべて不完全である可能性があるだけでなく、国ごとに比較するにはあまりにも一貫性がないため、どの政策がどこで機能しているかを知ることはほぼ不可能になっている。

 ”もし各国が水銀排出の最大の原因が何かを理解していないとしたら、それに対処するためにどのように計画をまとめるのであろうか?”と共著者で南メソジスト大学の世界開発部門の教授キャスリーン・スミッツは言う。”これは少し粉飾が多すぎるし、実際に測定可能な影響を与えるほどデータに基づいたものではない”。

 また、十分に厳格ではない方法で収集されたデータを提出した国に対する罰則もない。 水俣条約はデータ収集に対する可能なアプローチを示しているだけである。

 ”それが示唆していることに全く効力がない”とスミッツは述べた。



小規模な金採掘現場から見上げるマダガスカルの労働者
(写真提供:Global Environment Facility)
 同時に、この条約は、各国が条約に参加しにくくならぬようにするために各国にとって都合のよい方法で行えるように意図的に設計されている。 水俣条約を監督する国連環境計画は、この件についてのコメント要請に応じなかった。

 ブラジルとベネズエラの先住民族は、水銀汚染のため、20年前には飲めた水を飲むことができなくなっていると、モンガベイが以前報じた。 また、カメルーンの採掘労働者の約70%は、毛髪検査で高濃度の化学物質が検出されるなど、水銀中毒の兆候を示している。

 採掘労働者らは、蒸発した水銀からのヒューム(fumes)を吸入することが健康と環境に危険を及ぼす可能性があると感じている。 しかし彼らは、水銀が地域の生態系を汚染し、人間が消費する魚や他の動物を通じて食物連鎖に入り込むことで生じる可能性のある長期的な影響を無視することがよくある。

 研究者らによると、採掘労働者らは水銀を使用し続けているが、それは彼らが教えられてきた唯一の方法だからだという。 他のもっとクリーンな抽出方法を使用しても、水銀のような収量は得られないという誤解もある。 同時に、この地域で何十年も生活してきた住民らは、水銀の代わりにシアン化物を安全に使用するなど(訳注:青化法:金を水溶性の錯体に変化させることによって、低品位の金鉱石から金を浸出させる湿式製錬技術である。シアン化法とも言う。・・・環境への影響:青化法はシアン化合物の毒性のため批判の対象になっている。シアン化合物の水溶液は、日光の下で速やかにより毒性の低いシアン酸やチオシアン酸へ転換するが、これらは何年間も分解されない。人間の死亡している著名な災害も起きている。・・・ウィキペディア) 、誰にとっても有効な解決策を開発する政策立案者を支援することができる。

 ”地域住民の関与が大きな要素になるだろう”とシュワルツは語った。”コミュニティごとに異なるため、おそらくそれが最善のアプローチとなるであろう”。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る