CBC News 2014年9月2日
グラッシー・ナロウズ:カナダは何もしないのに 日本はなぜ水銀中毒をまだ調査しているのか? ケリー・クロウ (CBC News) 情報源:CBC News Sep 02, 2014 Grassy Narrows: Why is Japan still studying the mercury poisoning when Canada isn't? By Kelly Crowe, CBC News http://www.cbc.ca/news/health/grassy-narrows-why-is-japan-still-studying-the-mercury-poisoning-when-canada-isn-t-1.2752360 訳:安間 武(化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2014年9月5日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/news/140902_CBC_Grassy_Narrows.html
最初にミンクとカワウソが姿を消し始めた。それから地域の人々は、上空を飛ぶワシとハゲタカの飛び方が何か奇妙であることに気が付き始めた。ひとりの男は、彼のネコが円を描いてぐるぐる回り、よだれを垂らし、けいれんするのを観察した。これらのことは、北西オンタリオ地方を流れるワビグーン川に沿ったグラッシー・ナロウズで、何か不吉なことが起こっていたという1970年ごろの初期の警戒徴候であった。 ミンク、カワウソ、ワシ、そしてネコは汚染された魚を食べて水銀中毒を起こしていた。後に分析されたネコの脳は、重金属にひどい暴露を受けたことに関連する単攣縮(れんしゅく)する震えとふらつく歩行という症状を示す典型的な水俣病であることを明らかにした。 これらの詳細は、カナダの研究者らが調査を止めてしまった後も長らく、グラッシー・ナロウズの人々の水銀汚染の影響を追究することを決して止めなかった日本の科学者である原田正純博士( Dr. Masazumi Harada)の研究論文に収録されている。 原田博士は数年前に亡くなったが、ケノーラ(訳注:カナダ オンタリオ州北西部の都市)の北西部の地域に関する彼の研究は、今日に至るまで続いている。日本の研究チームは、1975年に研究が始まって以来5回目の訪問のまとめを今、現地で行っているところである。 関連情報 ■Japanese mercury experts push Canada to help Grassy Narrows ■CBC Digital Archives: Grassy Narrows disaster ■Mercury survivors neglected by government, Grassy Narrows First Nation claims 彼らは、環境水銀中毒の最も忌まわしい事例のひとつにより引き起こされた脳と中枢神経系のダメージの証拠を探しつつ、身体検査をするために先週を費やした。 60年前には、世界は、産業が湖や川に投棄する未処理の水銀の危険性をはっきりと意識していなかったし、バクテリアがこの無機水銀をメチル水銀に変換して有機汚染物質となり、魚を汚染し、人々を中毒させることを知らなかった。 1950年代の後半、日本の水俣では、化学会社により海(訳注:オリジナルは湖となっている)に放出された水銀で汚染された魚を食べて、100人以上の人々が死亡し、多くの被害者らがひどい脳のダメージを受けた。 汚染された魚 しかし、漂白プロセスで使用された水銀をワビグーン川に放出していたドライデン製紙工場のすぐ下流の北西オンタリオ地方に起きている惨事を認めるのにさらに10年を要した。 1971年に政府の科学者らがあるテストをするためにやってくるまでに、グラッシー・ナロウズ及び隣接するヴァバシムーン先住民(First Nations)の人々は、既に汚染された魚を危険なレベルの量まで食べていた。最初のテストで髪の毛と血液中の極めて高い水銀レベルが明らかになったた。
日本の被害者の研究からの経験を用いて、原田博士はグラッシー・ナロウズに、少なくとも水俣病 60 症例を診断し、さらに水俣病の余病 54 症例、そして疑わしい 24 症例を診断した。 しかし、今日に至るまでカナダ当局は水俣病について一症例をも認めたことはない。 補償を申請したグラッシー・ナロウズ地域の少数の人々は、水銀中毒と矛盾しない神経学的症状に基づき、補償金を受け取った。しかし当局は、長い時間をかけて不承不承公式の診断を確認した。 そして、グラッシー・ナロウズの水銀中毒の人々の健康影響の全貌は、系統的に調査されたことは決してなかった。 2010年のカナダ人科学者による専門家レビューは、”広範な検証とこれらの地域社会のフォローアップがなされるべきである”と述べているにもかかわらず、グラッシー・ナロウズの水銀暴露の範囲を確立するための疫学的調査がなされたことはなく、摂取した水銀の人生における長期的影響として現在認識されていることについての長期的追跡が行われたことはない。 薄れる関心 その代り、グラッシー・ナロウズの出来事への科学的関心は色あせた。数十年間、毛髪と血液テストにおける水銀のレベルは低下し始め、政府のモニタリングは先細っている。手で綴じられた研究報告書のコピーは、現在図書館の棚で埃をかぶっている。 先住民(First Nations)コミュニティーにおける環境汚染の最近のいくつかの調査があり、それは毛髪と血液中の水銀のテストを含んでいるが、それらのテストは最近の暴露を明らかにするだけである。それらは過去の暴露、又は脳の細胞や組織内にあるこの有害金属による現在のダメージには光を照らさない。
”しばしば、成人初期に影響を見られるが、神経系は老化して水銀はこの老化現象を早めるように見えるので、もし暴露が高ければ影響はもっと後に出るであろう”と彼女は言う。 グラッシー・ナロウズでのもう一つの長らくくすぶる疑問は、次世代への影響であり、子どもが胎内にいる間に汚染された魚をたべた母親の子どもへの影響である。 胎児の水銀への暴露の危険性は深刻で長期的な神経学的ダメージをもたらすことは長らく知られている。 ■CBC Digital Archives: Fishing for fun and death ■Mercury poisoning effects continue at Grassy Narrows 胎児の水銀暴露の影響に関する研究は、”遅れている”と原田博士は2011年に書いた。 ”カナダのグラッシー・ナロウズと[ヴァバシムーン先住民居留地]”における体系的な調査がなされていれば、人類にとって貴重な資源を生み出していたであろうと考えると、残念なことである”。 限定された範囲 実情は、原田博士の研究がグラッシー・ナロウズの人々への水銀中毒の臨床的影響の唯一の進行中の調査である。 しかし現地調査として、それらは範囲が限定されており、マーグラーが言うには、それらはもと包括的な疫学的研究が必要であることを示す予備的な調査であるように見える。 それは過去40年までさかのぼり、日本の研究者を引き寄せたグラッシー・ナロウズの科学であった。 現在のチームリーダ、花田昌宣(Masanori Hanada)氏は、ここで彼らが学んだことは、水俣に戻り日本の被害者及び世界中の水銀中毒の他の被害者らにも適用できるであろうと述べた。 それは、水銀がまだ、イングリッシュ−ワビグーン川(English-Wabigoon River)水系及びグラッシー・ナロウズの魚に、そして世界中の水系に存在するのだから、研究はもっと先鋭化する。 そして毎日、採鉱、伐採及び化石燃料の燃焼がますます多くの水銀を放出し、その結果、食物連鎖を通じて危険な上昇を始めている。 訳注:関連情報
|