Center for Investigative Reporting 2013年12月28日
東南アジアの小規模金採掘は、
そこで働く子どもたちと環境を汚染する


情報源:Center for Investigative Reporting, Dec 28, 2013
Hunt for gold in Southeast Asia poisons child workers, environment
Richard C. Paddock, Contributing Editor
Larry C. Price, Photographer
http://cironline.org/reports/hunt-gold-southeast-asia-poisons-child-workers-environment-5678

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年12月31日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/news/131228_Hunt_for_gold_in_Southeast_Asia..html

訳注:オリジナル記事からは13枚の写真をスライドショー風に見ることができます。(ここをクリック
また、フィリピンでの危険なASGM作業を報告した同一記者/写真家による記事(英語)と写真もご覧ください。

【サンタバーバラ、フィリピン】ロムニック・ボセジョは、バーナーをとり、水銀と金の小さな塊をあぶった。火炎で水銀が蒸気になると有毒ガスが彼の顔の周囲を漂った。彼は、口と鼻を彼のTシャツで覆い、加熱を続けた。

 16歳のロムニックは、マニラの南東200マイルにある北カマリネス州の辺鄙な鉱山地域で金を採掘する貧しい家族労働の一員として働いてきた。

 彼が受け持つ作業のひとつは水銀を加熱することであり、それによりボタンの大きさのほぼ純粋な金の塊を作りだした。彼はこの蒸気が危険なのかどうかよくわからない。

 ”私はこの仕事を8歳の時からやっている”と彼は述べた。”私は、この仕事を毎日やっている。私は水銀が有毒なのかどうか知らない”。

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水銀は加熱されて蒸気となり、金が残る。
Credit: Larry C. Price
 国連の国際労働機関(ILO)の推定によれば、ロムニックは、 世界中で危険な作業に従事する5歳から17歳までの子どもたち1億1,500万人の内の一人である。

 約100万人の子どもたちが危険な採鉱の仕事をしており、彼らの多くは脳の成長過程で最も脆弱な時に水銀に暴露している。

 水銀が危険であることは古代ギリシャ時代から知られていた。この液体金属は、震え、記憶喪失、脳機能損傷、その他の障害を引き起こす。水銀は時間経過とともに体内に蓄積し、その影響は不可逆的である。それは皮膚を通じて吸収され、食物から摂取され、蒸気として吸入される。

 国連環境計画によれば、今日、小規模金採掘は人間により引き起こされる水銀の最大の排出源であり、世界の総排出量の35%以上を占める。

 水銀の使用はフィリピンとインドネシアで広く行われており、そこでは児童労働が一般的で、小規模金採掘が自由に、そして生態学的に影響を受けやすい場所でさえ、行われている。

 インドネシアのスラウェシ島(セレベス島)では、数千人の採掘者らがポポヤ−パネキ大森林公園中の山を切り開いて鉱石を採掘し、鉱石処理に水銀を使用している。インドネシアの中部ボルネオのガランガン地域では大勢の採掘者が沼地の熱帯雨林を完全に切り開き、金鉱石を求めて沼地の泥をさらい、水銀で彼ら自身と環境を汚染し、数千エーカーの土地を荒廃させている。

 25,000ほどの島からなる東南アジアのこの二つの近隣国は自動労働を制限している。水銀の焼却はフィリピン及びインドネシアの一部では禁止されているが、両国とも特に遠く離れた場所では、汚職の蔓延と中央政府の弱体がこれらの実施を抑制することを難しくしている。

 ”それは発展途上国の問題である”と、インドネシア環境省の有害物質管理次官補であるハリマ・シアフルルは述べた。”我々の政府は買収されることがある。金で話をつけることができる”。

 フィリピンでは、政府は30万人以上の小規模金採掘者がいると推定している。政府当局者は、法律が彼らの活動を制限することはほとんどないということを認めた。ある者は、地方政府が発効する許可証の下に操業している。

 フィリピン及びインドネシアにおける金採掘分野での贈収賄の有罪判決があるのかどうかは知られていない。

 東南アジアからの金の多くは中国にわたるが、金が世界の金市場に入ってしまえば、それらがアメリカにどれだけわたるのか知るすべもない。

 数世紀の間、採掘者は、金を抽出し、また金と水銀の合金を作るために水銀を使用してきた。大規模金採掘者は原始的な技術からの転換を図ってきた。しかし小規模金採掘者の無頓着な水銀使用は、水路、大気及び食物連鎖系、特に魚に入り込み、コミュニティ全体を危険にさらしている。

 世界保健機関のフィリピン駐在官ジュリー・ホールは、水銀は世界で公衆の健康を脅かす上位10位の化学物質のひとつであると述べた。

 ”子どもたちは小さいので、水銀をある用量取り込むと、その体への影響は大人よりはるかに大きい”と彼女はマニラで述べた。”彼らの脳は、初期に成長し、その過程では水銀のような有害物質に対して非常にぜい弱である”。

 昨年、1トン以下の水銀がインドネシアに合法的に輸入されたと、インドネシア政府当局のシアフルルは述べた。しかし、300から400トンが密輸入されており、その多くは小規模金採掘で使用されていると彼女は述べた。

 問題は、政府が水銀の輸入を止めることができないことだ”と、彼女はジャカルタ事務所でのインタビューで言った。”水銀はインドネシアに持ち込まれ続けており、金採掘で広く使用されている”。

 水銀の使用を削減するよう強く働きかけている環境団体であるバリ・フォルクスの共同設立者ユーユン・イスマワティは、わいろの分け前にあずかるインドネシア高官は違法な採掘と水銀の密輸入を認めていると強く主張している。

 ”金は将軍の日当のようなものです”と、持続可能な開発と廃棄物管理への取り組みで2009年ゴールドマン環境賞を受賞したイスマワティは述べた。彼女は、汚染物質をなくすために活動する世界の700の非営利団体の連合体であるIPENにおける小規模金属採掘に関するリーダーである。

 インドネシアとフィリピンは、水銀採掘を廃止し、水銀排出を削減するための世界協定である水俣条約に署名した90以上の国に含まれる。先月、アメリカは同条約を批准する最初の国となった。同条約は、金採掘での水銀使用を削減するよう諸国に求めているが、その使用を禁止していない。

 2008年、中部スラウェシ州のゴールドラッシュは、数千人の採掘者を赤道のすぐ南にありインドネシアのパル市から約45分にある約ど2万エーカーのポボヤ−パネキ公園に引き寄せた。

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採掘者らは金と水銀のアマルガムを作るためにナイロンの布きれ越しに手で水銀の玉を搾る。選鉱工程又は粉砕工程で水銀が加えられ、水銀は微量の金粒子を結びつける。
Credit: Larry C. Price
 5年間、採掘者らは同公園にある山を切り刻み、山腹に深いトンネルを掘り、ハンマーと金てこで岩を粉砕した。今日では、荒れた山腹は月世界の強制収容所のようである。ハンマーでたたく音が空気を裂き、採掘者の流れが鉱石の詰まった90ポンドの袋を担いで岩を壊した道を降りる。

 採鉱者らは公園内で採掘することは違法であることを承知しているが、警察は決して法を執行しようとしないと言う。

 金を見つけることに急ぐあまり、採掘者らは彼らのトンネルを補強する努力をほとんどしない。あちこちでひび割れた岩を支えるために厚板が楔で止められているが、崩落は常の事である。

   ある採掘者は火を噴く長さ5フィートの金属竿である prandelで石英層をあぶる。炎は、それが岩を柔らかくするときにトンネルの中を輝かせる。

 ”それは熱く、危険である”と、二人の友を失った10月の崩落事故からからくも逃れたprandelを操作するエロル・アーノルド(34)は述べた。

 彼が話をしたその直後、彼のトンネルの一部がすざましい音を立てて崩れた。100人以上の採掘者がトンネルの迷路から飛び出した。彼らは半時間ほど周囲を見回り、安全であるとして元の場所に戻った。

 多くのインドネシア人と同様にひとつの名前しかないリダエニは、ゴールドラッシュが始まった時に山のふもとにある村に住んでいた。彼女は4つの立坑を持っており、採掘者に金を払って働かせていた。

 彼女は1,000人以上の採掘者がこの山で働いているとみている。それらのうち50人から100人は子どもであると彼女は言った。採掘が拡大した大森林公園の他の場所では、もっと多くの子どもたちが働いている。

 ”多くの子どもがここで働いている”と、彼女は、自分の立坑のひとつの開口部の近くにある防水布の下に座って言った。”子どもたちの多くは学校を止めてしまっている。ある子こどもは、5歳の時からハンマーで岩を砕き、袋に詰め、水を汲んでいる。それは悲惨であるが、両親はここに働きに来た。彼らは家族で移動し、家族で働いている”。

 近くでヨヨ(10)と彼の友達ドゥク(8)はハンマーで岩を砕いている。二人の裸足の少年は、ヨヨの母親、祖母及び他の家族の6人と、20フィートの深さがある穴の中で働いている。ドゥクの両親も近くで働いている。この少年たちは袋に砕いた岩を詰め、地表まで運び上げる。

 ヨヨの母親ハヤティ(29)は、息子の働きをほめた。”彼はここで働くのが好きなのよ”と彼女は言った。

 汚れた黄色のパンツとシャツを着たヨヨは、学校に行ったことがない。彼は読むことができない。彼はコンピュータを使ったことがない。母親のハヤティは、1日に5ドル以下の稼ぎしかなく、彼のために本や靴を買うことができないと言った。しかし彼の将来は心配していないと彼女は言った。”彼は家族と一緒にいる方がよい”と彼女は言った。

 大きくなったら採掘者になりたいかと聞かれた時に、ヨヨは恥ずかしそうにうなだれ、岩を拾い、巨岩の上でそれを砕き始めた。

 ”僕にはわからない”と彼は言った。”僕はお母さんに決めてもらう。できるなら、採掘者になりたい”。

 鉱石は、山から3マイル川を下って、埃っぽい通りと木の掘立小屋が立ち並ぶ、これまたポボヤと呼ばれるゴールドラッシュの町に運ばれる。ここで鉱石は、回転ドラムからなる数百のボールミルで粉砕される。作業者は、豆粒大の 水銀のかたまりを鉱石が詰まったドラムに入れ、金が粘着するようにする。

 その後、採掘者らは、粉砕した鉱石を選鉱する時にもっと多くの水銀を使用する。金属塊を形成するために、彼らはしばしば傘の布で作ったフィルターを用いて余剰水銀を搾り取る。

 最後の段階は、水銀を加熱てし蒸気にして飛ばす。町の中心通りで金商人は石油ドラムを即席の炉にして、彼らや採掘者が金属塊をあぶることができるようにする。

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インドネシアとフィリピンでは児童労働は公式には禁止されているが、小規模金採掘では一般的に行われている。
Credit: Larry C. Price

 環境団体であるバリ・フォルクは、2011年に大気を測定し、ポボヤの水銀レベルはインドネシアの安全基準の倍であり、アメリカで避難すべきとする閾値の5倍であったと、イスマワティは述べた。政府機関は何も措置を講じていない。

 町の中心の四つ角にあるアプリアニの小さな店に採掘者らがやって来て水銀を買う。彼女はこの町で唯一の水銀販売業者である。

 アプリアニ(38)は、1日に少なくとも35kgの水銀を売り、それは133ドルに値する。彼女はその一部を採掘者から金を買うのに使う。時には、商売は大繁盛となり、彼女はルピア紙幣を、現金であふれそうな机の引き出しに無造作に押し込む。”後で勘定するわ”と彼女は言った。

 彼女が4年前に初めて店を開いた後、警察が彼女の水銀を押収したと彼女は言った。しかし彼女を起訴する代わりに、警察は彼女に、強力なコネクションを持つビジネスマンである現在の水銀供給者を紹介した。それ以来、彼女には法的なトラブルは何もない。

   彼女は、彼女の供給者は許可証を持っているのだから合法的に商売をしていると述べた。ジャカルタの当局は同意していないが、彼女は商売を続けている。

 3人の子どもの母親であるアプリアニは、金の処理と水銀の焼却は地域社会と彼女の家族の健康を脅かしていることを認識している。しかし、有毒金属の供給についての心の咎めは少しもない。

 ”私はそれが危険であることを知っているが、水銀を供給することは当地の経済を支えることである”と、彼女は言った。”採掘者らは水銀を必要としており、私は金が必要である”。

 インドネシアのバリ・フォルクやフィリピンのバン・トクシックスのような環境団体は、採掘者らに水銀はやめて、安全でもっと多くの金を抽出できるほう砂(しゃ)にしてほしいと望んでいるが、それはナベによる選鉱に技術を要する。しかし、ほとんどの金採掘コミュニティでは水銀が日常生活の一部として使用されている。

 小規模金採掘で20年間水銀が使用されているインドネシアのジャワ島にあるシシツでの大気サンプリングでバリ・フォルクはボールミルの中と水銀が焼却されている町の通りの水銀レベルは安全閾値を大きく超えていることを見つけた。

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フィリピンの町ディワルワルでは、金は村の経済を盛んにした。採掘者らは彼らの家の下に金鉱石処理施設(ミル)を作り、しばしば彼らの水銀をそこで焼却する。蒸気が家の中まで漂ってきて、ゆっくりと彼らの家族をむしばんでいる。Credit: Larry C. Price
 フィリピンの町、ミンダナオ島の南に位置するディワルワルでは、採掘者らは彼らの家の下に金鉱石処理施設(ミル)を作り、しばしば彼らの水銀をそこで焼却する。蒸気が家の中まで漂ってきて、ゆっくりと彼らの家族をむしばんでいる。

 サンタバーバラ村の丘の中腹で、750家族のほとんどすべてが金採掘で生計を立てている。このコミュニティは、フィリピン全土で6,000人以上の死者を出した11月の台風ハイヤンは260マイル南を通過したがほとんどその影響を受けなかった。

 小川が村を横断しており、それに面した各家は、中庭ではなくボールミルを持っている。

 多くの少年は山腹の採掘場で働くために学校を止める。

 採掘者は荷車で鉱石を家のボールミルまで運び、ボールミルのドラムの中に詰め込む。彼らは少量の水銀を注ぎ、その多くは最終的には小川に流れ込む。

 ボセジョの家では、ロムニミックが屋根付きの壁のない小屋でアマルガムをあぶっている。金属の塊が作業台の上の土器の皿の中に置かれている。この16歳の少年はその金属から数インチはなしてバーナーをあてると瞬間に赤く輝く。

 小さな子どもが水銀蒸気が大気中を漂う中、作業を見ようと近くに寄ってくる。

 ”私が金を加熱している時は、いつでも臭いがしていた”と彼は言った。”私は”口をシャツでふさいだ。現在まで、私な何も問題がない”。

 ジャーナリストのデビー M. プライスとソル・バンジはマニラでこの報告書の作成に協力した。ラリー C. プライスはワシントンにある危機報道に関するピューリッツァー・センターの基金による長期プロジェクトの一部として発展途上国で児童労働を報道している。この報道はピューリッツァー・センターとフィラデルフィア・インクワイアー紙の共同制作である。


訳注:連記事
Center for Investigative Reporting Dec 29, 2013 In Philippines, workers toil among hazards in compressor mining



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