New Indian Express 2013年11月10日
インドが水銀条約署名を渋ることに正当性はない

情報源:New Indian Express, Nov. 10, 2013
India's reluctance to sign mercury treaty unjustified
By Yogesh Vajpeyi
http://newindianexpress.com/opinion/Indias-reluctance-to-sign
-mercury-treaty-unjustified/2013/11/10/article1881734.ece


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年11月19日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/news/131110_India's_reluctance_to_sign_mercury_treaty.html

 汚染に取り組む貧しい国を援助するために東京(日本政府)が20億ドル(約2,000億円)を約束した(訳注1)後に、約140の国と地域からの代表者らが木曜日(10月10日)水銀汚染を規制する国連の条約に署名した(訳注:10月10日の署名国は92か国であり、約140というのは外交会議に参加した国及び地域の数。実際は139)。インドは今年の1月に条約のドラフトを承認したにもかかわらず、残念ながら10月に日本の熊本で開催された水俣条約外交会議には参加しなかった。そのような歴史的な会議を欠席するというインド政府の説明しがたい決定により、インドは水銀を廃絶するための世界のリーダシップをとる機会失った。

 同条約の名前は、日本の熊本県水俣湾のチッソによる恥ずべきそして故意の水銀汚染による中毒事件からつけられた。この中毒事件は、免疫系にダメージを受けたり脳や神経系に障害を受けた患者を持ったひとりの医師により1950年代に明らかにされた。その後すぐに、産業汚染が可能性ある原因として示唆された。しかし1968年になるまで、チッソは水銀で汚染された廃水の同工場からの排出を止めなかった。水俣やその周囲の地域の水銀中毒被害者らが正当性を得て補償を受けるのに50年以上かかっており、今日ですら、チッソと政府を相手取り、裁判をつづける被害者のグループがある。

 環境グループは、この条約は多くの重要な問題への対応が不十分であると主張しているが、それでも同条約は、水銀温度計を含む製品のリストについては、廃止期日を2020年と設定し、水銀の採掘の廃止については政府に15年の期間を与えた。WHOによれば、水銀には安全な閾値というものはない。水銀中毒は水俣病としてよく知られているが、それは、その地域に住んでいた不幸な人々に水銀中毒が起きたことが発見されたからである。

 水銀には多くの用途があるので、それを完全に禁止することはできない。条約はこのことを認めており、30年という期間のあいだに水銀の使用を廃止するよう求めているだけである(訳注:?)。しかし、条約は2020年までに水銀を含有する製品の輸入と輸出を禁止することを勧告しており、それらの製品には電気スイッチやリレー、バッテリー、ランプ、電球、温度計、血圧計、ある種の化粧品やせっけんが含まれる。もし、署名した50か国が批准すれば国際条約として発効する。批准した全ての国は条約の条項を反映する国内法を整備することが義務付けられる。

 インドではどのくらいの人々が水銀中毒により影響を受けているのかを確認する体系的なデータはない。10年前に、ある多国籍企業が、コダイカナル(訳注:南インド、タミールナドゥー州)にある温度計工場から適切な手順を踏まずに水銀を廃棄して告発された。危険な廃棄物の投棄に対する許すことのできない態度を立証するために環境グループの介在が必要であった。最終的にその会社は工場裏の土壌を除去しなければならなかった。

 化学工場からの廃棄物排出に関するインドの規制は、悪名が知れわたるほど生ぬるい。従って、そのような条約に署名することをインドが嫌がることに正当性はない。そのよううな条約に対して、わざとぐずぐずするニューデリー(インド政府)は、中国の政治的及び倫理的な大成功に比べて全く不可解である。

 中国は、アジアで最大の水銀排出国のひとつである。水銀鉱石を掘り出す辰砂(水銀の原鉱)鉱山に加えて、中国は大量の水銀を大気に排出するいくつかの石炭火力発電所持っている。また、世界中で水銀排出の多くを占める小規模金採鉱も持っている。しかし、中国は条約に署名し、既存の技術を廃止することを約束した。一方インドは、水銀を排出して近隣の人々に重大な健康影響を及ぼすいくつかの石炭火力発電所の建設を推進している(訳注2)。インドには水銀排出を規制し管理するという政策がない。


訳注1
ピコ通信ピコ通信/第182号( 2013年10月23日発行)
10月9日 水俣 水銀条約開会記念式典 安倍首相ビデオメッセージ 途上国に2,000億円のODA支援と「水銀による被害を克服」発言


訳注2
Global Coal Risk Assessment



化学物質問題市民研究会
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