CBC News  2012年12月28日
カナダ先住民の老婦人
水銀汚染被害の救済を嘆願


ベッティ・リフェルの訴え
ドライデンの製紙工場の水銀が
彼女たちに被害を及ぼした
補償を求めている

情報源:CBC News Dec 28, 2012
First Nations elder pleads for help after mercury poisoning
Betty Riffel says mercury from Dryden paper mill
poisoned her people and is looking for compensation
http://www.cbc.ca/news/canada/thunder-bay/story/2012/12/28/
tby-mercury-poisoning-first-nations-compensation.html


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年12月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/news/121228_CBC_First_Nations_mercury_poisoning.html


グラッシー・ナロウズ近くのカナダ先住民の標識
ワバウスカン(wabauskang)カナダ 先住民の老婦人ベティ・リッフェルは、グラッシー・ナロウズとホワイトドッグのカナダ先住民に被害を及ぼしたのと同じ水銀汚染が彼女のコミュニティにも被害をもたらしたと言う。被害者を補償するための水銀被害補償委員会の設立を含んで、これらカナダ先住民の両方が数百万ドル(数億円)の和解金を受けたのに、ワバウスカンの人々は何も受けとっていないと付け加えた。(Photo: Jody Porter/CBC)

 ワバウスカンの先住民である73歳の老婦人が、彼女のコミュニティの水銀汚染に対処するための時間も選択肢もなくなったと述べて、メディアに手紙を書いて訴えた。

 ベティ・リッフェルは、ワバウスカンはグラッシー・ナロウズと同じような水銀汚染を受けたが、その下流の人々とは違い、彼女のコミュニティは認定も補償を受けていない。

 ドライデンにある製紙工場からの水銀がイングリッシュ・ワビグーン川水系をすでに数年間、汚染していることが、1970年に発見された。

 リッフェルは、彼女らがその川沿いに住んでいたが、彼女の弟は赤ちゃんのときに死んだと述べた。彼女は、他の多くの幼児が死んだのと同じように、水銀による中毒で死んだと信じていると述べた。

 ”私たちのコミュンイティーは、もしこれらの赤ちゃんが生き残っていればもっと大きくなっていたでしょう”と、リッフェルは述べた。

 ”彼等は、私たちの人々を殺したのです。それは全く大量虐殺のようなものです”。

 政府によって1986年に設立された水銀被害補償委員会は、グラッシー・ナロウズとヴァバシムーン(Wabseemong)周辺の先住民には援助を与えた。数十年間、リッフェルは同様の援助を強く求めたが、ダメであった。

 州政府は、ワバウスカンは水系が異なる場所にあるので補償委員会の対象害であると述べている。

”解決の意志”がない

 自由党党首選挙に参加することを決定する以前はオンタリオ州先住民問題大臣であったキャサリーン・ウィンは、補償委員会を変更することは容易なことではなく、連邦政府の支援が必要であると述べた。

 ”これは、環境汚染に関わる悲劇にまつわる非常に困難な問題である”と彼女は述べた。

 しかし彼女は、もし彼女が首相になったらこの問題を追求し続けるであろうと約束した。

 リッフェルと共に政府に圧力をかけることを支援した弁護士ケート・ケンプトンは、それはオンタリオ州とカナダがワバウスカンのための補償問題を解決することは”比較的容易”であったはずであると述べた。

  彼等は既にグラッシー・ナロウズとヴァバシムーンに設立されていた水銀被害補償委員会にそれをやらせることができたはずであるとケンプトンは述べた。”しかし、政府にはそれをやる意志がなかったように見えます。そして私にとってそれは犯罪です”。


ベッティ・リフェルのメディアへの手紙
2012年11月28日

 私は、誰かが私たちの話しを聞き、それを伝えてくれるという希望をもってこの手紙を書いています。

 私は、ワバウスカンの先住民の一員で、73歳です。そして私は水銀汚染の被害者です。私のコミュニティの他の多くの人々が水銀で汚染され、ひどい影響を被りました。

 この水銀汚染はまた、グラッシー・ナロウズとホワイトドッグの先住民にも被害を及ぼしました。これらの先住民の両方は数百万ドル(数億円)の和解金を得ました。その和解の一部として水銀被害委員会が被害者の補償のために設立されました。

 ワバウスカンの先住民はなにも受け取っていません。

 グラッシー・ナロウズとホワイトドッグの先住民と同じように、私たちも水銀汚染による甚大な影響の多くを被りました。多くの乳幼児の死亡、精神的発達の遅れ、神経系障害、まひ、振るえ、激しい発作などです。

 私たちは、どのような補償も被害者であるという認定すらカナダ政府又はオンタリオ州から受けていません。私たちは何度も両政府に私たちの問題に目を向けさせるよう試みましたが、私たちは無視され続けました。カナダ政府は、何もすべきことはないと私たちに言いました。オンタリオ州政府は、私たちを助けるためのお金がないと私たちに言いました。

 私たちの多くはもはや生き長らえていません。たったの9人です。生き延びた私たちは病気であり、水銀汚染の影響を被っています。私たち老いており、オンタリオ州政府とカナダ政府は、私たちを助けるより安くつくので、私たちが死ぬのを待っているように私たちにはみえます。

 水銀汚染の被害を受けている人々はほとんどが、オンタリオ州クイベルの近くにある居留地から移動してきました。1960年代の後半に、インディアン局の人がクイベルにやってきて、家屋を焼き払い、住民をワバウスカン湖に強制的に移動させました。多くの人々はクイベルのコミュニティにいたときから、現在ではそれが水銀中毒であると知っている症状を持っていました。

 1960年代後半に私の兄弟が電話で、インディアン局がワバウスカンを解散させようとしていると伝えてきました。私たちは抵抗し、インディアン局から一切金をもらわずに居留地に18キロメートルにわたる道路を建設しました。

 1960年代から1970年代後半にかけて、ドライデン化学社は4万ポンド(約18トン)以上の水銀をイングリッシュ・ワビグーン川水系に放出しました。この汚染とその甚大な影響を記録する膨大な数の研究と報告書があります。
 2006年、リーネ・シンプソン博士はワバウスカンの汚染に関するドラフト報告書を完成させ、オンタリオ政府とカナダ政府の両方に報告しました。シンプソン博士は報告書の中で次のように述べています。

 イングリッシュ・ワビグーン川の魚は1975年には、平均濃度が0.47-5.98 ppmの範囲でメチル水銀によりひどく汚染されていました。カナダ保健省の魚を頻繁に食べる人々の安全摂取ガイドラインは0.2 ppmでした。ワバウスカン先住民がり2002年に完了させた調査は、カワカマス(pike)やウォールアイ(walleye)などの水銀レベルは依然として高いことを示しています。

 私たちは、グラッシー・ナロウズとホワイトドッグの人々と全く同じように魚を食べ水を飲み続けました。私たちのコミュニティの人々は、1980年代になるまで、この汚染について何も知りませんでした。
 なぜグラッシー・ナロウズとホワイトドッグの人々は支援され補償されたのに、私たちはされないのでしょうか?

 なぜ政府は安全ではないことを知っていたのに、全て安全であると私たちに言ったのでしょうか?

 私たちは、生きる道、自然の恵み、遺産を失い、そして私たちは水銀被害を受けました。なぜ政府は、私たちを無視するのでしょうか?

心を込めて

ベティ・リッフェル(Betty Riffel)


訳注:参考情報

■CBC ニュース:Mercury poison legacy

■ビデオ:The Scars of Mercury

 大類義(おおるい・ただし)監督による「カナダ先住民と水俣病」に関するビデオの英語版。カナダ・オンタリオ州ドライデンの製紙会社であるリード社は、苛性ソーダ製造プラントで使用する無機水銀を1962年以来イングリッシュ・ワビグーン川に排出。それがメチル水銀となり食物連鎖により下流160kmにあるホワイトドッグとグラッシー・ナロウズという2つの居留地の先住民の主食である魚を汚染していることが1969年に判明したカナダ版水俣病;1975年と2004年の原田正純医師等による現地調査;先住民同化政策や森林開発などによる先住民のアイデンティティー喪失や生活環境破壊などを報告する優れたドキュメンタリー・ビデオ。カナダ政府の対応:”水銀汚染”の存在は認めるが、”水俣病”の存在は認めない。”救済”はするが、”補償”ではない。



化学物質問題市民研究会
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