2013年3月 IPEN
新たな水銀条約への予備的ガイド

情報源:IPEN Heavy Metals Working Group, March 2013
Preliminary guide to the new mercury treaty
http://ipen.org/pdfs/ipen-booklet-hg-treaty-v1_4w.pdf

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年3月19日
更新日:2013年3月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/IPEN/
Preliminary_Guide/IPEN_Preliminary_Guide_to_Hg_Treaty.html


 IPEN は、世界中の人の健康と環境を保護する安全な化学物質政策を確立し実施するために活動する主導的な世界組織である。IPENの使命は、全てのために有害物質のない将来にすることである。

 IPENは、発展途上国及び移行経済国における環境問題と公衆健康問題に関して、主導的な公益団体を組織化している。IPENはまた、現地活動を実施し、お互いの活動から学び、新たな優先事項を策定し、政策を達成するために、国際的なレベルでそのメンバー組織の能力構築を支援している。

 IPENの世界的ネットワークは、116カ国の公益非政府組織700団体以上からなっている。IPENは、アメリカ及びスウェーデンに国際的な事務所をもち、世界の政策の場及び発展途上国で活動しつつ、アフリカ、アジア太平洋、中東欧、ラテンアメリカ・カリブ海、及び中東地域にあるIPENの8か所の地域事務所を通じて連携している。

 IPENについての更なる情報は、http://ipen.org/index.html を参照ください。

 IPENの水銀をなくすキャンペーン(Mercury-Free Campaign )は、世界的な水銀汚染により引き起こされる人と環境の健康の害が大変なレベルになっていることに対応するものである。このキャンペーンは、世界中全ての地域の国及び地域のNGOs及び市民社会組織による取り組みを促進している。
  • 水銀汚染と曝露により引き起こされる害について公衆の意識向上をはかる。
  • 水銀汚染源と曝露源の削減と廃絶を目指す特定キャンペーンを実施する。
  • 水銀を使用しない代替を促進する。
  • 国家の水銀規制法と政策の採択と実施のために、政府担当者、政策策定者、及び世論形成者の支援を構築する。
  • 世界水銀条約の国の批准のための公衆及び政策的支援を構築する。
  • 水銀汚染により引き起こされる害を削減し廃絶するために人的及び資金的資源を動員する。
 IPENの水銀をなくすキャンペーン更なる情報については、http://ipen.org/hgfree/ をご覧ください。


内容
はじめに
条約序文
第1条 目的
第2条 定義
第3条 水銀供給源と貿易
第6条 水銀添加製品
第7条 水銀が使用される製造プロセス
第8条 要求に基づく締約国に利用可能な免除
第9条 人力小規模金採鉱
第10条 排出(大気)
第11条 放出(陸と水)
第12条 廃棄水銀以外の水銀の環境的に適切な暫定的保管
第13条 水銀廃棄物
第14条 汚染サイト
第15条 財源とメカニズム
第16条 技術的援助と能力構築
第17条 実施及び遵守委員会
第18条 情報交換
第19条 広報、意識向上、教育
第20条 研究、開発、監視
第20条bis 健康面
第21条 実施計画
第22条 報告
第23条 効果の評価
第24条 締約国会議
第25条 事務局
第26条 紛争解決
第27条 条約の改正
第28条 付属書の採択と改正
第29条 投票の権利
第30条 署名
第31条 批准、受諾、承認又は同意
第32条 発効
第33条 留保
第34条 脱退
第35条 寄託
第36条 正文
謝辞


はじめに

 新たな水銀条約に関する政府間交渉委員会最終会合は、2013年1月にジュネーブで開催され、新たな条約のテキストに関して最終的な合意に達した。この条約は、今年の10月に日本で開催される外交会議で採択されるであろう。

 この予備的ガイドの発行日時点では、承認されたテキストを含む最終交渉会合に関する公式報告書は、まだ発表されていない。この予備的ガイドは、最終交渉会合で承認された会議室文書(conference room papers)に基づいている。完全な公式条約テキストは、2013年後半には利用可能となるはずである。条項番号は変更され、さらに最終の深夜の交渉会合における急いだ意思決定のために、我々が把握できなかった、いくつかの追加的な内容があるかもしれない。

 全体として、水銀条約は、水銀供給と貿易の削減、水銀を使用している製品やプロセスの段階的廃止又は段階的縮小、そして水銀の排出及び放出の管理を求めている。条約の条項の多くは、義務的措置と自主的措置が混在している。しかし、汚染サイト(第14条)、研究・開発・監視(第20条)、健康面(第20条bis)及び実施計画(第21条)を含んで、いくつかの条項は完全に自主的である。

 政府やその他が条約を実施するのを支援するための財政的援助は、義務的措置が優先されるようである。これらの条項の下での行動及び他の条項の自主的要素は、財政的援助の資格を与えられるかもしれないし、与えられないかもしれない。

 水銀に関する世界条約というものは、もし一緒に、そして完全に実施されるなら、人的活動に由来する水銀の地球環境への排出と放出の総計を実際に低減するような規定を組み入れることが期待されるべきであると、IPENは最低限、考えてきた。我々のレビューでは、現在の条約はそのようにするのに十分ではない。しかし、新たな条約は、水銀汚染が人の健康と環境に深刻な脅威を示し、そのような脅威を低減するために水銀の排出と放出を最小化し、廃絶するために行動が必要であるという世界の合意を確かに示している。

 条約は、水銀最小化と低減に取り組みたいと望む政府、NGOs、その他により、効果的に利用されるかもしれない規定を確かに含んでいる。IPENは、我々が様々な国で展開するプロジェクトやキャンペーンで、これらの規定を利用することを計画している。IPENはまた、このことを実現できる締約国会議や、条約の強化に取り組む専門家グループの会議で、提言することを計画している。

 新しい条約は、将来再び水俣病の悲劇が起きることを防ぐのに十分な義務的な規定を含んでいないので、水俣病被害者組織からの反対があったにもかかわらず、新しい条約に"水俣条約"と命名する決定がなされた。IPENは、これらの組織の主張を支持するが、それは水俣病を思い起こさせる水銀中毒が、多くの人力小規模金採鉱(ASGM)現場や、その周辺で既に起きているからである。また、新たな条約は水銀中毒事故が発生する水銀汚染サイトの浄化を求める規定や、被害者を補償する規定を含んでいない。それにもかかわらず、この名前は、水銀曝露による重大な人の健康への影響と、企業と政府が水俣病の多くの被害者に対する責任を否定し、なすべき義務を怠ってきた長い歴史を思い起こさせるのに役立つことができる。


条約序文
  • 序文は、特に脆弱な集団における懸念と将来の世代への懸念に言及している。
  • それは、水銀の食物連鎖中での生物濃縮と伝統的食物の汚染による”北極の生態系と先住民地域社会の特別な脆弱性”に言及している。
  • それは、水俣病について、及び”水銀の適切な管理と、将来のそのような事件の防止を確実にする必要性”を述べている。
  • それは、”締約国が水銀への曝露から人の健康と環境を保護するための取り組みの中で、何ものも、この条約の規定に矛盾しない追加的な国内措置をとることを妨げない”と言及している。
  • 予防原則と汚染者負担原則という言葉は、条約中にない。その代わり、それらはリオ原則の"再確認"という言葉のもとに一括されている。対照的にストックホルム条約では、”・・・予防は全ての締約国の懸念の基礎をなし、この条約の中に深く埋め込まれている”と述べている。

第1条 目的1
  • この条約の目的は、人の活動に由来する水銀及び水銀化合物の放出から人の健康と環境を守ることである。

[注1] ドラフトテキストには、第1条の後に、「第1条 bis 他の国際的合意との関係」があったが、幸いなことに、その提案は退けられた。その提案が通れば、この条約の規定に対する世界貿易機関の優越性の決定を与えることになったであろう。このことは以前、ストックホルム条約及びロッテルダム条約の両方で企てられたが退けられた。

第2条 定義

  • (a) ”人力小規模金採鉱(Artisanal and small-scale gold mining(ASGM))”は、個人の採鉱者又は小規模事業者により、限られた資本投資と生産をもって実施される金採鉱を意味する。

  • (b) ”利用可能な最良の技術(Best available techniques(BAT)”は、所与の締約国又はその締約国の領土内にある所与の施設について、経済的及び技術的考慮を払いつつ、全体として、水銀の大気、水、陸への排出と放出及び、そのような排出と放出の環境への影響を防止し、それが現実的ではない場合には低減するために最も効果的な技術を意味する。この脈絡において:

    ”最良(Best)”は、全体として環境保護の高い一般的レベルを達成するために最も効果的であることを意味する。

    ”利用可能な技術(Available techniques)”は、所与の締約国及びその締約国内にある所与の施設に関する限り、もし、その締約国により決定される施設の管理者が利用できるなら、それらの技術がその締約国の領土内で使用される又は開発されるかどうかにかかわらず、コストと便益を考慮しつつ、経済的に及び技術的に実行可能な状況の下に関連する産業分野で実施できる規模で開発される技術を意味する。

    ”技術(Techniques)”は、使用されるテクノロジー、運用方法、及び設置が設計され、構築され、維持され、運転され、解体される方法を意味する。

  • (c) ”環境のための最良の慣行(Best environmental practices(BEP))”は、環境規制措置と戦略の最も適切な組み合わせの適用を意味する。

  • (d) ”水銀(Mercury)”は、元素水銀(Hg(0)、CAS No. 7439-97-6)を意味する。

  • (e) ”水銀化合物(Mercury compounds)”は、化学反応によってのみ異なる元素に分離できる、水銀及び他の化学元素のひとつ又はそれ以上の原子からなる物質を意味する。

  • (f) ”水銀添加製品(Mercury-added product)”は、意図的に加えられた水銀又は水銀化合物を含む製品又は製品要素を意味する。

  • (g) ”締約国(Party)”は、この条約によって拘束されることに同意し、条約が効力を有する国家又は地域経済統合機関を意味する。

  • (h) ”出席し、かつ投票する締約国(Parties present and voting)”は、締約国会議に出席し、賛成又は反対票を投じる締約国を意味する。

  • (i) 一次水銀採鉱(Primary mercury mining)は、得ようとする主要な物質が水銀である採鉱を意味する。

  • (j) ”地域経済統合機関(Regional economic integration organization)”は、この条約によって支配される事柄に関し、加盟国が権限を委譲し、内部の手続きに従い、この条約に(を)署名、批准、容認、同意することの権限を正式に与えられた、所与の地域の複数の主権国家よって構成されるひとつの組織を意味する。

  • (k) ”許容される用途(Use allowed)”は、第3条、第6条、第7条、第8条及び第9条と一貫性がある用途を含むが、それらに限定されない、この条約と一貫性がある、水銀又は水銀化合物の締約国による全ての用途を意味する。この提案は、この条約の下に、追加的な警告又は注意なしに、人力小規模金採鉱(ASGM)を許容される用途であるとし、ほとんどの国で違法なこの活動分野で有毒物質の使用を許すということに留意すること。幸いなことに、いくつかの国では既に採鉱/ASGMでの水銀の使用を禁止されている。


第3条 水銀供給源と貿易
  • 新規の一次採鉱は、政府にとっての条約発効の時点で禁止される。しかし、政府は、それ以前なら新たな水銀採鉱を許してもよく、もし政府が批准を遅らせれば、禁止までの時間枠が長くなる。
  • 既存の一次採鉱は、政府にとっての条約発効の後15年で禁止される。もし政府が批准を遅らせれば、もっと長い期間、既存の鉱山から水銀を採鉱することができる。
  • 批准後の一次採鉱からの水銀は、製品の製造のための使用、許容されるプロセス(第7条に記述されているようにVCMなど)のための使用、又は条約の要求にしたがう処分のみが可能である。このことは、一次採鉱からの水銀は、国が条約を批准すれば、ASGMでの使用のために利用できないことを示唆する。
  • 50トン以上の水銀の在庫を特定することは任意であるが、諸国は、そうするよう”努力しなくてはならない”。この項は、実際には暫定的保管に関する第12条に関連している。10トン以上の在庫はASGM活動を示しているかもしれないので、この項はまた、国内のASGM活動を特定することに関連性がありうることに留意すること。締約国は、その在庫は何のためにあり、その在庫の将来計画はどのようなものかを説明しつつ、暫定的保管/在庫施設における量についての情報を含めることにより、年間の在庫の特定をもっと包括的にし、有用にすることができるはずである。
  • ASGMは許容される用途なので、ASGMのための水銀貿易は許される。しかし、採鉱とASGMでの水銀の使用をすでに禁止している国は、この用途のための水銀貿易を禁止するという彼等の約束を強化すべきである。
  • 塩素アルカリ施設を閉鎖するときに、余剰水銀が条約の要求に従い処分され、回収、リサイクル、再生利用、直接再利用、又は代替用途の対象とならないことを確実にするための”措置を取る”ことが求められているが、このことは、これらの水銀が市場に入り込むことを防止することになるので、よいことである。しかし、この余剰水銀が、長期間の保管で安全に封じ込められることを確実にするためのメカニズムが必要である。諸国は、これらの廃棄物は、締約国会議により開発され、この条約に追加される、将来のガイドラインに従い、環境的に適切な方法で扱われることを確実にするための措置をとることになっていることに留意すること。
  • 非鉄金属精錬及び水銀含有製品からの回収水銀を含む水銀貿易は、それがこの条約の下に”許容される用途”のためなら、許される。
    訳注:日本は、主に非鉄金属精錬、及び水銀含有製品から年間100トン近くの水銀を回収しており、そのほとんどを輸出している。最終的には、その多くが小規模金採鉱(ASGM)に向けられていると想定される。日本政府は、水銀条約の要求にかかわりなく、ASGMに向けられる可能性のある水銀輸出は止めるべきである。
  • この条約は、輸入国が輸出国に書面による輸入同意を発給することを求める、水銀貿易のための”事前通報同意”手続、及び、水銀はこの条約の下に許容される用途又は暫定的保管のためだけに使用されることを確実にすることを含んでいる。
  • 事務局により維持される公開の登録は同意通知を含むであろう。
  • 非締約国が水銀を締約国に輸出する場合には、非締約国はその水銀が禁止されている供給源からのものではないことを証明しなくてはならない。
  • この条項は、鉱石、石炭、又は水銀含有製品の貿易には適用しない。
  • 締約国会議(COP)は後に、特定の水銀化合物の貿易がこの条約の目的を損ねていないか評価し、特定の水銀化合物がこの条項に加えられるべきかどうか、決定することができる。
  • 各締約国は、この条項の要求を満たしていることを示す報告書を事務局に提出しなくてはならない。

第6条 水銀添加製品
  • 水銀含有製品の製造、輸入、又は輸出を”許さない”適切な措置をとることにより、製品禁止は生じる。既存の在庫品の販売は許されることに留意すること。
  • この条約は、いわゆる”ポジティブリスト・アプローチ”を採用している。このことは、廃止されるべき製品が条約にリストされ、それ以外は、多分条約により対応されないということを意味する。
  • 締約国は、もし製品のリスクと便益の評価が環境又は人の健康の便益を示さないなら、条約が締約国にとって発効する前に、新たな水銀添加製品の製造及び市場への流通を思いとどまらせること。これらの”抜け穴”製品は、その情報を公表するであろう事務局に報告されるべきこと。
  • 2020年までに廃止される予定の製品リストがある。しかし、諸国は廃止期日に5年間の猶予を適用することができ、このことは、合計10年間、期間を延長する(廃止発効期限を2030年とする)ことができることを意味する(第8条参照)。
  • 2020年までに廃止すべき製品は、2%以上の水銀を含むバッテリー;ほとんどのスイッチとリレー;電球当り5mg以上の水銀を含むコンパクト蛍光ランプ(CFL)(異常に多量である);直管蛍光ランプ(LFL)− 60W未満の3波長ランプで5mg以上の水銀を含むもの、及び 40W未満のハロゲン蛍光ランプで10mg以上の水銀を含むもの;高圧水銀ランプ(HPMV);様々な冷陰極蛍光ランプ中の水銀;
    訳注(参考):水銀に関する条約の制定について/一般社団法人 日本電球工業会
    http://www.jelma.or.jp/99news/pdf/20130125UNEP_Suigin.pdf
    1ppm以上の水銀含有の肌美白製品を含む化粧品で、マスカラとその他の目周辺の化粧品を除く(条約は効果的で安全な代替品がないからと主張);農薬、殺生物剤、及び局所消毒剤;気圧計、湿度計、マノメータ、温度計のような非電子機器、血圧計
  • ”段階的に縮小”されるべき製品は、歯科アマルガムであり、締約国は、”国内事情及び関連する国際的なガイダンス”を考慮して、9項目の可能性ある選択肢の中から2項目の措置を選択することが想定される。可能性ある行動は、詰め物の必要性を最小にするための防止プログラムを確立すること、コスト効果があり、臨床的に有効な水銀を使用しない代替を促進すること、水銀アマルガムが水銀を使用しない代替より有利な保険プログラムのやる気をなくさせること、そして、アマルガム使用をカプセル収納形状に制限すること−を含むリストから、2項目を選択することを含む。
  • 条約から除外される製品は、国民保護(civil protection)及び軍事用途;研究及び較正(キャリブレーション)にとって必須の製品;スイッチとリレー;電子表示のための冷陰極蛍光管(CCFL)及び外部電極蛍光管(EEFL);水銀を使用しない実行可能な代替品がない場合の測定機器;伝統的又は宗教的儀式で使用される製品;保存剤としてのチメロサールを含むワクチン;マスカラ及びその他の目周辺用化粧品(既述)
  • 塗料のような以前のドラフト中で禁止としてリストされていたいくつかの製品は、交渉過程で除外されたことに留意すること。
  • 事務局は、締約国から水銀添加製品に関する情報を受領し、他の関連情報と共に公表するであろう。
  • 締約国は、技術的及び経済的実行可能性、環境及び健康へのリスクと便益に関する情報を含んで、廃止されるべき追加製品を提案することができる。
  • 禁止された製品のリストは条約発効5年後に締約国会議により見直しが行なわれるであろう。これは2023年以降となるであろう。

第7条 水銀が使用される製造プロセス
  • 水銀を使用する廃止されるプロセスは、塩素アルカリ製造(2025年)と触媒として水銀を使用するアセトアルデヒド製造(2018年)である。
  • 第8条は、諸国は廃止期日に5年間の猶予を適用することができ、合計10年間の期間延長(上記プロセスの廃止発効期限をそれぞれ2035年と2028)することができると規定していることに留意すること。
  • 制限されるプロセスは、廃止期日の規定なしに水銀使用を続けることが許される。これらには、塩化ビニル・モノマー(VCM)製造、ナトリウム又はカリウムのメチル化又はエチル化、及びポリウレタン製造がある。VCM製造は、データ欠如のためUNEPの大気排出目録にはないことに留意すること。石炭と水銀触媒を使用するVCM製造は中国に特有であり、潜在的に莫大な水銀放出源である。2008年に完成した 『UNEP/AMAP Technical Background Report to the Global Atmospheric Mercury Assessment』 によれば、”中国における調査は、2004年に推定620トンの水銀需要、又はこの応用を確認した。この水銀の使用は、中国の経済ブームにより、年間25から30%増大している。・・・”。
  • 制限されるプロセスについて、締約国は、製造ユニット当りの水銀使用を2020年には2010年比で50%削減することになっている。これは”施設当り”ベースで計算されており(訳注:排出総量ではない)、新規施設が建設されるので、総水銀使用量と総水銀放出量は増加する可能性があることに留意すること。締約国はまた、水銀を使用しない触媒とプロセスの研究と開発を支援し、第10条と第11条に概要が述べられている通り、排出と放出を管理し、締約国会議(COP)に代替と水銀使用の廃止の開発の取り組みに関して報告しなくてはならない。もしCOPが水銀を使用しない代替が技術的及び経済的に実行可能であると決定したら、そのプロセスでの水銀の使用は5年後に禁止されるであろうことに留意すること。
  • この条項によりカバーされない免除されるプロセスには、水銀添加製品を使用するプロセス、水銀添加製品を製造するプロセス、又は水銀含有廃棄物を処理するプロセスがある。
  • 締約国は、これらのプロセスのために水銀を使用する施設を特定し、それらにより使用される水銀の見積り量に関する情報を、その国にとっての条約発効3年後に事務局に提出するよう努力すること。
  • 締約国は、条約発効後(2018年までと推定される)、新たな塩素アルカリ施設とアセトアルデヒド製造施設で水銀の使用を許可することは許されない。
  • 規制されるプロセスは上記(及び付属書 D中)でリストされたものである。しかし締約国は、水銀を使用する新たなプロセスの開発を思いとどまらせることを想定される。締約国は、それが、”著しい環境的及び健康的便益を提供し、そのような便益を提供することができる技術的及び経済的に実行可能な水銀を使用しない代替が存在しないこと”をCOPに示すことができるなら、これらの水銀を使用するプロセスを許すことができることに留意すること。
  • 締約国は、技術的及び経済的実行可能性、環境及び健康へのリスクと便益に関する情報を含んで、廃止されるべき追加プロセスを提案することができる。
  • 禁止された及び制限されたプロセスのリストは、条約発効5年後に締約国会議により見直しが行なわれるであろう。これは、おおよそ2023年となるであろう。

第8条 要求に基づく締約国に利用可能な免除
  • 締約国は、締約国になる時、又は新たな製品又はプロセスが条約に加えられる時に、プロセスの廃止期日(付属書C及びDにリストされている)から5年の免除を登録することができる。締約国は、なぜ免除が必要なのか説明する必要がある。
  • ストックホルム条約と同様に、水銀条約は、どの国がどのような免除と満了期日をそれぞれに要求したかのリストを含む、公衆が利用可能な免除登録を確立するであろう。
  • もしCOPが締約国からの要求に同意するなら、その5年の免除期間をさらに5年間、延長することができる。この決定をするために、COPは、延長期間、代替の利用可能性に関する情報、開発途上国及び移行経済国の事情、及び環境的に適切な保管と処分を行なう活動を正当化するための要求国からの報告書を考慮することを想定される。
  • 付属書C又はDにリストされている廃止期日が過ぎてから10年後には、どのような免除も許されない。

第9条 人力規模金採鉱(ASGM)
  • 目的は、”そのような採鉱及び処理での水銀及び水銀化合物の使用、及び水銀の環境への放出を削減し、実行可能な場合には廃絶するための措置をとる”ことである。
  • それは、ASGMは”些細なものではない(is more than insignificant)”と認めた国に適用する。条約は、この用語について説明をしていない。
  • ASGMは、条約の下で許容される用途である。このことは、どのような輸入制限−量も期間も−もなしに、水銀貿易を認めることを意味する。しかし、ASGM国家行動計画に関する付属書Eの第1f項は、諸国が、”人力小規模金採鉱及び処理で使用する国外及び国内の両方の供給源からの水銀及び水銀化合物の貿易の管理と流用防止のための戦略”に関するひとつの章を、彼等の国家行動計画の中に含めることが求められていると述べている。インドネシア、マレーシア、及びフィリピンのようないくつかの諸国は、ASGMでの水銀の使用をすでに禁止していることに留意すること。採鉱及びASGMでの水銀の使用を既に禁止しているこれら及びその他の諸国もまた、この用途のための水銀貿易を禁止するという彼等の約束を強化するべきである。
  • 貿易条項(第3条)によれば、一次採鉱及び塩素アルカリ施設からの水銀は、条約発効後はASGMのために使用することはできない。監視措置と公衆の参加が、この規定の執行を確実にするために役立つことができる。
  • 国が(その活動は些細なものではないことを示すことにより)第9条を適用することを事務局に通知したら、国は国家行動計画を策定し、条約発効3年後までに、それを事務局に提出し、その後は3年毎に見直しを行なう。
  • 計画要求は、国家目標と削減目標、及び次のような最悪の実施方法を廃絶するための行動を含む。−全鉱石アマルガム化;アマルガム又は加工アマルガムの開放加熱;住宅地域でのアマルガムの加熱;水銀一次除去を行なわずに水銀が加えられている堆積物、鉱石、又は尾鉱に対するシアン化合物の浸出処理。残念ながら条約は、諸国が参照として使用するための廃止期日又は削減目標を含んでいない。しかし、諸国は、国家目標の中でこれらのマイルストーンを確立するよう働くべきである。
  • 他の計画要素は次のことを含む。ASGM分野の公式化又は規制を促進するための措置;実施において使用される水銀の量の基準見積り;水銀の排出及び放出、及び曝露の削減促進のための戦略;水銀貿易の管理とASGMへの流用防止のための戦略;国家行動計画の実施と開発継続への利害関係者の関与のための戦略;ASGM採鉱者及び彼等の地域社会の水銀への曝露に関する公衆衛生戦略。健康データの収集、ヘルスケア作業者のための訓練、及び健康施設を通じての意識向上を含む;脆弱な集団、とりわけ、子どもと妊娠可能年齢の女性、特に妊婦、の小規模金採鉱で使用される水銀への曝露を防止するための戦略;ASGM採鉱者及び影響を受ける地域社会への情報提供のための戦略;及び、国家行動計画の実施のためのスケジュール。水銀汚染サイトの浄化は条約中には含まれていないが、提案される行動計画は、水銀汚染に対応するこの重要な要素を含めることができることに留意すること。
  • 任意の活動は、"環境的に、技術的に、社会的に、そして経済的に実行可能な、知識、環境のための最良の慣行、及び代替技術を促進するために、既存の情報交換メカニズムを使用すること"を含む。
  • 水銀使用はASGM分野に許されているが、第9条にはASGMのための廃止期日がない。さらにASGMは、第7条(水銀使用プロセス)によりカバーされていない。しかし、諸国は、国家行動計画の中で廃止期日を確立し、他の条項で述べられているようにASGMに対応することができる。

第10条 排出(大気)
  • 目的は、”水銀の排出を管理し、実行可能な場合には、削減する”。排出は大気への排出を意味し、何が実行可能であるかを決定するのは、各国の自由裁量であることに留意すること。
  • 既存の排出源については、この条項の目的は、”長い年月の間に排出を削減するにあたり、合理的な進捗を達成するために、締約国により適用される措置のため”である。
  • この条約に含まれる大気排出源は、石炭火力発電所と石炭焚き産業用ボイラー;非鉄金属の精錬及び焼結プロセス(鉛、亜鉛、銅、及び産業用金だけが対象);廃棄物焼却施設;及びセメント・クリンカー(訳注:セメントの原料をキルン等で焼成して得られる焼塊製造施設)
  • 交渉中に条約から削除された排出源は、石油とガス;水銀添加製品を製造する施設;付属書Dで特定されている製造プロセス中で水銀を使用する施設;製鉄及び二次製綱を含む製綱;及び開放加熱。
  • INC5における交渉参加者らは、付属書Fにリストされている排出源について、締約国が自由裁量で排出制限値を開発する可能性を放置したままにし、制限閾値を設定する必要性を認めなかった。
  • 排出を管理するための国家計画を策定することは任意である。もし策定するなら、締約国にとっての発効後4年以内にCOPに提出する。
  • 新規排出源には、既存の排出源より強い管理措置が適用される。
  • 新規排出源には、排出を管理し、実行可能な場合には削減するためにBATが求められ、BATは、締約国にとっての発効後5年より前に実施されるべきこと。排出制限値は、もしその適用と一貫性があれば、BATの代わりに使用してもよい。
  • もし政府が批准を遅らせれば、BAT要求なしに新規排出源を建設できる時間枠をより長くすることができる。
  • BATガイダンスは、COP1で採択されるであろう。多分専門家グループがその前に、将来のINCs間の期間に、ガイダンスを開発するであろう。
  • 新規排出源は、締約国にとっての条約発効日から1年後以降の新たな建設、又は付属書Fにリストされる排出源カテゴリー内の著しく改造された施設である。既存排出源を改造により新規排出源に”切り替える”ためには、”水銀排出の著しい増加”があり、副産物回収からの排出については、どのような変化をも除くと規定している。締約国は、既存排出源が新規排出源のより厳しい要求に従うかどうか選択することができる。
  • 既存排出源に関する措置は、締約国にとっての条約発効後10年より前に実施されるべきこととなっている。
  • 既存排出源に関する措置は、”国家の事情”と経済的及び技術的な実行可能性、及びその措置のコストを考慮することができる。
  • 既存の施設にBAT/BEPを適用する要求はない。その代わり諸国は、定量的な目標(どのような目標でもよい)、排出制限値、BAT/BEP、多種汚染管理戦略、及び代替措置を含むメニューから1項目を選ぶことができる。
  • 全ての削減は”施設当り”ベースで考慮されるので、施設の数が増えれば水銀排出の合計も増大するであろう。
  • 締約国は、関連ある排出源(付属書F)からの排出の目録を、可能な限り早急に、その国にとっての発効後5年経過する前に、確立しなくてはならない。
  • COPは、目録を準備するための手法に関するガイダンスと、締約国がカテゴリーの中で排出源を特定することができる基準を、可能な限り早急に採択しなくてはならない。

第11条 放出(陸と水)
  • 目的は、”水銀の放出を管理し、実行可能な場合には、削減する”。放出は、条約の他の部分でカバーされていない点源から水銀の陸と水への放出を意味することに留意すること。実行可能であることを決定するのは、各国の自由裁量である。
  • 条約に含まれる放出源は、諸国により定義される。交渉の間、付属書Gは可能性のある排出源を含んでいたが、INC5でこの付属書は削除されたので、どのような放出源が水銀を陸と水に放出するのか諸国が知るためのガイドラインはない。付属書Gは次のような放出源を含んでいた:水銀添加製品が製造される施設;付属書Dにリストされる製造プロセス中で水銀又は水銀化合物を使用する施設;非鉄金属採鉱及び精製の副産物として水銀が生成される施設。
  • この条項は、諸国により特定される”著しい”量の水銀を放出する点源である”関連ある放出源(relevant sources)”を管理する。
  • 放出を管理するための国家計画は任意である。もし策定されるなら、締約国にとっての発効後4年以内にCOPに提出されること。
  • 管理措置については、締約国は”適切なら”次の項目のうちのひとつを適用する:放出制限値;BAT/BEP;多種汚染管理戦略、又は代替措置。
  • 締約国は、その国にとっての発効後4年が経過する前に、陸と水への水銀放出源を特定すること。
  • 締約国は、関連ある放出源からの放出の目録可能な限り早急に確立し、その国にとっての発効後5年を経過する前に、陸と水への水銀放出源を特定すること。
  • COPは、実行可能な限り早急に、BAT/BEP及び放出目録作成のための方法に関するガイダンスを開発すること。

第12条 廃棄物水銀以外の水銀の環境的に適切な暫定的保管
  • 水銀の暫定的保管は、この条約の下に許容される用途のためにだけ適用される。暫定的保管は水銀在庫の保管と同様な機能をもつ。
  • 締約国は、暫定的水銀保管は環境オ的に適切な方法で行なわれることを確実にし、これらの施設が水銀汚染ホットスポットにならないことを確実にするための”措置を取らなくてはならない”。
  • COPは、バーゼル条約を考慮して、保管に関するガイドラインを採択することとしているが、この条約は、これらのガイドラインがいつ現われなくてはならないのかを規定していない。これらのガイドラインは、国家又は地域の保管を含んで、様々な種類の暫定的保管に対応すべきである。
  • 保管に関するガイドラインは、この条約の付属書として加えられるかもしれない。

第13条 水銀廃棄物
  • この条約は、水銀条約の廃棄物に、バーゼル条約の廃棄物定義を適用する。すなわち、水銀化合物からなる又は含む廃棄物、又は水銀又は水銀化合物で汚染されている廃棄物。
  • COPは、バーゼル条約と協力して、有害になる廃棄物中の水銀の関連ある量を決定するために、関連閾値を決定するであろう。
  • この条約は、COPにより定義される閾値以上の水銀を含んでいないなら、採鉱(一次水銀採鉱を除く)からの尾鉱(tailings)を明確に除外している。これは、採鉱活動の全ての種類からの、水銀を含む尾鉱をカバーする。
  • 締約国は、この条約に加えられるであろう将来のガイドラインに従い、環境的に適切な方法で水銀廃棄物が管理されるよう、”措置をとる”ことになっている。
  • 会社又は汚染者の責任はこの条項で特定されていないが、国家政府はこれらの経済的手段を利用したいと望むかもしれない。
  • 廃棄物ガイドラインを開発するときに、COPは、国家の廃棄物管理プログラム及び規制を考慮しなくてはならない。
  • 水銀廃棄物は、条約の下に許容される用途のためだけに、回収、リサイクル、再生利用、又は直接再利用することができる。解体された塩素アルカリ設備からの水銀は第3条(供給と貿易)で別に規制されることに留意すること。
  • バーゼル条約締約国は、環境的に適切な処分の場合を除いて、国際的な境界を越えて廃棄物を輸送することは許されない。
  • バーゼル条約非締約国は、関連する国際的な規則、基準、及びガイドラインを考慮することになっている。

第14条 汚染サイト
  • 汚染サイトへの行動は自主的である。すなわち、締約国は”努力しなくてはならない(shall endeavor)・・・”
  • 資金要求の項は、INC5の交渉中に削除された。
  • 可能性ある自主的行動は、汚染サイトを特定し、評価するための戦略の開発と、”適切なら”、人の健康と環境へのリスクの評価を組み入れつつ、リスクを削減するための行動を含む。
  • 汚染サイトを浄化するために汚染者が金銭的に果たす役割について、又は被害者を補償するためのどのような要求についても、記述がない。
  • COPは、汚染サイトの管理に関するガイドラインを開発することになっているが、条約はそのガイドラインの期限を示していない。
  • 汚染サイトの管理に関するガイドラインは、サイトの特定と特性化;公衆の参加;人の健康と環境リスク評価;汚染サイトにより引き起こされるリスクを管理するためのオプション;便益とコストの評価;結果の確認のようなトピックスを含む。
訳注:
  • この第14条には、「汚染者の責任」 及び 「被害者への補償」 についての記述が全くない。「汚染サイトの浄化」 については、 ”締約国は、・・・適切なら汚染サイトを修復するための戦略を開発し、実施することに協力することが奨励される”と、完全に自主的なアプローチである。
  • 予備的ガイドの”はじめに”で、IPENは、”・・・新たな条約は水銀中毒事故が発生する水銀汚染サイトの浄化を求める規定や、被害者を補償する規定を含んでいない・・・”と述べている。

第15条 財源とメカニズム
  • この条項は、発展途上国による条約実施の全体的な効果は財源メカニズムの効果的な実施に関連することを確認する。
  • この条約は、国家の政策、優先度、計画、及びプログラムを考慮して、各締約国に条約実施のための財源を割り当てることを義務付ける。
  • 多国間、地域、及び二国間の財源を含んで、様々な資金調達財源が奨励される。
  • メカニズムは、民間分野を含んで、他の資源からの財源の供給を促進しなくてはならず、支援する活動のためのそのような財源を導入することを確認しなくてはならない。
  • 資金調達に関する行動は、島嶼開発途上国(SIDS)又は後発開発途上国(LDCs)の特定の必要性と特別の事情を十分に考慮しなくてはならない。
  • 発展途上国及び移行経済国による条約の実施を支援するための特性は、”・・・適切で、予測可能で、時宜を得た財源”の提供を含む。
  • 財源メカニズムは、GEFトラスト・ファンド及び能力構築と技術援助を支援するための”特定の国際プログラム”を含む。
  • GEFトラスト・ファンドの義務は、条約の実施の支援のコストを満たすために、新たな、予測可能で、適切で、時宜を得た財源を提供することを含む。
  • GEFトラスト・ファンドは、COPのガイダンスの下に運営され、COPに対して説明責任がある。
  • GEFトラスト・ファンドは、世界の環境ベネフィットの合意された増加コストと、合意されたいくつかの活動を可能にする全コストを満たすための財源を提供する。
  • GEFは、そのコストに関連する提案された活動の潜在的な水銀削減を考慮に入れる。
  • GEFトラスト・ファンドに対するCOPガイダンスは、戦略、政策、優先度、資格、及びGEFトラスト・ファンドからの支援を受けることができる活動のカテゴリーのリストを含む。
  • その国際プログラムは、COPのガイダンスの下に運用され、それに対して説明責任がある。
  • その国際プログラムは、COP1で決定される既存の機関において運営管理される。
  • その国際プログラムは自主的ベースで資金調達されるであろう。
  • COPは、遅くともCOP3までに、その後は定期的に、財源メカニズムを見直す。

第16条 技術的援助、能力構築、技術移転
  • 条約は、締約国にその能力の範囲で、適切な技術援助及び能力構築を時宜を得て提供するために”協力する”ことを義務付ける。
  • 後発開発途上締約国(LDCs)及び小島嶼開発途上締約国(SIDS)は、技術移転の受領者として強調される。
  • 様々な計画が可能性として述べられている:地域、準地域、及び国家の計画。
  • 他の協定との相乗効果が促進される。
  • 発展途上締約国、及びその他の国は、その能力範囲で、”最新の環境的に適切な代替技術”の開発、技術移転、普及、及びアクセスを促進し、容易にすることを義務付けられる。民間分野及びその他の利害関係者は、この取り組みに彼等を支援することを想定される。
  • COP2 までに、(そして、その後は定期的に、)政府は代替技術と取り組みの進展を考慮して、この条項の首尾;締約国の必要とすること;及び技術移転の課題を評価するであろう。COPは、技術支援、能力構築、及び技術移転をさらに強化すべきかどうかの勧告をするであろう。

第17条 実施及び遵守委員会
  • 委員会の目的は、”条約の全ての条項の実施と、遵守の見直しを促進すことである”。
  • その作業において、委員会は、実施と遵守の個別及び全体的問題の両方を検証し、COPに勧告することとなっている。
  • 委員会は、”利用しやすい特性を持つ”ことを義務付けられ、”締約国のそれぞれの国家能力と事情に特別の注意を払わなくてはならない”。
  • 委員会は、COPのひとつの下部組織となるであろう。
  • 委員会は、COP1で選出される15人の委員(各国連地域から3人)からなり、その後は、後に決定される手続きの規則による。
  • COPは、この委員会のために更なる委託事項を採択してもよい。
  • 委員は、”条約の関連するひとつ分野における能力を持ち、専門性のバランスを反映”しなくてはならない。
  • その運営において、委員会は、締約国自身の遵守の問題、国家報告書、及びCOPからの要求についての書面による提出を検討することができる。
  • 委員会は、その勧告を満場一致で採択するためのあらゆる努力を図るであろう。最後の手段として、委員の3分の2を定足数として、出席者及び投票者の4分の3の多数決により、採択される。

第18条 情報交換
  • この条項は、各締約国が、下記を含む様々な種類の情報交換を促進することを義務付けている。科学的、技術的、経済的、法的、生態毒性学、及び安全情報;水銀の製造、使用、貿易、排出及び放出の削減又は廃絶に関する情報;水銀添加製品、水銀を使用する製造プロセス、及び水銀を放出する活動とプロセスに対する技術的及び経済的に実行可能な代替に関する情報;健康と環境リスク、経済的及び社会的コスとそのような代替の便益;及び疫学的情報。
  • 情報は、事務局を通じて、他の関連組織を通じて、又は直接、交換することができる。
  • 事務局は、情報の交換に当り、協力を促進することが義務付けられる。
  • 締約国は、情報交換のための国家の連絡窓口を確立しなくてはならない。
  • 代表者らは、健康と安全に関する情報は機密であるとみなされてはならないということに合意した。
  • 交換される他のタイプの情報は、”相互に合意したようにどのような秘密情報も保護しなくてはならない”。

第19条 広報、意識向上、教育
  • この条項は、締約国に対し、”その能力の範囲内で”公衆に情報を提供することを促進し、容易にすることを義務付ける。 "
  • 情報は、水銀の健康と環境への影響、水銀の代替、研究と監視活動の結果、条約に基づく義務を満たすための活動、及び第18条(情報交換)に参照される活動を含む。
  • 締約国は、関連する政府間組織と非政府組織、及び脆弱な集団と協力し、水銀と水銀化合物への曝露の人の健康と環境への影響に関連する教育、訓練及び意識向上を適切に促進し容易にすることを想定される。
  • 締約国は、既存のメカニズムを利用する、又は汚染物質排出移動登録(PRTR)のようなメカニズムの開発、又は”人の活動を通じて排出される又は処分される水銀及び水銀化合物の年間量の見積りに関する情報の収集と普及”を考慮することを想定される。
(続く)


第20条 研究、開発、監視
  • この条項は、自主的であり、一連の任意の行動を含んでいる。条約のテキストは、”締約国がそれぞれの事情と能力を考慮しつつ、開発し改善するために、協力するよう努力しなくてはならない”と述べている。
  • 開発し改善すべき任意の行動は、目録、モデリング、人の健康と環境に及ぼす影響評価、開発方法、環境的運命と移動に関する情報、商業及び貿易に関する情報、代替に関する情報、及び BAT/BEP に関する情報を含む。
  • 締約国は、適切な場合には、既存の監視ネットワーク及び研究プログラムを利用することが奨励される。

第20条bis 健康面
  • この条項は、自主的であり、一連の任意の行動を含んでいる。条約のテキストは、”締約国は、・・・することを推奨される”と述べている。
  • 任意の行動は、リスクある集団、特に脆弱な集団を特定し保護するための戦略とプログラム、水銀への職業的曝露に関する科学に基づく教育的及び予防的プログラム、水銀曝露により影響を受ける集団のための予防、治療、及び介護のための適切な健康介護サービス、及び水銀曝露に関連する予防、診断、治療、監視についての制度的及び健康専門家の能力強化を含む。
  • COPは、WHO、ILO、及びその他の関連する政府間組織と適切に協議すべきである。
  • COPは、WHO、ILO、及びその他の関連する政府間組織と協議し協力すべきであり、これらの組織との協力と情報交換を促進すべきである。

第21条 実施計画
  • 実施計画の開発と実施は任意である。
  • もし、計画が開発されるなら、初期評価を実施した後、事務局に送付されるべきである。
  • 実施計画を開発するときに、締約国は、”実施計画の開発、実施、見直し、及び更新を促進するために国家の利害関係者と協議すべきである”。
  • 締約国は、条約の実施を促進するために地域計画と調整することができる。
  • 国家行動計画(NIP)を開発し、実施し、見直し、更新するための、国家の利害関係者との協議にNGOsは参加することができる。

第22条 報告
  • 各締約国は、条約を実施するためにとられた措置、及び措置の条約の目的を満たす効果に関する情報を、事務局を通じて、COPに報告しなくてはならない。
  • COP1は、水銀条約に関する報告を、他の関連する化学物質及び廃棄物条約の報告と調整することを勘案しつつ、報告のタイミングと様式を決定する。

第23条 効果の評価
  • COPは、条約発効日後6年以内に、その後は定期的に、条約の有効性を評価する。
  • COP1は、生物媒体と脆弱な集団の中で観察される水銀と水銀化合物のレベルの傾向とともに、環境中における水銀と水銀化合物の存在と移動に関する比較可能な監視データを提供するための計画に取り組むであろう。
  • 評価は、COPに提供される報告書と監視情報、国家報告、遵守委員会の枠組みの中で提供される情報と勧告、及び資金的及び技術的援助のメカニズムの運営に関するその他の報告書を含んで、利用可能な科学的、環境的、技術的、資金的、及び経済的情報を利用しつつ、実施される。

第24条 締約国会議
  • COPは、条約発効後1年以内にUNEP事務局長により召集される。
  • COPは、それが決定するスケジュールで定期的に開催される。
  • COPは、それにより決定された、又は少なくとも締約国の3分の1が6ヶ月以内にその提案を支持する締約国の書面要求で、臨時会合を開催することができる。
  • COPは、それ自身のための財政規則及び事務局の機能を統制する規定とともに、全快一致で手続きの規則を採択する。

第25条 事務局
  • 事務局は、COPが4分の3の得票により異なる国際組織に変更することを決定しなければ、UNEPの事務局長の下に機能する。
  • 事務局の機能は、COPと関連組織の会合のためのアレンジ、締約国、特に発展途上国及び以降経済国への援助の促進、化学物質及び廃棄物条約のような関連する国際組織の事務局との調整、情報交換の支援、定期的な報告書の作成、及びCOPにより割り当てられたその他の義務を含む。


第26条 紛争解決
  • 締約国は、条約の解釈又は適用に関する、いかなる紛争も協議と平和的な方法で解決することが義務付けられる。
  • この条約を批准、受諾、承認、又は同意する時に、いかなる締約国も次の紛争解決の方法のいづれか又は両方を認めることを書面で通知してもよい:付属書JのパートTに規定される手続きに従う仲裁、又は国際司法裁判所への紛争仲裁付託。
  • もし、締約国が上記の紛争解決の特定の方法を認めず、12ヶ月以内に紛争を解決しなかった場合には、紛争当事者の締約国の要求により、その紛争は調停委員会に持ち込まれ、付属書Jの下に解決されるであろう。

第27条 条約の改正
  • どの締約国も改正を提案できる。
  • 改正案はCOP会合で全会一致で採択される。
  • もし、全会一致に達することができない場合には、最後の手段として改正案は、出席しており、投票する締約国の4分の3で採択することができる。
  • 改正案は、4分の3の締約国が批准、受諾、又は承認の寄託をもって、合意の意思表示をした後90日で発効する。

第28条 付属書の採択と改正
  • 付属書は条約の公式な一部である。
  • 追加的な付属書は、手続き上、科学上、技術上、又は管理上の事柄だけに関連する。
  • 付属書は、第27条にしたがって提案される。
  • 1付属書は、年後に、ほとんどの締約国について発効する。
  • もし締約国がある改正を受け入れられないなら、締約国は1年以内に寄託を通知しなくてはならない。締約国はこの決定を取り消すことができる。
  • 改訂は、下記の第31条に記述されるオプト−イン手続きを含んで付属書のように取り扱われる。

第29条 投票の権利
  • 各締約国は一票を持つ。EUはその加盟国数(現在は27)に等しい投票数を持つが、もし加盟国のひとつでも自身で投票することを決定するれば、EUは投票することができない。逆もまた同様である。

第30条 署名
  • 水銀条約は、2013年10月10日の日本の熊本での署名から1年間、署名のために開かれる。
  • 署名は、国が条約を予備的及び一般的に是認することを意味する。署名は法的に拘束するものではなく、批准に着手することを約束するものではない。しかし、条約に署名する国は、条約に敵対する又は損なうようなどのような行動も取るべきではない。

第31条 批准、受諾、承認又は同意
  • 批准は、法的に拘束力のある義務を生じ、条約の規定を遵守するために、しばしば、国家の法律を修正することになる。
  • 条約は、署名が締め切られた日から批准のために開かれる。
  • 批准するときに、国は条約を実施するための措置に関する情報を事務局に提供することが推奨される。
  • 国は、どのような修正もその国がその批准文書を寄託する時にのみ発効するということを批准文書の中で宣言することができる。その結果、もしその国が書面で修正を受け入れるという意思表示をしなければ、この宣言をする国について新たな修正は自動的には発効しない。これは、ストックホルム条約の20カ国により用いられた”オプト−イン”手続きである。

第32条 発効
  • この条約は、50カ国が批准した後90日が経過すると発効する。
  • 50番目の国の後に批准する国について、批准を寄託した後90日経過すると、条約はその国にとって発効する。

第33条 留保
  • この条約は、留保することができない。
  • ”留保”は、ある国が批准するときに、条約のある部分を除外する又は修正する国による声明である。ストックホルム条約もまた留保を許していない。

第34条 脱退
  • ある政府にとっての条約発効後3年又はそれ以降、書面による通知を提出することにより条約から脱退することができる。
  • 脱退は、公式通知が提出されてから1年又はそれ以降、その国により明示されれば、発効する。
第35条 寄託
  • 国連事務局長は条約の受寄者である。受寄者とは、そこに多国間条約が信託されるものであり、その機能は条約法に関するウイーン条約の第77条に示されている。これらは、条約の原文の保管;条約の更なる文書の準備;署名の受領;条約に関連する事柄についての政府への伝達;条約が発効するときの通知;を含む。
第36条 正文
  • 条約の文書は、国連6か国公用語である、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、及びスペイン語のものが、それぞれ等しく正文となる。

謝辞
 IPENは、世界中の数百に及ぶ非政府組織(NGOs)、市民社会組織(CSOs)、労働者組織、及び健康関連組織に対し、IPENの水銀をなくすキャンペーン及びIPENの重金属プログラムに貢献していただいたことを感謝します。IPENは、この予備的ガイドの作成を可能とした、スウェーデン政府及びスイス政府、及びその他の寄贈者により提供された財政的支援について、謹んで感謝いたします。この報告書で述べられた内容及び見解は、IPENのものであり、必ずしも管理及び/又は財政的支援を提供した機関の見解ではありません。


化学物質問題市民研究会
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