2013年1月 IPEN 水銀フリーキャンペーン報告書
カメルーンの水銀ホットスポット
複合産業施設と廃棄物:カメルーンのドゥアラ


情報源:Mercury Hot Spot in Cameroon
Mixed industrial and waste site: Douala in Cameroon
IPEN Mercury-Free Campaign Report, 3 January 2013
Prepared by Centre de Recherche et d’Education Pour le Developpement - CREPD
(Cameroon), Arnika Association (Czech Republic) and
the IPEN Heavy Metals Working Group
Yaounde - 3 January 2013
http://www.ipen.org/hgmonitoring/pdfs/cameroon-report-en.pdf

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年7月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/IPEN/Mercury_Monitoring/
Cameroon/Cameroon_mixed_industrial_and_waste_site.html

ヤウンデ、カメルーン 2013年1月3日

はじめに

 2009年、国連環境計画管理理事会(UNEP GC)は、人の健康と環境へのリスクを削減するために水銀に関する法的拘束力のある世界的文書を開発することを決定した(UNEP GC25/5)。UNEP GCは、水銀はその長距離移動、残留性、生物蓄積性、及び有毒性のために世界の懸念物質であると言及した。その結論は、水銀は人と野生生物に有害な影響を及ぼすレベルで世界中の魚に存在すると述べた2002年UNEP世界水銀アセスメントに基づいている。人間の毛髪は、魚を食べることで取り込まれると思われるメチル水銀の体内汚染の信頼性ある指標として広く受け入れられている(Grandjean, Weihe et al. 1998); (Harada, Nakachi et al. 1999); (Knobeloch, Gliori et al. 2007); (Myers, Davidson et al. 2000))。

 この報告書は、カメルーン最大の都市ドゥアラの、セメント・プラント、廃棄物焼却炉、廃棄物投棄場所、塗料産業、金属リサイクル、ポリウレタン製造、空港、港湾などを含む密集した産業センターに焦点を当てている。カメルーンの産業の70%以上は、ドゥアラ首都圏内に存在する(Asangwe 2006)。我々は、漁民と地域で捕った魚を食する人々がいるドゥアラのひとつの管区 Youpwe-Takeleに住む人々の毛髪中の水銀レベルを検証した。調査は、産業プロセスからの水銀放出が人の毛髪に痕跡を残すかどうかを調べることであった。さらに、水銀の長距離移動のために地域的な水銀放出が世界的な問題となっているので、我々は、水銀条約のテキストが、ドゥアラのような開発途上国の急速に成長している産業都市の水銀汚染にどのように対応しようとしているかを検討した。

ドゥアラ市の産業施設と廃棄物サイト

 ドゥアラ市は、人口は200万人のカメルーン最大の都市であり、主要な漁場であるウーリー川の河畔に位置する。水銀の潜在的な発生源は、セメント・キルン(CIMENCAM Bonaberi Douala )と焼却炉(BOCOM International)である。セメント・プラント、CIMENCAMは、2009年には120万トン以上のセメントを製造し、大気中に推定 203 kg 、副産物中及び不純物中に 68 kg 、一般廃棄物中に 68 kgの水銀を排出した。 BOCOM International の焼却炉は、2009年には有害廃棄物を128トン焼却し、その焼却能力に基づけば、2.8kg の水銀が大気中に、0.3kg の水銀が処分済み廃棄物中に放出されたと推定される。これらの水銀放出は、UNEP水銀ツールキット及びそのデフォルト排出係数を用いて計算された(UNEP 2005)。このツールキットは、主に先進国から得られる情報に基づいており、それは、”管理されない排出が広く起きるような開発途上国の放出の程度を完全には反映していないかもしれないとUNEPは注意を促している。

 水銀放出に関連する他の可能性ある産業には、Ader農薬工場とポリウレタン製造施設がある。水銀含有農薬又は水銀放出に関するデータは、その農薬工場からは入手できない。ポリウレタン施設についての情報もまた欠如している。この地域には塗装と金属回収工場もあり、またドゥアラのマケペ管区にある有害廃棄物の埋立地は、電子廃棄物の投棄が行われている可能性があるために汚染が疑われている (Bikobo, Daho et al. 2010)。電子廃棄物及び/又は水銀を含む廃棄物の野焼きも同市の他の場所で時には行われている。水銀温度計はカメルーンでまだ広く使用されている(Kuepouo 2012)。

 最後に、石油とガス産業も同市の汚染に関連しているかもしれない。 Asangwe (2006)は、大量の石油を扱っているので、 ドゥアラ干潟の環境汚染に注目した。彼は、”ボナベリ産業コンビナートは、干潟そのものを侵害してきた”と示唆した。”この事態は、ボナベリ管区への廃水の放出が増加したこと及び、ドゥアラ首都圏の人口密度と土地利用範囲が急速に増大したことによりもたらされたことを示す明確な証拠である”。 石油化学産業は、潜在的な水銀放出源であると疑われている (Lang, Gardner et al. 2012)。

材料と方法

 開発のための研究教育センタ/Centre de Recherche et d’Education Pour le Developpement (CREPD) は、IPEN(2011)により開発されたプロトコールを使用して人の毛髪のサンプリングを実施した。この調査のために、ドゥアラのYoupwe-Takele管区で合計19の毛髪サンプルが収集された(具体的な場所については、 Figure 1の地図を参照のこと。訳注・地図は省略)。生物多様性研究所(BRI)は、米国メーン州ゴーハムにある彼らのラボで、毛髪中の総水銀(THg)レベルを測定した。CREPDは、サイトを特性化し、その歴史と推定に基づく水銀暴露経路についての情報を提供した。

結果と検討

 上述したように、ドゥアラには水銀を放出することができる多くの産業施設と廃棄物投棄サイトがある。我々は、 食事をメチル水銀への主要な暴露経路である魚(IOMC 2008)に依存する人々に対し、この産業化された地域が彼らの水銀レベルに及ぼす影響を見るために、ドゥアラにある Youpwe-Takele コミュニティの漁民を選んだ。

 Table 1 は、ドゥアラ市の一部であり主に漁民が住むYoupwe-Takeleからの毛髪サンプル中の水銀レベルを示す。

 Table 1 に示される結果は、二つのグループに分けて考えることができる。17サンプルのグループは同様なレベルであり、2サンプルのグループは極端に高い水銀レベル(546 ppm 及び 541 ppm)であった。17サンプルのグループは、平均水銀レベルが米EPAの参照用量よりほとんど2倍高く、最大水銀値は参照用量より3.8倍高いことを示している。このグループのサンプルの4分の3(76%)は、参照用量を超えており、この参照用量より低い4サンプルは 1 ppm に近かった(最低総水銀レベル = 0.832 ppm)。2サンプルは極端に高い水銀レベルであり(500 ppm 以上)、これは全く、参照用量を超えている。これらの結果について、ラボ分析で再チェックし、そのレベルが正しいことを確認した。

Table 1:カメルーンのドゥアラ市Youpwe-Takele管区の
毛髪サンプル中の水銀含有量
サンプル
水銀
平均
ppm,ww
標準
偏差
最小
水銀
ppm
最大
水銀
ppm
米EPA
参照用量
[脚注a]
ppm
米EPA
参照用量
を超える
サンプル比
全サンプル 19 59 171 0.832 546 1.00 79%
極端に高い
2サンプルを
除いた
全ンプル
17 1.925 1.068 0.832 3.769 1.00 76%
極端に高い
2サンプル
2 543 3.265 541 546 1.00 100%

脚注a:米EPAの参照用量(RfD)は血中水銀濃度4-5 μg/L及び毛髪水銀濃度1μg/gに関連している US EPA (1997)。 Mercury study report to Congress, Volume IV, An assessment of exposure to mercury in the United States. EPA-452/R-97-006: 293.

 魚はドゥアラの一般的な食事の一部であり、特に Youpwe-Takele の漁民コミュニティでは顕著である。このことは、この調査で観察された毛髪中の高い水銀レベルのための最もありそうな理由である。水銀レベルが極端に高い2サンプルは、追加的な水銀暴露により引き起こされたかもしれない。Nuttall (2006)による毛髪中の高い水銀レベルのレビューによれば、水銀の高いレベルに対する潜在的な暴露源のひとつは、水銀を含む肌美白製品である(Harada, Nakachi et al. 2001)。もうひとつの潜在的な説明は、粘土又はカオリン(訳注:粘土鉱物)で説明できるかもしれない。カメルーンのカオリンは、水銀を含んで高いレベルの重金属を含んでいる可能性がある (Bonglaisin, Mbofung et al. 2011)。

 ウーリー川の魚は、ドゥアラとその周囲の地域における多くの産業活動と廃棄物活動からの水銀で汚染されている可能性があるが、毛髪中の高い水銀レベルを引き起こしたかもしれない産業と廃棄物の複合活動の中から、単独の水銀汚染源を特定することはできなかった。その結果は、多くの異なる汚染源からの水銀の寄与を反映しているようである。

複合産業及び水銀含有製品と水銀条約

 ドゥアラの漁業コミュニティのボランティアの毛髪中の高い水銀レベルは、廃棄物取扱いを含む広範な産業活動からの水銀汚染をなくすために、水銀条約がどの様な行動を義務付けたかという疑問を提起する。

 現在の条約テキストは、もしある閾値以上の生産量がある場合には(まだ決定されていないが)、既存のセメント・キルンと廃棄物焼却炉からの大気排出を管理するために、いくつかのあいまいなオプションを提案している。しかし、これらの条項はセメント・キルン又は焼却炉の数が増大することに由来する新たな水銀排出 を相殺するために十分な規模で個々のプラントからの排出を削減しないかもしれない。セメント・キルンも廃棄物焼却炉も、陸地又は水への可能性ある水銀排出源として含まれていない。また石油とガス製造施設を条約に含めるかどうかについての合意はないので、この可能性ある排出源には目が向けられないかもしれない。(訳注:最終的には石油とガス製造施設を条約に含めない(対象としない)ことにINC5で決まった。)

 水銀含有製品の暴露への寄与は、特に非常に高い水銀レべルを示した2サンプルに対して、ある役割を果たしたかもしれないが、この調査では完全には評価されていない。現在の条約は、水銀を含有するせっけんと化粧品を禁止しているが、廃止の期日に関する合意がない。カオリンはカバーされておらず、文化的/伝統的用途のための水銀含有製品の販売の継続を許す条項の下に、免除されるかもしれない。

 現在の条約テキストはまた、もし”環境又は人の健康便益を補う”ということが正当化されるなら、新たな水銀添加製品が市場に導入されることを許している。

 人の健康と環境を有害廃棄物からの確実に保護することは、ドゥアラにとって有用であろう。将来、水銀廃棄物の生成に関連する問題を防止するために、条約が水銀含有廃棄物の生成を最小化し防止することを求めれば、そのことは大いに有用であろうが、現在の条約テキストは、そのことを求めていない (UNEP (DTIE) 2012)[脚注b]。コンピュータのような使用済みの電子機器及び/又は電子廃棄物もまた、他のアフリカ諸国におけるのと同様に、ドゥアラにおける水銀の放出源のひとつである可能性がある。

 現在の条約テキストは、大気排出源としてのこれらの廃棄物の野焼きを含んでいない。さらに、現在の条約テキストは、電子廃棄物を含んで廃棄物問題の責任の大部分をバーゼル条約に渡しているので、電子廃棄物及び/又は使用済みの電子機器は新たな水銀条約で規制されないであろう[脚注c]。

 多くの市や諸国は、自分たちがドゥアラの状況−可能性ある多くの排出源による著しい水銀暴露−に似ていることに気が付くであろう。これらの排出源が特定され、問題に明確に目が向けられるまで、水銀は地域を汚染し続け、世界の水銀汚染をもたらし続けるであろう。

脚注b:UNEP(DTIE)/Hg/INC.5/3: 廃棄物に関する第13条に示されていない。
脚注c:UNEP(DTIE)/Hg/INC.5/3: 電気及び電子機器は付属書Cにリストされておらず、現在の第13条のテキストは電子廃棄物の開発途上国への輸出を防止しない。


謝辞

 CREPD, Arnika Association 及び IPEN は、スウェーデン政府及びスイス政府、及びその他からの資金的支援、及びデータを分析するために生物多様性研究所(Biodiversity Research Institute (BRI))により提供された技術的支援に感謝します。この報告書で述べられている内容と見解は、著者及びIPENのものであり、必ずしも資金的及び又は技術的支援を提供した機関の見解ではありません。

参照:
  • Asangwe, C. K. (2006). The Douala Coastal Lagoon Complex, Cameroon: Environmental Issues. Administering Marine Spaces: International Issues. A publication of FIG Commissions 4 & 7 Working Group 4.3. Frederiksberg, Denmark, International Federation of Surveyors - Federation Internationale des Geometres (FIG). FIG Publication No 36: 134-147.

  • Bikobo, E., S. Daho and S. Siyam (2010). Cameroon. Global Information Society Watch 2010 - ICTs and Environmental Sustainability, APC, Hivos, Protege QV: 105-107.

  • Bonglaisin, J. N., C. M. F. Mbofung and D. N. Lantum (2011). "Intake of Lead, Cadmium and Mercury in Kaolin-eating: A Quality Assessment." J. Med. Sci. 11(7): 267-273.

  • Grandjean, P., P. Weihe, R. F. White and F. Debes (1998). "Cognitive Performance of Children Prenatally Exposed to “Safe” Levels of Methylmercury." Environmental Research 77(2): 165-172.

  • Harada, M., S. Nakachi, T. Cheu, H. Hamada, Y. Ono, T. Tsuda, K. Yanagida, T. Kizaki and H. Ohno (1999). "Monitoring of mercury pollution in Tanzania: relation between head hair mercury and health." Science of The Total Environment 227(2.3): 249-256.

  • Harada, M., S. Nakachi, K. Tasaka, S. Sakashita, K. Muta, K. Yanagida, R. Doi, T. Kizaki and H. Ohno (2001). "Wide use of skin-lightening soap may cause mercury poisoning in Kenya." Science of The Total Environment 269(1.3): 183-187.

  • IOMC (2008). Guidance for Identifying Populations at Risk from Mercury Exposure. Geneva, UNEP DTIE Chemicals Branch and WHO Department of Food Safety, Zoonoses and Foodborne Diseases: 176.

  • IPEN (2011). Standard Operating Procedure for Human Hair Sampling. Global Fish & Community Mercury Monitoring Project, International POPs Elimination Network: 20.

  • Knobeloch, L., G. Gliori and H. Anderson (2007). "Assessment of methylmercury exposure in Wisconsin." Environmental Research 103(2): 205-210.

  • Kuepouo, G. (2012). "Estimating environmental release of mercury from medical-thermometers and potential “hot spot” development: Case study of need for improved waste management capacity in Cameroon." Resources, Conservation and Recycling(0).

  • Lang, D., M. Gardner and J. Holmes (2012). Mercury arising from oil and gas production in the United Kingdom and UK continental shelf, IKIMP - Mercury Knowledge Exchange; University of Oxford. Department of Earth Sciences. South Parks Road, Oxford, Reino Unido. : 42.

  • Myers, G. J., P. W. Davidson, C. Cox, C. Shamlaye, E. Cernichiari and T. W. Clarkson (2000). "Twenty-Seven Years Studying the Human Neurotoxicity of Methylmercury Exposure." Environmental Research 83(3): 275-285.

  • Nuttall, K. L. (2006). "Interpreting hair mercury levels in individual patients." Ann Clin Lab Sci 36(3): 248-261.

  • UNEP (2002). Global Mercury Assessment. Geneva, Switzerland, UNEP: 258.

  • UNEP (2005). Toolkit for Identification and Quantification of Mercury Releases. Geneva, Switzerland, UNEP.

  • UNEP (DTIE) (2012). UNEP(DTIE)/Hg/INC.5/3: Draft text for a global legally binding instrument on mercury. Chair’s draft text. Intergovernmental negotiating committee to prepare a global legally binding instrument on mercury - Fifth session - Geneva, 13. 18 January 2013, United Nations Environment Programme: 44.

  • US EPA (1997). Mercury study report to Congress, Volume IV, An assessment of exposure to mercury in the United States. EPA-452/R-97-006: 293.




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