IPEN 2022年9月13日
国連人権問題専門家が水銀の取引と
小規模金採掘での使用の停止を求める
国連特別報告者は、水銀に関する水俣条約の抜け穴をふさぎ、
金採掘における水銀に関連する人権侵害を止めるよう促す

情報源:IPEN, 13 September 2022
UN Human Rights Expert Calls for an End to the Trade
in Mercury and its Use in Small-Scale Gold Mining

UN Special Rapporteur urges closing a loophole in Minamata Conventi
on on Mercury to stop human rights abuses linked to mercury in gold mining
https://ipen.org/news/un-human-rights-expert-calls-end-
trade-mercury-and-its-use-small-scale-gold-mining


訳:安間 武 化学物質問題市民研究)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年9月21日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/IPEN/IPEN_220913_UN_Special_
Rapporteur_urges_closing_a_loophole_in_Minamata_Convention_on_Mercury_
to_stop_human_rights_abuses_linked_to_mercury_in_gold_mining.html

【スイス、ジュネーブ 2022年 9月 13日】人権に関する国連特別報告者マルコス A. オレリャーナが本日発表した画期的な報告書によると、世界中で 1,500 万人もの男性、女性、そして子どもたちが、小規模金採掘で使用される水銀によって重大かつ生命を脅かす可能性のある人権侵害に苦しんでいる。小規模金採掘は、世界の水銀汚染の最大の原因であり、国連の報告書は、金の採掘による水銀汚染サイトと食物連鎖における蓄積された水銀汚染が、すでに何百万人もの人々に影響を与えており、無数の将来の世代を汚染する可能性があると指摘している。

 オレリャーナの報告書は次のように述べている。”労働者と国際社会にとって小規模金採掘の最も壊滅的な側面は、鉱石から金を抽出するために水銀を使用することである…何百万人もの採掘労働者、脆弱な女性と子ども、先住民、生態系、そして水生生物に深刻な結果をもたらしている。

 国連の報告書は、水銀取引と小規模金採掘における水銀の使用に対処する方法に大きなギャップがあるため、水銀汚染から人間の健康と環境を保護するための世界的な合意である水俣条約の抜け穴を閉じるよう求めている。他の勧告の中でも、本日の国連報告書は、水俣条約を次のように改正することを求めている。
  • 水銀の輸出を止める(水銀の国際取引を事実上終わらせる)
  • 水銀採掘を 10 年以内に終わらせる
  • 国家行動計画に基づき、小規模金採掘での水銀使用を 3年から 5年以内にまず削減し排除するとともに、水銀使用が許容される小規模金採掘を禁止する
 EU と米国は 10年以上前に水銀の輸出を禁止し、製品や工業プロセスにおける水銀のほとんどの使用は段階的に廃止されたが、多くの国がこの有害物質の取引から利益を得続けている。

 ”この状況は容認できない”と IPEN の小規模金採掘における水銀に関する主任顧問であり、9月 21日のこのトピックに関する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のサイドイベントでの講演者であるユウユン・イスマワティは述べた。”影響力のある人々によって保護されて、貪欲な人々が利益をあげており、多くの人々に長期的な苦しみをもたらしている。汚染された場所の浄化には費用がかかり、脆弱な人々が健康な環境で暮らす権利を二度と享受できないことを水俣の悲劇が教えてくれた。”

 危険な神経毒性金属である水銀の影響は以前から知られており、貧困に苦しむ小規模金採掘労働者が低品質の鉱石から金を抽出するために水銀を継続的かつ広範囲に使用することは、深刻な人間の健康への影響をもたらす。水銀は腎臓と心臓に損傷を与え、脳に永続的な損傷を与える可能性があり、その結果、過敏、内気、震え、視覚の変化、聴覚と記憶の問題が発生する。水銀暴露は先天性欠損症や発達中の胎児への損傷に関連しているため、出産可能年齢の女性は特に危険にさらされている。

 IPEN は、小規模な金採掘を含む水銀汚染の排除に長年取り組んできており、本日の報告書の勧告を支持する。 IPEN 水銀政策アドバイザーのリー・ベルは、次のように述べている。”水銀の蛇口を閉めるべき時である。水銀を採掘して世界市場で販売する正当な理由はない。そのほとんど全てが小規模金採掘に向けられ、環境に直接堆積し、水路、漁業、地域社会を汚染していることを私たちは知っている。小規模金採掘による人権侵害を終わらせるために、国際的な水銀取引を直ちに停止しなければならない。

 国連特別報告者の報告書は、特にアマゾンの先住民族が暴力的な金採掘者らから脅迫され、攻撃され、自分たちの土地に侵入されることを余儀なくされ、川の環境を破壊され、魚の供給源を汚染され、食物のための野生生物を殺され、彼らの生活を暴力、麻薬、売春で乱していること等、多くの事例を記録している。

 ”採掘又は立ち入りは禁止とされるべき保護地区及び先住民らの土地から金採掘で利益を引き出している多くの強力な既得権益者らがいる”と、ボリビアのラパスにある”気候行動(Reaccion Climatica)”のカルメン・カプリレスは述べた。”貧しい金採掘労働者らは、無意識のうちに大きな金の取り扱い機関や金のブローカー (探求者) らの手足になって、先住民の土地にまで侵入し、多様な生物の生息地やマディディ国立公園やピロン ラハス国立公園など自然保全地域及び自然保護地域に影響を与えている。我々は、水俣条約の実施に向けて取り組むだけでなく、これらの場所が犠牲地帯にならないように戦うためのツールとしてエスカス協定(訳注1)を認識して、これらの環境と人権の侵害を今すぐ止めなければならない。”

 ”私たちがボリビアの地域社会で収集したデータは、採掘活動に関係のない先住民社会の女性の水銀レベルが平均で WHO が許容する最大値の 7.6 倍であることを示しており、水銀問題はもはや純粋な採掘対環境の問題ではなく、ますます公衆の健康と基本的人権の侵害の問題となっている。”

 ”インドネシアの何百もの小規模金採掘(ASGM)活動の高い地域での我々の調査結果は、生物成分(biotic components)を含む、土壌、空気、水などのすべての環境要素中の水銀濃度が、すでに驚くほど危険なレベルに達していることを示している”とイスマワティは述べた。 ”その結果、成人の 75% 以上と子どものほぼ 50% が、安全レベルを超えるバイオマーカーの水銀を持っている。”

 国連の報告によると、小規模金採掘労働者が使用する水銀は、通常、環境への配慮なしに投棄され、空気と土地を汚染し、世界の川、湖、海に、年間数千トンと推定される本当に衝撃的な量で流れ込んでいる。鉱山労働者と周辺の地域社会は直接影響を受けるが、汚染は広範囲に及んでおり、食物連鎖の水銀汚染により、金採掘場所から数百キロメートルまたは数千キロメートル離れた地域社会に悪影響を及ぼしている。

 水銀汚染は水生食物連鎖を通じて拡大され、その結果、多くの大型捕食魚種が危険なレベルの水銀を蓄積し、主な食事タンパク質源として魚を消費する人々を水銀で汚染する。IPEN による調査では、太平洋の島々を含む、住民が海産物を中心とする食事をしている数十の小さな島々の発展途上国で、出産可能年齢の女性の水銀レベルが非常に高いことがわかった。これらの場所には、小規模金採掘場はない。

 タンパク質を川の魚に依存している内陸の人々は、たとえ金の採掘に従事していなくても、同様に水銀レベルが上昇している。これは、インドネシア、アフリカ、ラテンアメリカ諸国の一部で特に顕著である。

 ”水銀はアフリカに輸出されており、金採掘での使用は管理不能である”と IPEN 運営委員会メンバーであり、ケニアの CEJAD(環境正義・開発センター) のディレクターであるグリフィンズ・オチエング(Griffins Ochieng)は述べている。 ”私が現場で目にする女性や子どもたちへの被害は悲惨なものである。なぜなら、金の取引業者や精錬者らが真の利益者だからである。国連人権理事会がアフリカの人々の権利を保護し、アフリカの環境と人々を汚染する水銀の国際取引を終わらせることができることを願っている。”

 ”あまりにも長い間、私たちは健全な環境と人権よりも、金取引による利益を優先してきた”とベルは述べた。”水俣条約の 5周年にあたり(訳注:2017年8月16日に発効)、今日の報告書は、国際的な水銀取引を禁止し、許可された用途としての金採掘を終わらせ、小規模金採掘での水銀使用の廃止を加速するために、より強力な世界的合意が緊急に必要であることを思い出させてくれるはずある。 IPEN は、2023 年 10 月の次回の締約国会議でこれらの修正案を採択するために代表団と協力したいと考えている。”

 水銀に関する水俣条約は、小さな沿岸漁村である日本の水俣の住民が経験した壊滅的な水銀中毒にちなんで名付けられた。水俣では、何十年もの間、化学会社であるチッソが水銀で汚染された廃棄物を不知火海に投棄し、その結果、水銀で汚染された魚を食べたために、何千人もの住民が障害を負ったり、死亡したりした。


訳注1:エスカス協定関連
  • エスカス協定/ウィキペディア

     ラテンアメリカとカリブ海の環境問題における情報へのアクセス・市民参加・司法利用に関する地域協定(エスカス協定)は、、環境に関する情報へのアクセス、環境に関する意思決定への一般市民の参加、環境正義、現在および将来の世代のための健全で持続可能な環境に関する、ラテンアメリカおよびカリブ海諸国 25か国によって署名された国際条約である。
     2015年から2018年の間に起草され、2018年3月4日にコスタリカのエスカスで採択された。協定は 2018年9月27日に署名され、2020年9月26日まで署名が待たれたままだった。協定の発効には 11の批准が必要であったが、2021年1月22日にメキシコとアルゼンチンが加盟したことで達成され、協定は2021年4月22日に発効した。

  • オーフス条約/エスカス協定(日本大百科全書(ニッポニカ)サンプルページ)


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