2013年1月17日 IPEN プレスリリース
水銀条約は
世界の水銀排出を低減しないという懸念が高まる

pdf版

情報源:IPEN Press Release, January 17, 2013
Concerns Growing that Mercury Treaty Will Not Reduce Global Emissions
http://ipen.org/hgfree/wp-content/uploads/2012/12/
IPEN-Concerns-Growing-Over-Mercury-Treaty-17-Jan-2013-FINAL.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma
Citizens Against Chemicals Pollution (CACP)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年1月17日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC5/IPEN/130117_IPEN_PR_Concerns_Growing.html

【ジュネーブ】IPENとその他の非政府組織は、現在ジュネーブで交渉中の国際水銀条約は水銀排出を低減しそうには見えず、むしろ水銀汚染を増大させるという懸念が増大していると表明した。IPENは世界116カ国の700以上の公益組織を代表する非政府組織の連合体である。

 ”我々は、この条約中の条項の多くはまだ改善できるとの希望を持っているが、現在この条約は世界の最悪の水銀汚染源からの排出を管理するための措置が曖昧であるか、あるいは全くない。これらの排出を抑制するためにもっと慎重に取り組まないと、世界の水銀汚染は増大し続けることが予想される”と、IPENの上席科学技術顧問のジョー・ディガンギ博士は述べた。

 IPENが指摘する主要な懸念には、下記が含まれる。

人力小規模金採鉱(ASGM)−管理できない人為的な最大の水銀使用

 現状の条約テキストは、もし締約国がASGMは些細なものではない(more than insignificant)と決定した場合のみ、条約は措置を求めるが、些細であると決定するためのガイドラインはない。UNEP は、 ASGM を大気への最大の水銀排出源であると認めた。しかし、交渉の期間中に、明確な廃止期限なしにASGMを”許容される用途”であると決定した。さらに、二つの強国が解体された塩素アルカリ施設から出る数千トンの水銀が市場に出ることを許す提案をした。この余剰水銀の行き着く先は、貧しく汚染されたASGMのある共同体であり、共同体の人々の健康と将来の世代を危うくする。汚染されたASGMサイトを特定し、浄化するための義務はない。

石炭火力発電所

 現在の条約案は、既存の石炭火力発電所を管理するために曖昧な措置しか提供していない。現在、大気への排出を実際に削減するための措置に関する合意はない。条項は、電力分野の急激な成長に起因する新たな水銀排出を相殺するのに十分な規模で個々の発電所からの水銀排出を低減するようには見えない。

塩素アルカリ施設

 現在の条約テキストは、2020年又は2025年に塩素アルカリ製造における水銀の廃絶を提案している。しかし、塩素アルカリ施設における水銀使用を特定する又は特性化するかどうか、又は、特定の条件の下に新たな水銀電極塩素アルカリ施設の設置を将来許すかどうかについての合意はない。現在、解体した施設からの水銀で市場をあふれさせる提案がある。この余剰水銀は、荒廃した金採鉱の共同体に投棄されことになるであろう。

汚染サイト

 現在の条約テキストは、汚染サイトの特定や浄化を求めていない。さらに、現在の条約テキストは、廃棄物を有害であると定義する健康保護基準値に関するガイダンスを提供しておらず、水銀を含有する廃棄物の生成を最小にするまたは防止することを求めていない。最後に、条約遵守は資金調達に関連するので、また、汚染サイトに対する措置が義務的ではないので、汚染サイトを特定し、又は浄化するために条約の資金メカニズムを利用することができない。

 さらに、水銀の陸地及び水への放出に関わる義務を排除するために、いくつかの国による圧力がある。

 最後に、国際水銀条約を、”水俣条約”と命名する提案は、この条約が将来の水俣病の発生を防止するために、あたかも十分であるかのように示唆するものである。この名前を持つ条約は、将来の水俣のような悲劇に適切な対応を義務付け、魚や海産物中のメチル水銀汚染の世界のレベルを著しく低減するものでなくてはならない。しかし、現在交渉中の条約は、将来の水俣病の発生を防止するためには十分ではなさそうであり、将来の水俣の悲劇に対しても適切な対応義務付けることはなく、魚と海産物中のメチル水銀の世界のレベルを低減しないであろう。これらの理由により、多くの代表者等は、この条約は”水銀条約”と命名されるべきであると示唆している。

 国連環境計画(Mercury, Time to Act)及びBRI-IPEN(Global Mercury Hotspots)の両方から先週発表された新たな報告書は、世界中の水銀汚染レベルの増大についての懸念を提起している。

 ”世界中から収集した魚と人の毛髪はいつも、健康助言レベルを超えている”と、生物多様性研究所(BRI)のエグゼクティブ・ディレクターであるデービッド・エバース博士は述べた。”その結果は、大気だけでなく、陸地や水も同様に、水銀排出の真の低減を義務付ける必要性を示している”。

 ”水銀は、強固で野心的な世界の対応を求める人の健康に対する大きく深刻な脅威である”とIPEN共同議長であるオルガ・スペランスカヤ博士は述べた。

 水銀中毒の危険性は、数世紀前から知られている。水銀の高レベル曝露は脳と腎臓に生涯のダメージを与える。水銀はまた、母親から発達中の胎児に 伝えられ、脳の障害、知能低下、精神遅滞をもたらす。

更なる情報:
Bjorn Beeler IPEN
+46 31 799 94 74
+1 510-710-0655
Email: bjornbeeler@ipen.org


IPEN について:
 IPEN は、世界中の人々の健康と環境を守る安全な化学物質政策と実践を確立し実施するために活動する指導的な世界的な組織である。IPENの世界的なネットワークは、116 か国にある国際的な政策の場及びは点途上国における現場で活動する700 以上の公益団体から構成される。
www.ipen.org twitter: @ToxicsFree


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