EHP サイエンス・セレクション 2023年1月24日
世界的な美の危険性:
皮膚美白製品中の水銀の評価

ヨリ・ルイス(ライター:環境、農業、国際開発関連)

情報源:EHP Science Selection, 27 January 2023
Global Beauty Hazard: Assessing Mercury in Skin-Lightening Products
By Jori Lewis, writes about the environment, agriculture, and international development
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/EHP12495?utm_
source=SendGrid&utm_medium=email&utm_campaign=Monthly+TOC+Alert


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年2月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/EHP/230124_
Global_Beauty_Hazard_Assessing_Mercury_in_Skin_Lightening_Products.html

アブストラクト




 世界中の人々は、肌を明るくすることを約束する、時には水銀を含むこともある製品を求めている。色素障害などの健康上の理由に加えて、そのような製品は、タイのバス停にあるこの看板のように美しさをより明るい肌と関連付けるメディア・イメージや、同じ民族又は人種でありながら肌の色がより暗い人々を差別するカラリズム(colorism)の圧力に対応して求められている[9]。
画像: (c)iStock.com/oneclearvision.
 2019 年に、かすみ目、筋力低下、運動障害、言語障害を持つひとりの女性がカリフォルニア州サクラメントの病院に入院したが、彼女の状態は興奮性精神錯乱にまで悪化した[1]。テストの結果、彼女の血中と尿中の水銀レベルが極めて高いことがわかり[1]、公衆衛生当局は、彼女がメキシコから入手した皮膚美白クリームを長期間使用したことが彼女の水銀中毒の原因である可能性が高いことを知った[1]。 そのような製品は、世界中で人々によって毎日使用されている[2]。Environmental Health Perspectives に発表された新たな体系的レビュー[3](訳注1)により、欧州連合、北アメリカ、フィリピン、及びいくつかのアフリカ諸国での禁止にもかかわらず、広く入手可能な皮膚美白製品の使用による水銀への世界的な暴露が判明した[4]。

 水銀は、メラニンの生成を妨げるため、このような製品に一般的に添加されている[5]。 しかし、この元素は神経毒性物質でもあり、消化器系や免疫系だけでなく、腎臓にも害を及ぼす可能性がある[6]。水銀に関する水俣条約は、条約の締約国によって製造、輸入、又は輸出される化粧品中の水銀の量を 1 μg/g に制限している[7]。この新しい論文の著者らは、彼らがレビューした研究の中でテストされた 787 製品の約 25% がこの水銀制限量を超えていたと報告した。水銀の含有量は大きく異なり、多くの製品には 1 グラムあたり数百又は数千マイクログラムが含まれていた。あるクリームの濃度は 314,387μg/gであった。

 研究者らは、査読済みの研究を次の 4 つの項目グループにまとめた。
 a) 皮膚美白製品中の水銀レベル
 b) 皮膚美白製品の使用
 c) そのような製品に関連する健康への影響、及び
 d) 水銀暴露のバイオマーカー

 ”社会の美に対する認識では、より明るい色の肌がより望ましいとする考えが永続している”と著者らは書いており、肌を明るくする製品の市場を”世界で最も急速に成長している美容産業のひとつ”と呼んでいる[3]。

 レビューの上級著者であり、モントリオールのマギル大学の環境健康科学の教授であるニラドリ・バス(Niladri Basu)は、水銀暴露を何年も研究してきたが、肌を明るくする製品に焦点を当てたのは新しいことでる。 ”鉱業と化石燃料の燃焼がどれだけ水銀汚染に寄与しているか、私にはわかる”と彼は言う。 しかし、科学者たちは、化粧品が世界の水銀負荷にどの程度寄与しているかを知らない。”これらの製品を使用している人々は、何億人とは言わないまでも、何千万人もいるからである”とバスは言う。

 このレビューは、基準条件を説明し、科学者、規制当局、及び政策立案者らに役立つとバスが期待するデータを提供する。 例えば、香港と米国西部の住民の尿中水銀を測定した 5 つの研究がある。 これらの研究全体で、尿中水銀濃度は 0〜770μg/L の範囲であった。研究参加者全員の約 3分の 2が、(著者らがレビューされた全ての研究で参照値として特定されたと言及している[3]) 20μg/Lを超えている。皮膚美白剤だけでなく、全ての暴露源からの世界的な水銀暴露をバスと同僚らが評価して比較してみると、尿中レベルは一般には 3μg/L 未満であった[8]。 テストされた製品の水銀濃度は地理的地域によって異なり、東地中海、東南アジア、及び西太平洋地域の諸国から購入した製品で測定された濃度の中央値が最も高いことを著者らは発見した。

 皮膚美白製品に含まれる水銀濃度の高い変動性は、国立環境健康科学研究所のトランスレーショナル(基礎研究から臨床現場への橋渡しをする)毒性学部門の健康科学者であるカイラ・テイラーの注意を引いた。”これらの製品は多くの様々な国で人気があり、インターネットで広く購入できる”と、このレビューには関わっていないテイラーは言う。 彼女は、このレビュ−論文は問題を過小評価している可能性があると付け加えている。 レビューの対象となったほとんどの研究は店舗で購入した皮膚美白製品の使用を分析しているため、このレビューは、ソーシャル・メディアで宣伝されオンラインで販売される多くの製品を見逃している可能性が高いとテイラーは述べている[7]。

 著者らは、人々が皮膚美白剤を使用することが知られているヨーロッパ、東南アジア、及びラテンアメリカからのより多くの研究の必要性を含め、ギャップを認識した[2]。さらに、生物学的指標(バイオマーカー)研究のあるものは、皮膚美白剤からの水銀と海産物の消費やアマルガムの歯の詰め物などの他の水銀源からの暴露と区別していなかった。

 2,300 を超える査読済みの科学論文を念入りに調べた結果、著者らの選択基準、すなわち、2000年以降に発表されたオリジナル論文であり、人間の使用についてのデータをが抽出でき分析できるという基準を満たしていたのは 22か国からの 41論文だけであった。バスは質の高い適切に設計された研究が非常に少ないことに驚いた。”この主題はほとんど十分に調査されていない”と彼は言う。”残念ながら、公開されているデータは最強ではない”と彼は説明し、サンプルサイズが小さい、他の水銀暴露との管理ができていない、使用された製品の量と期間に関する情報がほとんどないなどの欠点を挙げた。バスは、もっと多くの資源をこの作業に当てるよう求めている。 彼のチームの次のステップは、データのギャップのいくつかをを埋めることであり、この評価で行われた基本的な作業は「氷山の一角」であると述べている。


References

1.
Mudan A, Copan L, Wang R, Pugh A, Lebin J, Barreau T, et al.2019. Notes from the field: methylmercury toxicity from a skin lightening cream obtained from Mexico-California, 2019. MMWR Morb Mortal Wkly Rep68(50):1166-1167, PMID: 31856147, 10.15585/mmwr.mm6850a4. Crossref, Medline, Google Scholar

2.
Sagoe D, Pallesen S, Dlova NC, Lartey M, Ezzedine K, Dadzie O. 2019. The global prevalence and correlates of skin bleaching: a meta-analysis and meta-regression analysis. Int J Dermatol58(1):24-44, PMID: 29888464, 10.1111/ijd.14052. Crossref, Medline, Google Scholar

3.
Bastiansz A, Ewald J, Rodriguez Saldaaa V, Santa-Rios A, Basu N. 2022. A systematic review of mercury exposures from skin-lightening products. Environ Health Perspect130(11):116002, PMID: 36367779, 10.1289/EHP10808. Link, Google Scholar

4.
World Health Organization. 2019. Preventing Disease Through Healthy Environments: Mercury in Skin Lightening Products. No. WHO/CED/PHE/EPE/19.13. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/330015/WHO-CED-PHE-EPE-19.13-eng.pdf?sequence=1&isAllowed=yk/A> [accessed 10 January 2023]. Google Scholar

5.
Ladizinski B, Mistry N, Kundu RV. 2011. Widespread use of toxic skin lightening compounds: medical and psychosocial aspects. Dermatol Clin29(1):111-123, PMID: 21095535, 10.1016/j.det.2010.08.010. Crossref, Medline, Google Scholar

6.
Ha E, Basu N, Bose-O’Reilly S, Darea JG, McSorley E, Sakamoto M, et al.2017. Current progress on understanding the impact of mercury on human health. Environ Res152:419-433, PMID: 27444821, 10.1016/j.envres.2016.06.042. Crossref, Medline, Google Scholar

7.
Zero Mercury Working Group. 2022. Skin Lighteners Still Online Despite Mercury Findings. https://eeb.org/wp-content/uploads/2022/03/ZMWG-Skin-2022-Report-Final.pdf [accessed 10 January 2023]. Google Scholar

8.
Basu N, Horvat M, Evers DC, Zastenskaya I, Weihe P, Tempowski J. 2018. A state-of-the-science review of mercury biomarkers in human populations worldwide between 2000 and 2018. Environ Health Perspect126(10):106001, PMID: 30407086, 10.1289/EHP3904. Link, Google Scholar

9.
Pollock S, Taylor S, Oyerinde O, Nurmohamed S, Dlova N, Sarkar R, et al.2021. The dark side of skin lightening: an international collaboration and review of a public health issue affecting dermatology. Int J Womens Dermatol7(2):158-164, PMID: 33937483, 10.1016/j.ijwd.2020.09.006. Crossref, Medline, Google Scholar


訳注1
オリジナル論文
A systematic review of mercury exposures from skin-lightening products. Environ Health Perspect
Ashley Bastiansz, Jessica Ewald, Veronica Rodriguez Saldana, Andrea Santa-Rios, and Niladri Basu; Published:11 November 2022; https://doi.org/10.1289/EHP10808

Abstract日本語訳 紹介

バックグラウンド:
 水銀に関する水俣条約(第4条)は、1 ppm を超える水銀濃度を含む皮膚美白製品の製造、輸入、又は輸出を禁止している。しかし、水銀を添加した美白製品が世界的に普及していることについては、知識が不足している。
目的:
 この研究の目的は、美白製品からの世界的なヒトの水銀暴露についての理解を深めることであった。
方法:
 4 つのデータベース (PubMed、Web of Science Core Collection、Scopus、及び TOXLINE) の関連記事について、査読済みの科学文献の体系的な検索が実行された。 検索戦略、適格基準、及びデータ抽出方法はアプリオリ(演繹的)に確立された。 検索により、2,303 件のユニークな科学記事が特定され、そのうち 41 件が、タイトル、アブストラクト、及び全文レベルでの繰り返しのスクリーニングの後、最終的に含める資格があると見なされた。 データの抽出と統合を容易にするために、すべての論文は、a)「製品中の水銀」、b)「製品の使用」、c)「暴露のヒトバイオマーカー」、d)「健康への影響」の 4 つのデータ・グループに従って編成された。
結果:
 このレビューは、2000 年から 2022 年の間に発行された、世界 22 か国からの 41 の査読済み科学論文に含まれるデータに基づいている。合計で、787 の皮膚美白製品サンプルから水銀濃度値[プールされた全体の水銀レベル中央値は 0.49μg/g; 四分位範囲 (IQR): 0.02-5.9] 及び 863 人の個人からの 1,042 のヒトバイオマーカー測定をを取得した。 また、3,898 人の個人からの使用情報と、832 人の個人からの水銀添加製品の使用に関連する自己報告された健康への影響を統合した。
考察:
 このレビューは、水銀が世界中の多くの美白製品の有効成分として広く存在し、ユーザーが様々な、しばしば高い暴露のリスクにさらされていることを示唆している。 これらの統合された調査結果は、データのギャップを特定し、これらの製品の使用に関連する健康リスクの理解を深めるのに役立つ。 https://doi.org/10.1289/EHP10808



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