2012年2月29日 プレスリリース
市民団体共同声明
"日本政府に水銀輸出禁止法の制定を求める"

本プレスリリースPDF版
掲載日:2012年2月29日
安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/CSO/120229_press_CSO_joint_statement_export_ban_jp.html

【東京 2012年2月29日】当研究会とフィリピンのNGOである Ban Toxics! は、世界の市民団体と市民から474筆の賛同を得て、2月29日に「市民団体共同声明 2012 "日本政府に水銀輸出禁止法の制定を求める"」を日本政府に送付しました。 日本語版(pdf)英語版(pdf)

 日本政府に送付後、52筆の賛同リスト(内51筆はフィリピンの小規模金採鉱労働者とコミュニティの役人)が届いたので、合計賛同数は526筆となります。

■欧州連合と米国はすでに輸出禁止

 水銀の世界的な放出を削減するために国連環境計画(UNEP)が推進する水銀条約制定のための政府間交渉委員会(INC)で検討されている重要な項目のひとつに水銀の国際貿易の制限があります。ところが欧州連合(EU)と米国は一足早くINCが開催される前の2008年秋にすでに、それぞれ歴史的な「水銀輸出禁止法」を制定し、「余剰水銀の安全な保管」を推進するために必要な措置をとりました。

■日本は年平均100トンの水銀を輸出

 一方、日本は水俣の悲劇を経験しているにもかかわらず、残念ながら、日本の水銀輸出データのグラフと表が示す通り、毎年平均して100トン以上の水銀,、金額にして3〜5億円を輸出しています。この水銀は主に非鉄金属精錬及び水銀含有製品からのリサイクルで生じるものですが、その生成量は日本の年間水銀消費量(約10トン)をはるかに超える100トン近くであると言われています。

 輸出された余剰水銀の多くは、様々な経路を経て、最終的にはアジア、アフリカ、南米の途上国の小規模金採鉱現場に送られていると言われています。そこで金鉱石から金を抽出する過程で金と水銀の合金(アマルガム)を作るために水銀が使用され、その結果、世界に数百万人いると言われる金採鉱に従事する貧しい労働者やその家族の健康が水銀により蝕まれ、また使用された水銀は大気や海に放出され、世界中に広がる環境汚染をもたらしています。

 当研究会は2009年にも、日本及び海外の団体と協力して、日本政府に水銀輸出禁止を求める市民団体共同声明を発表しましたが、日本政府は水銀輸出を禁止することなく、相変わらず輸出を続けています。

 当研究会が日本の水銀輸出の禁止を求める理由は、直接的には世界の水銀汚染を削減するために、世界の水銀市場に日本の水銀を出さないようにするためですが、もうひとつの大きな理由は、日本が欧州連合と米国に続き、水銀輸出を禁止すれば、世界に強大な影響力をもつ欧米日3か国の決定は、必ずや世界の水銀輸出禁止と水銀削減の動きに大きな影響を与え、2013年に制定される水銀条約において、水銀の国際貿易の制限を強化し、水銀輸出禁止を実現することに寄与すると確信するからです。

■日本政府の説明

 当研究会は日本の水銀輸出禁止について、2009年に最初の意見表明をして以来、他団体と共に日本政府と何度か話し合いを持ちました。例えば、昨年9月に神戸で行なわれたINC3アジア太平洋地域会合に参加した当研究会を含む国際NGOsとの意見交換で日本政府が述べた説明は概ね次のようなものでした。
  • 日本の余剰水銀の多くは非鉄金属精錬プロセスからのものであり、日本ではある会社が回収を商業的に行なっている。
  • 回収のためのコストは水銀輸出でカバーされており、輸出を禁止すると回収のためのコストが問題となる。
  • 輸出を禁止すると回収水銀の保管の必要が生じるが、日本には地震、台風などがあり、適切な長期保管場所を探すのが難しく、管理責任の問題もある。
  • 水銀安定化など技術上の問題もある。
  • これらは水銀輸出禁止/制限を決定する前に議論されなくてはならない問題であり、2013年の水銀条約採択までの残された2年間で決めなくてはならないことは承知している。
■当研究会の見解

 日本政府の説明に対する当研究会の見解は次のようなものです。
  • 水銀の回収については、汚染サイトの修復と同じく、リオ原則16の汚染者負担原則(PPP)や、拡大生産者責任(EPR)が適用されるべきである。回収のためのコストは汚染者である非鉄金属精錬会社や水銀含有製品製造者が負担すべきである。
  • 日本の年間の余剰水銀発生量を100トンと仮定して水銀の比重から逆算すると、年間新たに発生する余剰水銀の正味容量は7.4立方メートルと”わずかな量”である。
  • 日本は全国に54基ある原発からの”膨大な量”の使用済み核燃料/高レベル放射性廃棄物を数万年以上保管・管理しなくてはならないのだから、水銀の安定化技術を含めて、年間100トン足らずの水銀の長期保管は国と汚染者が十分に克服できる課題のはずである。
  • 日本政府は早急に、水銀輸出禁止を決断すべきである。
 私たちは、本年1月23日付で、「市民団体共同声明 水銀条約に水俣の教訓を反映するよう求める」を日本政府に提出しています。これは、水銀条約「第14条 汚染サイト」に水俣の教訓を反映するよう最大限の努力をすることを求めるものです。 日本語版(pdf)英語版(pdf)

 水俣の悲劇に責任のある日本政府が、水銀輸出を禁止し、水銀条約「第14条 汚染サイト」に水俣の教訓を反映させることができれば、それは日本が水銀条約における世界の第一人者になる機会であると考えます。

 水銀汚染の循環は終らせなくてはなりません。日本は、まさしく世界の水銀汚染を終らせるために役立つことができます。
以上
連絡先:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
ac7t-ysm@asahi-net.or.jp
TEL/FAX 045-364-3123
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/



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