IPEN, 2023年11月3日
水銀条約は有害廃棄物と水銀含有化粧品の脅威根絶には至らず、
歯科用水銀と先住民族の包摂に関しては前進


情報源:IPEN, 03 November 2023
Mercury Treaty Falls Short on Ending Threats from Toxic Waste and Mercury-Containing
https://ipen.org/news/mercury-treaty-falls-short-ending-
threats-toxic-waste-and-mercury-containing-cosmetics-makes


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年11月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/COP5/231103_IPEN_Mercury_Treaty_Falls_
Short_on_Ending_Threats_from_Toxic_Waste_and_Mercury-Containing_Cosmetics.html


スイス・ジュネーブ - 水銀に関する水俣条約第5回締約国会議(COP5)に参加した世界中の IPEN 支持者らは、今回の結果は、いくつかの問題で残念な決定と前向きな進展が混在するものだったと指摘した。 COP5 が不十分だった項目の中には、廃棄物中の水銀について弱い基準を採用し、この弱い基準であっても包括的免除を認めることが挙げられ、その結果、有害な水銀で汚染された廃棄物が申告されていない出荷が高所得の諸国から低・中所得の諸国に輸出される可能性がある。 COP はまた、水銀が混入した美白クリームなどの製品が依然として広く販売されているという証拠があるにもかかわらず、化粧品中のどのようなレベルの水銀であっても健康保護上の禁止措置を採択できなかった。

 IPEN 代表団は、歯科用水銀(歯科用アマルガムに使用される)の段階的削減または段階的廃止に向けた取り組みについて報告するよう締約国に求める決定や、交渉への先住民族の参加を求める歴史的な決議の採択を歓迎した。

 ”10年前に水銀条約が採択されて以来、すべての関係者の支援により多くの前進が達成された。COP5 では、今後10年間に向けた良い基礎となるいくつかの重要な決定が下された”と Nexus3 Foundation の上級顧問であり、IPEN の小規模人力水銀採掘(ASMG)担当リーダーであるユーユン・イスマワティは述べた。”間もなく、世界中で水銀取引を停止し、第2条に基づく ASGMの「使用許可」を修正し、水銀中毒に対処するための健康関連活動を強化するための締約国による強力な行動が見られることを望んでいる”。

 IPENは、特に汚染地という緊急の問題に対処する新たな道を提供する目標 7 の達成に向けて、水俣条約事務局とモントリオール・昆明世界生物多様性枠組(Montreal-Kunming Global Biodiversity Framework)との間の今後の協力と連携を歓迎する。

 水銀で汚染された廃棄物(”水銀廃棄物”)のレベルを定義する際に、COP は 10 mg/kg、15 mg/kg、または 25 mg/kg という 3 つの閾値案について議論した。 IPEN は、最も保護的な選択肢として 10 mg/kg を支持しており、一部の地域ではもっと低い、より保護的な基準が使用されていることを指摘した (たとえば、スイスでは水銀廃棄物の定義に 5 mg/kg のレベルを使用している)。 15 mg/kg を採用するという COP5 の決定は、適切な健康と環境の保護を提供できないが、さらに憂慮すべきことに、COP はこの基準に対する包括的免除を採用した。 これにより、締約国はいかなる閾値レベルの適用も回避し、廃棄物中の水銀測定に互換性のない方法を使用することが可能となり、水銀廃棄物に関する透明性が損なわれ、廃棄物の国境を越えた移動に重大なリスクが生じることになる。 この決定の結果、輸入国における水銀廃棄物の基準が輸出国によって無視される可能性があり、その結果、先進諸国から開発途上国へ水銀廃棄物が申告されていない状態で出荷されることになる。

 健康保護に関するもうひとつの敗北は、化粧品中の水銀の制限を強化する(現在の許容値 1 ppm から全面禁止へ)修正案も合意を得ることができなかったことである。 その代わりに、より多くの研究を実施するという提案により、この重要な水銀暴露源に対する行動が遅れた。2019年の WHO 報告書は”水銀を含む美白製品は健康に有害であり、その結果、多くの国で禁止されている。 そのような製品が禁止されている一部の国でも、依然として広告が掲載されており、インターネットやその他の手段を通じて消費者が入手できる”と述べ、化粧品中の水銀を廃止する行動を求めた。 それでも COP は、防腐剤として意図的に添加された水銀を含む化粧品を 2025年までに段階的に廃止するという提案を採択した。

 会議にとって数少ない前向きな点の中には、歯科用アマルガムに関する進展があり、締約国は附属書 AパートII に基づいて、歯科用アマルガムを 4年ごとに段階的に削減または段階的に廃止する取り組みに関する国家行動計画報告書を作成し、COP に提出することが義務付けられている。 附属書 AパートI に 2030年までに段階的に廃止するための歯科用アマルガムを追加する文言も含まれていたが、COP 6 でのさらなる検討のために括弧書きにされた。

 交渉のハイライトは、大会への先住民族への関与を高める決定であった。 参加者らは、水銀汚染をなくすための闘いへの先住民族の参加への支援を求める決議を承認した。 この決議は、締約国に対し、先住民族を水銀排除の取り組みに参加させるよう促しており、今後の交渉には”健康や生活における水銀の影響に関して、先住民族および地域社会のニーズと優先事項”に焦点を当てつつ、 文化と知識、可能な解決策を特定する将来の作業を視野に入るべきであると述べている。この決議案は、先住民代表らにより、”世界中の先住民族にとって記念碑的な成果であり、我々の権利を真に尊重し擁護するための第一歩である”と述べられた。

 2025年の COP6 では、IPEN が世界的な水銀汚染の中心的な発生源に対処する条約の大幅な修正を要求するなど、はるかに野心的な議題が盛り込まれるであろう。

 ”我々は条約を軌道に戻し、小規模金採掘(ASGM)における水銀の使用という世界最大の水銀汚染問題に取り組む必要がある。 この水銀の使用は世界的な水銀汚染の主な原因であり、何百万もの採掘労働者が有害な蒸気にさらされ、水路が汚染され、魚や食品のサプライチェーンが汚染されている。 これにより数千のサイトが汚染され、毎日さらに多くのサイトがそのような状況になっている”と IPEN の水銀政策顧問リー・ベルは述べた。 ”我々は、ASGM 地域での水銀中毒に苦しむ弱い立場の人々に対する健康介入プログラムと、ASGM における水銀使用の、交渉の余地のない段階的廃止日を設定するために、水銀の世界的な合法取引を終了するための条約を改正する必要がある。 条約の現状では、この慣行の終了日は近い将来にはない。”我々はこれらの変更の必要性についてすべての地域の代表者らと対話を開始し、前向きな反応を得ており、COP6 に向けてそれを踏まえて取り組んでいく。これらの問題を議題にしなければ、条約は成功しない”。



化学物質問題市民研究会
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