Science News 2023年8月3日
気候変動は子どもたちの健康を現在、
そして将来にわたりに危険にさらす

アイニー・クニングハム(生物医学記者)
情報源:Science News, August 3, 2023
Climate change puts children's health
at risk now and in the future

By Aimee Cunningham(Biomedical writer)
https://www.sciencenews.org/article/climate-change-children-health-risk

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年9月6日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/news/230803_SienceNews_
Climate_change_puts_childrens_health_at_risk_now_and_in_the_future.html

 気候関連の環境災害はこの夏も衰えていない。 熱波が米国、ヨーロッパ、中国、北アフリカを襲い(SN:7/19/23)、カナダとギリシャでは山火事が猛威を振るっている。 カナダの山火事からの窒息するような煙が、米国中の空を覆った (SN: 7/12/23)。

 これは誰にとっても有害であるが、特に子どもたちにとっては有害である。 国連児童基金は、気候変動を子どもの権利の危機と呼んでいる。 同基金は、世界中の10億人の子どもたち(子どもたち全てのほぼ半数)が気候変動の影響による極めて高いリスクにさらされていると推定している。 これは、これらの子どもたちの健康を現在および生涯にわたって脅かしている。

 コロンビア大学の環境保健科学者フレデリカ・ペレラは、子どもたちが胎児期から青年期まで継続的に発達していることが、環境に対する気候関連の影響による健康被害を特に受けやすい理由のひとつであると述べている。 彼女は 1998 年にコロンビア小児環境保健センターを設立した。Science News(SN)は、気候変動と子どもたちの健康及び福祉、誰が最もリスクが高いかという点での相違点、そしてなぜこれらの初期の害が生涯を通じて健康を危険にさらすのかという点についてペレラと対談した。 インタビューは長さと明瞭さのために編集されている。

SN: 熱波や山火事の煙など、気候変動が環境に及ぼす影響は、子どもたちの健康にどのような影響を及ぼしますか?

ペレラ: 気候変動や大気汚染が子どもたちに及ぼす影響について語るとき、胎児期だけでなく、乳児期、小児期、さらには青年期も含める必要があります。なぜなら、脳やその他のシステムはこれらの期間を通して発達しているからです。

 健康上のリスクは数多くあります。 厳しい暑さは早産の一因となっており、乳幼児や子どもたちの暑さによる死亡や病気を引き起こしています。 子どもたちは厳しい気象現象にも悩まされており、身体的な損傷だけでなく、精神的なトラウマにも苦しんでいます。 気候変動による花粉シーズンの長期化により、アレルギーやぜん息が増加しています。 森林火災の煙を吸うことでぜん息発作が増加します。 世界の特定の地域では、干ばつによる食料不安と成長阻害の問題があります。 マダニや蚊の生息範囲が広がるにつれて、[昆虫や他の媒介動物によって広がる]感染症が増加しています。

SN: 子どもたちが大人よりも気候変動の影響によるリスクが高い生理学的理由にはどのようなものがありますか?

ペレラ: まず、胎児期、乳児期、小児期には非常に急速かつ複雑な発達プログラムがあり、有害汚染物質、気候関連のショック、ストレス要因による混乱に脆弱です。 2番目のポイントは、乳児や子どもたちには、成人と同じように完全に機能する、有害物質への暴露から身を守る生物学的防御機構が備わっていないということです。

 [熱に関しては] 、子どもたちは厳しい熱波の間、深部体温を制御する能力が低下します。(訳注:人の体温は、手足など体の中心から離れ、外環境の影響を受けやすい「皮膚温」と、脳や臓器など体の中心の機能を守るために一定に保たれる「深部体温」があります。深部体温は、脳や臓器など体の内部の温度で、内臓の働きを守るため、外環境の影響を受けにくく、一定に保たれています。熱中症ゼロへ) 若者たちは、水分補給や熱中症の初期症状が現れた場合の注意を私たち大人に頼っています。

 大気汚染や森林火災の煙に関しては、子どもたちは暴露量が増加しているため、特に脆弱です。 彼らは屋外でより多くの時間を過ごすことがよくあります。 [子どもは肺の表面積が大きいため、][大人より]体重[キログラム当たり]より多くの空気を呼吸します。 [子どもの鼻は吸入した粒子を濾過する効率が低いため、これらの粒子の高い割合が肺の奥深くに浸透します。 彼らの狭い気道は炎症の影響を受けやすく、その結果、狭窄や呼吸困難が生じます。

SN: 気候変動は子どもたちの精神的健康にどのような影響を及ぼしますか?

ペレラ: 気候変動は直接的および間接的にメンタルヘルスに影響を与えています。 激しい嵐や洪水、山火事に遭遇した子どもたちは、うつ病や心的外傷後ストレス障害の症状を高い割合で発症することを示しています。

しかし、子どもたちはそのような災害を直接経験していなくても、気候不安の影響を受けています。 10か国を対象とした調査では、[10代と若者の]50%以上が気候変動について非常に心配ているか、極めてに心配していると答え、この不安が日常生活に悪影響を及ぼしていると回答しました。

SN: どの子どもたちが気候関連の環境への影響から最も大きなリスクにさらされていることに関して、どのような差異が存在しますか?

ペレラ: 私たちが言うように、全ての子どもたちは脆弱な立場にありますが、特定の子どもたちが最初に最も傷つきます。 これは世界的に[高所得国と比較した低所得国という点で]当てはまりますが、ここ米国でも同様で、有色人種のコミュニティと低所得のコミュニティは、厳しい暑さや異常気象だけでなく大気汚染への暴露も不釣り合いに高いのです。 たとえば米国を例にとると、主要高速道路、バスやトラックの車庫、産業プラント、発電所などの汚染源が、有色人種のコミュニティと低所得層のコミュニティ内およびその近くに不均衡に位置しています。 レッドライニングのような差別政策(訳注:レッドライニング(英語: red lining)あるいは赤線引きとは、アメリカ合衆国において主に認識されている金融論の概念のひとつであり、金融機関が低所得階層の黒人が居住する地域を、融資リスクが高いとして赤線で囲み、融資対象から除外するなどして差別したとされる問題を言う。ウィキペディア)により、都市部にヒートアイランドが生じています

 不均衡な暴露と貧困や人種差別が相まって、疾病率の格差に寄与していることがわかります。 米国では、黒人の子どもたちのぜん息罹患率乳児死亡率は、白人の子どもたちに見られる率の2倍です。 早産率は[白人女性と比較して黒人女性の方が] 50パーセント高いです。

SN: 子どもたちに対するこうした初期の健康被害は、彼らの今後の人生にとってどのような意味を持つのでしょうか?

ペレラ: こうした初期の危害や損傷が長期的な影響を与えることはわかっています。 呼吸症状は持続することがよくあります。 重度または持続性のぜん息を持つ子どもたちは、永続的な気流閉塞や慢性閉塞性肺疾患のリスクが高くなります。 大気汚染に関連した知的機能の低下、また出生前や幼少期の栄養失調は学習能力に影響を及ぼし、それが収入を得て社会に貢献する能力にも影響を及ぼします。 気候変動のショックや若い頃に経験するその他の有害な出来事によるストレスやトラウマは、生涯を通じて精神的健康に影響を与える可能性があります。

 私たちは、気候変動や大気汚染によるこうした初期の健康被害が長期的に与える影響について考えるべきです。 次に、化石燃料の排出を排除するための政策やその他の介入に目を向けると、健康とそれに伴う経済的利益が莫大であることがわかります。 その最大の受益者は子どもたちです。



化学物質問題市民研究会
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