Stanford Medicine 2022年6月20日
気候変動は子どもたちにもっと深刻に
影響を及ぼすかもしれない

ロブ・ジョーダン
スタンフォード・ウッズ環境研究所 副編集長

情報源:Stanford Medicine, June 20, 2022
Climate change impact may affect kids more severely
By Rob Jordan: associate editor
at the Stanford Woods Institute for the Environment
https://scopeblog.stanford.edu/2022/06/20/climate-change-
impact-may-affect-kids-more-severely/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年7月6日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/news/220620_Stanford_Medicine_
Climate_change_impact_may_affect_kids_more_severely.html

 うだるような暑さ、季節的な山火事、そしてその他の気候変動の影響は、間違いなく世界中のほとんどの場所で新たな健康危機を引き起こしたが、ある新しい論文が、気候変動のより深刻な影響をうける可能性のあるひとつの人口動態、つまり子どもたちを指摘している。

 子どもたちの体が、有害物質を代謝する仕方の違い、体重当たりの空気の必要量性の増加、そして体温を調節する方法の違いにより、子どもたちの健康上のリスクが高くなっている。

 スタンフォード大学医学部のショーン・N・パーカー・アレルギー喘息研究センターの所長であるカリ・ナドー博士( MD, PhD)とコロンビア大学公衆衛生メールマン校のフレデリカ・ペレラ博士(PhD)が執筆した子どもたちへの汚染と気候の影響に関する新しい論文は、子どもたちの健康の概要を説明し、医療専門家らのより良い理解と関与を求めている。

 その論文は、6月16日にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(*)に掲載された。(訳注(*):世界最大の医学誌のひとつ)

 ”ここ数十年で貧困関連の環境リスクの削減に大きな進歩があったが、工業化に関連する汚染は着実に増加しており、世界中の子どもたちの誰もが今後10年間に少なくともひとつの気候変動関連の出来事に苦しむと予想されている。それはほとんどの人々がそのことを知ってショックを受けるかもしれないことだ”とナドーは語った。 ”同様に、環境リスクに対処することで、世界中で 5歳未満の子どもたちの死亡の約 4分の 1 を防ぐことができたはずであったことは特に印象的だと思う。”

 スタンフォード・ウッズ環境研究所の副編集長であるロブ・ジョーダンとナドーは、子どもの健康に対する気候関連のリスクと、介護者と医療従事者がどのように子どもたちのリスクをよりよく抑えることができるかについて討論した。

 以下の Q&A は、元のバージョンから編集されている。

 大気汚染や気候変動の影響への子どもたちの暴露を最小限に抑えるために、親や保護者らは何ができるか?

 人々が及ぼすことのできる個人的または家族の変化には様々な範囲がある。たとえば、家族のために電気自動車を使用している親は、子どもたちが喘息になる可能性を 30%減らすことができる。家族が週に1日でも、肉を食べることを減らすことができれば、それは地球を保護し、子どもたちの健康を改善するのに役立つ。また、家庭用に MERV 13 (訳注1) 以上のフィルターを購入すると、室内の空気汚染を減らすことができる。ガスの代わりに電化製品を使用すると、家族が呼吸する空気を50%改善できる。

 山火事が発生しやすい地域の親や保護者らは、子どもたちへの煙のリスクについて何を知っておくべきか?

 山火事の煙から安全な距離というものはない。山火事の煙が空気質指数(AQI)(訳注2)を 50 以上に押し上げる場合、特に喘息の子どもは肺が発達中であり、煙が不可逆的に有害である可能性があるため、子どもは屋内にいる必要がある。山火事の煙が出る日中は、子どもは屋外で適切な N95 マスク(訳注3)を着用する必要がある。激しい山火事の煙の中で屋外にいることは、タバコを吸うことに似ている。実際、AQI が 22と低くても、屋外の空気を 8時間呼吸することは、煙の吸入とさまざまな化学物質への暴露という点で 1本のタバコを吸うようなものである。それは信じがたいかもしれないが、クリーンで再生可能なエネルギー源に切り替えることは本当のそして説得力のある理由である。

 恵まれない地域の子どもたちがこれらの影響からより高い負担に苦しむのはなぜか?

 有色人種の子どもたちは、他の子どもたちよりも有害物質、汚染、気候変動にさらされる可能性が10倍も高くなる。米国では、おそらく黒人コミュニティでの粒子状大気汚染の濃度が高いため、黒人の子どもたちの小児喘息の発生率は白人の子どもたちの2倍である。これら及びその他の環境への影響は、貧困関連のストレス、環境不正義、及び医療を受けにくいことと相まって、生涯にわたって増加する。それらは健康への影響を悪化させ、寿命を縮める。

 小児科医や他の医療専門家はこれらの問題についてどのように考えるべきであり、この点に関してどのように彼らをよりよく訓練することができるか?

 私たちは、子どもの環境健康をプライマリ・ヘルスケア(PHC)(訳注4)及び必要不可欠な公衆衛生に組み込む必要がある。例えば、家族が子どもの健康や予防接種のために小児科医を訪問するような場合、小児科医は山火事の煙を避けてきれいな空気を呼吸することの重要性について積極的に話すことができる。小児科医は、子どもにぴったりの N95 マスクと家庭用エアフィルターへのアクセスについて尋ねることができる。

 地域の医療従事者やネットワークと協力して、子どもたちの環境健康、地域の環境評価、地域主導の汚染や排出削減対策などへの参加を通じて、子どもたちの意識を高めることができる。


訳注1: MERV 13
訳注2:空気質指数(AQI)
訳注3: N95 マスク
訳注4: プライマリ・ヘルス・ケア
  • プライマリ・ヘルス・ケア(ウィキペディア)
     アルマ・アタ宣言:現実的で科学的妥当性があり社会的に許容可能な方法論と技術の基づいており、コミュニティにおける個人と家族が彼らの完全な参加を通して普遍的にアクセス可能で、自己決定の精神に基づいて発展のすべてのステージにおいてコミュニティと国が維持することが可能なコストで提供可能な、必要不可欠なヘルスケア(WHO 1978, Declaration: VI)

     プライマリ・ヘルス・ケア(以下、PHC)は、すべての人にとって健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において住民の主体的な参加や自己決定権を 保障する理念であり、そのために地域住民を主体とし、人々の最も重要なニーズに応え、問題を住民自らの力で総合的にかつ平等に解決していく方法論・アプローチでもある。


化学物質問題市民研究会
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