News-Medical 2021年5月21日
大気汚染物質の超微粒子への出生前暴露は
子どもにぜん息を引き起こす可能性がある

エミリー・ヘンダーソン

情報源:News-Medical May 21, 2021
Prenatal exposure to air pollution can cause asthma in children
Reviewed by Emily Henderson, B.Sc
https://www.news-medical.net/news/20210521/Prenatal-exposure-

オリジナル論文:
Prenatal Ambient Ultrafine Particle Exposure and Childhood Asthma
in the Northeastern United States
https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.202010-3743OC

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年6月2日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/news/210521_News-Medical_Prenatal_exposure_to_air_pollution_can_cause_asthma_in_children.html

 5 月に 「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」 に掲載された研究によると、妊娠中に大気汚染物質である超微粒子にさらされた女性の子どもは、ぜん息になる可能性が高い。

 ぜん息が、この種の大気汚染への出生前の暴露と関連付けられたのは、これが初めてである。超微粒子(訳注1)はその小さなサイズから名付けられており、米国では規制も日常的な監視も行われていない。

 米国疾病予防管理センター(CDC)によってぜん息と特定された子どもたちは、全体の 7%であるのに対し、これらの母親から生まれた子どもたちは、その 18%強が就学前にぜん息を発症した。

 より大きなサイズの粒子状汚染物質や二酸化窒素のようなガス状汚染物質など他の種類の汚染物質は、潜在的な健康への影響を減らすために定期的に監視および規制がなされている。これらの物質は、以前の研究で子どもたちのぜん息リスクと関連付けられている。したがってこの研究では、これらの他の種類の汚染物質への妊娠中の暴露と出生後の暴露は管理されたが、妊娠中に超微粒子への暴露が増加した母親から生まれた子どものぜん息のリスクが依然として高いことがわかった。

 平均的な人間の毛髪の幅よりも小さい超微細な粒子の汚染は、肺の奥深くに入り込み、循環系に流れ込み、さまざまな健康影響を引き起こす可能性がある。このため、研究者らは、それらの毒性効果は実際にはもっと大きいかもしれないと述べた。

 超微粒子が日常的に監視されていない理由のひと つは、それらを正確に測定するために多くの独自の課題があったことである。幸いなことに、最近は、研究の実施を可能にする暴露データを提供できる手法が開発されている。
ロザリンド・ライト, MD,MPH、研究の筆頭著者
ホレス・W・ゴールドスミス教授、マウントサイナイ医科大学

 この調査には、ボストン大都市圏に住み、健康状態を評価するためにすでに追跡調査を受けている、黒人またはラテン系アメリカ人の母親 376 人と、その子どもたちが含まれている。マウント サイナイの研究者らは、ボストン地域のタフツ大学の科学者グループと提携した。このグループは、母親と子どもの住む地域に関連する超微粒子暴露の日々の推定値を提供する方法を開発していた。これらの女性の多くは、これらの小さな粒子への暴露が高い傾向にある交通密度の高い幹線道路の近くに住む傾向があった。

 研究者らは、子どもたちがぜん息と診断されたかどうかを調べるために母親を追跡調査をした。ぜん息の診断のほとんどは、3歳の直後に発生した。

 子宮内での汚染の影響は、肺の発達と呼吸器の健康状態を変化させる可能性がある。これは、ぜん息などの小児疾患につながる可能性がある。これがどのように起こるかは完全には理解されていないが、他の研究でぜん息に関連付けられている神経内分泌や免疫機能など、特定の身体調節系が汚染によって変化する可能性がある。

 男の子と女の子の両方が出生前の超微粒子への暴露の影響を受けたが、この研究では、女の赤ちゃんは、妊娠後期に暴露した場合、超微粒子汚染のぜん息リスクへの影響に対して男の赤ちゃんより敏感であることがわかった。この現象の理由も不明であるが、研究によると、汚染暴露による内分泌かく乱作用による可能性が示されている。

 ”この研究は、米国での超微粒子への曝露のより良い監視、そして最終的には規制につながる証拠の基礎を構築するための重要な初期段階である。これらの微粒子を測定する方法を進歩させているので、我々は、アメリカの様々な地理的な地域内及び世界各地の両方で、これらの発見の再現を望んでいる。小児ぜん息は依然として世界的な流行であり、気候変動の影響により、粒子状の大気汚染への暴露の予想される増加をもって拡大する可能性が高い”と研究の筆頭著者であるライト博士は述べた。

出典:マウントサイナイ病院 / マウントサイナイ医科大学
オリジナル論文:ライト、R.J.、他(2021)米国北東部における出生前の環境超微粒子暴露と小児ぜん息( Prenatal Ambient Ultrafine Particle Exposure and Childhood Asthma in the Northeastern United States) American Journal of Repiratory and Critical Care Medicine. doi.org/10.1164/rccm.202010-3743OC


訳注:オリジナル論文のアブストラクト紹介
ATSbJournals
Prenatal Ambient Ultrafine Particle Exposure and Childhood Asthma in the Northeastern United States
https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.202010-3743OC

アブストラクト

理論的根拠: 周囲の超微粒子 (UFP; <0.1 μm) は、強化された酸化能力と全身に移動する能力のために、他の汚染成分と比較してより強い毒性を発揮する可能性がある。出生前の UFP 曝露と小児ぜん息との関連を調べた研究は少ない。

目的: 日々の UFP 暴露の推定値を使用して、子どものぜん息を伴う出生前 UFP 暴露の影響を受けやすいウィンドウを特定し、性固有の影響を考慮した。

方法: 分析には、妊娠以来追跡された 376 組の母子が含まれている。妊娠中の毎日の UFP 暴露は、時空間分解粒子数濃度予測モデル(spatiotemporally-resolved particle number concentration prediction model)を使用して推定された。ベイズ分布ラグ相互作用モデル (Bayesian distributed lag interaction models/BDLIM) を使用して、UFP 暴露の敏感なウィンドウを特定し、効果の推定値が性によって異なるかどうかを調べた。ぜん息の発症は、ぜん息の最初の報告時 (3.6+3.2 年) に決定された。共変量には、母親の年齢、教育、人種、肥満、子どもの性別、二酸化窒素 (NO2) と妊娠中の平均気温、および出生後の UFP 暴露が含まれる。

測定値と主な結果: 女性は 37.8% が黒人、43.9% がヒスパニックで、52.9% が「高校教育」を報告している。子どもの 18.4% がぜん息を発症した。妊娠中の UFP 暴露レベルの 2倍当たりのぜん息発作(per doubling of UFP exposure level)の累積オッズ比 (95% 信頼区間) は 4.28 (1.41-15.7) で、男性と女性に同様の影響を与えた。 BDLIM は、妊娠後期に高い UFP にさらされた女性でぜん息のリスクが最も高い敏感なウィンドウにおける性差を示した。

結論: 出生前の UFP 暴露は、相関のある周囲の NO2 と温度とは無関係に、子どものぜん息の発症と関連していた。調査結果は、子どもの呼吸器の健康に対する UFP の悪影響を軽減する適切な規制を検討する将来の研究と政策立案者に役立つであろう。


訳注1:超微粒子(Ultrafine particle)
  • Wikipedia(英文)によれば、”超微粒子 (UFP) は、ナノスケール サイズ (直径 0.1μm または 100 nm 未満) の粒子状物質である。規制されている PM 10 や PM 2.5 粒子クラスよりもはるかに小さく、より大きな粒子のクラスよりもいくつかのより積極的な健康への影響があると考えられている、このサイズの大気汚染粒子に対する規制は存在しない。・・・”(Wikipedia/Ultrafine particle

  • SPM,PM2.5,PM10,…,さまざまな粒子状物質(国立環境研究所/新田裕史


化学物質問題市民研究会
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