Duke Today 2021年4月28日
子ども時代の大気汚染暴露は
18歳時の精神的不健康に関連する

リスク因子として鉛暴露に匹敵する
Duke Today スタッフ

情報源:Duke Today April 28, 2021
Childhood Air Pollution Exposure
Linked to Poor Mental Health at Age 18

As a risk factor, it is equivalent to lead exposure
By Duke Today Staff
https://today.duke.edu/2021/04/childhood-air-pollution-
exposure-linked-poor-mental-health-age-18

オリジナル論文:
Association Of Air Pollution Exposure in Childhood and Adolescence
With Psychopathology at the Transition To Adulthood

Aaron Reuben, MEM; Louise Arseneault, PhD; Andrew Beddows, PhD; et al
JAMA Netw Open. 2021;4(4):e217508. doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.7508

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年5月5日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/news/210428_Duke_
Childhood_Air_Pollution_Exposure_Linked_to_Poor_Mental_Health_at_Age_18.html

 【ノースカロライナ州ダーラム】 英国に住む若年成人を対象とした数十年にわたる研究が、小児期および青年期に交通関連の大気汚染物質、特に高いレベルの窒素酸化物に暴露した人びとの間で精神疾患の症状の発生率が高いことがわかった。

 以前の研究では、大気汚染とうつ病や不安などの特定の精神障害のリスクとの関連性が確認されているが、この研究では、交通関連の大気汚染物質への暴露に関連するあらゆる形態の障害と精神的苦痛(psychological distress)に及ぶ精神健康の変化に注目した。

 JAMAネットワークオープン(訳注:米国医学協会が発行する月刊医学誌)に 4月28日に掲載される調査結果は、個人が小児期から青年期にかけて窒素酸化物により多くさらされるほど、精神疾患のほとんどの症状が現れる、又は現れ始める 18歳の成人期への移行時に、精神疾患の兆候を示す可能性がより高くなることを明らかにしている。

 デューク大学の臨床心理学の大学院生である研究の筆頭著者のアーロン・ルーベンによれば、大気汚染への暴露と若年成人の精神疾患の症状との関連はあまり高くはない。しかし、”有害な暴露は世界中で非常に広範囲に及んでいるため、屋外の大気汚染物質は精神疾患の世界的な負担の重要な一因となる可能性がある”と彼は述べた。

 世界保健機関(WHO)は現在、世界中の 10人中 9人が、自動車、トラック、及び発電所での化石燃料の燃焼、並びに、多くの製造業、廃棄物処理、及び産業プロセスにより放出される高レベルの屋外大気汚染物質にさらされていると推定している。

 この研究では、神経毒性物質である大気汚染は、精神疾患の家族歴などの他のよく知られたリスクよりも精神疾患のリスク因子が弱いが、精神的健康を害することが知られている他の神経毒性物質、特に小児期の鉛への暴露と同等の強さであることがわかった。

 同じコホートでの以前の研究では、この研究の共著者兼主任研究者であるキングス・カレッジ・ロンドン精神神経科学研究所のヘレン・フィッシャーは、小児期の大気汚染暴露を若い成人期の精神病経験のリスクに関連付け、大気汚染物質は、後年の精神病のリスクを増幅させる可能性があるという懸念を提起した。

 中国やインドなどの国で”大気質の悪い”日々に多くの精神疾患の入院が増加することを示す研究と組み合わせると、今回の研究は、過去の調査結果に基づいて、”大気汚染は精神疾患の非特異的なリスク因子(non-specific risk factor)である可能性が高い”ことをはっきり示した。フィッシャーは、精神疾患のリスクの増幅は、子どもによって異なる可能性があると述べた。

 この研究の対象は、1994年から1995年にイングランドとウェールズで生まれ、若い成人期まで追跡が行われた 2,000人の双子のコホートである。彼らは定期的に身体的および精神的健康評価に参加し、彼らが住んでいるより大きな地域社会についての情報を提供してきた。

 研究者らは、調査対象者が10歳と18歳の時に、英・国家大気排出目録(The UK National Atmospheric Emissions Inventory (NAEI) )とインペリアル・カレッジの英国道路交通排出目録(UK road-traffic emissions inventory)によって提供された高品質の大気分散モデルとデータを使用して、彼らの家の周りの大気質をモデル化することにより、大気汚染物質、特に規制されたガス状汚染物質である窒素酸化物(NOx)、及び直径 2.5ミクロン未満の浮遊粒子を含む規制されたエアロゾル汚染物質である微粒子物質(PM2.5)への暴露を測定した。調査対象者の 22%が WHO ガイドラインを超えた NOx に暴露していたことが判明し、84%がガイドラインを超えた PM2.5 に暴露していたことがわかった。

 デューク大学とキングス・カレッジ・ロンドン精神医学研究所(King's IoPPN)に拠点を置く研究チームは、参加者が 18歳の時に精神的健康も評価した。10の異なる精神障害に関連する症状、すなわちアルコール、大麻、又はタバコへの依存;行為障害(conduct disorder)及び注意欠陥/多動性障害;大うつ病(major depression)、全般性不安障害(generalized anxiety disorder)、心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder)、摂食障害;精神病に関連する思考障害(thought disorder symptoms)の症状は、精神病理学因子(psychopathology factor)、または略して「p因子」と呼ばれる精神的健康の単一の尺度を計算するために使用された。

 個人の p 因子スコアが高いほど、特定される精神医学の症状の数と重症度が高くなる。個人はまた、精神病理学(psychopathology)の小領域にわたって精神的健康が異なる可能性がある。それらは、外から見える方法で現れる(行動障害などの外在化の問題)、主に内面で経験される(不安などの内面化の問題)、そして妄想や幻覚を介して(思考障害の症状)、苦痛または機能障害の症状をグループ化する。精神病理学のこれらの小領域全体で精神的健康に対する大気汚染の影響が観察され、思考障害の症状と最も強い関連があった。

 この研究に特有なことには、研究者たちはまた、社会経済的欠乏、身体的荒廃、社会的断絶、危険性など、大気汚染レベルの上昇と精神疾患のリスクの増大に関連する不都合な近隣条件を説明するために、子どもたちの近隣の特性も評価した。大気汚染レベルは、経済的、物理的、社会的条件が悪い地域で大きかったが、地域の特性について調査結果を調整しても、結果は変わらず、子どもたちの感情的および行動的問題や家族の社会経済的問題や精神疾患の病歴などの個人および家族の要因も調整されなかった。

 ”我々は、精神疾患のほとんどの主要な形態の本質的に新しいリスク因子の特定を確認した”とルーベンは述べた。”それらは修正可能であり、地域社会全体、都市、さらには国のレベルで介入できるものである 。”

 将来的には、研究チームは、成人期への移行時に、子ども時代の大気汚染への暴露を精神疾患のより大きなリスクに関連付ける生物学的メカニズムについてさらに学ぶことに関心を持っている。以前の証拠は、大気汚染物質への暴露が脳の炎症を引き起こす可能性があり、それが思考や感情の調整を困難にする可能性があることを示唆している。

 調査結果は、米国や英国のように中程度のレベルの大気汚染物質しか持たない高所得国に最も関連しているが、中国やインドのように大気汚染への暴露が高い低所得の発展途上国にも影響がある。”非常に高い大気汚染への暴露が精神的健康にどのような影響を与えるかはわからないが、それは我々がさらに調査している重要な経験的問題である”とフィッシャーは述べている。

 この研究は、以下の助成金による支援を受けた。英国医学研究審議会(MRC)[助成金G1002190];米国国立児童保健人間開発研究所[助成金HD077482];米国国立環境衛生科学研究所[助成金F31ES029358];グーグル、ジェイコブス財団、英国 MRCとチーフサイエンティストオフィスの合同自然環境研究会議の助成金[NE / P010687 / 1]そして、King's Together Multi- and Interdisciplinary Research Scheme(Wellcome Trust Institutional Strategic Support Fund;Grant 204823/Z/16/Z)

CITATION: "Association Of Air Pollution Exposure in Childhood and Adolescence With Psychopathology at the Transition To Adulthood," Aaron Reuben, Louise Arseneault, Andrew Beddows, Sean D. Beevers, Terrie E. Moffitt, Antony Ambler, Rachel M. Latham, Joanne B. Newbury, Candice L. Odgers, Jonathan D. Schaefer, and Helen L. Fisher. JAMA Network Open, April 28, 2021 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2021.7508



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る