米EPA
アメリカの子どもと環境:汚染物質、体内汚染、及び病気の調査
(まえがき、目次、主要な調査結果)

(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会
情報源:America's Children and the Environment :
Measures of Contaminants, Body Burdens, and Illnesses Second Edition
EPA 240-R-03-001 February 2003
http://www.epa.gov/opeedweb/children/ace_2003.pdf
掲載日:2003年8月30日


まえがき
 私はアメリカ環境保護局が 『アメリカの子どもと環境:汚染物質、体内汚染、及び病気の調査』の第2版を発行したことをうれしく思います。この報告書は、子どもたちが直面している環境健康のリスクを削減するべき国として、我々が成し遂げた成果です。

 この報告書には、血液が汚染された子どもの数の継続的な減少、子どもの副流煙への暴露の削減、そして大気汚染と飲料水の汚染に対する暴露の減少など、子どもにとって良いニュースも含まれています。

 我々はこれらの調査結果に勇気づけられますが、それでもなすべきことがたくさんあります。ぜん息の罹患率は増大している、非常に多くの子どもの血中の鉛濃度が増大し続けている、胎内での水銀暴露の可能性の懸念が増大している、そして小児病の影響が低所得者層と少数人種/民族の子どもにしわ寄せされていることなどもあります。
 『アメリカの子どもと環境』はこれらの問題やその他に対して向けられている我々の努力に光をあてることに役立つと思います。

 子どもの健康を守ることは EPA の統合的な使命の一部であり、EPA は子どもが住み、学び、そして遊ぶ環境の改善について、下記を含む長足の進歩を成し遂げました。
  • トラック、バスからのディーゼル排気汚染物質の削減。これにより、毎年数十万の子どもをぜん息の発作から守ることができる

  • 有機リン系殺虫剤の使用に関する厳格な規制の採用。これらの殺虫剤には、穀物用や家の周りでのアジホスメチル、クロルピリホス、メチルパラチオン、そしてダイアジノンが含まれる

  • 環境汚染物質からの暴露のリスクを削減するための未然防止措置。我々は産業側とともに遊戯施設にはもはやヒ素含有の防腐剤で処理した木材は使用しないことを確実にすることなどを含む

  • 12の子どもの環境健康と疾病予防研究センターの設立。これは厚生省と共同で環境汚染物質と子どもの健康との関係の科学的な理解を深めるためのものである

  • より健康な学級作りのための包括的な学校イニシアティブンの展開

  • 喫煙のない家庭の誓いのキャンペーン実施。子どもを家庭での二次喫煙から守る

  • 政府諸機関によるぜん息と鉛戦略連絡会議の設置と実施。低所得者層と少数人種/民族の子どもにしわ寄せされているぜん息の削減と幼児期の鉛汚染の排除を2010年までに達成する

  • きれいな空イニシアティブの展開。二酸化硫黄、酸化窒素、そして発電所からの水銀の排出を約70%削減する。これによりぜん息発作と呼吸器系疾患の削減に役立つ

 今後、EPA には、我々のこどもの健康に対する努力が成功するよう見守り続けていく任務が与えられています。現時点で最良のデータに基づいている『アメリカの子どもと環境』報告書は、EPA が今後の措置と進捗の測定の指針とするであろう重要なベンチマークとなります。
 我々のデータと手法が改善されれば、我々の子どもの健康という目標をの達成の助けとなる、より信頼性のある子どもの環境健康指標を開発する努力を行います。

 この報告書の作成にあたり困難な仕事をしていただいた多くの方々に感謝したいと思います。傾向を監視し、成功を確認し、そして問題ある領域を正確に見つけ出すことによって、我々の子どもの健康と全てのアメリカ人の健康を改善し続けることができるのです。

クリスティン・トッドウィットマン
EPA 長官


P.1
目 次

この報告書について5
主要な調査結果11
調査項目概要15
第1部 環境汚染物質17
  屋外空気汚染物質20
  室内空気汚染物質32
  飲料水汚染物質35
  農薬残留40
  土壌汚染42
  参照44
第2部 体内汚染49
  血液中の鉛濃度52
  血液中の水銀濃度58
  血液中のコチニン濃度60
  参照62
第3部 小児期の病気65
  呼吸器系疾患67
  小児がん76
  神経発達障害82
  参照86
第4部 新たな問題91
  魚類に含まれる水銀94
  注意欠陥多動症(ADHD)96
  参照98
第5部 特記事項101
  カリフォルニアの学校での鉛103
  ミネソタの学校での農薬111
  カリフォルニアでの先天性障害114
  参照116
将来の方向119
用語解説125
補遺A データ表131
補遺B データと手法147
補遺C 2010年の環境健康目標167
補遺D EPAの戦略的計画における環境健康目標169


P.11
主要な調査結果

第1部 環境汚染物質

屋外空気汚染物質
  • 1990年には約23%の子どもが、1時間オゾン基準を少なくとも年間1日以上超過する地域に住んでいた。2001年にはそのような地域に住む子どもは約15%であった。この値は年度によって13%から28%までの変動が見られた。(P.23)

  • 1996年〜2001年の間に、8時間オゾン基準を超過する地域に住む子どもの数は1時間オゾン基準を超過する地域に住む子どもの数に比べて圧倒的に多かった。2001年には40%近くの子どもが8時間オゾン基準を超過する地域に住んでいた。(P.23)

  • 2000年には約27%の子どもがPM-2.5微粒子物質基準を超える地域に住んでいた。2001年は約25%であった。(P.23)

  • 空気が”健康によくない”と指定された日々 (感受性の高い人々を含む誰にとっても健康によくない日々)は1990年から1999年の間に、1990年の3%から1999年の1%以下に減少した。空気の質が”中程度”とされる日々は1990年の3%から1999年の間、1999年が他の年度より高いという若干の増加傾向はあるものの、約20%とほぼ一定であった。(P.25)

  • 1990年には平均して子どもは31.9μg/m3のPM-10に暴露したが、これは年間基準の64%である。1995年までに暴露濃度は基準の54%まで減少したが、それ以来そのレベルを保っている。(P.27)

  • 2000年には約100万人の子どもが年間基準を上回るPM-10に暴露したが、これは1990年の約200万人から半減している。(28)

  • 1996年には、全ての子どもが、がんリスク・ベンチマークの 1/100,000 を超える危険な空気汚染物質を含む総合推定濃度の地域に住んでいた。約95%の子どもが、少なくとも 1 種類の危険な空気汚染物質ががん以外の健康影響のベンチマークを超える地域に住んでいた。(P.31)

室内空気汚染

  • 7歳以下の子どもがいる家庭のうち、継続的な喫煙者のいる家庭は、1994年の29%から1999年の19%に減少した。(P.33)

飲料水汚染物質

  • 最大汚染基準を超えている、叉は水処理基準に違反している公共水道水を供給されている子どもは1993年の20%から1999年の8%に減少している。1993年から1999年の間に、硝酸塩及び亜硝酸塩の規準違反は変化がないが、それ以外の全ての項目について規準違反は減少している。(P.37)

  • 1993年には約22%の子どもが、少なくと1件の主要な基準違反のある公共水道水を供給されている。この数値は1999年には約10%に減少した。報告された違反の大部分は鉛と銅の規準違反であった。(P.39)

P.12
残留農薬

  • 1994年から2001年までの間に残留有機リン系農薬が検出された食品サンプルは19%から29%の範囲であった。最も高い検出率が見られたのは1996年と1997年であり、最も低い検出率は2001年であった。(P.41)

土壌汚染

  • 2000年9月現在、未だに浄化されていない国家優先リスト(NPL)に挙げられたスーパーファンド地から1マイル(1.6km)以内に住んでいる子どもは0.8%であるが、これは1990年の1.3%から減少している。2000年9月現在、約1.3%の子どもがスパーファンド国家優先リストに挙げられたいずれかの場所から1マイル(1.6km)以内に住んでいる。(P.43)

第2部 体内汚染

血中の鉛濃度

  • 5歳児以下の子どもの血中の鉛濃度中央値(1/50百分位(50th percentile))は、1976年〜1980年の15μg/dLから1999年〜12000年の2.2μg/dLへと約85%減少した。(P.55)

  • 5歳児以下の子どもの血中の1/90百分位(90th percentile)鉛濃度は、このグループの子どもの10%が特に高い値を示しているが、1976年〜1980年の25μg/dLから1999年〜12000年の4.8μg/dLへ減少した。(55)

  • 子どもの血中の鉛濃度は、人種、民族、家庭の所得によって異なる。1999年から2000年には、1歳〜5歳までの子どもの血中の鉛濃度中央値は2.2μg/dLであった。貧困層の家庭の子どもの血中の鉛濃度中央値は2.8μg/dLであり、貧困層ではない家庭の子どもの濃度は1.9μg/dLであった。全ての所得層の中で、非ヒスパニック系黒人の子どもの血中鉛濃度は2.8μg/dLであった。非ヒスパニック系白人の子どもの血中鉛濃度は2.1μg/dLであり、ヒスパニック系の子どもの血中鉛濃度は2.0μg/dLであった。(P.57)

  • 1999年から2000年には、約30万人の1〜5歳児(約2%)が、10μg/dL以上の血中鉛濃度を有していた。(P.59)

血中の水銀濃度

  • EPA は、血中水銀濃度が5.8ppb以上の母親から生まれる子どもは有害な健康影響のリスクが幾分増大するとしている。1999年から2000年には、約8%の妊娠可能年齢の女性が少なくとも5.8ppb以上の血中水銀濃度を有している。(P.61)

血中のコチニン濃度

  • コチニンは環境中のタバコの煙への暴露の指標である。1999年から2000年に測定された子どもの血中コチニン濃度中央値(1/50百分位(50th percentile))は、1988年〜1991年に測定された値よりも56%低い。1/90百分位(90th percentile)のコチニン濃度は、約10%の子どもがその大部分を占めているが、1988年〜1991年から1999年〜2000年の間に18%減少した。(P.63)

P.13
第3部 小児期の病気

呼吸器系疾患

  • 1980年から1995年の間に、ぜん息の子どもの数は2倍となり1980年の3.6%から1995年の7.5%に増大した。1995年と1996年にぜん息の子どもの割合は減少したが、単年度の減少を推定することは難しい。(P.71)

  • 2001年には8.7%(630万人)の子どもがぜん息であった。(P.71)

  • ぜん息の子どもの割合は、人種、民族、家庭の所得によって異なる。1997年から2000年には、8%以上の非ヒスパニック系黒人貧困層の家庭の子どもが、過去12ヶ月以内にぜん息発作を起した。約6%の非ヒスパニック系白人の子どもと5%のヒスパニック系貧困層の家庭の子どもが過去12ヶ月以内にぜん息発作を起した。(P.73)

  • 6%以上の貧困層の家庭の子どもが、過去12ヶ月以内にぜん息発作を起した。約5%の貧困層及びそれより所得の多い家庭の子どもが、過去12ヶ月以内にぜん息発作を起した。(P.73)

  • ぜん息及びその他の呼吸器系疾患で救急医療室に来た子どもは、1992年には1万人中369人、1999年には1万人中379人であった。(P.75)

  • ぜん息及びその他の呼吸器系疾患で入院した子どもは、1980年には1万人中55人、1999年には1万人中66人であった。(P.77)

小児がん

  • 新たな小児がんの発症件数は1990年以来一定となっている。年齢調整した年間の小児がん発症率は1975年から1998年の間に子ども100万人当り128人から161人に増加した。がん死亡率は1975年から1998年の間に子ども100万人当り51人から28人に減少した。(P.79)

  • 白血病は1973年から1998年の間では、全小児がんの約20%を占める最もよく見られる小児がんであった。急性リンパ芽球白血病は1974年から1978年の間では100万人中24人であったが、1994年から1998年の間では100万人中28人であった。急性リンパ脊髄白血病は1974年から1998年の間では100万人中5人であり、1994年から1998年の間も同程度であった。(P.81)

神経発達障害

  • 1997年から2000年には、1000人中6人(0.06%)の子どもが精神遅延の診断を下されたと報告されている。(P.87)

P.14
第4部 新たな問題

魚類中の水銀

  • 1995年以来、ほとんどの州が市場に流通していない魚類に含まれる濃度の高い水銀について人々に警告する一つあるいはそれ以上の勧告を出している。ある場合には、勧告は人々に特定の地域で取った、あるいは特定の種類の魚類を食べないように警告している。他の場合には、人々が魚類の摂取量を制限するよう警告している。ある勧告では、特定の影響を受けやすい集団、通常は妊娠可能年齢の女性及び子どもを指している。(P.96)

注意欠陥多動症

  • 1997年から2000年には、5歳から17歳までの子どもの6.7%が注意欠陥多動症(ADHD)の診断を下されたと報告されている。(P.99)

第5部 特記事項

カリフォルニアの学校での鉛

  • カリフォルニアで調査した全ての公立小学校の32%は、鉛含有塗料が使われており、しかもそれが劣化していた。(P.107)

  • カリフォルニアで調査した全ての学校の89%では、土壌中に検出可能なレベルの鉛が見出された。7%の学校が、EPAの危険基準と同等あるいはそれを超えていた。(P.109)

  • 約15%の学校が、first draw に関する EPA の飲料水基準を超える鉛を含んでいた。6.5%の学校が Second draw でも EPA の基準以上であった。Second draw サンプルは、子どもたちが一日の大部分の間に暴露する鉛濃度をより正しく代表している。(P.111)

ミネソタの学校での農薬

  • ミネソタの学校の管理人で回答した内の47%は教室に ”必要があって” 農薬を散布していたと報告している。回答した管理人の内40%は、学校が農薬使用に関する何らの告知(散布区域の表示、生徒や教師への事前叉は事後の通知など)もしていないと報告している。(P.115)

カリフォルニアでの先天性障害

  • カリフォルニアでは心臓血管が最もよくある先天性障害であり、1997年から1999年では、1000の出産のうち1.8症例であった。カリフォルニアでの1990年代の先天性障害の発生率はほぼ一定である。(P.117)

(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会)



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