EHP サイエンス・セレクション 2020年4月20日
子どもの骨密度の低下:
PFAS のもうひとつの潜在的な健康への影響

小児期中期のパーフルオロおよびポリフルオロアルキル物質の
血漿中濃度と骨密度:横断的研究(プロジェクト・ビバ、米国)
チャールス W. シュミット

情報源:Environmental Health Perspectives, Science Selection, 20 April 2020
Reduced Bone Mineral Density in Children:
Another Potential Health Effect of PFAS

Per- and Polyfluoroalkyl Substance Plasma Concentrations and Bone Mineral Density
in Midchildhood: A Cross-Sectional Study (Project Viva, United States)
By Charles W. Schmidt
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/EHP6519
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年6月4日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehp/200420_ehp_Reduced_
Bone_Mineral_Density_in_Children_Another_Potential_Health_Effect_of_PFAS.html

アブストラクト


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 青年期の骨ミネラル密度のピークは、後年の骨粗しょう症に対する個人の感受性を強く予見する[8]。PFAS が骨ミネラル密度に影響を与えるという証拠が判明した場合、小児期の暴露は骨の健康に長期的な影響を与える可能性がある。
Image: (c) iStockphoto/nkbimages.
 パーフルオロおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)は、これまでに製造された工業用化合物の中で最も安定したもののひとつである[1][2]。何十年もの間、焦げ付き防止の調理器具、防汚生地、泡消火剤などの製品を製造するために使用されたこれらの化学物質は、環境中に永遠に残留し、暴露した人々の体内に蓄積する[3]。成人を対象とした研究では、骨粗しょう症[4]のリスク要因である骨ミネラル密度の低下と血中の PFAS レベルの上昇とを関連付けていた。今回、Environmental Health Perspectivesに発表された研究はまた、その化学物質と子どもの骨ミネラル密度の低下を関連付ける新しい証拠を提供している[5]。

 骨量は小児期に急速に蓄積し、個人が10代後半から20代前半に達するとピークになる[6]。したがって、”小児期および青年期の骨の健康に影響を与える環境要因を特定することは、晩年の骨折リスクに潜在的に大きな影響を与える可能性のある予防的介入の情報を提供できる”と、本研究のシニア著者である、ポートランのメイン医療センター研究所の小児内分泌学者であるアビー・フライシュは言う。

 この研究では、フライシュの研究チームは、プロジェクト・ビバ(Project Viva)[7]と呼ばれる母親とその子どもたちの長期研究に参加している子どもたちのデータをレビューした。プロジェクト・ビバは、ハーバード大学医学大学院(Harvard Medical School)によってその一部を後援されており、1999年から2002年の間に募集により 2,000人を超える妊婦が参加したが、現在も母子ペアをフォローしている。フライシュと彼女の同僚らは、骨密度スキャンを受け、6歳から 10歳のときに化学分析のために血漿サンプルを提供した 576人の子どもたちのグループに特に焦点を当てた。研究者らは、最も一般的に検出された 6つの PFAS に分析を絞り込んだ。パーフルオロオクタン酸(PFOA)の総異性体、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の総異性体、パーフルオロデカン酸(PFDA)、パーフルオロヘキサンスルホン酸、N-メチルパーフルオロオクタンスルホンアミド酢酸、及びパーフルオロノナン酸のである。彼らは、年齢、性別、人種、身長に対して正規化された z-スコア(訳注1)として骨塩密度の測定値を表現した。

 結果を生成するために、著者らは線形回帰モデルを使用して、より低い z-スコア(より低い骨ミネラル密度を示す)が個々の PFAS のより高い血漿濃度と関連しているかどうかを確認した。 さらに、Z-スコアと PFAS 混合物全体との関連を調べるために、加重変位値和(WQS)回帰と呼ばれる方法を使用した。

分析によると、個々の PFASの濃度が高いほどzスコアが低くなり、PFOA、PFOS、および PFDAで最も強い関連が推定された。 PFAS 混合物についても同様の関連が認められた。 具体的には、WQSインデックスのすべての増分の増加は、骨ミネラル密度の zスコアの対応する減少と関連していた。

 子どもたちのほとんどは、比較的高い社会経済的背景を持ち、大学教育を受けた母親を持っていた。 フライシュは、そのことが、調査結果をより広い集団に一般化することに制限がある可能性を認めている。 彼女は、裕福な家族は、”PFASのあるもの、たとえばカーペットや防汚性のある家具などを使用する傾向がある”と指摘している。

 研究に関与しなかったライト州立大学の准教授であるナイラ・ハリルは、次のように述べている。”研究者は、PFAS 曝露による軟部組織と免疫への影響により重点を置く傾向がある。 骨は、特に成長期の子どもでは、研究が難しい。 このペーパーは、PFAS と骨格の健康への影響に関する限られた研究への強力な追加となる”。

 フィンランドのオウル大学で骨の発達を専門とする医師であり研究者であるアンティ・コスケラは、この研究のいくつかの長所を指摘している。 研究に関与していないコスケラもまた、具体的には、多数の参加者、骨の健康に関する複雑な PFAS 混合物の評価、および骨密度を測定するための黄金律(gold standard method)であるとみなされている全身二重エネルギーX線吸収測定法の使用を挙げている。”データは以前の発見を確認し、子どものPFAS暴露に関する懸念を強調している”と彼は言う。 ”(骨への影響の可能性についての)懸念は、もはや大人だけのものではない”。


チャールズ W.シュミット:メイン州、ポートランドを拠点とする受賞歴のある科学ライターで、Scientific American、Science、Undark、様々な Natureの出版物、その他多くの雑誌、研究ジャーナル、および Webサイトに寄稿している。


訳注1:z-スコア
Z得点(z値、z-score、z-value)とは、平均が 0、標準偏差 (SD) が 1になるように変換した得点 (ウィキペディア 標準得点


1.
Ahrens L, Bundschuh M. 2014. Fate and effects of per- and polyfluoroalkyl substances in the aquatic environment: a review. Environ Toxicol Chem33(9):1921-1929, PMID: 24924660, 10.1002/etc.2663. Crossref, Medline, Google Scholar

2.
Lindstrom AB, Strynar MJ, Libelo EL. 2011. Polyfluorinated compounds: past, present, and future. Environ Sci Technol45(19):7954-7961, PMID: 21866930, 10.1021/es2011622. Crossref, Medline, Google Scholar

3.
National Institute of Environmental Health Sciences.2020. Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS). [Website.] Reviewed 7 February 2020.https://www.niehs.nih.gov/health/topics/agents/pfc/index.cfm[accessed 24 March 2020]. Google Scholar

4.
Hu Y, Liu G, Rood J, Liang L, Bray GA, de Jonge L, et al.2019. Perfluoroalkyl substances and changes in bone mineral density: a prospective analysis in the POUNDS-LOST study. Environ Res179(Pt A):108775, PMID: 31593837, 10.1016/j.envres.2019.108775. Crossref, Medline, Google Scholar

5.
Cluett R, Seshasayee SM, Rokoff LB, Rifas-Shiman SL, Ye X, Calafat AM, et al.2019. Per- and polyfluoroalkyl substance plasma concentrations and bone mineral density in midchildhood: a cross-sectional study (Project Viva, United States). Environ Health Perspect127(8):87006, PMID: 31433236, 10.1289/EHP4918. Link, Google Scholar

6.
Gordon CM, Zemel BS, Wren T, Leonard MM, Bachrach LB, Rauch F, et al.2017. The determinants of peak bone mass. J Pediatr180:261-269, PMID: 27816219, 10.1016/j.jpeds.2016.09.056. Crossref, Medline, Google Scholar

7.
Project Viva.2012. The History of Project Viva.https://www.hms.harvard.edu/viva/project-viva-history.html [accessed 24 March 2020]. Google Scholar

8.
Kralick AE, Zemel BS. 2020. Evolutionary perspectives on the developing skeleton and implications for lifelong health. Front Endocrinol (Lausanne)11:99, PMID: 32194504, 10.3389/fendo.2020.00099. Crossref, Medline, Google Scholar



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