EHP 2015年6月号 サイエンス・セレクション
小児用ワクチンと神経発達:
霊長類研究は、関連する否定的行動影響を見い出さなかった

ジュリア R. バーネット

情報源:Environmental Health Perspectives,
June 2015, VOLUME 123, ISSUE 6 | Science Selections
Pediatric Vaccines and Neurodevelopment: Primate Study Finds No Adverse Behavioral Effects
By Julia R. Barrett (訳注1
http://ehp.niehs.nih.gov/123-A156/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年6月16日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehp/
15_06_ehp_Pediatric_Vaccines_and_Neurodevelopment.html


 ワクチンは多くの感染症の発生と流行を低減することに成功した。しかし感染症の発生はなくなったが、ワクチン接種自体は、それらが予防する病気より、大きななリスクをもたらすかもしれないという認識が形成された[1]。既存のデータの評価はワクチン接種と否定的な健康影響との関連性を特定することはできなかったが[23]、自閉症スペクトラム障害との潜在的な関連性についての社会的な懸念が幾分ある。これらの懸念は、主に幼児の予防接種スケジュールの拡張と、かつて保存剤としてあるワクチンに使用されたチメロサールへの暴露に由来する[1]。 EHP の今月号では、真猿類の神経発達、学習、及び社会的行動の詳細な調査を行った著者らは、全小児予防接種スケジュールであっても、それに関連する有害な発達及び行動影響はないと報告している[4]。

 チメロサールは胎内でチオサリチル酸塩とエチル水銀に分解する[5]。後者は神経毒性のメチル水銀に関連し、健康リスクの推定はエチル水銀とメチル水銀は類似した毒性的特徴を持つという仮定−後に反証された[6]−に基づいていた[5]。インフルエンザ不活化ワクチンを除く6歳以下の子どもに日常的に推奨されている全てのワクチン中のチメロサールは、除去されているか又は微量(1 μg/dose)に低減されている[7]。それにもかかわらず、懸念は持続し、ワクチン接種率はある集団では減少しており、その結果、カリフォルニアから始まった最近の嚢尾虫(のうびちゅう)症の突発のような病気の再出現をもたらしている[8]。

 ”この研究の背後にある動機は、個々の小児用ワクチンは要求される臨床安全テストを受けているが、チメロサールを含む複合ワクチンの累積暴露は検証されていないことである”と、この研究の共著者であり、テキサス州オースチンにあるジョンソン子ども健康発達センターの研究部長ローラ・ヘイウィットソン (訳注2)は述べている。この研究は、その神経系の発達が人間と同様な軌道を描く真猿類の神経発達を詳細に調べた。真猿類はまた学習と記憶プロセスを持ち、人間で観察されるものと同様な社会的相互反応を示す。

 合計79匹の真猿類が6つのワクチン接種グループに割り当てられた。
  1. コントロール−動物は、塩水の注射だけを受けた。
  2. MMR−動物は、はしか(measles)、おたふくかぜ(mumps)、及びふうしん(rubella)のワクチンだけを受けたが、それらはチメロサールを含んでいない。
  3. TCV−動物は、1990 年代に日常的に子どもたちに投与されたチメロサール含有ワクチンのうち(9)、MMR ワクチンを除く全てを受けた。
  4. 1990s 小児−動物は、1990年代に子どもたちに推奨されたスケジュールに基づき TCVs と MMR を含んで、1990年代に投与された全ての子ども用ワクチンを受けた。
  5. 1990s 霊長目-動物は、真猿類の発達に合わせた加速スケジュールに基づき1990年代に投与された全ての小児用ワクチンを受けた。
  6. 2008-動物は、現在のスケジュールに似ている 2008年時点で実施された拡張予防接種スケジュールを受けた(10
 出生から12か月までの動物は、新生児反射(neonatal reflexes)、対象の永続性(object permanence)(早期の記憶発達の測定)、識別学習戦略(異なる刺激に異なる反応を示す能力)、そして社会的行動についてテストが行われた。動物はまた、探究心、引きこもり、遊び行動、及び攻撃性について体系的に観察され、そのレベルと特性が評価された。

 研究者らは、それぞれの投与グループ内の動物が新生児反射と対象の永続性について似たような発達を示したことを発見した。TCV と 1990s 霊長目グループ (訳注:両グループともチメロサール含有ワクチンを受けた)は、ある学習テストでわずかに高い能力を示し、実験グループのある動物はコントロールグループより否定的な社会行動が少なかった。しかし、否定的な行動はどのグループでもほとんど観察されず、学習と社会的発達全体では正常に見えた(4)。

 ”ある分析は、チメロサール暴露の有益な影響を示唆した”と、ジョンズ・ホプキンス大学公衆健康ブルームバーグ校のワクチン安全性研究所ディレクターのニール・ハルセイ (訳注3)は述べている。しかし、ハルセイ(彼はこの研究に関与していない)は、現在これらの関連性を説明するもっともらしい生物学的メカニズムはないと述べており、それらは偶然発見されたらしく見える。

 ”最も重要なことは、行動データという点で、我々は事実上、全てのグループを通じて否定的な行動を観察しなかったいうことである”と、ヘイウィットソンは述べている。”そのことは、直接的に行動に影響を与えるとするチメロサールの仮説をたしなめている”と彼女は述べている。”我々が否定的な行動の増大を見なかったという事実は心強い”。

参照

1. Siddiqui M, et al. Epidemiology of vaccine hesitancy in the United States. Hum Vaccin Immunother 9(12):2643?2648 (2013); doi: 10.4161/hv.27243.

2. Institute of Medicine. The Childhood Immunization Schedule and Safety: Stakeholder Concerns, Scientific Evidence, and Future Studies. Washington, DC:National Academies Press (2013). Available: https://www. iom.edu/Reports/2013/The-Childhood-Immun?ization-Schedule-and-Safety.aspx [accessed 11 May 2015].

3. Maglione MA, et al. Safety of vaccines used for routine immunization of US children: a systematic review. Pediatrics 134(2):325?337 (2014); doi: 10.1542/peds.2014-1079.

4. Curtis B, et al. Examination of the safety of pediatric vaccine schedules in a non-human primate model: assessments of neurodevelopment, learning, and social behavior. Environ Health Perspect 123(6):579?589 (2015); doi: 10.1289/ehp.1408257.

5. Clarkson TW. The three modern faces of mercury. Environ Health Perspect 110(suppl 1):11?23 (2002); PMID: [Pubmed].

6. Dorea JG, et al. Toxicity of ethylmercury (and Thimerosal): a comparison with methylmercury. J Appl Toxicol 33(8):700?711 (2013); doi: 10.1002/jat.2855.

7. FDA. Thimerosal in Vaccines [website]. Silver Spring, MD:U.S. Food and Drug Administration (updated 18 June 2014). Available: http://www.fda.gov/BiologicsBloodVaccine?s/SafetyAvailability/VaccineSafety/UCM09?6228 [accessed 11 May 2015].

8. Clemmons NS, et al. Measles?United States, January 4?April 2, 2015. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 64(14):373?376 (2015); PMID: [Pubmed].

9. Hepatitis B (Hep B) vaccine, Haemophilus influenza B (Hib) vaccine, and diphtheria, tetanus, acellular pertussis (DTaP) vaccine.

10. MMR, Hep B, Hib, DTaP, rotavirus vaccine, hepatitis A vaccine, pneumococcus vaccine, varicella vaccine, inactivated polio vaccine, meningococcal vaccine, influenza vaccine.


訳注:記事のライター、研究の共著者、及び引用されている研究者についての情報

訳注1:記事のライター、ジュリア R. バーネットについての情報
Julia Barrett, M.D., M.P.H. Senior Clinical Consultant

訳注2:共著者ローラ・ヘイウィットソンについての情報
Terrible Anti-Vaccine Study, Terrible Reporting Published by Steven Novella under Neuroscience, Science and Medicine

訳注3:チメロサール暴露の有益な影響について述べたニール・ハルセイについての情報
PREPARED TESTIMONY OF NEAL A. HALSEY M.D. BEFORE THE HOUSE COMMITTEE ON GOVERNMENT REFORM SAFETY AND EFFICACY ISSUES, OCTOBER 12, 1999



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